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台湾におけるCOVID-19対策の勝因と半導体がけん引する経済成長

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威が吹き荒れ、日本では2度目の緊急事態宣言が2021年1月8日に発出されました。世界中の多くの国がロックダウン等の対応を行いながらも感染が抑えられない中、筆者の暮らす台湾では日常生活を維持しつつ、感染者数、死者ともに非常に低水準に抑えることに成功しています(2021年3月2日時点で、累計感染者955名、うち域内感染者は77名、死者9名)。移動時のマスクの着用や消毒用アルコールがそこかしこに設置されていることを除き、通勤、会食、ゴルフ等のレジャーも含め、台湾内での生活はCOVID-19前とほとんど変わるところはないといっても過言ではなく、台湾のCOVID-19対策の成功は世界で注目されているといってよいでしょう。政府の対応の早さと徹底ぶり、情報の一元管理等の観点において、残念ながら日本の対策は台湾と比べるとかなり見劣りし、これらが感染者数や死者数の大きな違いにつながっていることは想像に難くありません。

一方で、COVID-19は世界の人々の生活様式に変化をもたらし、それが台湾経済にも大きな影響を与えています。そこで本稿では、台湾のCOVID-19対策とCOVID-19が台湾経済へ与えた影響について考察していきたいと思います。

1 台湾のCOVID-19対策

台湾のCOVID-19対策が成功した要因として、台湾政府関係者は多くを挙げています。この成功要因のうち、いくつかを以下で見ていきます。

(1)SARSの経験

コロナウイルスの一種であるSARS(重症急性呼吸器症候群)は、2003年に香港と中国広東省を中心に流行し、同時期に台湾でも感染が拡大しました。SARSは結局日本には感染者が出なかったので、多くの日本人の方々は身に迫った恐怖感はなかったと思います。しかし、私は2000年から2010年までPwC香港で勤務していたため、2003年には感染の中心であった香港でSARSを体験し、実際に知っている方がお会いした翌週に発症、その後亡くなるという恐怖の経験をしました。

当時は台湾でも相当な社会の混乱があったそうで、最終的には346人の感染者と73人の犠牲者(世界の死者数の約10%)が出ました。この経験から台湾政府と台湾人は多くのことを学び、それが今回のCOVID-19の抑え込みに大きく役立ったと分析されています。例えば、コロナウイルスにはマスクの着用、手洗いが非常に有効であることを台湾の人々が学び、今回のCOVID-19においても台湾では日本よりかなり早期からマスク着用と手洗いが徹底されていましたし、大型ビルや商業施設の入り口に消毒液を設置し、体温を測ってからしか入館が認められないなどの対応が2020年1月末から2月初めにはとられていました。

また、SARSの経験から政府機関は省庁を横断した防疫行政を統括する組織を設け、迅速に入出境を制限し、感染者の識別と隔離の徹底などの対応をとるためには新しい法制度の整備が不可欠との結論に達し、2003年のうちに「伝染病防治法」を制定し、感染防止策を強力かつ迅速に進めるための法整備を行うとともに、政府のさまざまなデータベースの統合が図られてきました。今回のCOVID-19への対応では、これらが以下に述べるすべての対策の基礎になっています。

(2)迅速かつ徹底した水際対策

台湾政府は、2019年末に中国の武漢市で原因不明の肺炎が発生したとの情報を受け、中国へ情報提供依頼をかけるとともに12月31日には武漢からの入境者に対する検疫を開始しました。翌2020年1月には台湾から専門家を武漢に派遣し調査を行うとともに、1月22日には武漢の所在する中国湖北省への団体旅行と湖北省からの台湾への入境を禁止し、2月6日には全中国からの台湾への入境を禁止しています。その後、3月19日には居留証所持者以外のすべての外国人の入境が禁止されました。これらはおそらく世界で一番早い対応であったと思われます。

