BEAT(税源浸食濫用防止税)に関する米国財務省規則案の概要

2018-12-17

米国時間2018年12月13日に公表された、BEAT(税源浸食濫用防止税 (Base Erosion and Anti-abuse Tax))に関する米国財務省規則案の概要をお伝えします。

背景

  • 2017年税制改正により、米国法人(あるいは米国内事業を行う米国外法人)が国外関連者に対して一定の支払(税源浸食的支払・Base Erosion Payment)を行っている場合に追加税負担を求める新税として、BEATが導入されました。
  • 税源浸食的支払とは、原則として、国外関連者に対して行われる米国税務上損金算入可能な支払をいいます。なお、米国税務上の売上原価(COGS)となる支払は税源浸食的支払を構成しません。
  • BEAT税額は、(1)修正課税所得(Modified Taxable Income)にBEAT税率(10%あるいは下記の特別税率)を乗じた額が(2)通常税額(一定の税額控除を足し戻した額)を超過する場合の当該超過額となります。
    • 修正課税所得とは、一般に、通常所得額に(1)税源浸食的支払から生じる損金算入額、および、(2)当期NOL使用額に税源浸食割合を乗じた額、の2つを足し戻した額をいいます。
    • 税源浸食割合とは、一般に、税源浸食的支払の損金算入総額に占める割合をいいます。
    • BEAT税率は、2018年1月1日以降開始事業年度は5%、2019年1月1日~2025年12月31日以降開始事業年度は10%、2026年1月1日以降開始事業年度は12.5%です。但し、銀行および証券業者についてはそれぞれ1%高い税率となります。
  • なお、グループベース(下記参照)で(1)過去3年の総収入平均額$500M未満である場合(総収入テスト)、あるいは、(2)税源浸食割合3%未満(銀行・証券業の場合2%未満)である場合(税源浸食割合テスト)には、BEAT適用除外となります。

同規則案により明確化・確認された主要項目

  • 適用除外判定:適用除外にかかる総収入・税源浸食割合の判定は、米国税務上の支配グループ(controlled group)に類似の「aggregate group」ベースで行われます。同グループには、以下の法人が含まれます。
    • 資本関係50%超の米国法人(米国外法人を通じた資本関係(例・日本親会社が直接保有する米国兄弟会社)も含む)
    • 資本関係50%超の米国外法人で、米国内事業所得(ECI)を稼得している、あるいは、米国PEを保有しているもの(但し、総収入テストおよび税源浸食割合テストの判定上は、ECIあるいはPE帰属所得を構成する項目のみが考慮される)
  • 内国歳入法163条(j)との関係:
    • 非関連者と関連者との双方に対して支払利息がある場合、163条(j)による損金不算入額は非関連者に対する支払利息に対して先に配賦されます。他方、163条(j)により認められた損金算入可能額は関連者に対する支払利息に対して先に配賦(国外関連者と国内関連者とでは按分)され、残余の損金算入可能額が非関連者に対する支払利息に対して配賦されます。
    • 旧163条(j)のもとで損金不算入とされた支払利息(disallowed disqualified interest)の繰越額については、2018年以降開始事業年度において損金算入された場合でも税源浸食的支払を構成しません(従前発表されていたNotice 2018-28とは異なる取扱い)。
  • 税源浸食的支払の範囲:
    • 内国歳入法482条(財務省規則1. 482-9)に定めるService Cost Methodの適用要件を満たす支払については、実際にマークアップが行われていたとしても、役務提供にかかる総費用の額は税源浸食的支払から除外されます。
    • ネッティング、代理、導管取引、税務上のCOGSについて特段のガイダンスは含まれず、一般的に適用される連邦所得税の原則(generally applicable federal income tax principles)に従うこととされています。
    • 国外関連者との取引に関する一定の為替差損については税源浸食的支払から除外されます。
    • 適用除外となる適格デリバティブの範囲が明確化されました。
  • 課税繰延取引等との関係:
    • 税源浸食的支払の判定上、取引対価の形式(現金であるか自己株であるか)や課税繰延規定適用の有無は無関係と考えられる結果、米国法人が国外関連者から米国税務上の課税繰延取引で減価償却資産を取得した場合(例・日本親会社が米国子会社に減価償却資産を内国歳入法351条(日本の適格現物出資に類似)に従い現物出資した場合)であっても、税源浸食的支払があったものとして扱われます。
    • 他方で、米国法人が国外関連者から現物分配(内国歳入法301条の適用を受けるもの)により減価償却資産を取得しても、米国法人は対価を支払っていないと考えられるため、税源浸食的支払があったものとして扱われません。
  • 米国支店・米国PEの取扱い:
    • 日本法人の米国子会社が当該日本法人のNY支店に対して支払を行った場合など、支払先の国外関連者が米国でECI課税あるいはPE課税を受けている場合には税源浸食的支払を構成しません。なお、米国CFCに対する支払が米国CFC税制による合算対象となっている場合についての除外規定は設けられていません。
    • 米国外法人の米国支店・米国PE帰属所得の計算上(いわゆるECI方式またはAOA方式を選択することにより、適用方法が異なるものの)、一定の控除項目(例・米国支店から国外関連者に対する支払利子および国外関連者に対して支払ったものとみなされる利子)については、国外関連者への支払として税源浸食的支払を構成します。
  • BEAT税額の計算:
    • 修正課税所得計算の起算点となる通常所得の額は、(1)当期損失の場合は当該マイナス額、(2)当期所得があるがNOL適用によりゼロとなっている場合にはゼロ(マイナスにはならない)となります。
    • 修正課税所得計算において当期NOL使用額を足し戻す場合に適用される税源浸食割合は、当該NOL使用年度ではなく当該NOL発生年度(vintage year)のものを用います。なお、BEAT導入前に発生したNOL(2017年度以前に発生したNOL)について適用される税源浸食割合はゼロとなります。
  • 連結納税グループの取扱い:
    • BEAT税額は納税者単位で計算します。すなわち、米国で連結納税を行っている場合、(1)適用除外判定については上記のaggregate groupベースで行う一方で、(2)BEAT税額計算(修正課税所得の計算等)については連結納税グループベースで行います。
  • パートナーシップの取扱い:
    • パートナーシップはBEATの適用対象とはならない一方で、パートナーシップの売上や支払は、各パートナーレベルでBEATの適用対象判定および税源浸食的支払額計算上考慮されます(aggregate approach)。
    • 他方、法人がパートナーシップ持分を保有する場合、資本・利益・所得・損失に対する持分が10%未満であり、かつ、当該持分のFMVが$25M未満である場合には、上記のaggregate approachの適用が免除されます。
  • 租税回避否認規定:
    • BEAT適用回避を主要な目的(principal purpose)とする取引は、BEAT適用上無視されます。具体的には、以下の取引が含まれます。
      • 税源浸食的支払を回避するための導管(conduit)として中間者(intermediary)を用いた取引
      • 税源浸食割合の分子の額を増加させるために行われた取引
      • 銀行・証券業者に対する特則の適用を回避するために行われた関連者間取引
  • 効力発生日:
    • 同規則案は、2018年1月1日以降開始事業年度からの適用が提案されています。同規則案の最終規則化が行われるまでは、納税者の選択により、また、同規則案を一貫して適用することを前提として、2018年1月1日以降開始事業年度から同規則案を適用することが可能です。

参考