セキュリティトークンの実体法上の位置付けおよび関連する法規制

はじめに

近年、セキュリティトークン(デジタル証券)を用いた資金調達(セキュリティ・トークン・オファリング)が実施される事例が増加しています。例えば、温泉旅館等の不動産を裏付資産とするセキュリティトークンが発行されており※1、個人投資家であっても小口から投資できること、流動性があること、および(特に不動産を裏付けとするセキュリティトークンについては)資本市場等の影響を受けにくいこと等といった特徴から、投資対象として注目を集めています。

法令レベルでは、その実体法上および規制法上の位置付けを明確にするための法改正が行われています。特に実体法上の位置付けに関して、産業競争力強化法の改正(2021年8月2日施行)により、債権譲渡通知等の第三者対抗要件の特例が設けられました。また、規制法上の位置付けに関しては、上記の産業競争力強化法の改正に先立ち、2019年5月31日に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」に基づく金融商品取引法(以下、金商法)に係る改正法(2020年5月1日施行)において、「電子記録移転有価証券表示権利等」および「電子記録移転権利」という概念が導入され、セキュリティトークンの金商法上の取扱いが明確化されました。

本稿では、セキュリティトークンとはどのようなものを指すのかを確認した上で(1)、セキュリティトークンの実体法上の位置付け(2)およびセキュリティトークンに関連する法規制(3)の概要について、上記の法改正の内容を中心に説明します。


1 セキュリティトークン(デジタル証券)とは

「セキュリティトークン(デジタル証券)」という用語について法令上の定義はありませんが、一般に、有価証券に表示される権利をブロックチェーン上で生成・発行されるトークン(証票)に表示したものをいいます※2。セキュリティトークンの特徴としては、多様な商品への投資が可能になること、取引コスト低下による少額取引が可能になること、および365日24時間取引が可能になることによる流動性の向上等が挙げられ※3、新たな証券インフラとなることが期待されています。

法令上は、前記のとおり、2019年5月31日に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」に基づく金商法に係る改正法(2020年5月1日施行)において、「電子記録移転有価証券表示権利等」および「電子記録移転権利」という概念が導入され、セキュリティトークンの金商法上の取扱いが明確化されました。当該改正法は、「セキュリティトークン」を直接定義するものではなく、立案担当者によれば、従前から規制対象であった有価証券のうち、ブロックチェーン技術に代表される分散型台帳技術を用いた「トークン」に表示される(すなわち「トークン化」された)権利を「電子記録移転権利」等と定義した上で、その発行や取扱いに関する規定の整備を行ったものです※4。セキュリティトークンの金商法上の位置付けについては、3で説明します。

2 セキュリティトークンの実体法上の位置付け

(1)問題の所在

1で述べたとおり、金商法上、セキュリティトークンは「電子記録移転権利」等として位置付けられましたが、これはセキュリティトークンが金融規制の対象となることを明確にしたものに過ぎず、新たな権利が創設されたわけではありません。そのため、トークン化の対象となる社債や信託受益権等の有価証券や権利(以下、これらを特に区別せずに「権利」ということがあります)の実体法上の位置付けは、基本的にその権利の発生を基礎付ける各法令に規定されており、金商法改正後も、その内容に変更はありません。

他方、権利の発生を基礎付ける各法令においては、無券面化(ペーパーレス化)まではカバーしていても、トークン化(デジタル化)まで明示的にカバーしているわけではありません。また、ブロックチェーン上の取引と実体法上の権利の移転とを当然に結び付け、また、対抗要件を具備させる旨の規定は、現状、どの権利についても存在しません。そのため、トークン化された権利の保有や移転を実体法上どのように捉えるかは、実体法の解釈の問題となります。

本稿では、主にトークン化される権利の移転に係る効力発生要件および第三者対抗要件の観点から、セキュリティトークンの実体法上の位置付けを説明します。

(2)トークン化の対象となる主な権利の効力発生要件および第三者対抗要件

トークン化の対象として想定される権利には、後記3(1)のとおりさまざまなものがありますが、これまで実際にトークン化され、または検討の対象となっているもののうち、本稿では、①券面不発行の社債(社債、株式等の振替に関する法律66条に定義される振替社債でないもの)、②受益証券発行信託の受益証券が発行されない受益権(社債、株式等の振替に関する法律127条の2第1項に定義される振替受益権でないもの)、③信託受益権、および④集団投資スキーム持分として匿名組合契約上の匿名組合員の地位(以下、匿名組合持分)を検討の対象とします。