2021年3月初旬現在においても、基本的には外国人は居留証所有者しか入境が認められておらず、入境前3日以内のPCR検査の陰性証明書を入手し、搭乗前に入境検疫システムに必要情報を入力してから搭乗することが義務づけられています。また、飛行場からは専用の「防疫タクシー」にて集中検疫所、検疫ホテルまたは自宅まで移動し、14日間の在宅防疫期間に入ります。自宅での検疫を選択することができるのは、防疫期間にその家に1名しかいない状況に限られており、同居家族がいる場合は、入境者が検疫ホテル等に宿泊するか、入境者以外の家族全員が外部に宿泊するかの選択を迫られます。在宅検疫期間中は、一切の外出が禁止されています。各市町村の担当者が毎日定期的に電話で状況確認を行うとともに、GPS情報によって常に位置情報が把握されており、外出が疑われるときにはすぐに電話で状況確認が行われます。違反には最高額100万元(約380万円)の罰金が科され、必要と認められるときには強制隔離措置が取られます。14日間の在宅防疫期間の後も7日間の自主健康管理期間が必要とされており、この間は極力外出しないことが推奨されています。外出時は常にマスク着用が義務づけられており、健康状態を毎日報告することが義務づけられています。

なお、防疫期間の経済的負担にも十分に注意が払われており、検疫ホテルに宿泊した場合は台北市ならば1,500台湾ドル(約5,600円)/日、それ以外の地域ならば1,000台湾ドル(約3,700円)/日が補助されます。台湾から日本へ帰国したクライアントの話を聞くと、日本では空港から自宅までの交通手段に困り、実際は電車に乗って帰る人がいるとか、あるいは自宅での14日の検疫期間中も家族と同居していたり、外出も比較的自由に行われていたりすると聞いています。日本と比較すると台湾政府の水際対策の徹底ぶりは際立っていると感じています。

(3)中央流行疫情指揮中心の設置

先に述べた伝染病防治法を根拠法令として、伝染病流行時には台湾政府は中央流行疫情指揮中心を設置し、台湾内の指揮命令系統の一本化と情報や資源の一元管理を行うことができます。今回のCOVID-19では、2021年1月20日に中央流行疫情指揮中心が設置され、省庁の壁を越えた組織として「情報収集、作戦立案、後方支援」の3つの分野について、専門家による10のチームが設けられ、臨機応変な対応にあたってきました。

(4)情報公開の透明性

記者会見は毎日行われ、その日の状況が報告されるとともに、テレビ等の旧来型メディアだけでなく、SNSなども活用して徹底した情報公開が行われています。複数言語に対応する通話料無料の24時間対応コールセンターが設置され、聴覚障害や言語障害を持つ方のためにFAXによる連絡も可能となっています。また、台湾では外国人を含めたすべての人がID番号を持ち、あらゆる経済活動がIDとリンクされています。これを利用し、健康保険局の持つ情報と移民局の持つ情報を照合し、病院を訪れた患者の出入国履歴が病院に提供され、リスクの高い症例を洗い出せる体制がとられています。

このように台湾では政府機関の持つ情報を可能な限り公開し、それを民間で活用してもらうという考え方が徹底しており、政府データをユーザーフレンドリーに見やすくしたウェブサイトがたくさん民間のシビックハッカーによって作られ、活用されています。「g0v(=GOV ZERO)台湾零時政府」というコミュニティがその中心的役割を担っており、その中心人物が現デジタル担当政務委員(政務委員は日本の大臣に相当)のオードリー・タン(唐鳳)氏です。g0vというのは、政府のホームページを表すgovのoを0(ゼロ)に置き換えたドメインを用いるネット上およびネット外のコミュニティです。ゼロから政府の役割を考えようという発想のもと、多くの市民が参加し、さまざまなテーマについて考察を深めています。政府のオープンデータを用いた多くのプラットフォームが開設されたり、アプリが開発されたりしており、台湾政府予算の可視化などの多くの実績をあげてきています。今般のCOVID-19への対応においても、情報公開の透明性により民間がスピーディな対応を取ることができたことは間違いありません。

マスクの販売管理

台湾におけるマスクの販売管理は、日本のニュースや新聞にも取り上げられているので、ご存知の方も多いと思います。台湾のコロナ対策がうまくいった理由のひとつとして、先に触れたオードリー氏が指導力を発揮して迅速に「マスクの実名販売」や「マスク在庫マップ」の導入を行い、いち早くマスク不足の混乱を鎮静化したことが挙げられています(図表1)。

