
COOやオペレーションリーダーが取り組むべきこと PwCパルスサーベイに基づく最新の知見
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
2024-02-14
※本寄稿記事は日経ESG 2024年1月号寄稿記事を基に再構成、了承を得て掲載したものです。
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※法人名・役職などは掲載当時のものです。
対象企業にタクソノミーに適合する事業売り上げなどの開示を義務付ける。EU域外の企業でも、投資マネーの獲得へ、自発的な開示が始まりそうだ。
欧州連合(EU)のタクソノミー(分類法)は、「生態学的にサステナブル(グリーン)」な経済活動を特定するための新しい枠組みである。企業はこの枠組みに基づき、該当する経済活動に関する情報の開示が求められる。
EUタクソノミーは、EUの経済を資源効率が高く、現代的で、競争力のある経済に変革することを目的とした成長戦略「欧州グリーンディール」の重要な基準となっている。EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の対象となる企業は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)とEUタクソノミーに基づく報告が義務付けられた。
前号ではEUタクソノミーの一般的な概念を解説した。今号では、日本企業に実際にどのような影響が及ぶのかを詳しく見つつ、欧州企業の先行の事例を見ていきたい。
日本企業は様々な形でEU タクソノミーの影響を受ける。まず1つ目は、子会社や子会社グループがEU内にあり、CSRDの下で報告が義務付けられている場合である。2つ目は、投資家や顧客、その他のビジネスパートナーが、EUタクソノミーに基づく情報を要求している場合だ。こうした場合は、法的な報告義務はないものの、任意の報告が求められる。
まず報告が義務付けられている場合について解説する。CSRDの対象となる子会社または子会社グループ(EU 会計指令に基づく大規模な企業または企業グループ、以下「対象企業」)を抱える日本企業の場合、影響は即時かつ重大である。サステナビリティ報告書にEUタクソノミー規則に基づく報告を記載する必要があり、原則2026年には25年度の内容を、もし対象企業がCSRDの前身である非財務報告指令(NFRD)の対象である場合は25年から24年度についての報告が義務付けられる。
EUタクソノミーが要求する報告は、大きく2つある。まずは、事業活動がタクソノミーの6つの目標(気候変動の緩和・適応、水と海洋資源の保護、循環経済への移行、汚染の防止、生物多様性と生態系の保護)に照らして「適格性(eligibility)」や「適合性(alignment)」が認められるかどうか。もう1つは、適格性や適合性が認められる事業活動の収益や設備投資額、営業支出の3つのKPI(重要業績評価指標)についてである。これらについて、標準書式に沿って報告することになるが、詳細な財務データとサステナビリティ情報が必要だ。ただ、多くの企業が、必要となる情報を収集していない。
なお、多くの日本の親会社がCSRDに集中的に取り組む動機になっているのは、29年に日本の親会社にも「第三国企業」のESRSに照らした報告が義務付けられることにある。その一方で、CSRDやEUタクソノミー規則は、同規則の「第三国企業」への適用に関しては言及していない。そのため、29年の親会社による報告には、EUタクソノミーに関する報告は必須ではない可能性がある。なお、「第三国企業」を巡る動向には、いまだ不確実性が残されている。例えば、「第三国企業」のESRSは当初、24年6月30日までに採択される予定だったが、欧州委員会は23年10月、採択を26年6月30日に延期することを提案した。
続いて、企業が任意で報告するケースについて解説する。報告が義務付けられていない場合でも、企業は世界規模で自発的にEUタクソノミーの採用を検討するようになるだろう。
投資家やESG評価機関、顧客、ビジネスパートナーなどからタクソノミーに関する情報の開示が要求されるからだ。推進力の1つが、サステナビリティを目的とする投資ファンドだ。欧州の資産運用会社は、「サステナブル・ファイナンス開示規制(SFDR)」により、ファンドを3つに分類して報告することが義務付けられた。投資判断の際にサステナビリティを考慮しない「6条ファンド」と、サステナビリティを考慮しないが環境または社会的特性を促進する「8条(ライトグリーン)ファンド」、そして環境に配慮したサステナブルな投資を構成する「9条(ダークグリーン)ファンド」である。
EUタクソノミーの適合性は、8条と9条に該当するファンドのサステナブル投資目標を強化する重要な要素になると期待されている。だが現在、タクソノミーへの重要な適合性を報告したファンドはわずかだ。米調査会社モーニングスターによると、23年6月までに8条ファンドと9条のファンドの62%がタクソノミーに準拠した投資の最低割合を報告した。しかしその値は「0%」が圧倒的多数だった(8条ファンドは94%、9条ファンドは71%)。9条ファンドのうち、タクソノミーに適合する投資割合を0~10%と報告したのは21%以上、投資割合を10%以上にすることを目標としていると報告したのは6.8%だった。
ファンドの適合率が低い背景には、投資対象となる企業によるタクソノミー情報が不足していることも一因にある。2022年度に初めて、限定的な数の欧州企業が報告を義務付けられたからだ。また、8条・9条ファンドの投資対象には、EU域外に本社を置くグローバル企業も含まれている。企業に対応を促しているもう1つの理由が、国際的な「ESG企業ランキング」や「格付け」を行う機関によるタクソノミーの採用だ。
