IFRSを開示で読み解く(第20回)のれんの減損-IFRS初度適用時

2016-04-04

PwCあらた監査法人
北尾 聡子

今回は、IAS第36号「資産の減損」で定められている『のれんの減損』にかかる開示を分析します。

IAS第36号では、のれん、耐用年数を確定できない無形資産および未だ使用可能でない無形資産については、減損の兆候の有無にかかわらず、減損テストを実施しなければならないとされています。当該減損テストは、毎年同時期に実施するのであれば、事業年度中のいつでも実施することができます。ただし、当事業年度中に無形資産を当初認識した場合には、当該無形資産については当事業年度の末日前に減損テストを実施することが求められます(IAS第36号第10項)。

この点日本基準においては、減損が生じている可能性を示す事象(以下「減損の兆候」という。)がある場合には、減損損失を認識するかどうかの判定を行います。IFRSにおいては、のれんや耐用年数を確定できない無形資産は償却しないため、減損の兆候の有無にかかわらず減損テストを毎期実施しなければならない点に留意する必要があります。

また、IFRS初度適用会社においては、のれんが減損しているという兆候の有無にかかわらず、IFRS移行日におけるのれんの減損テストとそれによる減損損失の利益剰余金への認識をIAS第36号に従って行わなければなりません。この減損テストは、IFRS移行日現在の状況に基づいて行わなければならないとされています(IFRS第1号「初度適用」第C4(g)(ⅱ)項)。

IFRS適用企業において「のれんの減損損失を計上した企業」が、移行日及び、比較年度末、適用年度末で、業種別に見てどの程度あるのか、開示から読み取れる情報は以下の通りです(調査実施時点:2016年2月末)。

IFRS適用会社62社(うち、のれん該当なし等対象外6社を除く56社)のうち、移行日で減損損失を計上した会社は13社あり、業種別では以下の通りです。移行日で計上後、比較年度末及び適用年度末においても減損損失を計上している会社もあれば、移行日で計上した後比較年度末及び適用年度末では計上していない会社もありました。

移行日で減損損失を計上した会社

業種

移行日計上

比較年度末計上

適用年度末計上

卸売業

3社

3社

3社

情報・通信業

3社

1社

2社

サービス業

3社

1社

1社

証券、商品先物取引業

1社

1社

1社

電気機器

1社

‐社

‐社

ガラス・土石製品

1社

‐社

‐社

輸送用機器

1社

‐社

‐社

合計

13社

6社

7社

移行日で減損損失を計上しなかった会社

IFRS先行適用会社62社(うち、のれん該当なし等対象外6社を除く56社)のうち、移行日では減損損失を計上しなかった会社は43社あり、そのうち減損損失を比較年度末で計上した会社は12社、適用年度で計上した会社は12社で、業種別以下の通りです。

業種

移行日計上しない

比較年度末計上

適用年度末計上

卸売業

4社

1社

1社

情報・通信業

2社

1社

1社

サ‐ビス業

3社

1社

‐社

証券、商品先物取引業

1社

‐社

1社

電気機器

7社

3社

2社

ガラス・土石製品

1社

1社

‐社

輸送用機器

6社

1社

1社

医薬品

6社

1社

2社

陸運業

1社

1社

‐社

その他金融業

2社

1社

‐社

精密機器

1社

1社

1社

小売業

2社

‐社

2社

化学

2社

‐社

1社

機械

3社

‐社

‐社

食料品

1社

‐社

‐社

鉄鋼

1社

‐社

‐社

合計

43社

12社

12社

次に、IFRSで求められている「のれんの減損」にかかる開示要求事項とその開示状況についてご紹介します。

  1. 資金生成単位(単位グループ)に配分したのれんの帳簿価額が、企業全体ののれんの帳簿価額に比して重要である場合(IAS第36号第134項)と
  2. のれんが複数の資金生成単位に配分されており、資金生成単位に配分されたのれんの金額が、企業全体ののれんの帳簿価額に比して重要でない場合(IAS第36号第135項)

とで、(1)の方がより詳細な開示が求められています。いずれにおいても、回収可能価額の算定基礎(使用価値か処分コスト控除後の公正価値)、使用価値に基づいている場合の仮定の開示が要求されています。IAS第36号設例9では、主要な仮定として、「予算上の売上総利益率、国際の金利、予想消費者物価指数」の例が示されています。そこで、IFRS適用企業で減損損失を計上した企業のうち、回収可能価額の算定基礎として使用価値に基づいている場合の、(1)割引率、(2)将来キャッシュフローの予測期間、(3)成長率について、各社の開示状況を以下にご紹介します。