これらの権利の移転に係る効力発生要件および第三者対抗要件をまとめると、図表1に記載のとおりとなります。

また、セキュリティトークンの流通性を高める観点からは、(i)ブロックチェーン上で(ブロックチェーン上のトークンの移転と連動させる形で)対象となる権利の対抗要件の具備を含めた譲渡手続を完結させる必要があります。加えて、ブロックチェーン外での権利の移転が発生する可能性がある場合には、権利者の把握および管理が困難となるため、(ii)ブロックチェーン外での譲渡を禁止または防止することが望ましいとされています。かかる観点から考えられる方策は図表1の「流通性確保のための方策」欄のとおりです※5。なお、③信託受益権および④集団投資スキーム持分の「流通性確保のための方策」欄の内容については、「産業競争力強化法」の改正に関連するため、後記(3)で詳述します。

図表1:トークン化の対象となる主な権利の移転の効力発生要件および第三者対抗要件等


対象権利

権利移転の
効力発生要件

第三者対抗要件

流通性確保のための
方策

①券面不発行の社債(振替社債でないもの)

当事者間の合意

社債原簿への記載または記録(会社法688条1項)

  • ブロックチェーン上での譲渡と社債原簿への記載もしくは記録を自動連携させるか、特定のノードにおけるブロックチェーン上の記録を社債原簿とする
  • 社債要項等に、ブロックチェーン外での譲渡を禁止し、そのような譲渡は社債原簿に記載または記録しない旨を定める

②受益証券発行信託の受益証券が発行されない受益権(振替受益権でないもの)

当事者間の合意

受益権原簿への記載または記録(信託法195条1項 2 項)

  • ブロックチェーン上での譲渡と受益権原簿への記載もしくは記録を自動連携させるか、特定のノードにおけるブロックチェーン上の記録を受益権原簿とする
  • 信託契約等に、ブロックチェーン外での譲渡を禁止し、そのような譲渡は受益権原簿に記載または記録しない旨を定める

③信託受益権

当事者間の合意

確定日付のある証書による通知または承諾(信託法94条2項)

  • 認定新事業活動実施者が認定新事業活動計画に従って提供する情報システムを利用して譲渡通知または譲渡承諾を行う
  • 信託契約に、ブロックチェーン外での譲渡を禁止する旨を定める
④集団投資スキーム持分(典型的には匿名組合持分)
  • 譲渡当事者間の合意に加え、
  • 匿名組合契約の相手方である営業者の承諾が必要(民法539 条の2)

※契約上の地位の移転と解されている

確定日付のある証書による通知または承諾(民法467条2項)

  • 認定新事業活動実施者が認定新事業活動計画に従って提供する情報システムを利用して譲渡通知または譲渡承諾を行う
  • 匿名組合契約に、ブロックチェーン外での譲渡を禁止する旨を定める

出典:金融法委員会「セキュリティ・トークンの譲渡に関する効力発生要件及び対抗要件について(特に匿名組合持分及び信託受益権の譲渡に関して)」(2022年11月9日)を参照の上、筆者作成

(3)産業競争力強化法の改正

前記(2)の③信託受益権および④集団投資スキーム持分(匿名組合持分)等、権利移転に関する対抗要件具備のために確定日付のある証書による通知または承諾が必要とされているものに関しては、従来、内容証明郵便や通知書または承諾書への公証人による確定日付の取得といったアナログな手段が用いられていました。このように対抗要件の具備のためにブロックチェーン外での確定日付のある証書による通知または承諾が必要であるとすると、ブロックチェーン上で(ブロックチェーン上のトークンの移転と連動させる形で)対抗要件の具備を含めた権利の譲渡手続を完結させることができず、セキュリティトークンの流通性を活かした取引の発展を妨げる可能性があると指摘されていました。

