日本の金融機関にアジャイル型監査を導入する上での課題

2020-05-14

ビジネスの変革スピードが加速し、ステークホルダーが内部監査に求める価値が多様化する中で、内部監査へのアジャイルな手法の適用(以下、アジャイル型監査)が注目を集めています。小さくてコンパクトなチーム(3~5人である場合が多い)が、小さなPDCAを繰り返しながらプロジェクトを進めるのが、アジャイル型監査の基本的な考え方です。PwCにはアジャイル型監査の導入支援実績が豊富なプロフェッショナルが多数在籍していますが、今回は海外のPwCオーストラリアから本領域の専門家とともに、日本の複数の金融機関とディスカッションを行いました。その中から見えてきた、日本の内部監査の特徴、アジャイル型監査を導入する上でのチャレンジをまとめました。

日本の金融機関の内部監査の特徴

概して言えば、海外と比較して日本の金融機関における内部監査の慣行は大きく異なる点はありません。内部監査部門はビジネスパートナーとして認識され、付加価値のある活動を行っていると思います。しかしながら、次のとおり日本ならではの特徴が見られます。

  • 文化
    • ヒエラルキー:職場における文化は基本的に階層意識が強いため、内部監査部門で働く人たちが説明責任を果たし、懸念や課題をオープンに話し合えるようなフラットな組織にするためには、マインドセットの転換が必要です。
    • マネジメント・スタイル:欧米企業の日本法人では、親会社がビッグバン型アプローチでアジャイル型監査の導入を一括して進めているところもあります。一方で、1つのプロジェクトでパイロット導入を実施し、そこからの学びを他の領域にも適用している会社もありますが、このようなパイロット導入から始める手法の方が最適かつ有益な方法だと考えます。
    • 承認のプロセス:承認に多くの階層を要することは、さまざまな案件の承認サイクルにおいて、非効率さを増大させます。
  • 技術
    • データ分析:データ変換ツールやビジュアライゼーションツールがオーストラリアをはじめとした諸外国と比較すると広範には採用されていないようです。
    • ツール:監査の管理におけるツールの使用も限定的です。
  • 人材
    • チームメンバー:内部監査チームのメンバーの多くは、社内の各部署における豊富な業務経験を有しています。その方々が内部監査領域そのものの実務経験を得る機会が増えると、よりチームのレベルアップになると思います。
    • 監査資源の制約:監査チームのメンバーは複数の監査を同時に担当しており、優先順位づけに苦慮しています。
    • 知見の共有:チーム内で知見を共有する仕組みの効率化が急務です。
  • 報告
    • 監査の終盤、被監査部署との課題の合意、内部レビューや承認のために報告のタイムラインが延長されることがよくあります。
  • ビジネスのアジリティ
    • 多くの国でビジネスがアジャイルなやり方に変わってきており、それはリスクや内部監査部門もそれに合わせて適応することを求めています。しかしながら日本では組織全体の変革を推進するためにアジャイル型監査を採用し、ビジネスに先駆けて内部監査部門が革新するという独特の展望も見られました。
  • アジャイルの哲学
    • 例えばカイゼン、アンドン、などといった独自の生産管理手法を生み出してきた日本はアジャイルの概念を受け入れるために十分な素地があると思います。

日本の被監査部門の特徴と、日本でアジャイル型監査を導入する上でのポイント

被監査部門に関しては、アジャイル型監査の導入にあたり克服すべき課題となるであろう、アジャイルなアプローチへの理解を深めるための研修を受ける必要がある点以外は、特に他国の状況と違いはないと思います。

過去の経験から、アジャイル型監査の最も良い導入のステップは以下の通りです。

  • 組織における内部監査の位置づけについて理解する(ワークショップを通じて洞察を得て、情報を収集する)
  • アジャイル型監査をリードする人たちをトレーニングする(組織を変革することの利益を強調する)
  • 経営陣からのコミットメントを得る
  • アジャイル型監査をパイロットで実施する(テクノロジーに関連する領域が理想)
  • アジャイル・コーチングへの投資を行う‐内部監査を理解している経験豊富なアジャイル・コーチを雇う。これにより組織全体に経験を定着させ、大きな利益を得ることができる。
  • 測定指標を策定し、成功の度合い(全体工数の削減と品質の向上)を測る
  • アジャイル型監査を関連するその他の監査領域にも広げる(継続的な改善を行う)

日本でアジャイル型監査を導入する際のチャレンジ、変わるべきところ

日本の金融機関におけるチャレンジとその克服の仕方は以下の通りです。

  • 多くの日本の金融機関では、アジャイル型監査についての経営陣の理解を得るためにそのメリットを明確に示すという、課題に直面しています。これを行う最良の方法は、リーダー陣への研修と有益な改善をもたらしたパイロット監査の結果を示すことです。
  • 時間的コミットメントや事業側からの返答にかかる時間などは、最初は追加的に発生する負荷に感じるかもしれませんが、監査の過程で監査に費やされる時間は減少します。アジャイル型監査を導入することにより、潜在的に通常監査およびテーマ監査にかかる相当の時間を削減することができます。
  • レビューの最後にレポートを作成するのではなく、中間レポートがスプリントに基づいて段階的に作成されるため、レポーティングに大きな変化があります。これに関してよく聞かれる質問としては、中間レポートのリスクレーティングに関するものです。これは被監査部門との合意を得るために開催されるショーケース・ミーティングにおいて議論される、「予想レーティング」のような形になっていきます。
  • 監査が開始され、コントロールを特定する前に、広範なビジネスプロセスのウォークスルーが必要になる場合があります。そのような時、フィールドワークを開始する前に数週間程度のプランニング・スプリントが必要になることがあります。
  • マインドセットの変革‐内部監査にアジャイルを採用するには時間がかかり、全ての監査に適用できるとは限らないことを認識することが重要です。アジャイル型監査を導入する大きな目的は、事業側にとってより妥当で、リスクを早期に発見し、より協調的な監査を行うことですが、監査人としての独立性と客観性は維持しなくてはいけません。

アジャイル型監査は内部監査部門が独立性・客観性を保ちながら、ビジネスパートナーとしてより付加価値の高い活動を行うために有効な手法です。しかしながら新しいコンセプトであるがゆえに間違った解釈や導入にあたって社内の理解が得られないことも多いようです。単に個別監査のアプローチを変えるだけでなく、監査部署自体のトランスフォーメーションとして組織体制や監査計画の立て方も変えていく長期的な発想も不可欠となります。PwCあらた有限責任監査法人ではアジャイル型監査の導入を通じた、内部監査部門の組織変革支援を行っています。詳しくは以下のサービス案内をご覧いただき、担当部署までお問い合わせください。

執筆者

ガネシュ ジョナラガッダ

シニアマネージャー, PwC Australia

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大野 大

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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