Worldwide Tax Summary 2025年8月号

  • 2025-09-22

PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問
岡田 至康 監修

Worldwide Tax Summary 2025年8月号トピックス

  1. 上院財政委員⻑による上院租税パッケージを基にH.R.1が成立(米国)
  2. CAMTコンプライアンスの簡素化、および予定納税に係るペナルティーの救済の延長(米国(2))
  3. 州、法人所得税などおよび研究税額控除の改正動向(米国(3))
  4. 「プラットフォーム連帯税」を提案(ドイツ)

上院財政委員⻑による上院租税パッケージを基にH.R.1が成立

2025年6月16日、上院財政委員会のクレイポ委員長(共和党)は、5月22日に下院で可決されたH.R.1「One Big Beautiful Bill Act」(本誌2025年7月号参照)の税制条項(財政委員会分)に係る上院調整租税パッケージを公表した。本パッケージには、公的医療保険制度(メディケイド(低所得者対象)など)の改正も含まれている(連邦法定債務上限は5兆米ドル引上げ)。本パッケージでは、2017年「減税・雇用法」(TCJA)に係る一定の事業関係税、国際事業関係税、および個人関係税規定が改正され、恒久化される。また、本パッケージには、トランプ大統領の減税案(上院版)および租税パッケージのコストの一部相殺を目的としたさまざまな歳入増措置も含まれている。本パッケージは、当初の下院可決版のH.R.1とは大きく異なる。主な違いとしては、米国の国際課税ルールの改正、インフレ抑制法(IRA)のクリーンエネルギー税額控除の一部廃止に係る代替措置、個人の州税および地方税(SALT)に係る項目別控除の上限見直しなどがある。(注1)

事業関係税および国際事業関係税の主な改正内容は以下のとおりである。

事業関係税の改正

H.R.1は、TCJAに係る主要な事業関係税規定を扱っている。これらには、100%の特別減価償却(Section 168(k))、米国ベースの(US-based)研究投資に係る支出時損金算入(Section 174)、およびEBITDAベースの事業関連利子控除制限(Section 163(j))、それぞれの復活が含まれる。また、適格生産資産(不動産)(QPP)に係る新たなSection 168(n)の特別減価償却規定が含まれている。下院で可決されたH.R.1版では、一般的にこれらの規定の5年間延長が提案されていたが、本パッケージでは、これらの規定は恒久化される。本パッケージには、以下の詳細も含まれている。

  • 100%の特別減価償却費は、2025年1月19日後に取得および事業供用された資産などに適用される。
  • 新Section 174Aに基づく選択により、2024年12月31日後に開始する課税年度に係る米国内での試験研究(R&E)費の支払い/発生額について、即時控除が可能になる。特別規定により、小企業納税者は2021年12月31日後に開始する課税年度に遡及的に規定を適用できる他、選択により、全ての納税者は2024年12月31日後に開始する最初の課税年度から始まる1年/2年間で、2021年12月31日後、2025年1月1日前に資産計上された国内R&E費(未償却分)の加速度償却が可能となる。
  • 事業関連利子の控除に関する新規定では、(1)Section163(j)の利子控除制限は、利子資本化規定(Section 263A(f)およびSection 263(g)に基づく資産計上利子を除く)に先立って適用され、(2)サブパートFおよびGILTI(global intangible low-taxed income)合算(Section 78グロスアップを含む)やSection 956に係る額は、納税者の調整後課税所得から除外される。
  • QPPに係る新たなSection 168(n)の100%特別減価償却規定(選択制)は、(1)2025年1月19日後、2029年1月1日前に納税者が取得、(2)2021年1月1日から2025年5月12日までの期間中、適格な生産活動で使用されていない、(3)納税者または関連者が当該取得前に使用していない、(4)納税者が適格な生産活動の不可欠な部分として使用、(5)米国(領)で使用、および(6)制定日後、原則として2031年1月1日前に事業供用(天災などの場合、長官は最大2年延長可)の各要件を満たす非住宅用不動産に適用される。

以上の他、法人代替ミニマム税(CAMT)に関して、2025年12月31日後に開始する課税年度より、調整後財務諸表所得の計算上、無形掘削および開発費用(intangible drilling and development costs)に係る新たな調整が含まれる。また、IRAクリーンエネルギー税額控除について、本修正案では、下院可決法案と同様に、IRAの広範なクリーンエネルギー税額控除の廃止および他の税額控除の段階的廃止も加速することとなる(なお、下院案と異なり、税額控除に係る一定の譲渡を制度廃止まで認めることや、Section 48D(先進製造投資税額控除)に係る税額控除率の引上げなどもある)。