この点を踏まえ、産業競争力強化法が改正され(2021年8月2日施行)、債権譲渡通知等の第三者対抗要件の特例が設けられました。当該改正により、債権譲渡の通知等が、産業競争力強化法に基づく新事業活動計画の認定を受けた事業者(認定新事業活動実施者)によって、認定新事業活動計画に従って提供される情報システムを利用して行われた場合には、当該情報システム経由での通知等を、確定日付のある証書による通知等とみなす特例が創設されました。

これにより、当該情報システム経由で譲渡通知または譲渡承諾を行うことによって、トークン化された信託受益権および匿名組合持分の譲渡(移転)に関して第三者対抗要件が具備されることになります。その際、当該通知または承諾をブロックチェーン上におけるトークンの移転と自動連携させることができれば、トークン化された信託受益権やトークン化された匿名組合持分の譲渡に関してブロックチェーン上でのトークン移転と一体的に第三者対抗要件を具備することが可能になると考えられます※6

その上で、ブロックチェーン外での譲渡を禁止または防止するための方策として、信託契約または匿名組合契約においてブロックチェーン外での譲渡を禁止する旨の規定を置くことが考えられます※7

なお、産業競争力強化法においては、新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)が設けられています。これは、新しい技術やビジネスモデルを用いた事業活動を促進するため、主務大臣による新技術等実証計画の認定を受けることで、期間や参加者を限定して、既存の規制の適用を受けることなく新技術等の実証を行うことができるという制度です。当該制度が2018年6月に施行されて以降、「ブロックチェーン技術を活用した電子的取引における第三者対抗要件に関する実証」についても複数の案件が認定されており、ブロックチェーン技術が実装されたシステムが、上記の改正法による特例上の情報システムとして稼働するかどうか等が実証されています※8

3 セキュリティトークンに関連する法規制

(1)金商法上の概念の整理

まずは、セキュリティトークンに関連して金商法上に導入された概念である「電子記録移転有価証券表示権利等」と「電子記録移転権利」について説明します。これらは、裏付けとなる有価証券によって分類されますが、その分類により適用される規制が異なることから、これらの概念の正確な理解と区別が重要となります。

ア 電子記録移転有価証券表示権利等

「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、以下の権利をいいます※9

情報の信頼性についても担保されていなければなりません。

<電子記録移転有価証券表示権利等の定義>

① 金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利であって、

② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されるもの

上記①は、(i)金商法2条2項各号に掲げる権利(信託受益権、集団投資スキーム持分等のいわゆるみなし有価証券)に限定されず、(ii)同項柱書により有価証券とみなされるもの、すなわち有価証券表示権利(同条1項各号に掲げる証券・証書が電子化されたもの)も含みます※10。したがって、トークン化された国債証券、社債券および株券等に表章される権利も「電子記録移転有価証券表示権利等」に該当し、金商法の規制対象となります。

上記②は、権利がいわゆる「トークン化」されていることを指します。「トークン化」の具体的意義については後記(2)で詳述します。

イ 電子記録移転権利

「電子記録移転権利」とは、前記アの「電子記録移転有価証券表示権利等」のうち、以下の権利をいいます※11

<電子記録移転権利の定義>

① 金商法2条2項各号に掲げる権利(いわゆる「みなし有価証券」)であって、

② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されるもの

③ ただし、流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く

上記①は、前記アの「電子記録移転有価証券表示権利」の定義①と異なり、金商法2条2項各号に掲げる権利(みなし有価証券)に限定されています。

上記②については、前記アの定義②と同様、「トークン化」を指しており、後記(2)にて詳述します。

上記③について、権利自体ではなくトークンの移転に関して、取得者制限および譲渡制限に係る技術的措置が講じられているものは、内閣府令により電子記録移転権利から除外されます(以下、かかる除外対象の権利を「適用除外電子記録移転権利」といいます)。具体的な要件は以下のとおりです。

