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2024-05-01
※本稿は、2024年4月1日号(No.1706)に寄稿した記事を転載したものです。
※発行元である株式会社中央経済社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
カーボンニュートラルを目指した脱炭素の取組みが待ったなしの状況となっている。現在、政府の方針としてグリーントランスフォーメーション(以下、「GX」という)が掲げられ、これに対応する活動が開始されている。そのなかでは、排出量取引やカーボンクレジットなどの具体的な取引や炭素に対する賦課金の計画も含まれている。経理部門は、脱炭素の取組みに関与する機会が増えると予想され、ある程度の知識が必要となっている。
そこで、本連載ではGX実現に向けたGXリーグでの排出量取引やカーボンクレジットについて、Q&A形式で概要を解説する。
第2回は、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(以下、「GX推進戦略」という)において導入されるカーボンプライシングおよびその手法の1つである炭素税について解説する。
なお、記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
GX推進戦略において「成長志向型のカーボンプライシング構想」が主要な取組みとされているが、カーボンプライシングとは何を意味し、どのような種類があるのか。
一般に、「プライシング」は「価格づけ」を意味する。カーボンプライシングは、炭素の価格づけという意味であり、企業などで排出する炭素の価格づけを行い、それにより排出者の行動を変容させるために導入する手法と考えられている。GX推進戦略において、成長志向型のカーボンプライシング構想が示され、日本国内の脱炭素およびGXに向けた政策において、カーボンプライシングが重要な役割を担うとされた。
第5次環境基本計画では、各経済主体に影響を与える代表的な環境政策の手法として、規制的手法(直接規制的手法、枠組規制的手法)、経済的手法、自主的取組手法、情報的手法、および手続的手法が挙げられた。このなかの経済的手法の一例が、カーボンプライシングである。
経済的手法は、市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与による各経済主体の経済合理性に沿った行動の誘導によって政策目的を達成しようとする手法とされている。補助金、税制優遇による財政的支援、課税などによる経済的負担を課す方法、排出量取引、固定価格買取制度などがある。直接規制や枠組規制の執行が困難な多数の経済主体に対して、市場価格の変化などを通じて環境負荷の低減に有効に働きかける効果があるとされている。
民間の経済主体の意思決定においては、需要側であれ供給側であれ「価格」が重要な要素となっている。このため、気候変動対策においても、価格シグナルを通して経済的インセンティブを活用し、創意工夫の促進を可能とする経済的手法の重要性が増しつつあり、かつ期待も高まっている。
カーボンプライシングは、価格の性質などにより分類が可能であると考えられる。まず、経済的手法として利用される政府によるカーボンプライシングと、民間企業などの主導による自主的なカーボンプライシングを含む民間によるカーボンプライシングがある。次に、排出に関する価格を明示的に付し、受益者に経済的価値を負担させるのが、明示的カーボンプライシングであり、価格を明示的に付さずに受益者に経済的価値を負担させるのが暗示的カーボンプライシングとされている。これらの考え方をもとに要約したのが、図表1である。
明示的カーボンプライシングは、それまで価格のなかった排出についての社会的費用を「可視化」し、排出量に応じた費用負担を求める対応であり、炭素税および排出量取引制度が挙げられる。これに対し、排出量に対して明示的な価格づけはされないが、消費者や生産者に対して、問接的に排出の価格を負担させるのが暗示的カーボンプライシングである。これは、エネルギー課税やエネルギー消費量などに関する規制など、間接的に削減効果をもたらす政策や取組みが該当すると考えられる。
民間によるカーボンプライシングの例としては、インターナルカーボン・プライシングや、民問セクターによるボランタリーカーボンクレジットなどの自主的なカーボンクレジット取引が挙げられる。インターナルカーボン・プライシングは、企業が自社内部で独自にカーボン価格を設定し、適用する取組みで、企業内部における脱炭素化への貢献の「可視化」により、全社的な低炭素化への取組みの識別、理解および評価を可能とする。一般に、企業における投資判断では、投資に対するリターンがどの程度になるかを考えて判断するが、この考え方に、投資による炭素排出削減量まで組み込めているケースはまだ多くないと理解している。何に投資するのかの判断も含め、投資判断にいきなりインターナルカーボン・プライシングの活用は難しい面もある。まずは、社内の炭素排出量算定ガイドラインなどを整備し、「可視化」から始める対応をお勧めする。
