【エネルギー業界におけるカーボンクレジットの税務上の留意点】

2022-09-27

※2022年8月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

今回は、エネルギー業界の視点からカーボンクレジット(以下「クレジット」)について、税務上どのような点に留意する必要があるか考察します。クレジットとは、排出量削減プロジェクトによる削減量を第三者が認証して取引可能にしたものです。企業は、クレジットの取得により自助努力での炭素削減で賄えない排出量を、プロジェクトによる排出削減分だけオフセット可能となります。

クレジット市場の動向

ネットゼロ宣言を行う企業が増加するに伴い、クレジットの需要・供給が拡大しています。世界銀行が発表した THE WORLD BANK State and Trends of Carbon Pricing 2022によると、クレジット市場は2021年に前年比48%増の成長を見せ、その発行数は約1.4倍に増加しています。図表1のとおりクレジットにはさまざまな種類がありますが、おおむね発行数が増加しています。また、複数の国で、クレジットに関する法制度の検討が進められています。

図表1 国内外の主なクレジットの発行規模

また、ボランタリークレジット市場の拡大を目的としたTaskforce on Scaling Voluntary Carbon Marketsは、1.5度目標(パリ協定で示されている世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて、できる限り1.5度に抑えるという目標)達成のために、2030年までにボランタリークレジット市場の規模を15倍にする必要があると推定しています。日本においては、経済産業省のGX(グリーントランスフォーメーション)リーグにおける自主的な排出量取引の取り組みにおいて、クレジットの議論が進められています。

こうしたクレジット市場に関する動向を踏まえ、クレジット市場の拡大とともに、クレジットを取得する取引や、自社プロジェクト実施によりクレジットを創出・売却などする取引が今後も増加していくと思われます。

エネルギー業界とクレジットの関係性

クレジットは、さまざまなプロジェクトにより創出されています。Taskforce on Scaling Voluntary CarbonMarkets Final Reportによると再生可能エネルギー、使用燃料の転換、Carbon dioxide Capture and Storage(CCS)などのプロジェクトに由来するものも含まれており、エネルギー業界における風力・太陽光などの再生可能エネルギー電源の開発、カーボンニュートラルLNGおよびCCS開発といった脱炭素化の取り組みとも関係しています。

2021年6月にCCSを拡大するために組成されたCCS + Initiativeでは、世界で最も流通しているボランタリークレジットであるVCS※1の管理を行うVerraが関与し、CCSによる排出量の削減・除去をVCSにおいて認証可能にする仕組みが検討されています※2。また、日本では経済産業省が、2022年6月に公表した「カーボン・クレジット・レポート」において、炭素吸収・除去系のクレジット創出などの対象由来の拡大の必要性を示しています※3

このような動向から、エネルギー業界の企業も、脱炭素プロジェクト実施によりクレジットを創出・売却などする取引やクレジットを取得する取引が増加するものと考えられます。

クレジットに関する税務上の取扱い

クレジット関連取引の増加は、この取引における税務上の取扱いの検討機会が増加することも意味します。一方、クレジットに関する税務上の取扱いは現状、図表2に示されるように必ずしも明確ではありません。また、クレジットの取引がクロスボーダー取引になる場合の海外税制の取扱いに関して、明確な規定が存在しない国もあるため注意が必要です。

図表2 クレジットに関する本邦税務上の取扱い

今後の税務の対応の方向性

税務上の取扱いが現状明確でないことに加え、クレジット市場が拡大し、多様化が今後も進むことを踏まえると、税務上の取扱いの整理はより複雑になる可能性があります。クレジット関連取引を行う企業は、クレジットの種類、クレジットが発行・取引される場所(国・地域)、発行・取得などに係る一連の取引内容および会計基準を踏まえ、関連税法に従って個別具体的な整理を行う必要があると考えられます。今後、企業がクレジット関連の取引を行う場合、特に以下の観点での検討が必要となります。

創出者側の論点

  • クレジット創出プロジェクト(再生可能エネルギー電源の開発、設備投資など)の検討から派生する税務論点(投資ストラクチャーの検討や設備投資などによる優遇税制など)
  • プロジェクトから得た環境価値を第三者認証機関に認証してもらう場合の認証費用の取扱い
  • クレジット売却時の取扱い

取得者側の論点

  • クレジットの取得時およびオフセット時(償却時)の取扱い
  • グループ内の特定の会社が一括調達し、グループ間で配分する場合の取扱い
  • クレジットに無償取得部分が含まれる場合の取扱い
  • クレジット取得対価についての消費税、付加価値税、源泉税の取扱い(クロスボーダー取引含む)

上記論点については、今後の各国税制や会計基準の動向にも留意しながら、整理していくことが重要になると考えられます。PwC税理士法人では、創出者側と取得者側の双方の視点に立ち、PwCグローバルネットワークと連携しながら、各種取引について個別論点の整理や税務上の取扱いの調査などを支援いたします。

執筆者

村上 高士

パートナー, PwC税理士法人

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白土 晴久

パートナー, PwC税理士法人

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藤田 諒

ディレクター, PwC税理士法人

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