Worldwide Tax Summary 2025年9月号

  • 2025-10-20

PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問
岡田 至康 監修

Worldwide Tax Summary 2025年9月号トピックス

  1. 公開国別報告の開示免除に関するガイダンス案(オーストラリア)
  2. CFC制度および税務上の繰越欠損金に係る規定の改正(イタリア)
  3. 憲法裁判所、EUグローバルミニマム税(UTPR)規定の有効性についてCJEUに訴訟付託(ベルギー)
  4. 欧州委員会が「自主財源」案を公表(EU)
  5. 外国投資家の中国居住企業分配利益の再投資に係る税額控除を規定(中国)

公開国別報告の開示免除に関するガイダンス案

税務当局(ATO)は、新たな公開国別(CBC)報告制度における開示免除に関するガイダンス案(PS LA 2025/D1)を公表した。本開示制度は、2024年7月1日以降に開始する報告期間から適用され、一定の大規模多国籍グループに対し、オーストラリア、特定国、およびその他のグローバル事業に関する一定の税務・財務情報の公開を義務付けるものである(本誌2023年6月号2024年4月号8月号および2025年2月号参照)。本ガイダンス案は、報告義務の全部または一部の免除を認める際の当局の裁量の原則や、免除申請の手続きについて明確化している。
本制度は、特定の大規模多国籍企業に対し、特定の税務・財務情報の公開を義務付けることで、税の透明性を高めることを目的としている。本制度は、グローバルの年間連結総収入金額が10億豪ドル以上、かつオーストラリア源泉総売上が1,000万豪ドル以上のCBC報告グループの事業体に適用される。当該情報は、報告期間終了後12カ月以内にATOに所定の様式(未公表)で提出する必要があり、ATOは政府ウェブサイトで公開することになる。

開示免除の可否

税務当局は、公開CBC報告義務の全部または一部の免除を認める裁量を有している。

  • 全部免除:事業体の単一の報告期間について、全ての公開CBC報告義務が免除される。
  • 一部免除:事業体の単一の報告期間について、必要情報の一部、または特定の国・地域に関する情報の公開が免除される。

なお、税務当局は、規則や立法により、類別に事業体を免除することもできるが、本ガイダンス案では、個別事業体の免除にフォーカスしている。

開示免除の判断に係る主要原則

本ガイダンス案は、公開CBC制度に係る免除申請を審査するATO職員の支援を目的としている。そのため、免除を認めるかどうかを判断する際に考慮されるさまざまな要素が示されている。この裁量は「例外的な状況」においてのみ行使されるものとされ、限定的な状況でのみ認められることが想定されている(制度導入時の解説メモランダム(EM)にもその旨が記載されている)。本ガイダンスに示された原則は、EMに記載された事項を概ね踏襲、拡充したものである。免除が制度の趣旨や政策目的(すなわち、税の透明性を高め、事業体の経済的プレゼンスと税務ポジションの当該国・地域における整合性を公衆が評価できるようにする)を損なわないことが重視されている。特に、プライベートグループに対する除外規定を制度設計時には設けないとしていたこと、また国外事業を有しないオーストラリア本社グループに対する免除も想定されていないことが示されている。免除は「例外的な状況」、すなわち開示が不適切となる異例または重大な状況に限り認められることが想定されている。報告事業体はあらゆる理由で免除を申請できるが、考慮されるべき事項の例として以下が挙げられている。

  • 国家安全保障への影響:オーストラリアの防衛、安全保障、国際関係、法執行関連が考えられる。他国の国家安全保障も考慮される場合がある。防衛、情(諜)報、安全保障、法執行分野に係る事業を行っているだけでは免除の十分な理由にはならないが、例えば秘密の防衛や安全保障等に係る資産や人員の配置が明らかになる情報は公開されないことが想定されよう。
  • オーストラリア法の違反:情報の公開が州法や準州法に抵触する場合、原則として公開CBC制度の開示義務が優先されるが、当該法令による開示禁止の理由は免除判断の際に考慮される。
  • 他国法の違反:外国法がオーストラリアの公開CBC制度の運用を妨げることとなるような設計がなされている場合、免除を認める「例外的な状況」が本当に存在するかどうかが問われよう。他国で同様の制度の免除を受けていても、オーストラリアでの免除が自動的に認められるわけではない。
  • 重大な商業機密情報の開示による深刻な影響:申請者には公開による深刻な影響の理由と証拠を示す責任がある。議会が制度導入時に想定したレベルを超える損害が情報公開によって生じるものでなければならない。例えば、報告事業体/グループが非公開であることや他の公開義務(注1)がないことだけでは十分な理由にならないであろう。損害が仮定的/遠隔的なもののみである場合や、情報の誤解などの可能性に基づく場合には、ATOが免除を認める可能性は低いであろう。

