【2021年】PwCの眼(5)欧州の国境炭素調整措置の導入が世界の炭素税制に与える影響

2021-09-13

2021年7月14日、欧州委員会は温室効果ガスの削減目標を達成するための政策パッケージである「フィット・フォー55」を発表した。その内容は、欧州排出量取引制度(EU-ETS)の変更、エネルギー税制指令の変更などを含む多岐にわたるものであり、なかでも注目される政策の一つが国境炭素調整措置(CBAM)だ。

CBAM導入の背景については、今後EU-ETSで排出量の無償割当削減を行うため、カーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)の防止措置として説明されている。すなわち、これまで無償割当により実質的に炭素排出に価格が付けられていなかった部分にも今後は炭素価格が付けられる一方、カーボンリーケージを防ぐために、炭素価格のEU域内外の格差を是正する措置だと言える。CBAMでは、EU-ETSの排出量価格とのバランスを考慮し、企業は所管当局からCBAM証書を購入し消却することで納税するものとされ、CBAM証書の価格はEU-ETSの排出量価格と連動するように設計されている。

CBAMの課税対象は鉄鋼やアルミニウムなどの原材料が中心となっており、完成車や部品は対象に含まれていない。欧州委員会が公表したインパクトアセスメントでは、日本から直接欧州に輸出しているCBAMの課税対象物品の数量は他国に比べて限定的であるが、日本企業が欧州域内の完成車または部品の製造工場で鋼材などの原材料を欧州域外から調達する場合は、その影響を受ける可能性がある。また、脱炭素の動きが加速する中で、EU-ETSと同様に課税対象範囲が広がる可能性は否定できず、その点も注意が必要だ。

さらに、今回のCBAM導入によって、炭素税制が新たなステージに入ったともいえる。それは、今までは自国または自地域における化石燃料等の使用を伴う炭素排出活動に課税していた制度が、国または地域をまたぐ物品、すなわち他国で行われる炭素排出活動にまで対象範囲を拡大した課税制度になったことである。将来、EUの他、例えば米国といった主要国で同様の制度が導入されれば、輸出型経済を中心とした新興国の企業は、自国で炭素税制が導入されていなくとも、コスト負担の増加などその競争力に影響を受けることになる。

一般に、CBAMは世界で一律に炭素税制を導入していれば不要な制度ともいわれている。今回の制度案では、原産地国で炭素税が課されている場合、一定の手続きを経たうえでその税額をCBAMの税額から控除することが認められており、二重課税は排除されている。従って、CBAMの課税対象物品が広がり、税収の規模が拡大すれば、輸出型経済を中心とした国では炭素税制導入のインセンティブが強くなると考えられる。すなわち、CBAMは、脱炭素社会の実現に向けたカーボンプライシング政策の広がりを後押しする効果も持っているといえる。

今回、自動車関連製品はCBAMの課税対象になっていないものの、CBAM導入によるカーボンプライシングの広がりは、直接・間接的に自動車産業における炭素コストを押し上げることは間違いない。

執筆者

白土 晴久

白土 晴久

PwC税理士法人 パートナー、公認会計士、税理士。オランダ駐在経験を経て現在。PwC JapanグループのESG Taxチームにて炭素税制を担当。

※本稿は、日刊自動車新聞2021年8月23日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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