業種

(1)(税引前)割引率

(2)将来キャッシュ・フロ‐の予測期間

(3)成長率

卸売業

加重平均資本コスト
7‐8%

原則として5年を限度

資金生成単位が属する地域の市場の長期平均成長率を勘案して決定

情報・通信業

前連結8.4%、当連結8.2%

経営者によって承認された中期経営計画を基礎とする使用価値

中期経営計画以降の期間は、過去の実績と外部からの情報をもとに資金生成単位が属する市場もしくは国の長期期待成長率を超えない成長率を使用し使用価値を算定

サ‐ビス業

前連結9.1%、当連結8.9%

経営陣により承認された翌事業年度の予算およびその後4か年の業績予測を基礎とする使用価値

3.2%を継続成長率として設定

電気機器

移行日7.62%、前連結7.89%、当連結7.52%

取締役会で承認された直近の事業計画を基礎として算定された使用価値

承認された事業計画以降の見積将来キャッシュフロ‐に関しては、資金生成単位が属する市場の長期平均成長率を基礎とした一定の成長率により算定

電気機器

加重平均資本(前連結、当連結5%)

事業計画は外部情報に基づき、過去の経験を反映したものであり、原則として5年を限度としている。

事業計画後のキャッシュフロ‐は、成長率をゼロと仮定

電気機器

移行日14.2%、前連結11.5%、当連結10.6%

3カ年の事業計画

資金生成単位が属する地域の市場の長期平均成長率を勘案して決定(0.5%)

輸送用機器

割引率(%)について記載なし

経営陣によって承認された最長5年間の予測を基礎として算定された使用価値

5年を超えるキャッシュフロ‐の予測は、一定または逓減する成長率を適用し、以降の年度分を推測して延長することにより見積もっている。

陸運業

9.8%~16.5%加重平均資本コスト

事業計画は外部情報に基づき、過去の経験を反映したものであり、原則として5年を限度としている。

資金生成単位が属する市場の長期平均成長率の範囲内で見積もった成長率をもとに算定

その他金融業

13.7%~14.8%(UK)
29.2%(インドネシア)

経営者によって承認された原則5年以内の事業計画を基礎に基づいて算定

原則5年以内の事業計画期間を超える将来キャッシュフロ‐は、過去の業績及び各市場において予測される平均成長率等を勘案して推定

小売業

%の記載なし
資金生成単位の加重平均資本コスト

経営陣によって承認された今後5年間の予測を基礎として算定された使用価値

5年を超えるキャッシュフロ‐は、一将来の不確実性を考慮し、成長率を零と仮定して5年目のキャッシュフロ‐金額と同様で推移すると仮定

化学

加重平均資本コスト(WACC)20.3%

事業計画は外部情報に基づき、過去の経験を反映したものであり、原則として5年を限度としている。

資金生成単位が属する市場の長期平均成長率の範囲内で見積もった成長率をもとに算定

化学

資金生成単位の属する組の加重平均資本コスト(8.9%~13.7%)

マネジメントが承認した予測(5年を限度)を基礎として算定

市場の長期平均成長率を超過する成長率は使用していない。

このように、回収可能価額の算定基礎(使用価値)にかかる主要な仮定として、ほとんどの企業が(税引前)割引率を開示し、将来キャッシュフローの見積もり期間としては、原則5年でそれ以降は一定の成長率を見込んでいるとしている企業が比較的多く見られました。(税引前)割引率に関しては、資金生成単位が属する市場または国によって、開示内容に多様性が見受けられました。

参考(基準抜粋)

(134項)企業は、資金生成単位(単位グループ) に配分したのれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額が、企業全体ののれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額に比して重要である場合には、当該各資金生成単位(単位グループ) について、次の(a)から(f)までの情報を開示しなければならない。

