SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)――ソフト基軸の価値・体験基盤

2024-10-31

※本稿は、『日刊工業新聞』2024年9月26日付「経営リーダーの論点(9)」に寄稿した記事を再編集したものです。
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モビリティー業界では、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)という言葉が急速に広まっている。完成車メーカー(OEM)とサプライヤーは各社、対応を迫られている。SDVが何を指すかは主体によって捉え方が異なり、まだ業界内でも定義があいまいだが、SDVを捉える上で重要なのは、車本体ではなく、ユーザーそのものやユーザーに提供する価値・体験を中心に据えることだ。

CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)を実現する過程において、モビリティー業界が取り組まねばならない領域は「人工知能(AI)」「コネクティビティー」「バッテリー」「サイバーセキュリティー」「高性能半導体」「サーキュラーエコノミー(循環経済)」などのさまざまな要素に分解されていった。SDVは、このCASEの解像度を上げる中で、重要な要素として見いだされた。

SDVの「V」はビークルの頭文字のため、車本体と思われがちだが、ユーザーへの価値提供を続けるための基盤全体を指すと考えることが有要だ。車本体やクラウドなどは、手段にほかならない。そこで、PwCコンサルティングは、SDVを「ソフトウェアを基軸にモビリティーの内と外をつなぎ、機能を更新し続けることで、ユーザーに新たな価値および体験を提供し続けるための基盤(エコシステム)」と定義している(図表1)。

米国自動車技術者協会(SAE)は、自動運転車の機能の段階をレベル0-5の6段階で区分することを提唱している。同様にSDVのレベルを6段階で整理すると、オーバー・ジ・エアー(OTA)によって走行制御系を含めた機能をアップデートできるレベル3以降がSDVであると定義できるだろう(図表2)。レベルが上がるにつれて、ユーザーはメカ/ハードウェアやソフトウェアの外に、消費者が商品やサービスを通じて認識できる総合的な価値である知覚価値を、より多く感じられるようになる。

レベル0の「機械制御車」は、エンジンなどの一部が電気電子制御されて、主に機械部品が協調することで走行する。レベル1の「電気電子制御車」は、独立した電子制御ユニット(ECU)が複数存在し、車両機能の電気電子化が進む。レベル2の「ソフトウェア制御車」は、ECU数が増えて、車載ネットワークによってバス管理される。

そして、レベル3の「部分ソフトウェア定義車」は、パワートレインやインフォテインメント、先進運転支援システム/自動運転などの機能要素(ドメイン)を軸に電気電子アーキテクチャーを構築することでECUの統合が進み、統合した機能を大規模なシステムオンチップ(SoC)が制御する。

一部ではビークルOSやAPIの標準化が進む。不具合以外の機能追加、商品性向上のためのソフトウェアアップデートはOTAで行われる。

レベル4の「完全ソフトウェア定義車」は、センサーやアクチュエーターの物理配置に合わせて機能を配置する電気電子アーキテクチャーにより、機能の最適配置と拡張性が増加する。ビークルOSやAPIの標準化により、ハードウェアとソフトウェアの分離が進む。また車載通信の高速化により、自動運転向けなどの大規模・高速データ通信が容易になる。さらにソフトウェアアップデートにより、購入後もモビリティーの価値が向上し、車両販売以外の収益モデルも構築される。

レベル5の「ソフトウェア定義エコシステム」は、モビリティーの内部と外部が常時接続されて、AIなどの頭脳系制御が外部に移る。内部のソフトウェアアップデートや外部での常時学習によって、常にユーザーニーズを満たした状態にする。例えばインフォテインメント系は、OEM共通のアプリケーションやサービスを提供できるようになり、モビリティーの価値がソフトウェア・サービス側に大きく移行する。

APIの標準化により、スマートフォンのアプリのように、ユーザーによる車両アプリの開発や販売も実現する。こうした開発領域を含め、従来以上にユーザーとモビリティーとの接点が増える。これらによってモビリティーの価値がエコシステム全体を通じて底上げされ、ユーザーの価値・体験の最大化を図れる。

現在、新興OEMの一部がレベル4を実現しているが、多くはレベル2やレベル3で、レベルアップの途上にある。業界では新技術が登場し、同時に新たな課題や考え方も浮上して定義される。現状を正しく把握し、取り組むべき事項を柔軟に捉えて対応することが最も重要だ。SDVのレベルアップと、自動運転や電動化の開発の親和性は高く、バランスよく取り組むことが求められる。

伝統OEMと新興OEM、サプライヤーは置かれている状況が異なる。それぞれに適した方法でSDVをレベルアップしたり、自動運転化や電動化を推し進めたりする必要がある(図表3)。

伝統OEMの多くは、技術力・対応力、設計資産、大規模な開発リソースなどを強みとしているが、開発チームがECUや機能ごとに分かれていることが多い。足元の収益をレベル2の車両や内燃機関(ICE)車/ハイブリッド電気自動車(HEV)で獲得しつつ、レベルアップに向けてリソースを配分する必要がある。高速開発やソフトウェアアップデート開発の際、従来の知見やルールをそのまま適用すると「資産」ではなく「負債」となる恐れもあるだけに、一考を要する。

一方、新興OEMは、組織の壁がない状態から最適な組織をつくれる。しかし、長期にわたって高品質で安心・安全な車を提供し、多くの規制を満たすことは並大抵ではない。成長に向け、伝統OEMやサプライヤーの良い部分を学び、外部人材を獲得するといった対応が求められる。

最後にサプライヤーは、伝統系と新興系の戦略や状況を正しく把握し、双方に対応するか、片方に寄り添うかを決める必要がある。ただし、製品ラインアップが多いメガサプライヤーは、双方への対応が求められるため、伝統系に寄り添いつつ、新興系のスピード感のある開発、業界の変化にも対応することが欠かせない。

執筆者

糸田 周平

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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