【開催報告】営業改革の最前線:Agentforce活用によるインサイドセールス変革の実践(パーソルHD)

  • 2025-12-23

PwCコンサルティング合同会社は2025年11月21日、株式会社セールスフォース・ジャパン主催の「Agentforce World Tour Tokyo」にて、パーソルホールディングス株式会社と「営業改革の最前線:Agentforce活用によるインサイドセールス変革の実践」と題して、講演を行いました。

当日は、パーソルホールディングス株式会社 グループAI・DX本部 法人マーケティング部 リードナーチャリング室 室長 波多江 浩之氏、PwCコンサルティング合同会社 フロントオフィス&エクスペリエンス事業部 パートナー 平野 恵理子、マネージャー 能波 貴則が、AI Agentの活用の背景、Proof of Concept(PoC:概念実証)を越え実運用に至ることができたポイントなどについての対談を実施しました。その内容を紹介します。

AI Agentで解決を目指した課題について

パーソルグループは、国内外に159社(2025年12月1日時点)、78,119名(2025年3月31日時点)の従業員を有する大手人材サービス企業です。パーソルホールディングスでは、ホールディング機能として、B2Bマーケティングおよびインサイドセールス業務における各事業間の相互送客を重要なミッションとしており、インサイドセールス部門では顧客への初回の架電を行っています。

しかし、顧客ごとの人材に関する課題やニーズは多岐にわたり、さらにグループ全体で扱う商材は300種類以上と非常に幅広いことから、インサイドセールス担当者が商材レコメンドを行う際のマッチング精度には限界がありました。加えて、インサイドセールス育成に多大な時間がかかる点や商材ラインナップの変化への柔軟な対応が難しい点などが課題となっていました。こうした課題を解決するため、AI Agent活用した営業改革を志向しました。

Agentforceによるインサイドセールス変革

特に、重点解決課題として「大きく時間を要している架電前の顧客情報収集を短縮すること」「初めての顧客でも自然に会話を進めていくこと」「顧客ニーズをもとに300以上の商材から最適なレコメンデーションを行うこと」を定め、この解決のために、Salesforce社のAgentforce(生成AI Agent機能)とData 360(データ統合のためのプラットフォーム)を活用し、「インサイドセールスアシスタントエージェント」を稼働させました。インサイドセールスアシスタントエージェントには、3つの役割「架電前の顧客情報のディープリサーチ機能(CRMデータ、Web情報、過去活動履歴の分析)」「架電時のトーク支援機能」「商材の提案可否判定(レコメンド)支援機能」を持たせ、インサイドセールス担当者のいわば「バディ」として運用しています。

インサイドセールス担当者はエージェントが生成する最適な提案シナリオやトーク案を活用し、効果的かつ効率的な顧客アプローチが可能となりました。特に架電前の情報リサーチ業務は、かつては人手により10分程度要していた時間を約90秒程度へと大幅な短縮を実現しました。また、顧客のニーズ・課題に対して、300以上のグループ商材の特徴、提供エリア、提供職種、対象企業規模等という複雑な組み合わせに対しても、AI Agentが瞬時にレコメンド案を判断・提案できる点が業務生産性に寄与しています。

なぜ実運用にこぎつけられたのか

AI Agentの導入においては、一般的にPoC段階でプロジェクトが停滞する事例が多く報告されています。

その主な要因としては、

①データ量およびデータ品質の不十分さからAI回答の精度が上がり切らないこと

②導入目的・目標設定の難しさ

③変革に対する社内関係者の抵抗感

④AI Agent技術と業務に精通する人材の不足

⑤セキュリティ・ガバナンスを含むAI Agent維持管理を包括した導入後の運用設計不備

などが挙げられます。

さらに、AI Agentによる応答内容の評価が、ユーザーの知識や経験に依存して大きく分かれることも、実務への本格実装の難易度を従来型システム導入より高くさせている要素と考えられます。

これらの課題に対し、パーソルホールディングスでは、

(1)商材データ等の整備を通じたデータ基盤の強化

(2)効果目標の定量的かつ現実的なシミュレーションに基づく計画策定

(3)変革の受容を促すため、社内のハイパフォーマーのベストプラクティスをAI Agent積極的に取り入れる手法の徹底

(4)B2Bマーケティング・営業・AI/IT関連部門間の連携による業務推進体制の構築

(5)AI Agentの仕様を推進者自身が深く理解しながらプロジェクトを推進すること

といったアプローチを実践してきました。これらの施策群が、AI Agentを早い段階で稼働させた要因と考えられます。

さらに、パーソルホールディングスの波多江氏は、「AI Agent導入をPoCで完結させるのではなく業務現場に着実に定着させるためには、ユーザー(インサイドセールス担当者)と意思決定者(経営層)双方の意識醸成および役割分担が不可欠である」と指摘しました。ユーザーに対しては、ハイパフォーマーによるAI Agent監修や、成果の上がる機能への重点的な取り組み、加えてユーザーからAI Agentへ提供されるフィードバックに対してリアルタイムに改修対応を行うことが、ユーザーからAI Agentへの信頼向上に寄与するとの見解を示しました。一方、経営層に対しては、ビジネス貢献の予測値を提示することによってコミットメントを明確化すること、さらにその取り組み自体を社内外に早期から積極的に発信することも取り組みの成功に向けて有効であると述べました。

まとめ―AI Agent開発のポイントとは

最後にAI Agent開発においてPwCの考えるポイントについて、PwC平野、能波は、「AI Agent開発においては、ハイパフォーマーの「見える知・見えない知(考え)・スタンス」を三層で再現することが重要」と振り返りました。三つとはそれぞれ、

  • 見える知:現場での調べ方・話し方・判断の順番など、ベテランの「当たり前の動き」を可視化し、AI Agentに再現
  • 見えない知:なぜ今それを聞くのかという暗黙知をプロンプトに取り込み、意図と文脈をAI Agentに教育すること
  • スタンス:ベテラン・ハイパフォーマーが持つ前向きなスタンスをAI Agentの人格に表現し、ユーザーの親近感を獲得

を指します。これにより、AI Agentは単なる業務支援ツールではなく、インサイドセールス担当者にとって「親身に支援するAgent」いわば「バディ」として機能し、ユーザーからの信頼を得ることができる、とまとめました。

これらテクニック観点から言えるポイントですが、プロジェクトとしても、ステークホルダー全員が一つのゴールに向かってさまざまな案を出し合い、早く決定して動くこと、結果からすぐに次のアクションを考えること、などの姿勢も必要と考えます。そのような環境のなかで試行錯誤を重ねたことも本プロジェクトの成功要因と捉えています。

AI Agentを活用した営業改革に取り組む企業にとって今後、現場主導の推進体制、AI Agent活用による業務効率化の効果明確化、ユーザー・決裁者双方へのアプローチが、成功への重要なポイントとなっていくことでしょう。本事例はインサイドセールスを対象とした事例ですが、フィールドセールス等の担当者にも適用できる要素が大きいと捉えています。

本講演のオンデマンド配信は下記リンクからご覧いただけます。
https://www.salesforce.com/jp/events/webinars/agentforce-world-tour-tokyo-2025-2-al/

主要メンバー

平野 恵理子

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

能波 貴則

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email


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