香港金融管理局が公表した銀行のカルチャーに関するセルフアセスメントの結果から見る、カルチャー醸成の取り組みと課題

2020-06-23

香港金融管理局が、当地の銀行と外国銀行支店を含む30行により実施された、カルチャー推進に関するセルフアセスメントの結果を公表しました。当局が2017年から実施する銀行のカルチャー改革に関する活動の一環です。セルフアセスメントは「ガバナンス」「インセンティブシステム」「カルチャー施策に関する評価とフィードバックのメカニズム」の大きく3つの領域について実施されており、概略をまとめると、以下のようなポイントがあげられます。

ガバナンス

  • 香港の銀行全てが、独立の社外取締役が議長を務め、カルチャーに関連する事項を審議事項とする、取締役会レベルの委員会を有している。そのうち65%は報酬関連の委員会を拡大したもの、30%はリスク関連の委員会を拡大したものであり、5%が独立して設置をしていた。
  • 外国銀行支店ではグローバルまたは地域レベルで設置された取締役会レベルの委員会がカルチャーや倫理、コンダクトを監督しており、いつくかの銀行ではリスクマネジメントや、報酬、ガバナンス関連の委員会においてカルチャーがアジェンダとされていた。
  • セルフアセスメントに参加した銀行では最低でも1年に1回、多いところでは四半期ごとにカルチャー推進活動の効果がレビューされている。
  • 取締役会レベルの委員会で議論されているカルチャー関連の事項として多かったものは順番に、カルチャー関連施策の進捗状況、カルチャーダッシュボード※1のアップデート、自社の文化に関する声明や行動基準のレビューと承認、従業員サーベイのレビュー、内部監査によるカルチャー評価のレビューなどであった。
  • 経営トップからのカルチャーに関する伝達手段としては、一方向のものとしてはカルチャーに関するニュースレター(経営の見方や方向性、不正行為の事例に関する注意喚起、関連する会社のポリシーやガイダンスに関する情報の更新などを含む)や、Eラーニング、スクリーンセーバーやスタッフカードがよく用いられており、双方向のものとしてはタウンホールミーティング、コンダクトやカルチャーに関する研修、事例共有セッション、シニアマネジメントとの食事会などが多く用いられていた。

インセンティブシステム

  • セルフアセスメントに参加した多くの銀行が、採用プロセスにおいて、候補者の各行における望ましいカルチャーやバリューへの適合、過去のコンダクトに関する実績や倫理観などカルチャーに関連する要素を評価に組み込んでいる。これらはカルチャーフィット・アセスメントや、誠実さや価値観に関するアセスメント、ふるまいに関する質問などの形で実施されており、面接官に対してカルチャーに関連するインタビュースキルの研修を実施している銀行もあった。
  • 全ての銀行が、パフォーマンス評価に非財務的指標を組み入れている。よく見られるものとしては、ポリシーや手順の遵守、銀行のバリューの遵守、CS評価などコンダクトに関連する指標や、顧客アウトカム※2がある。
  • 多くの銀行が上記のような非財務指標による評価を財務指標での評価とは別に取り入れつつも、非財務指標で低い評価を受けた場合、報酬の変動部分にどのくらいの影響を及ぼすかについては、セルフアセスメントにおいて詳細な記述が少なかった。非財務指標の高低が報酬に与える具体的な割合を示している銀行はわずかだが存在しており、両者の連動を示すことは、組織としてバリューを重視しているこという従業員に対するメッセージとなる。
  • 76%の銀行が、望ましい行動を促進するために非金銭的報酬を取り入れていた。サンキューカードのようなものから表彰、シニアマネジメントからの賛辞やCEOとの食事会、バケーション・パッケージまでさまざまな形態があった。

カルチャー施策に関する評価とフィードバックのメカニズム

  • 90%がコンダクトとカルチャーに関するダッシュボードを使用しているが、何が適切な指標であるかについては多くの銀行がまだ手探りの状態である。
  • ダッシュボードに含まれる指標としてよく見られるものは、法令・規制違反の数、顧客からの苦情件数、従業員からの“スピークアップ”(通報)件数、従業員サーベイ、懲罰件数、顧客満足度サーベイ、リスクリミットの超過件数などがある。
  • 従業員からのスピークアップを促進するために、金銭的または非金銭的報酬を設けているユニークな事例もあった。スピークアップされた事案が調査、証明された後に通報者に感謝状を送る、人事評価の際に考慮するなどである。または潜在的損失額の一定割合を金銭的報酬として支払うといった事例も見られた。

各銀行が試行錯誤しながらも、望ましいカルチャーの醸成に向けて体制や制度を徐々に整えていっていることがうかがえます。一方で、レポートの末尾に従業員がさまざまな施策に追われ「カルチャー疲れ」を起こすことへの注意喚起もなされています。手当たり次第に施策を実行するのではなく、PDCAを回しながら本当に効果的なものを見極めていくことが必要です。カルチャーの改革が現場の行動変革を迫るものである以上、なぜやるのかに対して、「現場の納得感」を醸成することがきわめて重要だと言えるでしょう。

注釈

※1 カルチャーに関するKPI等を一覧化したマネジメント向けのレポート。

※2 サービスの提供によって顧客側にもたらされた便益。

執筆者

大野 大

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。


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