国際事業関係税の改正

H.R.1には、GILTI、FDII(foreign-derived intangible income)、およびBEAT(base erosion and anti-abuse tax)に関する規定が含まれている。本パッケージでは、2025年12月31日後に開始する課税年度のSection 250控除率をFDIIで33.34%、GILTIで40%に引き下げることとしている(GILTIに係るみなし外国税額控除(FTC)率80%→90%への引上げ反映後、FDIIとGILTIの両方で実効税率が14%になる)。本パッケージでは、GILTIおよびFDIIの両方に係る(純)DTIR(deemed tangible income return)を廃止することとしている。さらに、本パッケージでは、GILTI→NCTI(Net CFC Tested Income)、FDII→FDDEI(Foreign-Derived Deduction Eligible Income)、にそれぞれ名称変更される。本パッケージでは、FTC(外税控除)計算上、GILTI(NCTI)カテゴリーの所得に配分される米国株主に係る控除は、GILTI(NCTI)関連のSection 250控除およびそのような所得に直接配分可能な控除のみに制限される(同様に、FDII(FDDEI)に配分可能な控除は直接配分可能な控除に制限。利子やR&E費用を含むその他の費用は米国源泉所得に配分)。なお、直接配分可能費用については明確に定義されていない。また、BEATについて、2025年7月1日の上院可決版で、BEAT税率は2025年12月31日後から修正課税所得の10.5%に引き上げられ、また下院案と同様に、BEAT計算における研究税額控除およびその他の特定の税額控除の現行法上の取り扱いは恒久的に維持される。なお、本上院調整パッケージにおいて、当初、「不公正な外国税」に係るSection 899(案)が含まれていたが、上院可決版以後最終本法(H.R.1)には含まれていない(注2)

その他の国際事業関係税の改正には、以下が含まれる。

  • FTCに係る棚卸資産の源泉地―FTC上、米国外で販売/交換された米国生産の棚卸資産に係る総課税所得の最大50%を外国の事務所その他事業を行う一定の場所に帰属する外国源泉所得として扱う。
  • Section 954(c)(6)の被支配外国法人(CFC)に係るルックスルールールを恒久的に延長する。
  • 無形資産の移転などに係るFDIIの制限―2025年6月16日後のSection 367(d)規定の無形資産や売手側で償却対象となっている資産の処分による所得をFDIIの適用除外とする。
  • 比例配分ルールの修正 - 外国法人がその課税年度中のいずれかの時点でCFCである場合、CFC年度中にその法人の株式を所有する各米国株主は、その総所得にSubpart F所得の比例配分額を合算する必要がある。同様の修正比例配分規定が、米国株主のGILTI合算にも適用される(詳細は、財務省規則で規定。2025年12月31日後に開始する外国法人の課税年度に適用)。

以上の他、特定外国法人の課税年度判定における1カ月の繰延選択の廃止(2025年11月30日後に開始する特定外国法人の課税年度に適用)、みなし所有規定(constructive ownership rules)に係る旧Section 958(b)(4)(downward attribution制限)の復活およびSection 951B(一定の場合のdownward attributionの容認)の新設(2025年12月31日後に開始する外国法人の課税年度に適用)、その他の明確化などがある。

(注1)本上院調整租税パッケージは2025年7月1日に上院で若干修正の上可決、7月3日にはこの上院可決版が下院で修正なく可決され、7月4日にトランプ大統領の署名を経て、成立した(Public Law No:119-21)。

(注2)2025年6月28日公表の「グローバル・ミニマム課税に関するG7声明」では、既存の米国ミニマム課税ルールと、所得合算ルール(IIR)および軽課税所得ルール(UTPR)との「共存」による解決策や、Section 899(案)の削除について言及がある(同日、OECDも本G7声明を歓迎するコメントを公表している(本G7合意について、IF(包摂的枠組み)への拘束力はない点に留意))。なお、本件に係るスミス下院歳入委員長とクレイポ上院財政委員長の共同声明(2025年6月26日)では、Section 899(案)を法案から削除することに言及している一方、「他国(other parties)がこの合意から離脱したり、その実施を遅らせたりした場合、共和党議員団は直ちに行動を起こす用意がある」としている。本G7声明では、共存システムについて、米国親会社グループはその国内・国外所得ともにUTPRおよびIIRから完全に免除、公平な競争環境の観点から特定される重要なリスクあるいはBEPSリスク対処へのコミットメント、第2の柱全般に係る執行・コンプライアンス枠組に係る大幅な簡素化とともにその作業を実施、などの諸原則に基づくことを確認している。さらには、共存システムによって、デジタル経済課税に関する建設的な対話および各国の課税主権の保持など、国際課税制度の安定化のためのプロセスのさらなる進展が促進される、としている。