<適用除外電子記録移転権利の要件>

① 取得者制限:適格機関投資家又は特例業務対象投資家に類する範囲の投資家以外の者には、トークンを取得させ、移転できない技術的措置

② 譲渡制限:その都度、権利の保有者の申出及び発行者の承諾がなければトークンを移転できないようにする技術的措置

後記(3)で説明するとおり、上記①および②の要件を満たし適用除外電子記録移転権利に該当する場合には第二項有価証券として扱うことができます(原則として金商法上の開示規制を免れます)が、例えば上記①の要件はその取得者が個人であれば1億円以上の投資性金融資産等を有している者に限られる※12等、実際にこれに該当するケースは限定的です。

ウ 小括

以上を整理すると、図表2のとおり、電子記録移転有価証券表示権利等は、①トークン化された有価証券表示権利(便宜上、以下「トークン化有価証券」といいます)、②電子記録移転権利、③適用除外電子記録移転権利の3種類に分類することができます。

電子記録移転有価証券表示権利等に含まれないトークン化された権利は、資金決済に関する法律(以下、資金決済法)上の「暗号資産」の定義に該当する限りにおいて、同法により規律されることになります。なお、②電子記録移転権利を表示する財産的価値は、資金決済法上の「暗号資産」の定義から明確に除外されています※13。また、①トークン化有価証券および③適用除外電子記録移転権利を表示する財産的価値について、金融庁は、これらを含む電子記録移転有価証券表示権利等が表示されたトークン全体が資金決済法の規制対象とはならないとの立場をとっています※14

図表2:電子記録移転有価証券表示権利等の内容

権利名

権利の種類

権利をトークン化した場合の金商法上の扱い

 

電子記録移転有価証券表示権利等

有価証券表示権利(金商法2 条1 項各号に掲げる有価証券に表示されるべき権利)例:国債、社債、株式等

①トークン化有価証券

みなし有価証券(金商法2 条2 項各号に掲げる権利)例:信託受益権、集団投資スキーム持分等

③電子記録移転権利

③適用除外電子記録移転権利

出典:一般社団法人STO協会「セキュリティトークン市場ワーキング・グループ中間整理(報告書)」(2022年10月)を参照の上、筆者作成

(2)トークン化(「財産的価値に表示される」)の意義

前記(1)アおよびイのとおり、電子記録移転有価証券表示権利等および電子記録移転権利の定義に、それぞれ「②電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される」との要件が含まれます。これは、権利のいわゆる「トークン化」を指すものです。

ここで、「財産的価値」とは、主にブロックチェーン上で発行されるトークンが想定されています。

一方、どのような場合に権利が財産的価値に「表示される」といえるかは、解釈の問題となります。財産的価値への「表示」が許容されるかどうかは、各権利の根拠法等により規律されるところで※15、2(1)で見たとおり、ブロックチェーン上の取引と実体法上の権利の移転とを当然に結び付け、また、対抗要件を具備させる旨の規定は、現状、どの権利についても存在しないからです。

「表示される」要件の解釈に当たっては、金融庁企画市場局「金融商品取引法等に関する留意事項について(金融商品取引法等ガイドライン)」(2020年5月)(以下、金融商品取引法等ガイドライン)のうち、電子記録移転権利該当性に関する以下の記述が参考になります(下線は筆者)。

<金融商品取引法等ガイドライン2-2-2(抜粋)>

契約上又は実態上、発行者等が管理する権利者や権利数を電子的に記録した帳簿……の書換え(財産的価値の移転)と権利の移転が一連として行われる場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当することに留意する。例えば、あるアドレスから他のアドレスに移転されたトークン数量が記録されているブロックチェーンを利用する場合には、この記録されたトークン数量が財産的価値に該当する。ただし、電子帳簿の書換え(財産的価値の移転)と権利の移転が一連として行われる場合であっても、その電子帳簿が発行者等の内部で事務的に作成されているものにすぎず、取引の当事者又は媒介者が当該電子帳簿を参照することができないなど売主の権利保有状況を知り得る状態にない場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当しないことに留意する。

立案担当者によれば、例えば、「ある取引システムを利用する全ての取引参加者が、当該システムにおけるトークンの取引によって権利を移転させる旨の約款に同意している場合」には、トークンと権利とが同時に移転することとなるため、電子記録移転権利に該当する(すなわち、「トークン化」されていると認められる)とされています※16。一方、トークンの移転と権利の移転との間にタイムラグがあるようなケースについても、規制の潜脱防止の観点から、当局は、「実態上……一連として行われる場合」と判断し、金商法の規制の対象とする可能性があります。