米格付け会社S&Pグローバルによる「コーポレートサステナビリティ評価(CSA)」は企業に対し、各国のタクソノミーに基づいてサステナブルな活動の内訳を開示する質問を導入した。CSAは、EUタクソノミーを主要な枠組みとして強調しているが、他の地域のサステナブルなタクソノミーも適用できる。また、世界の大手企業にサステナビリティに関する情報開示を求める「CDP」は23年、気候変動の質問票において、タクソノミーに関する試験的な質問を始めた。
将来は、企業による活用をさらに推進する要因が表れそうだ。例えば、規制当局がEUタクソノミーに準拠していない融資に対し、株式による裏付けの増加を求める可能性がある。その影響で、銀行はタクソノミーに準拠した融資と準拠しない融資を、価格設定を変えるなどして区別する可能性がある。また、タクソノミーが、公共や民間の調達入札に適用されることも想定される。
ただ、タクソノミーはEU法との関係が強く、EU域外の企業には取り組みづらい点が課題となる。事業活動がタクソノミーに適合するには、「重大な害がないこと(DNSH)」などの要件を満たす必要がある。DNSH基準の大部分はEU法に基づく(気候委任法の約41%)ため、域外企業が適合基準を適用することは困難だろう。
EU域外で登場しつつある各国・地域のタクソノミーによる相互運用が始まれば、この課題は軽減される可能性がある。例えばEUと中国は20年、サステナブルな金融に関する国際プラットフォーム(IPSF)で作業部会を立ち上げ、21年には共通の基盤の下でのタクソノミー(CGT)について共同研究を発表している。
また、他国で同様のタクソノミー規則が採用されると、EUタクソノミーの重要性が加速度的に増す可能性がある。注目すべき例は、英国が策定中のグリーンタクソノミーだ。
英国は現在、EU規制との相互運用性も検討している。年内にも協議が進み、今後、施行されれば、2年間の自主報告の期間が設けられ、その後、報告を義務付けるとみられる。
CSRDの前身であるNFRDの対象となるEUの大規模上場企業は、21年度以降、タクソノミーの気候目標に基づく報告が義務付けられた。21年度は「適格性(eligibility)」報告のみ、22年度から「適合性(alignment)」報告も求められる。
PwCがドイツやオーストリア、スイス、オランダの企業170社を対象に、22年に行った企業動向調査によると、EUタクソノミーは多くの場合、よりサステナブルな事業活動の「触媒」として機能した。調査対象の42%の企業にとって、サステナビリティの重要性が高まっており、63%が組織内でサステナビリティが最優先事項と回答した。
EUタクソノミーの実務経験者のうち労力の必要性を低く見積もった回答はわずか13%にすぎず、46%は年間の報告義務に対応するためより多くのスタッフが必要になると予想した。回答者の61%がリポート作成を外部サービスに依存しており、これは21年の調査での予想(49%)を上回る。
またPwCは12か国の非金融企業706社(ドイツ160社、ポーランド118社、フランス97社など)による22年度のEUタクソノミー報告を分析した。分析対象企業の売上高のうちタクソノミーへの「適格性」を認められる売上高比率は平均で26%、「適合性」については7%だった。同様に、設備投資(CapEx)については「適格性」の平均は37%、「適合性」の平均は10%。運用コスト(OpEx)の「適格性」の平均は27%、「適合性」の平均は8%だった。
図1は、純売上高から「適格」の売上高を算定し、そして最終的に「適合」する売上高を算定するまでのプロセスを示している。
売上高について分析すると、セクター(産業)間で差が見られた。EUタクソノミーの気候目標の多くは、CO2多排出の事業活動で定義されているため、驚くべき結果ではない。これは企業の収益創出活動に関連する売上高KPIに特に影響する。適格性平均が最も高いのは不動産セクターで65%だ。適合売上高は16%、「適格だが適合していない」売上高は49%だった。次いで適格性平均が高いのは自動車業界(46%)、運輸・物流業界(39%)の順となる。小売り業界(5%)と健康産業(0%、四捨五入)は、「適格」のレベルが最も低い。
また、不動産業界(49%)と自動車業界(40%)では、適格売上高と適合売上高の間に特に大きな差があることも分かった。一方、エネルギー、公共事業、資源業界(17%)ではその差は小さくなった。これは、タクソノミー基準を満たすことが一部のセクターには難しいことを示している。タクソノミーが事業活動ごとに定義している要件が、現在のビジネス慣行をはるかに超えていることが背景にありそうだ。例えば、タクソノミーが定義する活動のうち「輸送用の低炭素技術の製造」について、適合売上高と適格売上高の間には平均36%の差があり、適合売上高の平均はわずか10%だった。
22年のEUタクソノミー報告調査では、前年と比較して明らかな進歩が認められた。しかし、報告された適格性と適合性の割合は、セクター間だけでなく同セクターの企業間でも大きく異なった。タクソノミー基準の解釈について依然として多くの議論が続いている。比較可能性が確立されるには時間がかかり、欧州委員会によるさらなる明確化と業界団体による啓発が必要である。これは、データを使用する金融市場参加者、例えば9条ファンドにとって課題となる。「資金の流れをサステナブルな活動に振り向ける」というEUタクソノミーの目標は、現時点では達成が難しい。だが、報告を求められる企業は大幅に増えており、数年間の移行期間を経て、投資や公共調達などの分野で、EUタクソノミーはより重要な要素となると想定される。
ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
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