【エネルギー・ユーティリティ企業におけるポートフォリオマネジメント】―資本コストを意識した事業再編の加速―

2023-12-11

※2023年10月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

国内エネルギー・ユーティリティ企業の市場評価(PBR)

昨今、日本の上場企業が抱える構造的な課題として、PBR1倍割れに対する問題が広く認知されるようになっています。特に2023年3月末に東京証券取引所からPBR改善に向けた対応要請が出てからは、当社でも多くの企業から相談を受けるケースが増えています。

中でも、国内エネルギー・ユーティリティ企業はPBRが低い傾向にあり、海外のプレイヤーと比較してもその水準は低位であると言えます。PBRの構成要素は、「PBR=ROE(資本効率性)×PER(市場からの期待値)」という指標に分解できることが知られていますが、類似指標としてROICとPBRの関係性を業界の時価総額上位企業で分析したところ、図1のような結果となっています(なお、横軸をROEとした場合でもレバレッジの影響やその他の差による各社の位置関係に大きな差はなかった)。

図表1 PBR×ROICの分析

資本効率性指標であるROICとPBRの関係については一定の相関性が見て取れますが、今回注目したいのは、市場評価が相対的に高いグループと低いグループからなる、3つのグループについてです(図表2)。

図表2 各グループの説明

Ⅰのグループは主に国内のユーティリティ企業群であり、海外企業と比較するとROICが相対的に低いことが明白です。PBRが1倍未満となっている主要因として、投資家からは資本コスト以上の財務パフォーマンスを発揮していないと評価されているものと推察されます。

Ⅱ・ⅢグループはROIC水準が同じ他企業と比べたときに、相対的に市場からの評価が高い企業群と低い企業群であり、これはPERが高い企業群と低い企業群と言い換えることができます。

PERは市場からの成長期待であることから、一般的にはこの2つのグループの差を生じさせる原因として、以下のような視点が考えられます。

  • 非財務価値に対する評価
  • 成長投資を含む将来の成長ストーリー
  • 利益成長のトラックレコード

事業再編実行に向けたポートフォリオマネジメントの在り方―ポジティブな事業再編―

エネルギー・ユーティリティセクターにおいては、市場環境の変化が著しい中、事業の積極的な再編と次の成長領域への投資配分を加速させることが求められています。一方で資金調達や人材リソースなど経営資源は有限であるため、これまで以上に事業戦略と財務戦略を融合しながら経営の意思を持たせたポートフォリオマネジメントの基準を策定する必要があります。

事業再編やポートフォリオマネジメントを検討する上では、単純に黒字でキャッシュフロー貢献があるということ以上に、資本コストを意識した経営に転換する際には、「ベストオーナー」※1の概念とともに、ポジティブな事業のイグジットを検討する必要があります。

※1:保有事業の価値創造、価値向上を行っている状態にあるかを問うものであり、経済産業省の「事業再編実務指針」においても言及されている

図表3 資産コストを意識したポートフォリオマネジメントのベース

ポートフォリオマネジメントの基本的な考え方は、前述のPBRの議論にも通ずる、企業価値のドライバーとして「成長性×資本効率性」をベースとしながら、カーボンニュートラルへ貢献するなど、非財務価値も踏まえた自社の経営戦略(経営の意思)を反映させた議論の枠組みを構築することが必要です。

事業の健全な成長と資源配分に向けたポートフォリオマネジメントの枠組みを構築するためには、大きく分けて3つのステップで検討することが肝要です。特に当社がクライアントから頻繁にご相談いただく内容としては、事業別のWACC算定や、これと比較するための事業別ROICの算定方法の確立と社内浸透が挙げられます。

図表4 検討ステップ

PwCでは戦略、ファイナンス、投資管理オペレーションの専門性を活かし、エネルギー・ユーティリティセクター企業のトランスフォーメーションや、健全な成長に向けた投資ポートフォリオマネジメントの推進に貢献します。

資本コストやPBRを意識した経営の取り組みに関心のある方は以下のレポートも併せてご参照ください。

<当社HP掲載記事のご紹介>

執筆者

山本 大貴

ディレクター, PwCアドバイザリー合同会社

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