
Worldwide Tax Summary 2025年4月号
本稿では、海外税制(米国、EU、ベトナム、国連)の動向を解説しています。(月刊国際税務 2025年4月号 寄稿)
2022-12-01
本連載(3回連載)は『顧客体験を変えるデジタルマーケティング』をテーマとしており、今回は最終回として「3: 医師の想いにどう答えるか」をテーマに筆者の考えを書かせていただく。
筆者らは2022年7月より「医師のWell-Beingとは」をテーマにデザイン思考を用いて、様々な検討を行ってきた。デザイン思考の特徴は行動観察や共感を重視し、相手の立場に立ち(他人の靴を履いてみて)起こっていることをあるがままに受け入れることであり、コンサルタントが日常で用いる分析的思考とは、ある種、真逆なものである。この思考法を取ることには不慣れであり思い切りが必要だったが、製薬メーカーの方々と議論する前に我々自身が「医師のWell-Being」を今一度考えてみるべき、また、現状を打破するためにも今までとは異なる取り組みをすべきと考え、その専門家とともにチャレンジした。
参考までに、実際に行ったことは以下のとおりである。
上記で話し合われた内容の一部を紹介したい。以下は、がん専門医セグメントのケースとなる。
ある医師は、もう20年以上もオペ直後の夜は施設に泊まっている(部長室のソファーに寝る)。理由は術後の急変に対応するためで、年に1、2回は「泊まっていて良かった(自宅に帰っていたら間に合わなかった)」と思うことがあるそうだ。また別の医師は、術後その日のうちにオペの映像を見返し、そして正月には前年の全てのオペの映像を振り返り反省するそうだ。正月に前年の進歩が遅いと思ったら医師は辞めると言っていた。他に医師になって以来ずっと、食事は朝と夕方だけ、そうしないと全外来患者の診察をこなせないし、満腹になり生産性が落ちることも避けたいという医師、移動中は英語の勉強や論文の査読などに使うため無駄な時間は殆どないという医師もいた。患者さんは「治療」に来るので治さなければならないし、先端施設にいる以上、日本の医療レベルを上げることにも全力を尽くす必要があるという声も聞かれた。患者さんに感謝される「有難い職業」(ベストを尽くさないわけにいかない)という意見も多かった。そして、良い治療を行うべく必要な情報を収集するために時間があればMRにも会っているなど(ただ、既述のとおり時間を取るのは難しそうである)、情報収集への意欲は強い。
生活に目を移すと、筆者にとっては多少意外な感があったのだが、多くの人が現状に満足していた。幼少期より成績優秀で医学部に入り、これまでどおりにそのままハードワークを続け現在に至った、自然の流れで今があり、そして、現状に満足しており今後もここでベストを尽くすという医師が多かった(当然、そうではないセグメントもあった)。また、家族と過ごす時間をかけがえのないものとして大事にされ、喜びを感じていた。仕事について話すときの充実した表情、家族について語るときの穏やかな表情など、幸せそうに見えた方が何名もいらした。ご本人たちにとって、ワークライフバランスが望ましいものになっているのかもしれない。
なお、筆者は「没入体験」として過去1年の自分の仕事を振り返った。8月2日の20:00から22:00と翌日の4:00から7:00と合計5時間、実際にクライアントに提出した各種資料等を振り返りながら行ったが、とても重い時間だった。成長が感じられた一方でもっと良い仕事ができたはずと思うことも多く、いずれにしても複雑な気持ちだった。ただ、同時に「やるしかないな(努力を重ねるしかない)」と決意した機会でもあった。
既述のケースから医師を「ひとりの人間」と見た上での医師への向き合い方を考えてみたい。例えば、以下のような要素がWell-Beingを構成していると言えないだろうか。
