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AIの進化は、薬剤の臨床開発に大きな変革をもたらす可能性があります。試験デザインや被験者選択、統計解析、各種文書作成など、従来は多くの知見と時間、リソースを要していた業務において、AIの活用が急速に広がりつつあります。製薬企業によるAI活用の取り組みは、技術検証(Proof of Concept:POC)から価値証明(Proof of Value:POV)のフェーズへと移行し、昨今では成果(ROI)を重視したAI導入が求められるようになりました。PwCコンサルティングでは、これまで製薬企業のバリューチェーン全体で200件以上のAIユースケースを支援した実績があります。本稿では、特に製薬R&D(研究開発)の臨床開発領域における典型的な課題や成功の鍵など、AI導入の現場での経験から得られたポイントについて解説します。
臨床開発においては、時間短縮やリソース削減、戦略の最適化と成功率向上などが常時のテーマとして存在します。臨床開発におけるAIは、もはや「nice to have」ではなく「must have」であり、さらには「価値が証明できないAIプロジェクトには投資しない」という姿勢へのシフトも見られます。すなわちAI導入プロジェクトでは、単にAI技術が機能するかの検証ではなくAIによる価値創出がゴールであり、「どのような成果を生むか」の証明が重視されるようになっているのです。一方で、高い専門性や厳しい規定への対応を要し、さまざまな業務や職種が存在する製薬・臨床開発部門へのAI導入は必ずしも容易ではありません。これを成功させるための要点を4つにまとめ(図表1)、以下に解説します。
図表1:臨床開発業務への生成AI導入を試みる際のポイント
臨床開発業務には基準の厳守や高い正確性が求められ、またその風土にも保守的な傾向がみられることから、組織のメンバーはAIの活用や既存業務の代替に対してしばしば懐疑的です。そのため、短期間で成果を実感できるQuick Win事例を積み重ねることによってAIへの信頼と期待を醸成することが必要であり、有効になります。例えば、ある臨床開発組織における予算策定の自動化では、従来2週間かかっていた試算が3日で完了し、チーム内にAIへの信頼が生まれました。また、有害事象データの要約を生成AIが担い、人間がQC(Quality Control:品質管理)に集中することで品質レビューの精度が向上した成功事例もありました。こうした小さな成功体験が社内で口コミ的に広がると、組織全体がAIに対して前向きになります。なお、Quick Winを目指す際は、規制を逸脱せず成果を出せる範囲や、科学的正当性を損なわずに改善できる領域を選ぶことが重要です。
AI導入の成功には、技術の完成度よりもむしろ組織の動き方とスピードが重要です。IT部門主導ではなく、「臨床開発業務側主導×IT支援」の二頭体制で進めることで、合意形成や成果創出がスムーズに進みます。私たちはプロジェクトのスピード感を重視し、「ファストスタート」を提唱しています。個別のユースケースにおける「ビジョン、目的、KPI、アーキテクチャ、チーム体制と責任、ロードマップ」にわたる一連の定義をわずか2週間単位で実施し、すぐに動くチーム編成により成果創出につなげます。実際、数十のユースケースを特定したものの着手できずにいたある企業では、ファストスタートの取り組みにより半年以内に複数のMVP(Minimum viable product)を実稼働させ、計画での足踏み状態から成果創出へと転じさせました。MVPを用いることで、組織は迅速に価値を検証し、リソースを最適に配分することが可能となるのです。
臨床開発領域では規制遵守と品質保証の基準が厳格であり、作成物の多くで説明可能性や責任の所在が求められます。そのため、AIと人間が協働する「Human-in-the-Loop(HITL)」モデルによる精度向上と品質維持が不可欠です。AI活用のゴールを完全自動化とするのではなく、人が最終判断を下す設計や監査証跡、出典提示、検証手順などを組み込むことによって柔軟性と品質を担保することが重要となります。
実際に臨床開発の業務にAI導入する際には、理論や計画段階では見えにくい、現場ならではの課題が浮き彫りになります。主な問題は、受け入れ側である業務メンバーに関わるものと生成AI自体に関わるものの二つに大別されます(図表2)。前者は、そもそもAIによる改善や置き換えを図るべき業務を如何に選んで決定するかの難しさに始まりますが、背景にはしばしばAIに対する現場での不信感や猜疑心などがあります。後者には、専門性と特殊性の高い臨床開発業務ならではのアウトプットのばらつきや品質・規制対応、運用体制の整備などが挙げられます。これらの課題を乗り越えるためには、本稿でご紹介した事項の実践のほか、現場の声を反映したチーム一丸での取り組みや、最重要である品質担保の仕組みづくりが重要です。
図表2:AI導入を試みる臨床開発の現場で発生しがちな問題
臨床開発の課題解決や業務変革のパートナーとして、AIは今後ますます重要な役割を担うと考えられます。成果と信頼を生む導入ポイントを押さえ、組織全体でAI活用を進めていくことで、組織の生産性と競争力の強化につながります。直近では、臨床開発業務の規制当局である医薬品医療機器総合機構(PMDA)においても、自らの業務品質と効率向上を目的として組織横断的なAI活用を推進する方針を公表しました。世界では、AIの最大活用はもはや当然のこととなりつつあります。国内でもAIを用いた製薬企業の臨床開発業務における一層の効率化や、高度化が期待されます。
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