【2022年】PwCの眼(7)持続可能なモビリティの時代にむけた内外製方針と事業・業界再編

2023-02-06

2016年に欧州で生まれたCASE(Connected:コネクテッド、Autonomous:自動運転、Shared & Service:シェアリング・サービス、Electric:電動化の頭文字)という言葉は今や自動車産業の技術革新やそれによる産業構造変化の代名詞となっている。以来、欧米中各国の国家目標や戦略などにより足元ではますます加速度的かつ同時複合的に進展しているが、自動車産業では今後どのような事業や業界の再編が起こり、わが国としてどのように競争力のある立ち位置を確保するべきかを考察する。

産業界の大きな動きとして、CASEにより事業者の開発裾野が大きく拡大、シフトしており、従来日本の競争力の源泉であった完成車メーカーを頂点にしたピラミッド型のヒエラルキーは崩れつつある。時には完成車や部品メーカー、異業種企業がアライアンスを組み、時にはこれらが三つ巴になるというコーペティション(協調と競争)の新時代に突入したと言える。

こうした中、共存共栄モデルが成立しなくなってきており、各事業者はこれまで以上に自力での包括的な取り組みが必要とされていくだろう。具体的には、成長が見込めない事業の整理、成長に繋がる既存事業の強化、成長分野での事業の確立、を進める事が望まれる。

まず電気自動車(EV)化やシェアリングに伴う販売台数減の影響で長期的成長が見込めない内燃機関部品などの近い将来需給バランスが大崩れする事業を売り手が切り出し、少数特定の買い手が集約して残存者利益確保を狙う流れが想定される。多くが巨大産業ゆえ慣性力の大きさが存在し、供給・販売・雇用の責任という社会的アジェンダを内包している事から各社逡巡している状態だ。わが国が従来競争力を発揮してきた領域が多いが、全方位の対応にはリソースの制約があり、売り手と買い手どちらの戦略を採るのか早期の見極めが求められる。

次に、中長期成長に繋がる他社との提携による既存事業の強化機会も今後増えてくるだろう。例えば、EV化により日本や中国等でファブレスメーカーが出現しており、完成車メーカーがこれら事業者と提携する事は相互の強みを極大化していく効果が期待できる。

最後に、CASEに係る新たなエコシステム、新規技術、ノウハウの獲得により中長期的な大成長が期待できる分野での事業の確立を企図する流れだ。例えば、環境負荷低減に向け規制強化が進む欧州が震源地となり、車載電池のサプライチェーンまわりでコーペティションのさらなる活発化が想定される。欧州では2022年にバッテリー規則案が政治合意され2024年から電池の製造ライフサイクル全体でのCO2総排出量の申告が義務化され、米中も追随する見通しだ。これに伴い欧米完成車メーカーは中国を含めた国内外の電池開発製造企業、再生可能エネルギ―事業者、関連業界コンソーシアムなどと提携し、自国への誘致も強力に進める事でEVでの主導権を狙っている。一方、日本はEV化が遅れており、車載電池サプライチェーンの脱炭素化も構築途上である為、早急なる体制整備が重要な経営課題だ。

以上のように、CASEによる大きな地殻変動でプロフィットプールが移動しているが、日本の各事業者においてはこの変化を事業機会と捉え、生き残りをかけて世界の潮流を上回るスピードで戦略的に取り組んでいくことが期待される。

執筆者

小池 未千孝

ディレクター, PwCアドバイザリー合同会社

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※本稿は、日刊自動車新聞2023年1月30日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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