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2010年代後半以降、医療業界ではPatient Centricity(患者中心)の取り組みが広がっています。
日本製薬工業協会(JPMA)では2016年度から、患者の声を医薬品開発に生かすための調査・検討を行っています。医薬品医療機器総合機構(PMDA)でも2019年に患者参画を推進するワーキンググループが設置され、取り組みが本格化しています。
製薬企業でもPatient Centricity実現に向けた取り組みが広がっています。
例えば、
など、治療薬の提供だけではない多様な支援が進んでいます。
また海外(特に欧州)では、Patient Centricityが製薬企業のESGの観点(CSRD)で活用されています1。患者を対象とした調査結果が投資家の判断材料として活用されるなど、企業活動としての重要性も高まっています。
日本と海外とでは医療制度が異なる中、患者自身は企業の患者向けの活動やPatient Centricityをどのように捉えているのでしょうか。また、疾患や治療薬に関する情報をどのように入手し、製薬企業に何を期待しているのでしょうか。
PwCコンサルティングは、希少疾患・がん・プライマリー疾患の患者さん1,500名を対象に、
の3点について、現状を幅広く把握するための患者調査を実施しました。
本記事ではこの調査結果を基に、患者の行動とニーズの本音についてご紹介します。
本調査は2025年5月、Webアンケート形式で実施しました。
希少疾患・がん・プライマリー疾患の患者さん各500名、計1,500名が回答しています。
設問数は約20問(選択式・自由記述)で、回答者の年代は20代~70代に幅広く分布していました。
調査や臨床試験のリクルーティングなど患者団体が関わる機会はあるものの、実際に参加している患者は5%にとどまり、92%はこれまで一度も参加経験がありません。
3つの疾患カテゴリで大きな差はなく、66%が「わからない」と回答。
「共感できる/やや共感できる」と答えたのは28~30%にとどまりました。
治療薬利用以外で企業名を聞いたり活動に触れた経験がある患者は31%。
主な接点は以下のとおりです。
また、患者の声を聞く取り組み(治験でのコメント確認、講演会、セミナー、インタビュー調査など)については20%が認知。中には40~60%と比較的認知度の高い活動もありました。
参加率は限定的であった一方、3.に示したような活動に触れた患者についての調査結果では、約40%が「治療や日常生活に変化があった」と回答。情報提供やサポート活動が、行動の変化や安心感につながる可能性が示されました。
情報収集の実施状況については、以下のように高い結果となりました。
その一方で、情報収集者全体の31%が「十分に情報が得られなかった」と回答しています。
主な情報源は医療従事者で、ウェブやソーシャルメディアも活用されていますが、製薬企業ウェブサイトの利用については十数%と限定的でした。
このような回答が44%と最も高く、続いて以下が挙げられました:
また、情報共有やサポート体制の充実を求める声も多く見られました。
企業の患者支援活動は患者団体を通じて行われることが多い一方、今回の調査では患者団体への参加率は5%にとどまりました(図1)。
診断後に行う情報収集の手段を見ると、最も多いのは医療従事者への相談(全体73%:医師72%/看護師11%/薬剤師8%)で、次いでクリニックや病院のウェブサイト(25%)、同じ疾患を持つ患者のブログ・ソーシャルメディア(25%)が続きます。
一方、患者団体のウェブサイトを利用しているのは全体の9%(希少14%/がん7%/プライマリ5%)とごく一部に限られました(図2)。
こうした結果から、インターネットやソーシャルメディアの普及により、患者団体やコミュニティに所属しなくても必要な情報にアクセスできる環境が整ってきたため、あえて団体に参加しない患者が増えている可能性が考えられます。
さらに今回の結果からは、企業が患者会等と連携し調査や情報発信を行っていたとしても、一部の患者の声しか拾えていない、あるいは発信内容が一部の患者にしか届いていない点が示唆されています。
図1:患者団体・コミュニティへの参加状況
図2:診断後の疾患に関する情報収集の手段
ヘルスケア業界ではPatient Centricityや、その実現に不可欠な「患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)」が広く議論されています。しかし、今回の調査では、これらの概念を「知っている」と回答した患者は全体の14%にとどまり、86%が知らないと回答しました(図3)。疾患カテゴリ間で大きな差はありませんが、プライマリー領域ではやや認知度が低い傾向が見られました。
PPIなどのテーマを知っているかどうかは、患者団体・患者コミュニティへの所属状況と関連しているようです。
所属している患者は、所属していない患者に比べ、これらのテーマを認知している割合が高い結果となりました(図4)。
