まだ間に合う─「排出量取引とカーボンクレジット」Q&A 第4回 排出量取引(2)

2024-05-20

※本稿は、2024年4月20日号(No.1708)に寄稿した記事を転載したものです。
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この記事のエッセンス

  • GXダッシュボードは、GXリーグ運営事務局により公開されている。GXリーグ参画企業の取組み状況を開示するための基盤とされ、投資判断や企業評価等に活用可能な情報を、一覧性および比較可能性のある形式で発信する。
  • 開示される項目は、主に、企業情報、自らの排出削減、サプライチェーンにおける取組みおよびグリーン市場創出の取組みに関する項目である。

はじめに

カーボンニュートラルを目指した脱炭素の取組みが待ったなしの状況となっている。現在、政府の方針としてグリーントランスフォーメーション(以下、「GX」という)が掲げられ、これに対応する活動が開始されている。そのなかでは、排出量取引やカーボンクレジットなどの具体的な取引や炭素に対する賦課金の計画も含まれている。経理部門は、脱炭素の取組みに関与する機会が増えると予想され、ある程度の知識が必要となっている。

そこで、本連載ではGX実現に向けたGXリーグでの排出量取引やカーボンクレジットについて、Q&A形式で概要を解説する。

第4回は、GXダッシュボードにおいて開示される情報について解説する。なお、記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

GXダッシュボードとは何か

GXダッシュボードとは何か、またGXダッシュボードにおいて開示される情報はどのような情報か。

(1)GXダッシュボード

GXダッシュボードは、GXリーグ運営事務局により公開されている。GXリーグ参画企業の取組み状況を開示するための基盤とされ、投資判断や企業評価等に活用可能な情報を、一覧性および比較可能性のある形式で発信する。ユーザーインタフェース等の工夫により、参照される頻度を高め、ESG資金の呼び込みや新ビジネス展開など、GXに取り組む企業間の連携を促進するとともに、GXリーグ参画企業が市場からの評価を受けやすい環境の構築を狙っている。また、ダッシュボードは、プレッジ&レビュー型の枠組みとして、排出量取引制度(以下、「GX-ETS」という)の実効性を高める役割も担う。

2023年6月にGXリーグ事務局より公表されたGXダッシュボード情報開示ガイドラインは、GXダッシュボードにおける参加企業の情報の開示事項に関して説明する資料であり、開示される項目および記載の留意事項等について説明している。加えて、当該開示項目をGXリーグ参画企業がGXリーグ事務局に提出する際の手順についても説明している。開示される項目は、主に、企業情報、自らの排出削減(国内排出削減目標、国内排出実績、グローバル排出削減目標、グローバル排出実績、移行戦略)、サプライチェーンにおける取組み(サプライチェーン排出の削減に向けた取組内容)およびグリーン市場創出の取組み(製品・サービスを通じた市場での取組み)に関する項目である。これらの必須事項を中心に、概要をまとめたのが図表1である。

図表1 GXダッシュボード項目の概要

次に、GXダッシュボードにおける国内排出削減目標および国内排出実績の主な点について説明する。

(2)国内排出削減目標

① 組織境界

組織境界は、算定および報告に含める子会社等の関連会社の範囲を意味している。財務報告でいえば、連結財務諸表における子会社および関連会社の範囲に相当するといえる。すべての参画企業が同一のルールに準拠し組織境界を設定する取扱いが、公平性の観点から望ましいと考えられる。しかし、これまで企業が自主的に開示してきた温室効果ガス排出量の組織境界がさまざま設定されている点を踏まえ、制度を試行的に開始する第1フェーズにおいては、GHGプロトコルの出資基準または支配力基準、もしくは財務会計上の連結基準等を参考に、任意で組織境界を設定する取扱いが許容されている。ダッシュボード上で、適用した基準の類型を選択し情報の開示を行う。これは、過渡的な対応であり、第2フェーズ以降に適用するルールについては、国際的な動向も踏まえて、検討を続けるとされている。

