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2022-06-29
近年、気候変動問題への関心の高まりからESG投資が増加しており、自動車業界においても気候変動問題に対応した経営方針や取組みの状況を開示する企業が増加している。本稿では、気候変動に関する情報開示の制度や開示基準の動向、自動車産業における企業が直面する課題を考察していきたい。
日本を含む世界のいくつかの国や法域では気候変動にかかわる企業情報の開示を要求する法令の整備が急ピッチで進められている。一方で、開示する情報を作成する際のルール(以下、「開示基準」)が、複数存在していることが、企業および情報利用者における大きな問題となっており、開示基準の世界的な統一に向けた取り組みが進められている。
現在、開示基準統一の一つの軸になっているのは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2022年3月に公表した2つの公開草案である。このうち、S2号「気候関連開示」では気候変動に関する4つの項目「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」および「指標と目標」の開示が求められている。また、気候変動問題が企業の財務に与える影響や気候変動問題に対する企業の適応力(気候レジリエンス)の説明、温室効果ガス(GHG)排出量はスコープ1、2、3を全て開示することが求められている。
これらサステナビリティに関する開示基準への対応のために企業が新たに収集しなければならない情報は非常に多い。中でもGHG排出量は投資家が企業価値を算定する上で重要な情報になるだけでなく、社内の業績評価指標(KPI)への採用や、数年後にはGHG排出量を基準とした取引や税制等(カーボンプライシング)の基礎情報となることが予想され、正確で信頼できるものであることが利害関係者から強く求められるようになるだろう。そのためには開示情報に対する第三者保証だけでなく、企業における情報の生成プロセスの確立や内部統制の構築が必要となってくる。
数万点の部品から構成される自動車は長いサプライチェーンを持つ。そのような自動車産業に属する企業にとって、GHG排出量のスコープ3のカテゴリー1(購入した物品と役務)の正確な算定と開示は重要な課題となるだろう。自動車産業のサプライチェーンは多くの中小企業から構成されており、中小企業にとってGHG排出量の精緻な計算プロセスの構築は困難である上に、複数の出荷先を持つサプライヤーは個々の出荷先から異なるフォーマットでGHG排出量の基礎データの提出を求められることも想定される。
ここで、系列を越えた自動車製造のサプライチェーン全体で、完成車メーカーおよびサプライヤーが共同で利用できるGHG排出量の基礎データのプラットフォームを整備することが1つの対応策として考えられるだろう。今後、自動車産業においては、企業の垣根を、また系列の垣根を越えた協力関係の構築が一層重要となる。
川曲 弘城
パートナー, PwC Japan有限責任監査法人
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