(a) 当該単位(単位グループ) に配分したのれんの帳簿価額
(b) 当該単位(単位グループ) に配分した耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額
(c) 当該単位(単位グループ)の回収可能価額の算定基礎(すなわち、使用価値か処分コスト控除後の公正価値か)
(d) 当該単位(単位グループ)の回収可能価額が使用価値に基づいている場合には、次の事項
(i) 直近の予算・予測が対象としている期間のキャッシュ・フローの予測について、経営者が基礎とした主要な仮定。主要な仮定とは、当該単位(単位グループ) の回収可能価額が最も敏感に反応する仮定である。
(ii) 各々の仮定に割り当てた値を算定した経営者の手法の記述。それらの値が過去の経験を反映したものかどうか、又は該当があれば、外部の情報源と整合的であるかどうか。そうでない場合には、過去の経験又は外部の情報源と異なる程度及びその理由
(iii) 経営者が、資金生成単位(単位グループ) について、承認した財務上の予算・予測に基づいてキャッシュ・フローの予測を行った期間及び、その期間が5年よりも長い場合には、そのような期間が正当である理由についての説明
(iv) 直近の予算・予測が対象としている期間を超えてキャッシュ・フロー予測を推定するために用いた成長率、及び成長率として当該企業が事業を営む製品、産業若しくは国の長期の平均成長率、又は当該単位(単位グループ) が属する市場の長期の平均成長率を超えた成長率を用いている場合には、その正当性の説明
(v) キャッシュ・フロー予測に適用した割引率
(e) 当該単位(単位グループ)の回収可能価額が、処分コスト控除後の公正価値に基づいている場合には、処分コスト控除後の公正価値を測定する際に用いた評価技法。企業はIFRS第13号で要求している開示を提供することを要求されない。処分コスト控除後の公正価値が、同一の単位(単位グループ)の相場価格を用いて測定されていない場合には、企業は次の情報を開示しなければならない。
(i) 経営者が処分コスト控除後の公正価値の算定にあたって基礎とした主要な仮定。主要な仮定とは、資金生成単位の回収可能価額が最も敏感に反応する仮定である。
(ii) 主要な仮定のそれぞれに割り当てた値を算定した経営者の手法の記述。それらの値が過去の経験を反映したものかどうか、又は該当があれば、外部の情報源と整合的であるかどうか。そうでない場合には、過去の経験又は外部の情報源と異なる程度及びその理由
(iiA) その公正価値測定が全体として区分される公正価値ヒエラルキーの中のレベル(IFRS第13号参照)(「処分コスト」の客観性については考慮しない)
(iiB) 評価技法の変更があった場合には、その変更の旨及び変更を行った理由
処分コスト控除後の公正価値が、割引キャッシュ・フロー予測を用いて測定されている場合には、企業は次の情報を開示しなければならない。
(iii) 経営者がキャッシュ・フローを予測した期間
(iv) キャッシュ・フロー予測を延長するために用いた成長率
(v) キャッシュ・フロー予測に対して適用した割引率
(f) 経営者が当該単位(単位グループ)の回収可能価額の算定の基礎とした主要な仮定についての合理的に考え得る変更により、当該単位(単位グループ)の帳簿価額が回収可能価額を上回ることになる場合には、次の事項
(i) 当該単位(単位グループ) の回収可能価額が帳簿価額を上回っている金額
(ii) 主要な仮定に割り当てた値
(iii) 当該単位(単位グループ)の回収可能価額を帳簿価額と等しくするには、主要な仮定に割り当てた値がどれだけ変化しなければならないか(その変化が回収可能価額の測定に使用される他の変数に与える影響を反映した後)

(135項)のれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額の一部又は全部が、複数の資金生成単位(単位グループ)にわたって配分されており、そのように各単位(単位グループ)に配分された金額が、企業全体ののれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額に比して重要ではない場合には、その旨を、当該単位(単位グループ)に配分されたのれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額の合計とともに開示しなければならない。加えて、それらの単位(単位グループ)の回収可能価額が同じ主要な仮定に基づいていて、それらに配分されたのれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額の合計が、企業全体ののれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額に比して重要である場合には、次の情報とともに当該事実を開示しなければならない。
(a) 当該単位(単位グループ)に配分したのれんの帳簿価額の合計
(b) 当該単位(単位グループ)に配分した耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額の合計
(c) 主要な仮定の記述
(d) 主要な仮定のそれぞれに割り当てた値を算定した経営者の手法の記述。それらの値が過去の経験を反映したものかどうか、又は該当があれば、外部の情報源と整合的であるかどうか。そうでない場合には、過去の経験又は外部の情報源と異なる程度及びその理由
(e) 経営者が当該単位(単位グループ)の回収可能価額の算定の基礎とした主要な仮定についての合理的に考え得る変更により、当該単位(単位グループ)の帳簿価額が回収可能価額を上回ることになる場合には、次の事項
(i) 当該単位(単位グループ) の回収可能価額が帳簿価額を上回っている金額
(ii) 主要な仮定に割り当てられた値
(iii) 当該単位(単位グループ)の回収可能価額を帳簿価額と等しくするには、主要な仮定に割り当てた値がどれだけ変化しなければならないか(その変化が回収可能価額の測定に使用される他の変数に与える影響を反映した後)  

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。