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2024-07-10
※本稿は、2024年6月10日号(No.1712)に寄稿した記事を転載したものです。
※発行元である株式会社中央経済社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
カーボンニュートラルを目指した脱炭素の取組みが待ったなしの状況となっている。現在、政府の方針としてグリーントランスフォーメーション(以下、「GX」という)が掲げられ、これに対応する活動が開始されている。そのなかでは、排出量取引やカーボンクレジットなどの具体的な取引や炭素に対する賦課金の計画も含まれている。経理部門は、脱炭素の取組みに関与する機会が増えると予想され、ある程度の知識が必要となっている。
そこで、本連載ではGX実現に向けたGXリーグにおける排出量取引やカーボンクレジットについて、Q&A形式で概要を解説する。第6回は、カーボンクレジットおよび証書について解説する。なお、記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
GXリーグにおける排出量取引制度(以下、「GX-ETS」という)において適格カーボンクレジットの利用が定められているが、カーボンクレジットとは何か、排出量取引とは何が異なるのか。
経済産業省は、「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」を設置し、当該研究会における議論の中間整理を2021年8月に提示した。この中間整理では、自主的なカーボンクレジットの取引を成長に資するカーボンプライシングの一種として位置づけており、それら取引の活性化は、日本全体としても排出削減への取組みが加速すると想定している。「カーボンクレジットの位置づけの明確化」、および中長期にわたり、行動変容をもたらすために「カーボンクレジット市場の創設」が必要という2つの政策の方向性が示された。
その後、経済産業省は、2021年11月より「カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会」を設置し、有識者や事業会社、金融機関、関係省庁の参画も得て、2点の方向性について議論およびヒアリングを実施した。検討会における議論およびヒアリングの成果として、2022年6月に「カーボン・クレジット・レポート」が公表された。
一般的にカーボンクレジットは、プロジェクトが実施されなかった場合の排出量等の見通しであるベースライン排出量等と実際の排出量等であるプロジェクト排出量等との差分が、国、自治体および民間団体などが整備したルールのもとで認証されたクレジットである。たとえば、日本国のしくみであるJ-クレジットでは、カーボンクレジットの認証は、①プロジェクト計画書の作成、②プロジェクト計画書の妥当性確認、③プロジェクト登録の申請、④データのモニタリング、収集、⑤モニタリング報告書の作成、⑥モニタリング報告書の検証、および⑦クレジット認証申請の順で行われる。クレジットの認証により、GHGの排出削減および吸収について経済主体間における取引が可能となる。
カーボンクレジットは、ベースライン排出量等と実際の排出量等との差分を対象とするため、「ベースライン&クレジット」といわれる。そのしくみを表したのが、図表1である。また、排出量取引(キャップ&トレード)とカーボンクレジット(ベースライン&クレジット)との違いを整理したのが図表2である。
図表2:カーボンクレジットと排出量取引との主な相違点
| カーボンクレジット(ベースライン&クレジット) | 排出量取引(キャップ&トレード) | |
| 対象範囲 | プロジェクト(設備および施設) | 企業(組織および施設) |
| 環境価値 | 追加削減分 | 排出枠からの削減部分 |
| 用途 | 自主的な取組みおよび規制対応 | 規制対応 |
| 価格決定 | 相対取引 | 市場取引 |
(出所)カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会「カーボン・クレジット・レポート」をもとに筆者作成
カーボンクレジットの多くが、省エネルギー等の脱炭素に向けた自主的な取組みを後押しするための制度であるのに対し、キャップ&トレードは、政府等によるカーボンプライシングの一手法として、規制的な側面がある。キャップ&トレードの対象は、導入の当初において、温室効果ガスの多排出産業等の特定業種やセクターに限定して実施される場合が多い。
排出量取引では、制度で決められた排出可能量の上限を超過する場合、排出枠以下に抑えた経済主体から排出枠の調達が求められる。これに対し、カーボンクレジットは、制度によっては排出量取引における排出枠を補完する商品として、排出枠の規制対象となる経済主体以外からのカーボンクレジットの購入が限定的に認められている例もある。GX-ETSにおいても、GX-ETSで創出された超過削減枠と同様に、自主目標未達分については、カーボンクレジットのうちGXリーグ事務局が選定するカーボンクレジットである、適格カーボン・クレジット(J-クレジット等)の利用を認めている。
カーボンクレジットは、売却やカーボンオフセット等における利用が可能である。カーボンクレジットは、登録簿と呼ばれる口座で管理される。たとえば、発行されたクレジットを売却する場合、売却者は、購入者の口座へクレジットを移転することにより取引が行われる。また、クレジット所有者がカーボンオフセット等でクレジットを使用する場合、その口座で無効化手続を行い、所有するクレジットがその他に利用できないようにする必要がある。
