IFRSを開示で読み解く(第9回)投資不動産に関する開示

2015-05-12

あらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
廣井 真

今回は投資不動産の領域における、国際財務報告基準(以下、「IFRS」)が日本企業に与える影響を分析します。

IAS第40号「投資不動産」(以下「IAS40」)では、投資不動産とは賃貸収益もしくは資本増価もしくはその双方を目的として保有する不動産であり、企業によって保有されるそのほかの資産とは独立したキャッシュ・フローを生み出すものとされています。従って、製品の製造工場、販売またはサービスの提供を目的とする営業所、本社ビルなどの自己使用不動産はIAS第16号「有形固定資産」で規定されます。また、販売目的で保有されるマンションなどは、IAS第2号「棚卸資産」で規定され、それ以外の投資目的の不動産が(定義を満たせば)IAS40で規定される「投資不動産」となります。

一番大きなIAS40と日本基準との差異としては評価モデルがあり、IAS40では原価モデルと公正価値モデルが会計方針として選択適用可能です。IAS40ではどちらのモデルも投資不動産の取得時は取得原価(取引コスト含む)で計上されますが、事後測定の際に2つのモデルの選択が可能となっており、原価モデルを採用する場合は投資不動産を取得原価で計上し(減損の検討は必要)、公正価値情報の開示が必要となっているのに対して、公正価値モデルを採用した場合、公正価値の変動から生じる差損益は発生した期の損益に含められます。これに対して、日本基準では賃貸等不動産として、取得原価での評価および時価情報の開示が要求されます。

以下は日本のIFRS適用会社における投資不動産の会計処理をまとめたものです(2015年4月8日現在)。

業種

投資不動産の会計方針を
記載している企業

原価モデル採用

公正価値モデル採用

電気機器

2

2

-

卸売業(商社含む)

7

7

-

ガラス・土石製品

1

-

1

食料品

1

1

-

証券・商品先物取引業

1

1

-

不動産業

1

1

-

医薬品

1

1

-

合計

14

13

1

上記のように、1社を除き全て原価モデルを採用しています。公正価値で評価する場合は、一般的に当該不動産の見積り将来キャッシュ・フローを現在価値に割引いたディスカウント・キャッシュ・フロー法で計算する、もしくは外部の鑑定結果に基づき公正価値を算定することになり、その差額は損益として計上されます。不動産市況の変動が損益にダイレクトに影響することになるため、不動産賃貸を本業としている企業を除き、業績に対する不確定要素を可能な限り排除したいという意図があるのではないかと推察されます。

IAS40では、企業に採用した評価モデルを、会計方針として、保有する全ての投資不動産に対して適用することを要求しています。一度決定した評価モデルの変更は会計方針の変更に該当し、その影響について信頼性があり、より目的適合性の高い情報を提供する場合でない限り、変更することは原則認められません。そのため、評価モデルの決定は慎重に行われる必要があります。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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