② 基準年度の設定

基準年度は、参画企業が2013年度から2021年度までの間で設定する排出削減目標およびNDC相当排出量の前提となる年度を意味する。原則として、2013年度の単年度で基準年度として設定するが、各参画企業の状況によっては、2014年度から2021年度のなかで基準年度を選択する取扱いも許容されている。基準年度は、第1フェーズ中において変更する取扱いを許容されていない。NDCは、国が決定する貢献を意味し、NationallyDetermined Contributionの略称である。パリ協定に基づいて、国が定める温室効果ガスの排出削減目標を意味する。

2014年度から2021年度のなかで基準年度を選択する場合、基準年度を含む連続した3カ年度平均の排出量を基準年度排出量とする取扱いが求められる。これは、排出量の大きい単年度を選択するといった恣意性のある選択による影響を最小化するためと考えられる。なお、Group X企業の場合、その排出規模を考慮し、連続した3カ年度平均の排出量とする取扱いに加え、基準年度として選択した単年度の排出量を基準年度排出量とする取扱いも許容されている。

③ 自主目標

(a)第1フェーズにおける要求事項

参画企業は、第1フェーズにおける2025年度の排出削減目標、2030年度の排出削減目標、および第1フェーズの排出削減目標の総計について自主目標の設定が求められている。いずれの項目においても、直接排出量および間接排出量について、排出量ベースでの報告が求められている。さらに、2025年度削減目標および第1フェーズの排出削減目標の総計については、原則として、GXダッシュボード上で公表される。

(b)追加の情報提供

追加の情報提供前記の情報に加え、参画企業がGroup G企業またはGroup X企業のどちらに所属するかをGXリーグ事務局において確認するため、制度開始時点で入手できる最新と想定される2021年度排出量の提供が求められている。さらに、基準年度が2013年度でない参画企業においては、2013年度との比較で2030年度46%削減というNDC実現に向けた実効性把握、今後の制度発展に向けたデータ収集等の観点から、2013年度排出量の提供が求められている。

(3)基準年度排出量等の算定と報告

① 3カ年度平均の適用

連続した3カ年度平均の排出量を基準年度排出量とする場合、どのように連続した3カ年度の平均により基準年度排出量とするかについては参画企業が任意に設定可能である。よって、同じ基準年度でも連続した3カ年度平均の計算により差が生じる可能性がある。

② データの収集

基準年度排出量の報告は、過去の排出量情報となるため、追加のデータ取得や提出といった実務上の対応が困難である場合を想定し、参画企業における負担軽減をしている。虚偽報告に対して罰則がある温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(以下、「SHK制度」という)のデータ、および統合報告書等による開示に向けGHGプロトコル等に基づき算定した限定的保証以上の水準の第三者検証を受けているデータを、正確に算定されたデータとみなし、基準年度排出量等の算定根拠とする取扱いを許容している。

③ 正確性が担保されていないデータ

再計算時も含む基準年度排出量算定時に、一部の算定データが欠落されているなど、正確性が担保されたデータが存在しない場合、またはデータは存在するものの第三者検証を受けていない場合、これらのデータを使用して算定された排出量を基準年度排出量に含む取扱いはできない。正確性が担保されたデータがない場合、個別の申請および当該計算の根拠となるエビデンスをGXリーグ事務局へ提出し、承認を受ければ基準年度排出量等に加算する取扱いが認められている。

④ 構造的変化による再計算

基準年度時点で存在し、その後吸収合併などにより取得された排出量の算定の範囲に含まれる法人や、基準年度に基準年度排出量の算定に含まれていた排出源の他社への売却など、排出量の算定主体に構造的変化が生じる場合がある。このような場合、構造的変化の要因に関連する排出については、基準年度における排出量データがあれば、基準年度排出量を再計算する必要がある。基準年度排出量を再計算する場合、同様に、自主目標排出量、NDC相当排出量も連動して再計算される。逆に、基準年度における排出量データが存在しなければ、もし構造的変化をもたらした排出源が基準年度に存在していたら、どれほどの排出量であったかの正確な推計は困難であるとされている。よって、正確な基準年度排出量への反映ができないため、再計算は行われない。