カーボンクレジットは、制度の運営および管理主体などにより、さまざまな種類が存在する。まず、公的機関が運営主体となる公的クレジットと、民間によって運営および管理が行われるボランタリークレジットに大別できる。また、炭素削減価値が国内にあるか海外にあるかの観点からの区分もできる(図表3参照)。
図表3:国内外の主なカーボンクレジット
| 公的クレジット | ボランタリークレジット |
|
| 国内における炭素削減価値 | J-クレジット | Jブルークレジット |
| 海外における炭素削減価値 | Joint Crediting Mechanism(JCM)Clean Development Mechanism(CDM) | Verified Carbon Standard(VCS)Gold Standard(GS)American Carbon Registry(ACR)Climate Action Reserve(CAR) |
(出所)カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会「カーボン・クレジット・レポート」をもとに筆者作成
国内にある公的クレジットとして、J-クレジットが挙げられる。2008年、主に省エネルギーや再生可能エネルギーの活用による排出削減量を認証する「国内クレジット制度」と、森林整備によって生じた排出削減および吸収量を認証する「オフセット・クレジット(J-VER)制度」が創設された。2013年度からは、J-VER制度と国内クレジット制度が発展的に統合し、J-クレジット制度となった。
カーボンクレジットには、さまざまな種類および方法論が存在している。基本的には、発行を希望するクレジット制度を利用するための要件、そのクレジット制度の方法論で定められている要件を満たす必要がある。方法論とは、排出削減および吸収に資する技術ごとに、適用条件、適用範囲、排出削減および吸収量の算定方法およびモニタリング方法等を定めた規程である。カーボンクレジットを発行するためには、この方法論に従って排出削減事業計画を策定する必要がある。J-クレジットの森林吸収系の方法論では、GHGの吸収の永続性措置などが要件の1つとして必要となっている。
また、品質管理も重要である。安易なクレジット創出や利用はグリーンウォッシュであるといった批判につながる可能性がある。カーボンクレジットの信頼性を構築するため、クレジットを創出するプロジェクトの二重登録およびクレジットの二重発行、ならびにクレジットの二重使用の回避が必要である。
カーボンクレジットの品質を担保するため、一定の品質に関する要件が設けられている。一般的にカーボンクレジットの要件として知られているInternational Carbon Reduction &offset Alliance(ICROA)の要件を整理したのが図表4である。
図表4:ICROAにおける要件の概要
| 項目 | 要件 | 要求事項 |
| 唯一無二(Unique) | カーボンクレジットは、唯一無二であり、他のレジストリ(登録)で二重に発行されない |
|
| 実現性(Real) | カーボンクレジットは、実際の排出削減または除去を表すしくみでなければならない |
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| 永続性(Permanent) | カーボンクレジットは、永続的な排出削減または除去に関して発行される |
|
| 追加性(Additional) | 排出削減および除去は、プロジェクトが実行されなかった場合に発生したであろう排出削減および除去を超える |
|
| 測定可能(Measurable) | カーボンクレジットは、測定可能でデータに裏づけられた、排出削減および除去を表す |
|
(出所)Carbon Crediting Programme Endorsement Criteria Version 3.1( March 2024)をもとに筆者作成
さらに、ICROA Code of Best Prac-tice Version 2.5 February 2024によれば、認定は、ICROAベストプラクティス規範に概説される要求事項に基づき、第三者による監査プロセスを通じて毎年行われるとされている。
GXリーグ参画企業は、GXリーグが定める適格カーボン・クレジットの無効化量を別途報告し、GXリーグの目標達成のために活用が可能である。具体的には、自社の排出量から控除する取扱いができる。また、移転、つまり自らが創出した適格カーボン・クレジットのうち他者への移転がある場合、その移転量を報告しなければならない(図表5参照)。なお、森林の整備および保全により吸収されたGHGの吸収量として認証をされたクレジットやバイオ炭の農地施用による温室効果ガスの削減量として認証をされたクレジットを移転する時は、移転量として計上しない。
図表5:適格カーボン・クレジットについての報告
| 種類 | 概要 | 報告事項 | |
| 無効化量 | 移転量 | ||
| 国内クレジット | 国内で大企業等の技術および資金等を提供して中小企業等が行った温室効果ガス排出抑制のための取組みによる排出削減量を認証し、自主行動計画等の目標達成のために活用されるクレジット | 要報告 | 要報告 |
| オフセット・クレジット(J-VER) | 国内で実施された温室効果ガス排出削減・吸収量を、カーボンオフセットに用いられる一定の信頼性が確保されたオフセット・クレジットとして認証されたクレジット | 要報告 |
要報告 |
| J-クレジット | 国内で実施された温室効果ガス排出削減・吸収量を、J-クレジットとして認証されたクレジット | 要報告 | 要報告 |
| JCMクレジット | 海外で実施された温室効果ガス排出削減量であってJCMクレジットとして認証されたクレジット | 要報告 | - |