また、金融商品取引法等ガイドラインのただし書部分について、取引の当事者や媒介者の電子帳簿の書換え(財産的価値の移転)に対する認識可能性が重視され、実体法上の観点だけでなく、取引関係者がトークンと権利とが結合しておりトークンの移転により権利が移転すると認識するようなものは、「実態上」の観点から、電子記録移転権利に該当するとの当局の考え方が示されているものとみることができる、との見解もあります※17

このように、「表示される」要件の解釈(電子移転記録権利への該当性の判断)に当たっては、取引関係者の認識をも踏まえて実質的に判断される可能性もあり、今後の運用を注視する必要があります。

(3)適用される金商法上の規制等

電子記録移転有価証券表示権利等の分類によって、適用される金商法上の規制等が異なります(本稿では主に各分類に適用される規制の枠組みについて説明することとし、各規制の詳細な内容については割愛します)。

①トークン化有価証券については、トークン化される権利が元から第一項有価証券である有価証券表示権利であるため、第一項有価証券に該当し※18、その売買その他の取引を業として行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要です。また、③適用除外電子記録移転権利については、従前どおり第二項有価証券として取り扱われ※19、その売買その他の取引を業として行う場合には第二種金融商品取引業の登録が必要です。

これらに対して、②電子記録移転権利に表示される金商法2条2項各号に掲げる権利は、これまで第二項有価証券として扱われ、原則として開示規制を免れてきました。もっとも、みなし有価証券が「トークン化」された電子記録移転権利は、第一項有価証券として扱われることとなり、原則として発行者に対する開示規制が及ぶこととなりました※20。これは、権利をトークン化することに伴い、事実上一般に高い流通性を有するという性質に着目し、同様に高い流通性を有する第一項有価証券と同水準の開示規制を課す趣旨です。金商法改正の主眼は、まさにこの②電子記録移転権利について、これまで第二項有価証券であったもののうち電子記録移転権利に該当するものを、第一項有価証券として原則として開示規制を課し、その取扱いを原則として第一種金融商品取引業とすることで、規制を強化することにありました。

なお、法令に基づく自主規制は、①トークン化有価証券に係る業務については従前どおり日本証券業協会が担うものの、②電子記録移転権利および③適用除外電子記録移転権利については、2020年4月30日に金商法上の認定金融商品取引業協会となった日本STO協会が担うこととされました。

以上を整理すると、図表3のようになります。

図表3:電子記録移転有価証券表示権利等に適用される金商法上の規制等

分類

発行者に対する規制

取扱者に対する規制

自主規制機関

 

①トークン化有価証券

第一項有価証券

→原則として発行・継続開示の義務あり

第一種金融商品取引業

→登録時の最低資本金は5,000 万円であり、自己資本比率の継続的なモニタリング等、高水準の規制を受ける

 

日本証券業協会

③電子記録移転権利

第一項有価証券

第一種金融商品取引業

 

日本STO協会

③適用除外電子記録移転権利

第二項有価証券

原則として発行・継続開示の義務なし

第二種金融商品取引業

→最低資本金は1,000 万円でよく、自己資本規制も受けない

出典:一般社団法人STO協会「セキュリティトークン市場ワーキング・グループ中間整理(報告書)」(2022年10月)を参照の上、筆者作成

4 おわりに

セキュリティトークンは、現状、社債や不動産を裏付けとするものを中心に発行が進んでいますが、今後は、未上場株式や私募投信といった金融商品を幅広い投資家に提供する場として成長していくとの期待も持たれています。また、セキュリティトークンのPTS(私設取引システム)やデジタル証券取引所の創設の計画も発表されており、将来的な流通市場の形成も待たれるところです。

法的な観点からは、本稿で触れたとおり実体法および規制法の両面から一定の整備がされているものの、検討課題も残されており※21、今後形成される流通市場を見据えた議論の行方を注視する必要があります。

