共に、信頼される情報バリューチェーンの構築を

※本稿は、旬刊経理情報2024年9月20日号(No.1721)談・論に寄稿した記事を転載したものです。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。

企業は今、さまざまなステークホルダーから広範な情報開示を求められている。同時に、その情報は信頼できるものでなくてはならないという前提が、強く求められている。開示するサステナビリティ情報の保証に関する具体的な議論が始まっているほか、財務情報に関しても、IFRSでは企業が任意で開示していた「経営者が定義する業績指標(MPM)」についての説明が求められるようになり、監査の対象とする検討が始まっている。

財務情報は、営業担当者などによるシステムへのインプットから始まり、経理担当者・役員などにより集約されていく。監査は、企業の担当者により積み重ねられた情報バリューチェーンを監査人が上流まで遡り、信頼性を確認する作業である。サステナビリティ情報の開示が始まり、バリューチェーンは人事担当者、サステナビリティ担当者などへも広がりをみせている。世界中で事業を行う企業は、世界中の拠点から財務数値に加え、「プレ財務」情報とも呼ばれる、GHG排出量、女性管理職比率などのサステナビリティ情報を収集することになる。

さらに今、企業のデータはクラウドベースであらゆる情報を一元管理するERPへ、急速に移行している。伝統的な経理業務では、売上日報・月報などある程度まとめた数値をシステムに人が入力していたが、ERPは売上1件1件など情報の粒を自動的にリアルタイムで集計するしくみだ。「2025年の崖」を越えた先には、原始データ(生データ)の世界が広がる。AIの活用も本格化する。

こうした環境下では、企業と投資家・アナリスト・取引先などを含む情報利用者との対話がこれまで以上に重要になる。情報開示の範囲が広がり、テクノロジーが発達するなか、すべてをいつでも情報開示し監査・保証してもらうということではコストばかり上がってしまうためだ。監査は義務なので仕方なく対応しているとお考えの方もいるかもしれないが、本来は、企業が情報利用者のニーズを理解したうえで開示し、第三者による監査・保証を行うことで信頼を得るということだと考えている。実は、これが監査・保証の原点である。財務諸表監査も、約170年の歴史を紐解けば、もともとは任意であった。自分の会社の開示する財務情報に嘘偽りがないことを、第三者に保証してほしいというニーズから始まった。

もちろん監査人もこの原点に立ち返り、企業や情報利用者に価値を感じてもらえる監査・保証業務を提供しなければならない。サスティナビリティ情報などこれまでになかった環境で信頼を構築していくためにも、今後はより一層広範な知見を培っていく必要がある。そのため、多様な人財を採用したり連携したりと体制を整えていっている。

監査・保証の原点に立ち返れば、開示の範囲が一気に広がり、テクノロジーの活用が飛躍的に進むこれからの世の中においても、情報利用者に信頼される情報バリューチェーンを構築することは可能と考える。ぜひその世界を皆様と共に創っていきたい。

執筆者

久保田 正崇
代表, PwC Japanグループ
代表執行役, PwC Japan有限責任監査法人

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