【2021年】PwCの眼(1)自動車産業の構造変化の障壁と「チェンジドライバー」

2021-04-19

昨年度の連載では、自動車・モビリティ産業における新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえた変化を分析し、今後の方向性を議論してきた。本稿では直近1年の変化を振り返り、今後の変革を推進する上で自動車・モビリティ産業が直面する障壁を整理する。その上で、本年度は障壁を乗り越えるための「チェンジドライバー」に着目して連載したい。

自動車・モビリティ産業を取り巻く環境変化は、コロナ禍の新車販売・移動需要減少下において目まぐるしいものであった。CASEのトレンドのうち電動化への期待は、欧州・中国を中心に景気回復との抱き合わせ施策や次世代の燃費規制に関する議論も相まって高まっている。今後は「エレクトリファイド」の枠を超え「エンバイロメントエコシステム」の視点で議論が必要であろう。一方、シェアリングや自動運転への期待領域は、移動需要減少により人流を対象としたものから、より需要・収益が見込める物流さらには都市設計などに変化しつつある。今後は「シェアード」だけでなく、社会の効率化・空間の利用価値最大化に貢献する「スマート モビリティ」と再定義すべきであろう。合わせて、次なる感染症の拡大に備えるオペレーション・サプライチェーンのレジリエンス(回復力・復元力)や、SDGsで期待される環境・人権問題の見える化に向けたトレーサビリティを高める上で、デジタル活用も不可欠である。

上記のような期待に応える上で自動車・モビリティ産業は、消費者・投資家からの高い要求水準に応じながら、企業間・産業間の共創・協業を進めることが求められている。PwC Japanグループが2020年に国内消費者を対象として実施した調査によると、最も進んでいるコネクティビティーに対しても日本国内で有償サービスへの支払意欲を持つ消費者は2割にとどまるなど、価格転嫁は難しい。そのような中、主要投資機関の国連責任投資原則への署名をきっかけに、投資家からのESG投資/SDGs対応への期待は高まっている。期待に沿えない場合、相対的に投資余力のある自動車産業は格好のスケープゴートとなりうる。特に日系完成車メーカー・部品メーカーは企業・産業の垣根を超えた取り組みの推進を苦手としてきたが、生き残りをかけて克服せざるを得ない局面にある。

企業間・産業間の共創・協業を進める上では、トップダウンでの産業アーキテクティングに加え、チェンジドライバーとなるルール、技術、アセットなどに関するボトムアップでの取り組みも不可欠である。例えば、「エンバイロメント エコシステム」を形成する上では全体像の構想だけでなく、「環境志向の投資配分を促す税制のグリーン化」「トレーサビリティを担保するブロックチェーン」「クリーンエネルギー活用に伴う電力・水素ミックス社会形成と充電・水素インフラ整備」など、多数の個別領域でのブレークスルーが全体を進展させることが期待される。企業には、新領域におけるネットワーク形成、共創・協業推進、必要に応じた出資・投資を推進する体制・プロセスの整備も一層求められるだろう。

本年度は各稿で自動車・モビリティ産業におけるチェンジドライバーを取り上げ、どのような変化を押し進めることが期待されているか、推進上の課題は何かを整理するだけでなく、モビリティ革命が実行・事業化フェーズに入る中で、成功につながる取り組みの進め方をより具体的に提示したい。

執筆者

北川 友彦

阿部 健太郎

ディレクター
PwC Strategy&

※本稿は、日刊自動車新聞2021年4月19日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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