Source:PwC, Tax Insights

CAMTコンプライアンスの簡素化、および予定納税に係るペナルティーの救済の延長

2025年6月2日、IRS(内国歳入庁)は、法人代替ミニマム税(CAMT)の適用に関する重要な暫定ガイダンス(Notice2025-27)を公表した(第2期予定納税期限(6月15日)の前)。本Noticeは、(1)CAMT適用対象法人の判定に係る新たな簡素化された方法(選択制)を導入(新しい金額閾値を適用の場合、Form 4626は不要)、(2)新たな簡素化された方法に基づく調整後財務諸表所得(AFSI)の計算を改正、(3)予定納税に係る連邦所得税のペナルティー救済を延長する。上述(1)について、2024年9月12日公表の財務省規則案(本誌2024年11月号参照)などでは、当期を含む3課税年度の調整後平均AFSIが10億米ドル(本則)ではなく、5億米ドル以下であればCAMTの適用対象法人とならないとされているところ、本Noticeでは8億米ドルが閾値となる。また、FPMG(外資系多国籍グループ)に係る追加の閾値についても、当該規則案では、国内メンバーの年間平均AFSIが1億米ドル(本則)ではなく、5千万米ドル未満であれば、適用対象法人にならないとしているところ、本Noticeでは8千万米ドルが閾値となる。本Noticeでは、AFSI調整の範囲を拡大し、適格税額控除移転(Section 6418など)についてAFSIに影響させないなどの取り扱いとなる。これらは、最終規則が公表される日以前に終了する課税年度に有効であり、2025年6月23日(Internal Revenue Bulletin公表日)時点で連邦所得税の当初申告書が提出されていないものに適用される。本Noticeではまた、2024年12月31日後、2026年1月1日前に開始する課税年度に係る予定納税のペナルティー救済を延長実施する(予定申告の際、Form 2220は必要)。なお、CAMTについては、本Noticeにかかわらず、H.R.1「One Big Beautiful Bill Act」におけるSection 174およびSection 163(j)の復活の影響について、引き続き留意が必要となろう。

Source:PwC, Tax Insights

州、法人所得税などおよび研究税額控除の改正動向

イリノイ州―2025年6月16日、プリツカー知事(民主党)は、予算関連税法(H.B. 2755)に署名した。所得税関連では、GILTI(IRC Section 951A)に係るみなし「配当控除(DRD:Dividends Received Deduction)」が、100%→50%になる(2025年12月31日以後に終了する課税年度から適用)。この他、ユニタリー事業グループの州間所得配賦率(売上比率)に係るFinnigan apportionmentの採用、関連者費用(利子など)に係る加算規定の改正、およびパススルー事業体持分の売却による非営業所得の配分に関するルールが含まれている。間接税の大幅な改正に加えて、この法では、一般税、リモート小売業者税、フランチャイズ税とライセンスフィー、それぞれの法効力一時停止(amnesty)という個別の税amnestyプログラムも策定している。

ニュージャージー州―州税務局は、包括的なCBT(Corporation Business Tax)最終規則を採択した(2025年6月16日発効)。市場ベースのソーシング、ネクサスについてのP.L.86-272ガイドラインに係るルールの改正・採用(例えば、金融商品や金融サービスなどは、P.L.86-272で保護されないこととなる)なども含まれている。

ワシントン州―2025年5月20日、ファーガソン州知事(民主党)は、B&O税(Business and Occupation Tax)の税率引上げに係る複数の税法案に署名した。Advanced Computing Surchargeは1.22%から7.5%に引き上げ、Financial Institution Surchargeは1.2%から1.5%に引き上げとなる他、同州での課税収入2億5千万米ドル超の事業者に対して0.5%のSurchargeが適用される。また、この法では、特定の決済処理業者に対する特別なB&O追加税率、投資所得控除の明確化、特定のサービスに対する小売B&O税と小売売上税の賦課などの改正がある。

