【電力需給ひっ迫と市場価格高騰に備えたリスクマネジメントの在り方】~2020年度冬期の電力価格高騰と2021年度夏期・冬期の需給見通しを受けて~

2021-06-30

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2020年度冬期の電力需要が最大化する時期において、日本卸電力取引所の電力価格が高騰し、小売事業者の経営に多大なる影響を及ぼしました。電力市場の価格変動リスクにいかに備えるかという観点で、経営の根幹を見直す契機ととらえた事業者もいるのではないでしょうか。すでに2021年度の夏期・冬期の需給見通しが公表されており、一部のエリアでは3%を切る予備率が予測されています。2020年度冬期と同じ事象は何としても避けなければなりません。本稿では、価格高騰の原因とそれに対する資源エネルギー庁による施策を踏まえ、小売事業者がとるべき事業行動とリスクマネジメントの在り方について考察します。なお、本稿における意見は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

2020年度冬期の振り返り

「2020年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証中間取りまとめ(案)」が2021年4月に公表されました。これによると、冬期の前半は平年より寒かったことから、電力需要増加と再生可能エネルギー電源における発電量低下により、火力電源への需要が増大しました。しかしながら発電事業者において予測を上回る燃料手配が追い付かず、卸電力取引所市場への供給量が不足しました。一方、小売事業者は需要家への供給力確保のため卸電力取引所市場で高値入札した結果、市場価格は高騰し、かつ調達不足となった部分について不足インバランスが発生しました。市場調達率の高い小売事業者は、調達価格高騰と高額の不足インバランス料金により業績を大幅に悪化させることとなりました。

取りまとめでは短期・中長期の施策が挙げられており、電力需給ひっ迫が生じないよう発電事業者に対して燃料調達確保や火力発電所の休止・退出見直し検討などが要請されています。また小売事業者に対しては引き続き供給力確保を求めるとともに、電力市場価格高騰を抑えるセーフティネットとして2021年度における暫定的なインバランス料金の上限措置がとられています(2021年7月の施行予定)。

小売事業者の供給力確保義務とリスク

日本のエネルギー政策の最優先事項の一つは安定供給であり、電気事業者はそれぞれの立場でこれに即した事業行動が求められます。小売事業者にとっては供給力確保義務を果たすことがこれに当たります。また電力販売料金に比べてコスト高となる調達手段では収益構造を圧迫するため、必要量を確保しつつ販売料金との間でコストバランスがとれた電力調達手段を確保する必要があります。

そのためには、適切な需要予測と、それにあった電力調達を行うことが重要です。供給確保の方法は事業者それぞれの環境によりますが、自社電源や固定価格の相対契約による供給で足りない部分は、市場調達が前提となります。市場調達部分は価格変動リスクにさらされるため、価格変動でどれだけの経営上の影響が生じるのか、そのリスク量は自社の経営体力に照らして受容可能なのかを常に把握する必要があります。またそれらのリスクにどのように対処するか、リスク対応方針とリスク管理体制を整備することが必要となります。

小売事業者のリスク管理体制の現状

小売事業者において上記のようなリスク量の把握、リスク対応方針とリスク管理体制の整備は、どの程度実施されているでしょうか。

2021年4月に電力・ガス取引監視等委員会がJEPX、TOCOM、EEXに参加する小売事業者を対象にアンケート調査を行ったところ、回答者149社のうちリスクを把握していない事業者が24%、定性的には把握しているが定量的には管理していない事業者が23%となり、およそ半数の事業者が市場リスクを定量的に把握していないという結果が得られました。販売電力量上位50社を母集団とすると、リスクを把握していない事業者が3%、定性的には把握しているが定量的には管理していない事業者が17%と、定量的に事業リスクを把握していない事業者は合計で20%でした。

小売事業者のリスク管理体制のあるべき姿

このような事態も踏まえて、2021年4月の電力・ガス基本政策小委員会において、電気事業者にとって実施が望ましいと考えられる行為や、標準的なリスク評価手法などについて、年内をめどに「リスクマネジメントガイドライン(仮称)」として整理することを目指して検討を進めていくことが決まりました。

市場価格変動リスクに対しては、まずは適切な需給予測にもとづく需給計画を策定し、自社の抱えるリスク量を適切に把握することが出発点となります。それに対して対応方針をあらかじめ整備することは、事業を継続するため、また事業者責任を果たすための重要事項です。リスクへの対応方法は、電力調達手段、販売メニューや販売価格設定の見直し、需要家へのデマンドレスポンス(DR)働きかけなど、多岐にわたり、各社の経営判断によるところが大きいです。市場価格変動リスクをあらかじめ固定化する電力先物取引といったデリバティブ取引によるヘッジの取り組みも有効な手段のひとつです。それらが投機的な行動に走らないように社内の組織や規程類、手続・プロセスの策定、モニタリングデータの作成の仕組みなど体制整備もあわせて必要となります。

小売事業者の リスク管理体制のあるべき姿

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電力需給収支 リスク分析ツール

執筆者

村松 久美子

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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