図3:患者・市民参画(PPI)の認知
図4:患者団体・コミュニティ参加有無別のPPIの認知
「患者中心についてどう思うか」という質問では、約70%が「わからない」と回答しており、疾患による差も限定的でした(図5)。
また、「わからない」と回答した方のうち66%は「患者中心に関心がない」と答えています。
患者中心については「実現が難しそう」と回答する声もあり、これらの結果からは医療現場や企業がPatient Centricityを推進している一方で、患者側では概念の理解や共感が十分に進んでいない実態が示されています。
多くの患者は「どう捉えてよいかわからない」状態にあり、認識ギャップが依然存在していると言えます。
図5:Patient Centricityに対する印象(全体/疾患別)
治療薬利用以外で製薬企業の活動に触れた経験がある患者は31%でした。接点として挙げられたのは、院内のパンフレットやポスター、ウェブサイトでの疾患・治療情報の提供などが中心で、患者団体でのコミュニケーションや治験参加を通じた関与も見られました(図6)。
図6:認知度と生活へのインパクト
企業の活動に触れた患者の約40%が、治療や日常生活に何らかの変化を感じたと回答しています。
具体的には、情報が得られることで不安が軽減されたり、行動の後押しにつながるなど、情報提供・支援の効果がうかがえる結果となりました。
全体として企業活動の認知度は高くありませんが、認知している患者の多くは活動の有用性を実感していることが今回の調査から明らかになりました。活動量を問わず、患者に届いた際のインパクトが大きい点は、企業にとって重要な示唆と言えます。
調査の中では、自身の治療薬がどこの製薬企業が認識している割合は40%程度のため、患者が気が付かないうちに製薬企業の活動に触れている可能性もありますが、パンフレットや情報提供、患者向け活動が届いた際は大きなインパクトを与えられているといえます。
症状・疾患について情報収集を行った患者は、
と、診断後に大きく増加していました。治療薬に関しては58%が情報収集を行っています。
一方で、情報収集者の31%が「十分に情報を得られなかった」と回答しており、多くの患者が情報不足を感じている現状が明らかになりました
患者が情報を得る手段としては、医療従事者への相談に加えて、ソーシャルメディアなどを含むネット媒体が広く利用されています。
診断後や治療薬を調べる場面では製薬企業のウェブサイトも一定程度利用されますが、利用率は十数%にとどまっています。
製薬企業のウェブサイト利用が限定的な理由として、
治療薬の製造企業名を認識していない患者が60%と高い点が挙げられます。
疾患名・薬剤名と製薬企業名が結び付いていないため、必要な情報にたどり着くことが難しい状況がうかがえます。
患者は医療従事者・周囲の人への相談や、ウェブ検索を組み合わせながら情報を集めていますが、「企業名が分からない」ことにより製薬企業のサイトは十分活用されていない状況です。
このことから、患者に届きやすい形での情報提供や導線設計を行うことで、企業が貢献できる余地が大きいという示唆が得られます。
自由記述による質問では、32%の患者さんが製薬企業に対する期待を回答しました。
中でも最も多かったのは、「分かりやすく豊富な情報提供」(44%)です。
具体的には、
といった、理解しやすさを重視する声が多く寄せられています(図7)。
図7:患者が製薬企業に求めること
情報提供に続いて、以下の期待も多く挙げられました:
この結果から、患者は治療の質や安全性に直結する領域においても企業の貢献を期待していることがうかがえます。
今回の調査を通じて、患者のPatient Centricityへの認識、情報収集の現状、そして製薬企業への期待が明らかになりました。
Patient Centricityへの共感度や企業活動の認知度はまだ高くありませんが、若い世代を中心に共感が高まっていること、多くの患者が積極的に情報収集を行っていることは、今後の変化につながる重要な兆しと言えます。
一方で、医療従事者・企業・患者の間には、依然として情報量や規制理解などのギャップが存在します。
製薬企業は規制上、提供できる情報が限られる一方で、患者はこうした制約を十分に認識しておらず、「必要な情報がどこにあるかわからない」という課題を抱えています。
こうしたギャップを埋めるためには、産官学が連携して各ステークホルダーが垣根を越えて連携することが不可欠です。
例えば、
といった取り組みは、患者に必要な情報が届く環境づくりにつながります。
医療に関わる全てのステークホルダーが一丸となり、患者さんを中心に据えた活動を共有することこそが、Patient Centricityの実現、そしてより良い医療の未来を形づくる鍵となるはずです。
須田 真澄
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
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