これらの事項が存在しても自動的に免除が認められるわけではなく、またこれらがなくても裁量により免除が認められる可能性もある。本ガイダンス案には、免除申請の審査手続きに係る具体例もいくつか記載されている。情報が他の情報と集約されて実質的に内訳が分からないような場合や、既に公知となっている場合、または公衆が容易に入手できる場合(例えば有料でアクセス可能な場合)、あるいはそのような情報から推測できる場合は、免除が認められる可能性は低いとされている。また、為替変動により親会社の所在国の公開CBC制度の収入基準を下回るが、オーストラリアの基準(年間グローバル収入10億豪ドル)以上となる場合には、免除申請が認められる可能性があるとしている。

免除申請の手続き

免除申請は、該当する報告期間終了前後のいずれでも書面で行うことができるが、1期間につき1回のみ申請が認められる。ATOは、今後、免除申請の具体的な方法や申請書式について追加の説明を行う予定としている(申請前の登録(注2)が推奨されている)。申請には、以下を含める必要がある。

  • 免除理由の詳細な説明/裏付けとなる書類や証拠(契約書、財務諸表など)/免除を求める情報や国・地域の具体的内容

上述のとおり、免除の理由や証拠を明確に示す責任は申請者にある。一般的な主張や日常的なビジネス上の懸念だけでは十分ではないであろう。免除申請は年次で行う必要があり、税務当局は1報告期間ごとにしか免除を認めることができない。状況が変わらない場合、最大2期間まで簡易手続きが認められる可能性があるが、最新の証拠が求められる場合もある。

意見募集プロセス

本ガイダンス案について、意見募集が行われた(2025年9月5日期限)。

(注1)例えば、ATOは、2015年12月より、一定規模以上の豪州事業体に係る税務関連情報を開示している(「Report of entity tax information」(豪州の情報に限定した開示制度))。なお、任意の開示制度としては、「Voluntary Tax Transparency Code(VTTC)(2016年5月公表)もある。公開CBC報告を踏まえたVTTC見直しについて、2025年7月11日まで意見募集が行われた。

(注2)公開CBC報告(XML Schema)のATOへの提出(詳細は2025年後半に公表見込)は最終親会社が行うが、本登録(ATO reference numberの取得)により、代理人を通じた提出が可能になる、開示延期や免除申請に係る手続きがスムーズになるとして、推奨されている(義務ではない)。なお、本登録に係る申請フォームは公表されている。

Source:PwC Australia, Tax alert

CFC制度および税務上の繰越欠損金に係る規定の改正

2025年6月17日付の法令第84号により、以下のとおり、外国子会社合算税制(CFC制度)に係る改正が行われた。

  • QDMTT(適格国内ミニマム課税)は、外国事業体の実効税率の算定において実際に考慮される。本法令では、外国支配事業体に対して適用されるQDMTTの配分基準が改正される。新規定では、外国事業体の所在国・地域で採用されているQDMTTの配分基準が重視される。
  • 外国事業体の調整後利益に対して15%の課税を選択した場合、当該外国事業体から支払われる配当について、調整後利益の範囲内であれば(すでに15%の税率で課税されているため)イタリアで追加課税されないことが明確化された。また、調整後利益を超える部分については、その5%のみが課税対象となる(実効税率1.2%)。

本法令(第84号)ではまた、イタリア事業体が特定の取引(イタリア株式の過半数の譲渡、合併、分割、事業の現物出資など)を行った際に繰越すことができる税務属性(税務上の繰越欠損金、利子費用、NID(みなし利子控除)など)の金額に特定の上限を設ける税務属性制限規定も改正した。特に、繰越しが認められる税務属性の上限は、第三者による一定の評価書が作成されている場合には、その事業体の時価とされる(評価書がない場合は会計上の純資産額が上限となる)。なお、この時価は、(イタリア株式の間接譲渡を含む)一定の取引(extraordinary transaction)の直前24カ月以内に純資本(net equity)の増加があった場合には、その分調整されることになる。

