IFRSを開示で読み解く(第10回)引当金に関する開示

2015-07-22

PwCあらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
宮田 美幸

本稿では、引当金に関する日本基準とIFRSにおける開示の差について解説し、その差は主に「1. 認識・測定の考え方の差」によるもの、および「2. 表示の考え方の差」によるもの、という2つに分類して説明します。
「1. 認識・測定の考え方の差」については、日本基準で「引当金」としていたものがIFRSでは容認されない場合や、逆に日本基準では計上されていなかったものがIFRSでは要求される場合があります。また、「2. 表示の考え方の差」については、日本基準で引当金として表示されていたものが、IFRSでは引当金以外の別の勘定に計上される場合や、逆に日本基準で引当金として表示していなかったものが、IFRSで引当金に含まれる場合があります。

調査対象はIFRS適用企業38社(2015年4月23日現在)のうち、IFRSに基づく有価証券報告書提出済みの企業30社を対象としており、直近の会計年度(3月決算企業の場合は2014年3月期)の有価証券報告書(IFRS)にて表示・開示されている引当金に関する項目と、IFRS移行前の年度の有価証券報告書にて表示・開示されている引当金に関する項目につき比較を行いました。

(注)
1. 調査で使用した資料は有価証券報告書のみです。
2. 日本基準とIFRSにおける開示の差の説明は、IFRS適用初年度の調整表に記載されている説明を参考にしています。ただし、調査対象企業によってはIFRS適用初年度と、直近の会計年度の開示内容に差が出ていても、その差の説明は省略されており、理由が明確でない場合がありました。
3. IFRS適用前に米国基準を採用している企業は6社あり、下記1と2(2)、(3)の分析からは除いています。
4. 新規上場する際にIFRSを適用し、前期に日本基準に基づく有価証券報告書を提出していない企業は2社あり、下記2(2)、(3)の分析からは除いています。

1. 日本基準とIFRSにおける開示の差が「認識・測定の考え方の差」によるもの

「認識・測定の考え方の差」により、日本基準では認識していたものの、IFRSでは認識していない項目、また逆にIFRSで必要とされるため日本基準で認識していなかったものを新たに引当計上した項目は次のとおりです。

分類

関連項目名

企業数

IFRSでは債務性を有さず、引当金として認識しなくなった項目

修繕引当金

3

ポイント引当金

2(*1)

その他

2

IFRSでは債務性を有すため、引当金として認識し始めた項目

有給休暇引当金

2(*2)

*1 ここでいうポイント引当金は、企業で提供するポイントサービスがIFRS上のカスタマー・ロイヤルティー・プログラムに相当する場合と考えられます。当プログラムを採用している場合、ポイントは、顧客へ将来引き渡される別個の商品またはサービスであると見なされ、当初の販売取引とは別個の構成要素として認識することがIFRS上求められます。
*2 有給休暇引当金として「引当金」勘定に表示している会社は2社です。有給休暇に関する債務を計上したことを開示している企業は、その他17社あり、説明されている勘定科目と企業数はそれぞれ「その他の流動負債」あるいは「その他の負債」(9社)、「従業員給付(に係る負債)」(2社)、「営業債務及びその他の債務」(1社)、不明(5社)です。

2. 日本基準とIFRSにおける開示の差が「表示の考え方の差」によるもの

ここでは引当金に関連し、(1)連結貸借対照表と連結財政状態計算書における勘定科目の違い、に加えて(2)日本基準の会計方針に記載されているが、IFRSでは引当金として説明されていないもの、さらには(3)IFRSの会計方針では引当金として説明されているが、日本基準では説明されていないものについての比較結果を記載します。また、最後にIFRSで引当金として会計方針や注記で開示されている項目を(4)として紹介します。

(1)勘定科目

日本基準では、賞与引当金や役員賞与引当金、役員退職慰労引当金といった引当金を、連結貸借対照表にて別掲している企業が多数あります。一方、IFRSにおいては個別の引当金を別掲する例はなく、調査対象企業30社のうち、引当金自体を別掲しない企業を除く26社が連結財政状態計算書の中で「引当金」という勘定科目を使用していました。

(2)日本基準の会計方針

日本基準の会計方針にて「~引当金」と説明されていた主なもののうち、IFRSでは同様の性質のものが「引当金」として会計方針あるいは注記に説明されておらず、「引当金」以外の勘定に含まれていると説明されている、あるいは説明が省かれたものは次のとおりです。

日本基準

IFRS

企業数

賞与引当金※

その他の流動負債/その他の負債

6

不明

7

役員賞与引当金

その他の流動負債/その他の負債

1

従業員給付

1

不明

9

役員退職慰労引当金

従業員給付

1

不明

8

※賞与引当金については、日本基準と同様にIFRSでも引き続き賞与引当金としている企業は1社ありました。

特に賞与引当金については、企業によってその考え方や方針が異なるため、新たにIFRSの導入を検討する場合、どの科目へ計上するかの検討が必要です。

(3)IFRSの会計方針

IFRSの会計方針では引当金として説明されている一方で、日本基準では引当金として説明されていなかった主な項目は次のとおりです。資産除去債務は日本基準では引当金とは区別して規定されているためと考えられます。(資産除去債務に関する会計基準32項‐34項)。

IFRS

企業数

資産除去債務/資産除去費用引当金/資産除去債務引当金

8

リストラクチャリング引当金

2

資産除去債務は日本基準上、多くの会社で認識はされているものの、企業により金額の重要性の観点から会計処理方法が異なることがあり、例えば「その他固定資産」に計上されていたり、敷金がある場合の調整として資産から控除されていました。IFRS適用にあたり、多くの企業が「引当金」の会計方針で資産除去債務の説明を行っています。

(4)IFRSで「引当金」として開示されている項目一覧

調査対象30社について、IFRSで引当金として会計方針および、あるいは注記で開示されている項目を集計した結果は次のとおりです。会計方針や注記において一番多くの企業が開示しているのは資産除去債務でした。続いてリストラクチャリング関連の引当金であり、販売関連の引当金についても説明している企業が多い傾向にあります。また、下の表では示していませんが、業種別では電気機器・精密機器産業の企業では製品保証引当金が、また、製薬企業では販売に関する引当金を多く開示している傾向にありました。

引当金の名称

企業数

会計方針および注記で開示

注記のみで開示

会計方針のみで開示

資産除去債務/資産除去費用引当金/資産除去債務引当金

16

9

0

構造改革費用引当金/リストラクチャリング引当金/事業構造改善引当金/事業再編引当金

3

5

1

販売に関する引当金/売上割戻引当金/返品調整引当金/ポイント引当金

0

8

0

製品保証引当金

3

4

0

従業員給付に係る引当金/賞与引当金/有給休暇引当金

1

6

0

請求および訴訟引当金/和解費用引当金

1

5

1

環境引当金/環境対策引当金

0

4

0

不利な契約等の引当金

0

3

0

当局指摘に関する引当金(※1)

0

2

0

設備処分に関する引当金(※1)

0

2

0

1社のみ使用していた「引当金」(※2)

0

4

0

※1:実際に使用されている名称は、具体的な名称が使われており、ここでは省略しています。
※2:1社のみ使用していた引当金の勘定科目名は次のとおりです:債務保証損失引当金、契約損失引当金、受注損失引当金、利息返還損失引当金

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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