(出所)「GX リーグ算定・モニタリング・報告ガイドライン」をもとに筆者作成
適格カーボン・クレジットを無効化(または移転)した場合は、無効化量(または移転量)、無効化日(または移転日)、および当該適格カーボン・クレジットの特定番号等を排出量実績報告書に記載し、無効化または移転を確認できる資料を添付して報告する。当該無効化量(または移転量)が直接排出量と間接排出量のどちらに考慮されるかについてもGXリーグ参画企業が任意に設定する。ただし、直接排出量および間接排出量をゼロ未満となるように無効化したとしても、実績排出量は、ゼロt-CO2となる。
カーボンクレジットに似た概念として証書があると聞いたが、カーボンクレジットと証書とは何が異なるのか。
カーボンクレジットは、CO2などのGHG削減量や吸収量をクレジット化し、取引を可能にする手法である。これに対し、証書は、再生可能エネルギーや非化石エネルギーなどに由来する、主に電力や熱の「環境価値」の取引に用いられる。取引単位は、カーボンクレジットが「t-CO2」であるのに対し、証書は電力であれば「kWh」、熱の場合は「MJ」となる。単位は異なるが、証書は使用するエネルギーを再生可能エネルギー化する機能をもつため、脱炭素効果をもたらすという意味では類似している。
しかし、証書については、あくまで電力等について、その属性を付加された価値としてアピールしているため、証書の活用は、必ずしもカーボンクレジットのような追加的な排出削減量の創出につながらない点には留意が必要である。
日本国内では、再生可能エネルギー証書として、主に非化石証書、グリーン証書の2つがある。加えて、J-クレジットのうち再生可能エネルギー由来のクレジットも、証書と同様の効果を得ることができる。
非化石証書は、石油や石炭などの化石燃料を使っていない「非化石電源」で発電された電力である由来を証明した証書であり、2018年5月から開始された制度に基づいている。非化石証書は、次の3種類がある。
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非化石証書は、制度開始当初、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)」により、自ら調達する電気のうち、非化石電源比率の向上が求められた小売電気事業者のみが調達可能とされた。再生可能エネルギーへのアクセスの改善のため、制度が改正され、需要者がFIT非化石証書を直接調達できるようになった。また、2022年4月からは、非FIT非化石証書についても、条件付きで需要者による直接調達も認められている。
グリーン証書には、グリーン電力証書とグリーン熱証書がある。
グリーン電力証書は、再生可能エネルギーにより発電された電気の環境価値を、証書の発行事業体が、第三者認証機関である一般財団法人日本品質保証機構により認証され、「グリーン電力証書」として取引の対象となる。グリーン電力証書を購入する企業や自治体などが支払う費用は、グリーン電力証書の発行体により発電設備の維持および拡大などに利用される。
証書を購入する企業および自治体などは、グリーン電力証書の取得により、グリーン電力発電設備を持たなくても、証書に記載された電力量(kWh)相当分の自然エネルギーの普及に貢献し、グリーン電力を利用したとみなされる。この他、各種報告制度に再エネ使用量やCO2削減量として取り扱う報告が可能とされている。Carbon Disclosure Project(CDP)、Renewable Energy 100%(RE100%)およびScience BasedTargets(SBT)などの各種報告において、再生可能エネルギーの使用量として報告が可能であり、一定の手続を経て、地球温暖化対策推進法の調整後GHGの削減や東京都や埼玉県等の環境条例における再エネクレジットとしても活用できるとされている。
グリーン電力証書と同じしくみで、グリーン熱証書の発行も行われている。証書の発行事業体で第三者認証機関でもある一般財団法人日本品質保証機構により認証、管理され、「グリーン熱証書」として取引がなされている。
グリーン電力証書およびグリーン熱証書の「kWh」、「MJ」という価値の単位を「t-CO2」へ換算するしくみとして、資源エネルギー庁および環境省が運営する「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」がある。これは、証書のCO2排出削減価値を国により認証し、地球温暖化対策推進法に基づく算定・報告・公表制度における国内認証排出削減量として活用できるようにする制度であり、環境省および資源エネルギー庁が運営している。
J-クレジットは、カーボンクレジットとして用いられる。しかし、再生可能エネルギー由来の発電および熱の方法論に基づくJ-クレジットに限り、再生可能エネルギー証書と同様の効果を持っている。
具体的には、再生可能エネルギー電力由来J-クレジットはt-CO2ではなくkWhで表記し、電力相当量として利用する。また、再生可能エネルギー熱由来J-クレジットをt-CO2ではなくMJで表記し、熱相当量として利用する。これにより、GHGプロトコルにおけるスコープ2(他者から供給された電気および熱)の基準を満たした再生可能エネルギー証書と同様の効果があるとされている。調達したクレジットの無効化にあたり、オフセットしたい消費量と、無効化するクレジットの持つ再生可能エネルギー量から、実際に無効化するクレジット量(t-CO2)を算出する。
GXリーグ参画企業は、証書について別途報告を行い、GXリーグの目標達成のために活用が可能である。また、GXダッシュボードにおいて調達した証書に関する情報が公表される。
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