Source:PwC, International Tax News

憲法裁判所、EUグローバルミニマム税(UTPR)規定の有効性についてCJEUに訴訟付託

2025年7月17日、ベルギー憲法裁判所は、2023年12月19日付のベルギー法第35条および第36条の合憲性に関する決定を下した。これらの条項には、ベルギーによるEUのグローバルミニマム税指令の取込みの一環として、軽課税所得ルール(UTPR)が規定されている。この指令に沿って、トップアップ税がQDMTT(適格国内ミニマム課税)またはIIR(所得合算ルール)に基づいて(完全に)課されなかった場合、UTPRがグループのベルギー事業体に課される。当裁判所は憲法上の異議申し立ての本案(実体)について判決を下さず、代わりに本指令に基づくUTPR規定の有効性の問題を欧州連合司法裁判所(CJEU)に付託した。

CJEUがこの事件について決定を下すまでにはまだ数カ月かかるとみられるが、EUグローバルミニマム税指令のUTPR規定がEU基本的自由、EU憲章、法的安定性の原則、または財政領土(fiscal territoriality)の原則と両立しないとCJEUが判断した場合、これはEU加盟国のUTPRに影響を与えることになろう。さらに、これは第2の柱のバックストップとしてのUTPRの位置づけに影響を与え、第2の柱についてグローバルにより広範な影響を与える可能性がある。UTPRがEU全体で無効になる可能性も、グローバルミニマム税に関する政治的議論に影響を与えるとみられ、最近のG7合意に関して進行中の議論にも影響を与える可能性がある。CJEUへの付託は、おそらく12~24カ月間、この問題に関するCJEUからの最終決定が得られないことを意味する。ただし、最初のUTPR申告期限より前に、本事件に係る結果が出る可能性がある。それまでの間、企業はEUのグローバルミニマム税指令を遵守する必要がある。

Source:PwC, Tax Policy Alert

欧州委員会が「自主財源」案を公表

2025年7月16日、欧州委員会は、2028年から2034年までの2兆ユーロの多年次財政枠組み(MFF:Multi-Annual Financial Framework)案を公表した。本案には、既存の自主財源の拡充と、新たな自主財源であるCORE(Corporate Resource for Europe)が含まれる。MFFは、理事会での全会一致を必要とする特別な立法手続きの下で採択される必要がある。
MFFは、約2兆ユーロ(2028年から2034年の間に、EUの平均国民総所得の1.26%)に上る。この枠組みは、欧州に長期的な投資予算を提供することを目的としていると説明されている。計画の一部は、レッタとドラギの報告書で推奨されているように、戦略的技術に投資するために、4,090億ユーロの新しい欧州競争力基金を創設することである。この新しい基金では、防衛、安全保障、宇宙への投資を支援するために1,310億ユーロが割り当てられる。新しい予算に(部分的に)資金を提供するために、欧州委員会は既存の自主財源を拡大し、追加の自主財源であるCOREを創設することを提案している。追加の自主財源には、未回収の電子機器に対する電子廃棄物料金と、製造たばこおよび関連製品の最低物品税率に係るたばこ物品税自主財源(TEDOR)が含まれよう。このパッケージではまた、EU排出量取引システム(ETS)からのオークション収入の割合や、炭素国境調整メカニズム(CBAM)に係る輸入炭素集約型物品のコールレートの更新など、以前の自主財源案も改訂する。また、プラスチック包装廃棄物料金の引上げや、収集コストを賄うために加盟国が保持する特定の通商関税の調整など、現在の自主財源も改訂する。なお、欧州委員会はブロック全体に係るデジタルサービス税(DST)を導入しないことを選択した(注)。最初の検討の後、米国の貿易圧力の激化とカナダの最近のDST廃止の公表を考慮して、大手テクノロジー企業に対する欧州全体の課税を断念するとしている。

Corporate Resource for Europe(CORE)