図表1 台湾の自治体によるマスク在庫マップ

オードリー氏は、グローバル大手コンピュータ企業の顧問を務めるなどし、プログラマーとしても有名な人物です。過去には反政府デモの中核人物でもありました。馬英久前総統時代の2014年、立法院(日本の国会に相当)において、中国との間の「サービス自由化協定」の採決を目指す国民党が当時の野党・民進党の反対を押し切り、一方的に審議を打ち切りました。このことに反対する学生を中心とする反対運動「ひまわり学生運動」では、学生による立法院の占拠を経て、最終的には学生たちの意見が一部採用され、「サービス自由化協定」も継続審議となりましたが、オードリー氏は占拠された立法院の状況を生中継するため、立法院の中にケーブルを持ち込み、ブロードバンド中継するとともに議事内容の情報公開を要求事項のひとつとして政府に対して主張し制度化に結び付けたそうです(なお、「サービス自由化協定」は2021年2月現在もいまだに台湾側の内部承認プロセスが済んでいないため、発効していません)。

その後、台湾政府の「リバースメンター」の一人として前デジタル大臣へのアドバイザーとして働いていたところ、2016年1月の総統選で勝利した蔡英文総統の第2次内閣において台湾の閣僚としては史上最年少(当時35歳)で抜擢され、デジタル担当大臣に就任した、という経歴になります。「リバースメンター」とは、各大臣に対してアドバイスをするために選任される、35歳以下のソーシャルイノベーターたちのことです。各大臣は、「リバースメンター」たちの意見を参考にしつつ、時に導かれつつ、政策を推し進めていきます。

なお、台湾ではCOVID-19の抑え込みに成功しているので、PwCを含め多くの企業ではCOVID-19前と変わらぬ出勤状況ですが、デジタル担当大臣に就任したオードリー氏は、物理的にどこにいても働くことはできるということで、ほとんどをリモートワークで執務し、執務室には週に1回くらいしか出勤しないそうです。若くても優秀であれば重要なポジションに起用するという台湾政府の懐の深さに日本の読者の皆さまも驚かれるのではないでしょうか。

さて、マスクの話に戻りますが、台湾では2020年1月24日には早くもマスクの輸出が禁止され、1月末の時点で政府によるマスクの全量買い上げが開始されました。当初は大手コンビニなどで販売されていましたが、大行列ができる一方、同じ人が何度でも買えるため、入手できる人とできない人の格差が生まれました。そこで2月6日よりマスクの実名購入制度が導入されました。具体的には、外国人を含めた台湾居住者が全員所有する国民健康保険カードを薬局で提示することで、各個人がマスクを1週間当たり決まった枚数のみ購入できるようにした制度です。これによりマスク調達の不平等は解消されました。台湾政府が公開したマスク在庫情報をベースに、多くのプログラマーがアプリを多数開発し、すぐにマスク在庫についても台湾全土の各薬局のマスク在庫数量と販売時間がスマホアプリで確認できるようになりました。

そして、3月12日にはマスク実名購入制度を発展させ、マスクオンライン予約購入システムが稼働しました。これは、薬局に並ばなくても予約と支払いをオンラインで行うことができるシステムで、わずか5日で開発され、2日間のテストののち運用開始されたそうです。

これらのスピーディな対応の背景には、先に述べた政府所有情報の徹底公開とそれを用いてスピーディに一般人に利用しやすいサイトやアプリを作り出す厚みのある民間のシビックハッカーの活躍があります。

2 COVID-19に対する経済対策

COVID-19をうまく抑え込んでいるとはいえ、当然観光業をはじめとする産業は苦境に立たされています。苦境に立たされている企業や人々に対して台湾政府が実施した経済対策のうち主なものを紹介します。

(1)売上減少企業に対する給与補助

2020年4月には、運営が困難な企業に対する救済法が制定され、従来と比較して2020年の売上高が減少している企業に対する給与費用の一部政府負担が始まりました。最初は2020年上半期を対象としていましたが、その後COVID-19による打撃が長期化したため延長され、さらに多数の企業に補助金が支給されています。売上高の減少については、2020年のある単月が2019年の月平均や2019年または2018年同月の50%以下であるなど、いくつかの基準のどれかを満たせばよいというように幅広めにカバーするように設定されています。