情報の信頼性についても担保されていなければなりません。

※1 厳密には、不動産を裏付けとする受益証券発行信託の受益証券が発行されない受益権(振替受益権でないもの)をトークン化したものが利用されることが多いようです。

※2 石原坦ほか「デジタル証券と信託の活用」金融法務事情、2021年8月10日号(2167号)

※3 一般社団法人STO協会ウェブサイト(https://jstoa.or.jp/investor/sto/

※4 増田雅史「セキュリティ・トークンについて」金融・商事判例、2021年3月増刊(1611号)

※5 なお、ブロックチェーン外での譲渡を完全に無効化することができているかを検討するに際しては、例えば、①券面不発行の社債(振替社債でないもの)に関し、債権譲渡制限特約(民法466条2項等)の(類推)適用の有無や社債原簿の書換手続に関する特約の効力が論点になり、また、②受益証券発行信託の受益証券が発行されない受益権(振替受益権でないもの)に関しては、受益権の譲渡制限の効力(信託法194条括弧書き、93条2項)が論点になると考えられるとの指摘があります(金融法委員会「セキュリティ・トークンの譲渡に関する効力発生要件及び対抗要件について(特に匿名組合持分及び信託受益権の譲渡に関して)」(2022年11月9日)・4ページ)。

※6 前掲注5金融法委員会・6ページ

※7 前掲注5金融法委員会・6ページ。なお、ブロックチェーン外での譲渡を完全に無効化することができているかを検討するに際しては、前掲注5と同様、トークン化された契約上の地位についての移転要件(民法539条の2)や債権譲渡制限特約(民法466条2項等)の(類推)適用の有無、受益権の譲渡制限の効力(信託法93条2項)が論点になると考えられています(金融法委員会・同ページ)。

※8 経済産業省によるニュースリリースとして、例えば以下のものが公表されています。
①「規制のサンドボックス制度に係る実証計画を認定しました~ブロックチェーン技術を活用した電子的取引における第三者対抗要件に関する実証~」(2022年3月29日)https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220329004/20220329004.html
②「規制のサンドボックス制度に係る実証計画を認定しました~ブロックチェーン技術を活用した電子的取引における第三者対抗要件に関する実証~」(2022年7月29日)
https://www.meti.go.jp/press/2022/07/20220729003/20220729003.html
③「規制のサンドボックス制度に係る実証計画を認定しました」(2022年10月14日)https://www.meti.go.jp/press/2022/10/20221014001/20221014001.html

※9 金商法29条の2第1項8号、金融商品取引業等に関する内閣府令1条4項17号、6条の3

※10 定義上は、トークンに表示される特定電子記録債権(電子記録債権法に規定する電子記録債権のうち政令で指定するもの。金商法2条2項柱書)も電子記録移転有価証券表示権利等に含まれますが、現時点では対応する政令が定められておらず、事実上存在しません。

※11 金商法2条3項、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令9条の2

※12 金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令9条の2第1項1号ニ・金融商品取引業等に関する内閣府令233条の2第3項1号イ

※13 資産決済法2条5項ただし書

※14 金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係16暗号資産交換業者関係)」Ⅱ-2-2-8-1(注2)、金融庁「令和元年資金決済法改正等に係る政令・内閣府令等に対するパブリックコメントの結果等について」(2020年4月3日)における「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下、パブコメ回答)No.1ないしNo.3参照

※15 パブコメ回答No.152参照

※16 前掲注4増田・100ページ。なお、金融商品取引法等ガイドラインが「実態上」との文言を用いていることは、トークンの移転と権利の移転との一致に実体法上の根拠を要するわけではないことを示唆するとも指摘されています(同103ページ・注20)。

※17 大越有人「電子記録移転権利の法的位置付けについて」NBL1189号、2021年3月1日号、31〜37ページ

※18 金商法2条3項

※19 金商法2条3項

※20 金商法2条3項。また、特に集団投資スキーム持分に該当する電子記録移転権利については、開示の様式等を定める特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令が規定する開示の様式が改正され、例えば、トークンの記録・移転に用いる技術、取得・譲渡に用いるプラットフォームの名称・内容・選定理由、事業型ファンドの場合は事業内容等の記載を要することとされました。


執筆者

PwC弁護士法人
弁護士 矢野 貴之