欧州委員会によると、COREは「4億5千万人超の消費者を抱える世界最大の単一市場で事業を展開する企業部門が、EU予算の資金調達に貢献する」ことの確保を目指している。COREは、EU法人およびEUに恒久的施設を有する第三国の法人(年間純売上高1億ユーロ超)に適用されよう。COREは、法人の純売上高ごとに区分された年間一時金として課されよう。この賦課金による歳入は年間68億ユーロになると予想されており、加盟国の税務当局によって徴収される。中小企業、政府機関、国際機関、非営利団体は、COREの対象範囲から明示的に除外される。法人からの年間拠出額は、以下のとおり決定される。

純売上高範囲

年間拠出額

1億ユーロ超、2億5千万ユーロ未満

10万ユーロ

2億5千万ユーロ以上、5億ユーロ未満

25万ユーロ

5億ユーロ以上、7億5千万ユーロ未満

50万ユーロ

7億5千万ユーロ以上

75万ユーロ

交渉は長く複雑になることが予想される。すでにこの提案を拒否しているドイツなどの純拠出国は、予算を2兆ユーロに引き上げることに反対する可能性が高い。予算と新たな賦課金(課税の法的根拠)の両方に、全ての加盟国の全会一致の承認が必要であり、合意は困難となる。結果は今後数カ月でより明確になるとみられる。

(注)米国とEUとの貿易交渉に係る米国(大統領府)の公表(2025年7月28日)によると、米国とEUは、不当なデジタル貿易障壁に対処する意向であり、EUは「ネットワーク利用料」を導入/維持しないとしている。なお、フランスのDSTについて、合憲性に係る裁判が行われている。

Source:PwC, Tax Policy Alert

外国投資家の中国居住企業分配利益の再投資に係る税額控除を規定

2025年6月27日、財政部(MOF)、国家税務総局(STA)、商務部(MOC)は共同で、外国投資家の分配利益の直接再投資に係る税額控除に関する公告(公告[2025]第2号)を発出し、外国投資家による中国居住企業が分配した利益の再投資に係る追加の税制上の優遇措置を導入した。本公告は、2025年1月1日以降に行われた国内直接投資に適用される。
現行の財税〔2018〕102号によれば、中国の税務居住企業(TRE)から分配された利益を用いて、外国投資家が非禁止プロジェクトに直接再投資する場合、源泉徴収税の繰延措置が暫定的に認められている。この繰延措置を基礎として、2025年6月27日、中国は公告〔2025〕2号を公表し、追加の税額控除を規定することとなった。具体的には、2025年1月1日から2028年12月31日までの間に、外国投資家が中国のTREから分配された利益を用いて適格な国内の「直接投資」プロジェクト(外国投資奨励産業カタログに記載されている国家レベルの外国投資奨励産業)に再投資(中国居住企業に係る一定の増資などや新設、持分取得)を行い(資金は利益分配企業から投資先企業や持分譲渡企業に直接移動の必要)、かつ最低5年間の継続投資保有期間を含む全ての条件を満たした場合、投資額の10%(または租税条約上の優遇配当税率(10%より低い場合))に相当する税額控除を請求することができる。この税額控除は、再投資日以降に当該利益分配企業から得られる配当、利子、ロイヤルティー、その他一定の資本(equity)投資所得について生じる法人税(源泉対象所得に係るもの)に充当することができる(未使用の税額控除は翌年以降に繰越すことが可能)。この税額控除に係る適用要件は、主に源泉徴収税繰延措置の要件と類似しているが、より厳格になっている。TREからの適格利益を再投資する外国投資家は、2つの優遇措置(再投資配当に対する源泉徴収税の繰延と、将来の中国源泉徴収税負担を相殺できる税額控除)を受けることが可能となる。
新政策は、既存の利益再投資繰延制度に税額控除インセンティブを追加するものであり、この組み合わせにより外国投資家の長期的な税負担が軽減されることが期待されている。一方で、当該再投資に係るより厳格な要件が適用されるため、投資家はその申請の際、要件、申請手続き、およびその後のコンプライアンスを厳格に管理する必要がある(5年内に再投資を回収し、回収前に税額控除を利用していた場合、高率のlate payment surchargeが課される)。さらに、この再投資税額控除は、OECD第2の柱の下での中国法人の実効税率に影響を与える可能性があり、留意が必要である。

Source:PwC China, News Flash / PwC, International Tax News

その他、海外税務ニュースを含む当法人発行ニュースにつきましては、https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/tax/tax-news.htmlをご参照ください。

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