IFRSを開示で読み解く(第33回)グルーピングの単位

2018-11-20

PwCあらた有限責任監査法人

今回は、IAS第36号「資産の減損」で定められている『資金生成単位』にかかる開示を分析します。

減損テストの目的は、固定資産が「回収可能価額」を上回る金額で財務諸表に計上されないようにすることであり、「回収可能価額」は処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方と定められていますが、使用価値は通常、個々の資産ごとに算定することができるものではありません。これは、使用価値を算定するために必要となる将来のキャッシュ・フローの見積もりは、通常単一の資産から生成されるものではなく、一体として使用する資産グループ単位で生成されるためです。日本基準、米国基準、IFRSの各基準では、減損テストのために資産のグルーピングが求められており、当該グルーピングに関してそれぞれ以下のように定められています。

日本基準

資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う。(減損会計基準 二 6.(1)参照)

米国基準

資産グループとは、長期性資産または使用目的資産の会計単位であり、資産および負債のその他のグループのキャッシュ・フローから相当程度自立的(largely independent)である、識別可能なキャッシュ・フローを有する「最小単位(lowest level)」である。(ASC360-10-20)

IFRS

資金生成単位とは、他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローとはおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成する最小の識別可能な資産グループをいう。(IAS36.6)

上述のように、日本基準、米国基準、IFRSどの基準においても、一定の資産グループを基礎として収益性を判定するという基本的な考え方は共通しています。また、各基準において、グルーピングの方法について具体的な手順の説明や設例が設けられていますが、その考え方は同様と考えられます。

今回の調査では、実際にIFRS適用初年度の財務諸表における比較年度情報から、IFRS適用前とIFRS適用後の固定資産の減損損失の計上金額に差異のある会社を抽出し、グルーピングの方法に関する記載を調査しました。調査は、2018年3月期までにIFRSに基づいて有価証券報告書を提出している会社151社を対象としています。

グルーピングの単位に関する記載の調査

比較年度において減損損失の金額に差異がある会社

93社

比較年度において減損損失の金額に差異がない会社

58社

比較年度において減損損失の金額に差異がある会社93社について、当該差異が資産のグルーピングに起因しているかどうかについて、各社の開示を調査しました。調査の結果、IFRSによる開示とIFRS適用前の基準による開示で資金生成単位にかかる記載方法が異なり、IFRS適用に際してグルーピングの基礎を変更していると考えられる会社は以下の3社がありました。これらの業種別の特徴は見受けられませんでした。各社の記載の抜粋は以下のとおりです。

例1:サービス業A社

日本基準(2012年12月期 有価証券報告書)

当社は、原則として事業をグルーピングの単位とし、遊休資産については、個別の物件を単位として判定しております。

IFRS(2013年12月期 有価証券報告書)

資金生成単位とは、他の資産または資産グループからのキャッシュ・イン・フローとは概ね独立したキャッシュ・イン・フローを生成させるものとして識別される、資産グループの最小単位となっており、当社グループは原則として各社を資金生成単位としております。将来の活用が見込まれていない遊休資産は、個別の資産を資金生成単位としております。

日本基準に基づく最後の開示年度である2012年12月期の有価証券報告書では、グルーピングの単位が「事業」と記載されていますが、IFRS適用初年度である2013年12月期の注記では、資金生成単位が「各社」と記載されています。有価証券報告における【事業の内容】を参照したところ、会社と事業が必ずしも1対1で対応しているとは見受けられないことから、IFRS適用に際してグルーピングの基礎を変更していると考えられます。

例2:製造業(ゴム製品)B社

日本基準(2015年3月期 有価証券報告書)

当社グループは、主として事業部門別に資産のグルーピングを行っており、(以下略)

IFRS(2016年3月期 有価証券報告書)

当社グループは、会社別・事業別に、キャッシュ・フローを生み出す最小単位をグルーピングしております。

日本基準に基づく最後の開示年度である2015年3月期の有価証券報告書では、「事業部門別」に資産のグルーピングを行っている旨の記載がありますが、IFRS適用初年度である2016年3月期の注記では、「会社別・事業別」にグルーピングを行っている旨、記載されています。事業部門別と会社別・事業別の明確な判別はできませんでしたが、両者は必ずしも1対1で対応していると見受けられないことから、IFRS適用に際してグルーピングの基礎を変更していると考えられます。なお、遊休資産に関するグルーピングの取り扱いについては両年度ともに言及されていませんでした。

例3:製造業(輸送用機器)C社

日本基準(2015年3月期 有価証券報告書)

当社グループは、原則として、事業用資産については事業所を基準としてグルーピングを行っており、遊休資産については個別資産ごとにグルーピングを行っております。

IFRS(2016年3月期 有価証券報告書)

当社グループは、会社別・事業別に、キャッシュ・フローを生み出す最小単位をグルーピングしています。

遊休資産については、個別資産毎に資金生成単位としております。

日本基準に基づく最後の開示年度である2015年3月期の有価証券報告書では、「事業所」を基準としてグルーピングを行っている旨の記載がありますが、IFRS適用初年度である2016年3月期では、「会社別・事業別」にグルーピングを行っている旨、記載されています。事業所と会社・事業別の明確な判別はできませんでしたが、両者は必ずしも1対1で対応していると見受けられないことから、IFRS適用に際してグルーピングの基礎を変更していると考えられます。開示上も日本基準では事業所ごとに減損損失の金額を記載していますが、IFRSでは事業別に区分されており、グルーピングの方針が適切に反映されています。

まとめ

冒頭に述べたとおり、減損に関する資産のグルーピングの方法について基準間に大きな差異はありません。しかし、たとえ同一基準の会社間で比較してもグルーピングの方法に関する開示方法は多様であり、グルーピングの方法に関して詳細かつ具体的な方法を示している会社はほとんど見受けられませんでした。上記のとおり、今回の調査で明示的にグルーピングの方法に関する記載の変更が読み取れた会社が3社ありましたが、IFRS移行に伴うグルーピングの方法の変更は極めて限定的であると考えられます。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。