(2)売上減少企業に対する一時金の支給

上記(1)と同様の法律を基礎として、同様の条件を満たした企業には従業員数に応じた一時金が政府から支給されました。

(3)「三倍券」の販売

台湾人および永久居留証を有する外国人全員に「三倍券」を配布しました。三倍券というのは3000元分の商品券ですが、1人1回だけ1000元で購入できるというものです。筆者も永久居留証を有しているので購入しました。2回購入してしまう人が出ないように健康保険カード番号を郵便局の端末で読み込んで、初めての購入であることを確認する作業もありましたが、非常にスムーズで1分くらいで購入できます。各小売店においては三倍券を使って購入すると更なる優遇(例えば割引やおまけの商品がもらえるなど)を与えて購買意欲を促進するようにしたため、経済の底上げには大きく貢献したものと思います。

日本が行った現金給付に比べると、事務が圧倒的にスムーズであることと、有効期限がある商品券だったため、貯蓄に回ることはなく、確実に消費に回ったという点で非常に優れた施策であったと考えます。なお、クレジットカードを登録し、登録したクレジットカードを3000元以上使うと2000元が政府よりそのカードに入金されるなどの、紙ベース以外の配布方法も併用されました。

(4)社会的弱者への補助

低所得家庭の子女、心身障害者、中低所得の老人などの社会的弱者には、一定期間、毎月一定の補助金が支払われました。驚くのは、社会的弱者の側からの申請手続き等は一切なく、自動的に対象者の銀行口座に支給が行われたということです。個人IDナンバーですべてが管理されているからこそできることであり、圧倒的なスピード感がありました。

3 COVID-19が台湾経済に与えた影響

2020年当初はCOVID-19の影響が懸念され、先行きを不安視する声も多く聞かれました。しかし最終的には、台湾の2020年名目GDPは6,693億米ドルで、実質経済成長率も3.11%が見込まれ、中国の年間経済成長率を約30年ぶりに上回ることが確実となりました。また、台湾政府は2021年の実質経済成長率の予測も2020年を超える4.64%と高水準と予想しています。

このような好調な経済を支えているのは、今まで述べてきたCOVID-19対策が奏功し、日常生活への影響が最低限に抑えられていることです。加えて、米中貿易摩擦で中国からの生産シフトが進みつつあった中で、世界の工場の中でも2020年を通してほぼ通常どおりのオペレーションが可能だった地域は多くないことから、台湾への生産シフトが進んだことが挙げられます。また、台湾人は延べ出境者数が1,700万人以上と人口2,300万人と比して非常に出境者が多かったのですが、これがほとんどなくなったことで域内旅行の増加、域内消費が増加したことも景気にプラスに働きました。

さらには台湾経済の中核である半導体産業が絶好調であることが挙げられます。COVID-19の影響により世界中でテレワークが加速し、PC、スマートフォン、タブレット、通信機器、ゲームなどの需要が急増したことや世界中での5G、AI、電気自動車などの投資増で半導体需要が大幅に増える一方、世界規模でも大手である中国の半導体製造企業に対するアメリカによる経済制裁が供給を悪化させており、需要が供給を大幅に上回り、自動車メーカーなどに大きな影響を与えています。

そういった中、当然のことながら、世界最大手の半導体受託製造会社(ファウンドリ)でもある台湾の半導体企業上位2社の業績は大幅に伸びており、そのサプライヤーや関連業者の業績もまた伸びています。台湾上場会社のうち半導体関連会社の2020年の売上高伸び率は前年比22.2%となりました。

台湾の上場会社全体での2020年売上高合計は過去最高となり、2020年の台湾の年間輸出総額は過去最高で前年比4.9%増となっています。台湾の半導体トップ企業にいたっては、2021年の年間投資予算も台湾企業で圧倒的1位の280億米ドルとなっています。また、2021年2月末時点で、時価総額は5,825億米ドルで世界第11位、台湾1位となっており、先に述べた台湾の名目GDP6,693億米ドルの約9割にあたります。日本の名目GDPは2020年で539兆円(=およそ5.1兆米ドル)とGDP比では台湾の7.7倍ですが、日本企業の時価総額第1位は2,100億米ドル前後であることと比較していただけると、いかに台湾産業における半導体トップ企業の存在感が大きいかがわかっていただけると思います。

幸いにも半導体産業の活況は当分の間続くと見られており、これが台湾政府の強気なGDP予測の根拠のひとつになっているのは間違いありません。半導体の製造装置と材料の分野では日系企業が圧倒的な存在感を示しているので、今後も日台間の協業が進んでいくことを期待しています。


奥田 健士

PwC台湾
パートナー 奥田 健士