まず、①「ノブレスオブリージュ」について。これはフランスで生まれた言葉だが「地位等の高い者はそれに応じた社会的責務を負う」という意味で、多くの医師が「医師という役割を担った限りはできる限りの努力をすべきだ」と思っていた。それがハードワークにつながっているように考える。②「ルーティン化」は、幼少期から数えきれないテストでトップクラスの成績をおさめ続け、そのためのプロセスと努力を繰り返しこなしてきており、それが得意な医師が多いからだと言えるだろう。また、別のキャリアを目指すことが少ないことに鑑みると無意識に安定を望むところもあるように思う。同時に、①とも関係するが圧倒的な情報量・仕事量をこなす中、ある種のルーティン化をとおしての効率化も望んでいるのではないだろうか。最後に③「人との交流」について。患者さんから感謝されることの喜び、家族と過ごす時間から得る安らぎ、一緒に働く仲間、チームワークから得ている充実感等が強く感じられた。
なお、冒頭に記したが、これらはデザイン思考から得られたものであり、デザイン思考の特徴の一つは共感である。①、②、③はいずれも、自分の場合に置き換え共感することができるものだった。是非、読者の皆さんも共感しながら「医師のWell-Being」を考えてみていただきたい。
それでは、上記のようなWell-Beingの構成要素があったとして、それらにどのように向き合うことになるだろうか。本連載のテーマである「顧客体験を変えるデジタルマーケティング」、つまり、これらの要素をどのようにデジタルマーケティング戦略に反映させていくべきかを考えたい。ここでは、効率的な情報収集に貢献することをテーマとして取り上げる。以下はあくまでラフなアイディアだが、検討のイメージだけでも掴んでいただければ幸いである。
<効率的な情報取得に貢献するためのアイディア(例)>
多忙な医師が効率的に情報収集するのに役立つには、どれくらい端的にコンテンツ内容をまとめるかが重要となる。視聴者がディープダイブしたい箇所は自らそうしてもらえば良いので、まずは簡潔にコンテンツをまとめることが望まれる。また、フォーマットの共通化も有力なアイディアである。大手口コミサイトもそれが広く浸透した背景に「フォーマットの共通化」があったと言われている。フォーマットが共通な方が情報取集の効率は明らかに高くなる。
どこにどれくらいの時間をかけるかを視聴者自身が選択できるようにすることも望ましいと考える。例えば、筆者であれば、書籍は目次を見ながら購入するか否かを決める。同じようなことを実現できないだろうか。昨今、AI等の解析により提示コンテンツを各人に最適化するといったことを目指す向きも多いが、それはそれで好みにあったもの(少なくとも不快感・唐突感を生じさせないもの)が提示されるのは有難いものの、現実的なその予測精度・コンテンツ整備状況等に鑑みると、ユーザーとしては「ある程度の選択肢」を与えられる方が喜ばしいという考えも成り立つ(ただし、選択肢が多過ぎると逆に不快感を生む「選択のパラドックス」は避ける必要がある)。「あなたにはこれがオススメと考えています」というより、「これらの中から好みにあうものがあればご覧になりませんか」という方が顧客起点に近い発想かもしれない。なお、参考事例としては、金融等での「チャネルを選ぶのは顧客。どのチャネルから入ってもスムーズに同じクオリティの情報にたどり着けるようにUI/UXを設計する」(サービスアーキテクトという考え方)といった事例がある。
最後に、顧客からの評価の取り込みについても触れたい。これはストレートに各コンテンツに対して満足度の評価を得ることを意味する。筆者の経験から長期収載品のeディテールで自由度を持ってコンテンツを設計・配信したケースを紹介したい。顧客から徹底的にフィードバックをもらい、それをコンテンツに反映させることを繰り返した結果、コンテンツへの満足度が継続的に上がっていき、またビジネス的にも成功をおさめたという事例がある。また、10年ほど前に大手口コミサイトを立ち上げた方に話を聞いた際、成功の秘訣は徹底して顧客に迎合することと言っていた(迎合という表現を使っていた)。彼が行ったことはできるだけ多くのレビューワーと話をし、どうすればレビューが書きやすくなるかを聞き、それらを徹底して聞き入れる(迎合する)というものだった。その結果、レビューの質があがり量も増え、サイトの質があがる、そして利用者が増えるという好循環が生まれたのだ。なお、顧客の反応の定量的な分析とそのデジタルマーケティングへの反映方法については前号(第2回:デジタルマーケティングの設計のポイント」)を参照されたい。