明示的カーボンプライシングは、脱炭素社会への円滑な移行と気候変動対策を通じた経済および社会的課題の同時解決のための推進力になると考えられている。
明示的カーボンプライシングのもとでは、排出による費用が公平に「可視化」されるため、各排出削減対策に要する費用と、カーボンプライシングによる負担とを比較しながら、排出削減を行う対応が可能になる。よって、企業は、カーボンプライシングによる負担よりも安い費用で実行可能な対策から順に実行し、カーボンプライス(炭素価格)の水準よりも高い費用がかかる対策のみが残った段階で、排出削減の代わりにカーボンプライシングによる負担を負う選択が可能となる。
汚染者負担との整合性明示的カーボンプライシングは、汚染者負担の原則とも整合的であるとされている。汚染者負担の原則は、汚染防止対策と規制措置の費用を汚染者が負担するべきという考え方である。この考え方によれば、汚染防止対策の費用は、消費や生産において汚染を引き起こす財およびサービスのコストに反映されるため、外部性の内部化といった経済学的観点に立脚した原則といえるであろう。排出に伴う費用を内部化する明示的カーボンプライシングは、汚染者負担原則の履行に資するとされており、パリ協定における目標達成に向けた有効な手段の1つとも考えられている。
明示的カーボンプライシングは、脱炭素社会への移行に向けた「共通の方向性」を提示する結果をもたらす。企業におけるインターナルカーボン・プライスが導入され、気候変動のリスクと機会を財務面から捉える取組みが進みつつあり、明示的カーボンプライシングの導入は、インターナルカーボン・プライスと共通の尺度を提供する結果につながる。
カーボンプライシングを導入したとしても、ただちに脱炭素社会に向けた円滑な移行と気候変動対策を通じた経済および社会的課題の同時解決をもたらすわけではない。追加のコスト負担やカーボンリーケージ等の懸念や対応すべき課題が生じる可能性がある。
明示的カーボンプライシングには、政府が価格を調整する「価格アプローチ」と、数量を調整する「数量アプローチ」の2つのアプローチがあり、「価格アプローチ」に該当するのが炭素税である。炭素税は、外部不経済の存在のため市場メカニズムが有効に機能しない、市場の失敗の解消に用いられる手法の1つであり、その基本的な考え方を表したのが図表2である。
外部性を考慮した社会的に最適な均衡点E’において、消費者余剰は△AP’E’、生産者余剰は△B’P’E’であり、各余剰を合計した総余剰は△AB’E’で示される。これに対し、外部性を無視した均衡点Eにおいて、消費者余剰は△APE、生産者余剰は△BPEであり、各余剰を合計した総余剰は△ABEとなる。一見すると、□BB’E’Eだけ余剰が増加しているようにみえるが、外部費用が□BB’CE発生するため、これを控除する必要がある。その結果、市場均衡では社会的に最適な場合と比べて△CEE’だけ余剰が失われる。このように外部性を無視したため失われた余剰△CEE’は、死荷重ロスと呼ばれている。
この死荷重ロスの解消のため、炭素税としてECの課税が導入された。その結果、価格がPからP’に移る。この価格水準を踏まえて排出を行う各経済主体が行動して排出量が決定されるため、排出量は、炭素税が課税される前の水準からのQからQ’に調整される。この結果、総余剰は△AB’E’となり、死荷重ロスが解消される。
GX推進戦略は、「成長志向型カーボンプライシング構想」の速やかな実現および実行を目指しており、カーボンプライシングである「排出量取引制度」および「炭素に対する賦課金」を導入する。しかし、「炭素に対する賦課金」の導入は、追加的な経済負担を求めるため、わが国経済への悪影響が予想される。また、企業が負担を軽減するため、国内における生産から国外における生産へ移転するカーボンリーケージが生じる可能性もある。これらの影響に鑑み、代替技術の有無や国際競争力への影響等を踏まえて導入時期について判断する必要がある。GX推進戦略においては、「炭素に対する賦課金」をただちに導入するのではなく、GXに集中的に取り組む5年の期間を設定し、2028年度からの導入を想定している。
化石燃料の輸入事業者等を対象に、当初低い負担で導入したうえで徐々に引き上げていく取扱いとし、この方針をあらかじめ示している。これは、GX投資による脱炭素を先送りする民間企業の判断を牽制し、GX投資の前倒しの促進を意図している。
炭素に対する賦課金の適用については、課題についても認識されている。まず、適用範囲に関して、既存の類似制度における整理を踏まえ、適用除外を含め必要な措置を当分の間講ずる対応の検討が必要である旨が認識されている。また、排出量取引制度における「有償オークション」と「炭素に対する賦課金」の関係については、同一の炭素排出に対する二重負担の防止など、必要な調整措置の導入の検討が必要とされる。さらに、炭素に対する賦課金の導入は、エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていくなかでの導入を基本としている。「排出量取引制度」の取引価格が最終的には市場で決定されるため、この点を踏まえて炭素に対する賦課金の水準を決定できる制度設計を行うとしている。
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