(4)国内排出実績

① 提出および開示される情報

参画企業は、GX-ETSの対象となる国内の実排出量に関する情報について、GXリーグ事務局に提出し開示する。直接排出および間接排出それぞれについて実排出量を算出する。また、クレジット等の調達を想定し、その調達量についても、直接および間接別に情報を提出し開示する。参画企業は、毎年度の排出量実績に基づき、自ら開示した目標に対する削減の進捗について次のいずれかを選択する。

  • 目標達成に向けて削減が十分進展している
  • 目標達成に向けて削減に遅れがみられる

削減の進捗について「遅れがみられる」と評価した場合、自由記述欄において、評価の理由を説明する。「十分進展している」と評価した場合、説明は任意である。

② GX-ETSにおける算定・モニタリング・報告ガイドラインの基本方針

温室効果ガスの算定方法は、地球温暖化対策の推進に関する法律(以下、「温対法」という)に基づくSHK制度の手法を基礎にする。また、モニタリングおよび報告は、過去政府が実施した類似の取組みである、自主参加型国内排出量取引制度(以下、「JVETS」という)および排出量取引の国内統合市場の試行的実施における手法を基礎としている。貨幣的価値を伴う取引が行われるGX-ETSでは、排出量が適切に算定され、報告されるしくみが必須となる。このため、算定、モニタリングおよび報告のルールを定める際、GHGプロトコルやJVETS等でも基準として用いられる原則による。

③ 想定されている算定、モニタリングおよび報告

参画企業は、毎年度、温室効果ガス排出量の直接排出量および問接排出量を算定し、モニタリングを行い、算定結果の報告を行う。第1フェーズのルールでは、次頁図表2のようなフローが想定されている。

図表2 算定、モニタリングおよび報告
(a)算定の対象となる活動

GX-ETSでは、排出量算定の対象となるガスおよび活動は、SHK制度(算定・報告・公表制度)を参照し、地球温暖化対策の推進に関する法律施行令に基づく算定対象活動について排出量を算定する。「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法検討会」において、算定対象活動の追加についての中間取りまとめが2022年12月に公表された。その後、2023年6月より検討会が再開されている。これらの議論を踏まえ、算定対象活動が法令に追加されれば、GX-ETSもこれに準拠する対応が想定されている。

(b)少数排出源の特定

特定した排出源のうち、一定の少量排出源について、算定対象外とする取扱いが許容されている。具体的には、各敷地境界において、当該敷地境界のGHG排出量の0.1%未満となる排出源、または、敷地境界における排出量が1,000t―CO2以上である場合には排出量10t―CO2未満の排出源、敷地境界における排出量が1,000t―CO2未満である場合には排出量1t―CO2未満の排出源が、少量排出源に該当する。参画企業は、少量排出源についても排出源の把握および概算を行い、少量排出源該当性を確認する。なお、検証時にその根拠の提⽰が求められる場合もあるとされている。

(c)報告

参画企業は、自らの温室効果ガス排出量の算定について、組織境界全体(階層1)、法人単位(階層2)、敷地単位(階層3)およびモニタリングポイント単位(階層4)の階層ごとにデータの把握が必要であり、データをGXリーグ事務局に提出する必要がある(図表3参照)。

図表3 組織階層と実績排出量の報告

④ GX-ETSの算定ルールとGHGプロトコルとの関係

GXリーグには、GHGプロトコルに基づき目標値や実績値を算定している企業も多数賛同している。GHGプロトコルとは、GreenhouseGas protocolの略であり、世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)のパートナーシップを基に、多くの利害関係者の協力により作成された、温室効果ガス排出量の算定・報告に関する基準である。GX-ETSの算定ルールの遵守を前提に、GHGプロトコルで算定したデータも活用できるよう配慮されている。

執筆者

川端 稔

監査事業本部 パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

石川 剛士

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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