上記はあくまで筆者のアイディアであり、是非、読者の皆様にも、それぞれの顧客に対して、相手の立場から色んな想像をしながら「わいわい、がやがや」楽しく企画を練っていただきたいと思う。繰り返しになるが、ここでは「共感」が重要であり、相手になり切り、相手の「気持ち」を感じながら(正確には想像しながら)、取り組んでいただきたい。
ここまで3回の連載をとおして「顧客体験とはどのようなものか」「顧客体験の向上に取り組んでいる事例にはどのようなものがあるか(成功事例・失敗事例含む)」「顧客体験の向上をどのようにデジタルマーケティングをとおして実現するか」等を論じてきたが、残る論点もしくは疑問点のひとつとして、多くの方が「顧客体験の向上がどの程度のビジネスインパクトを生むのか」を知りたいというかもしれない。当然、その答えはケースバイケースであり、ビジネスやサービスモデルやその顧客体験自体の影響を受けるため一律の回答は見付け難いが、以下の分析結果は参考になるのではないだろうか(図1:「顧客体験向上がもたらすインパクト」参照)。
まず左のチャートを見ていただくと、顧客との間で「それなりの関係が構築されているケース」と「確固たる関係が構築されているケース」で自社ブランドが選択される可能性に2倍の差があることが分かる。また、右のチャートからは既存顧客を手放さないことのインパクトの大きさが分かるだろう。つまり、中長期に顧客との間で確固たる関係性を構築できていることは短期の業績にも大きな影響を及ぼすと言えそうである。
ただ、ここで次のことを再確認したいと思う。そもそも自社が何のためにあるのかといった存在意義に基づく経営(パーパスドリブン経営)、またサステナビリティの文脈から顧客との関係性を中長期で考え、中長期的な関係性を前提とした上で高い評価を得ることを目指しているとすれば、その関係性構築自体が「意思」であり「目標」なのではないだろうか。つまり、中長期の目線で顧客から高い評価を得て確固たる関係性を構築するための「顧客体験の向上戦略」や「顧客体験改善に向けた施策」等自体がゴールであり、かつ、それを実現するプランを構築する必要性があるということだ。
ここでもうひとつ、読者の皆さんに問いかけたい思う。中長期での顧客との確固たる関係性の構築、真の顧客体験の向上に向けた策として、現在のキーメッセージを伝えることを主目的としたディテールは存続するのだろうか。高度な専門知識を持ったメンバーがHCPのニーズに応える方が理に適うのではないだろうか。デジタルマーケティングはどうなるだろうか。現在のような「広告をクリックする」ような形のものではなくなるのではないだろうか。こういった新しい取り組みをリードしていける組織は用意されているだろうか。
いくつも検討しチャレンジしていくべきテーマがあるが(図2:「顧客体験向上を目指す先にある主要論点(仮説)」参照)、それでも、筆者の身の回りでは「より良い顧客体験を提供しよう」と謳うだけ、各人が持ち場でそれを意識するよう言われるだけというケースが散見されるのが現状である(もちろん筆者の支援する企業で顧客体験の具体化に取り組んでいる先進事例と言えるケースもある)。医療関係者に対しての顧客体験がより良いものになることは医療サービスの質の向上につながるはずだ。微力ながら、本連載が顧客体験の向上への取り組みを再考していただくきっかけとなれば幸いである。
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パートナー, PwCコンサルティング合同会社
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