研究税額控除に係る改正動向は次のとおりである。

ミネソタ州―2025年6月14日、R&D税額控除を改正し、還付可能とする法(H.F.9)が成立した。2025年1月1日以後に開始する課税年度に適用される。H.F.9では、納税者は、税債務がゼロになった後、超過税額控除額の一部還付を選択できる。納税者はまず、自ら税額控除を利用できない範囲で、当該超過額をグループの他のメンバーに割り当てる必要がある。超過分に係る還付可能率は以下のとおりである。

  • 2024年12月31日後、2026年1月1日前に開始する課税年度・・・19.2%
  • 2025年12月31日後、2028年1月1日前に開始する課税年度・・・25%

2027年12月31日後に開始する課税年度およびその後の各年については、還付可能率は25%または直近の11月の予測に基づいて直後の課税年度について当局(commissioner)が決定した還付可能率のいずれか小さい率になる(還付金の合計額が約2,500万米ドル以下になるように、還付可能率を調整)。超過分が還付されない場合、その後の15課税年度に繰り越される。還付の選択は、当該課税年度については撤回ができず、当初申告(期限内)のみでの対応(修正申告書での対応は不可)となる。

テキサス州―2025年6月17日、アボット知事(共和党)は、州法(S.B.2206)に署名した(2026年1月1日以後に当初期限が到来するフランチャイズ税の申告書(report)から適用され、適用期限はない)。本法では、(1)R&D税額控除率を5%から8.722%に引上げ、(2)適格研究費(QRE)の定義を連邦Form 6765(増加研究活動に係る税額控除)の48行目にリンクさせ、(3)税額控除をForm 6765が提出された年度に係る連邦法にリンクさせ、(4)20年間の繰越を維持、(5)特定の限定的状況下での税額控除還付を規定。また本法では、QREを巡る税務紛争、IRS(内国歳入庁)の手続きと税務調査の取扱い、証拠の基準、および統計的サンプリングに対処する。納税者は現在、R&Dフランチャイズ税額控除または売上税・使用税免除のいずれかを求める選択肢があるが、いずれも2026年末に期限切れの予定であった。

以上の他、コネチカット州では、2025年6月3日、H.B.7287が州議会で可決され、(1)R&Dおよび試験研究(R&E)費用税額控除は単一メンバーLLCに拡大適用され、(2)適格小規模バイオテクノロジー企業に係る現金還付が拡大する(2025年1月1日以後に開始する所得年度に適用)。アイオワ州では、2025年6月6日にS.F.657が制定され、州の研究活動税額控除は廃止となり、QREの連邦定義を復活させる新たなR&D税額控除プログラムに置き換えられる(2026年1月1日以後に開始する課税年度から適用)。オクラホマ州では、2025年5月29日、同州研究開発リベート基金およびプログラムを創設する法(S.B.324)が制定され、適格施設に係るQREに対して5%のリベート払い戻しを受けられるようになった。

Source:PwC, Tax Insights

「プラットフォーム連帯税」を提案

新任のヴァイマー文化大臣は、同省が、国内で運営されている大規模な米国のオンラインプラットフォームの売上収益に10%の税金“プラットフォーム連帯税(platform solidarity tax)”を導入する法案を準備している旨を公表した(2025年5月29日)。“自発的拠出金”のような代替解決策を模索するため、プラットフォーム運営者との話し合いを求めているとしている。本提案はオーストリアのDST(デジタルサービス(広告)税)(注)モデルに基づく可能性があるとしているが、平衡税(equalisation levy)により近いとみられる。本提案は、ドイツの与党連合が今年初めに行った、メディアコンテンツを使用するオンラインプラットフォームへの課税の導入を検討するというコミットメントに沿ったものである。

(注)オーストリアのデジタル広告税について、必ずしも顧客への転嫁ができているわけではないとされる。

Source:PwC, Knowledge Navigator

その他、海外税務ニュースを含む当法人発行ニュースにつきましては、https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/tax/tax-news.htmlをご参照ください。

本ニュースは、各国の税制改正の動向をお知らせする目的で、各国のPwCが作成する速報ニュースや各国省庁等のホームページ掲載の情報等を翻訳してお伝えしています。税制改正案の段階の情報が多いため、最終的な法制度につきましては、専門家にご確認くださるようお願いいたします。

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