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脱炭素をはじめとしたサステナビリティ対応や、CASE(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)などの潮流、それを支えるSDV(Software Defined Vehicle)の進展が自動車産業の構造変革を加速させています。加えて、先の読めない地政学的なリスクへの備えや、難しい関税対応や資源調達に伴うこれまでとは異なる視点からのサプライチェーンの点検、さらには社会の不安定化から生じる不祥事の防止や、サイバーセキュリティ、世界的な気候変動への対応など、業界が直面する課題はかつてない複雑さを見せています。こうした中、OEM(完成車メーカー)や部品サプライヤーには、M&Aやアライアンスを含む事業ポートフォリオの見直しや、変革に向けた新たなガバナンス体制の設計が求められています。「Transact to Transform――M&Aを通じた変革の実現」をテーマにした鼎談シリーズ第5回では、PwC Japanグループの産業・サービスセクターのプロフェッショナルが、自動車業界のグローバル市場の構造変化、日本企業が抱える課題、将来に向けた打ち手などについて議論しました。
登壇者
PwC Japan有限責任監査法人 パートナー
山中 鋭一
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
金澤 信隆
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター
阿部 健太郎
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
左から、金澤 信隆、山中 鋭一、阿部 健太郎
金澤:自動車産業は現在、大きな転換期にありますが、その背景にはいくつかの要素が複雑に絡み合っていると思います。1つは、ネットゼロ(脱炭素)に端を発するEV(電気自動車)シフトの加速。そして、その延長線上にあるSDVに代表されるような、ソフトウェア重視の技術革新が進んでいることなどです。これらの要素が融合することにより、モビリティという概念が再定義されつつあると感じています。
これまで自動車産業は、日本の基幹産業として高い競争力を長年誇ってきました。しかし現在は、こうした潮流を受けて、OEMのみならず、それを支えてきたサプライヤーも難しい局面に立たされています。事業環境の急変に伴って苦戦を強いられる企業もあり、従来の「系列の枠組み」を超えた再編も含めて、よりプロアクティブに動くことが求められる状況だと理解しています。山中さんは、自動車産業全体の状況をどのように見ていますか。
山中:私も金澤さんと同じ認識です。まず、気候変動への対応の観点で、全体的に電動化が進んでいます。ここで言う電動化とは、バッテリーEVだけでなくハイブリッドも含めた広い意味での電動化です。電動車にはソフトウェアが必要不可欠であり、今後は搭載されるソフトウェア自体の高度化・進化、および自動車産業における重要性も加速していくと見ています。さらには、自動運転技術の発達も無視できません。これらの領域で後れを取ってしまうと、次の時代に生き残れない可能性がある――それが今の自動車産業全体を取り巻く環境だと考えています。
また、部品メーカーについては、これまでOEMの系列構造の中で動いてきた面がありましたが、今後はそうした関係性を見直していく必要があると感じています。このような構造変化が進む中では、従来の業界の姿や役割分担を変えていかざるを得ず、再編や新たな体制づくりといった動きが一層広がっていくことが予想されます。
金澤:そうですね、こうした状況を踏まえ、私も「業界の垣根を越える必要性」を強く感じています。また、これまでのコンペティターとは異なり、「クロスボーダーの新たな競争環境」にどう対応していくかといった課題もあります。そこで、日本企業はどう戦っていくべきか。もちろん選択肢は多々あると思いますが、全体戦略の観点から特に重要になってくる点は何か――企業にさまざまな観点で戦略アドバイスを行っている阿部さんは、意識すべきポイントをどのように考えていますか。
阿部:戦い方という観点で考えた時、「従来の延長線上にある部分」と「大きく変わりつつある部分」の両面が存在していると思います。
まず「従来の延長線上にある部分」についてですが、これまで自動車産業は海外事業の拡大や取引先の増加によって市場を広げる戦略を取ってきました。しかし、現在は市場の成熟化が進み、拡大期に有効だった戦略が通用しづらくなっています。特にコロナ禍以降、国によっては2019年以前の水準に戻り切っていないケースも多く、従来型の拡大戦略には限界が見え始めています。これまで主流だった内燃機関の車やコネクテッド化されていない車、SDVではない車の市場は、今後縮小していきます。プレーヤー数が市場規模に対して多すぎる供給過多の状態、すなわち成熟期・衰退期に向かう市場で、従来型の付加価値のみで戦おうとすれば、競争力を維持できません。つまり、「成熟期に適した戦い方」への転換が求められているのです。量的な成長の限界が見えている成熟期においては、各国との協調や連携による「手を取り合う戦略」の検討が必要になってきていると思います。
一方で、「大きく変わりつつある部分」はご指摘のとおり、海外企業や、場合によっては異業種との競争など新たなビジネスモデルで戦っていかなければいけない状況が生じてきたことです。これに伴い、従来の自動車産業にはなかった新たなケイパビリティを取り込む必要も生じています。これらの状況が示唆するのは、その新しいケイパビリティを自社で内製していない場合、外部にコストが流出し、利益を出しづらい構造に陥るという懸念があることです。
さらに、ビジネスモデルの変革は事業構造の見直しだけでなく、サプライチェーンや社内組織も含めた大きな変革を伴います。しかし、そこには変化への抵抗が働き、従来の自動車業界のプレーヤーほど、変革を進めにくいという傾向が見られます。
自動車産業全体で考えると、付加価値や収益源となり得る部分をソフトウェア専業企業などの外部プレーヤーに依存する構図が強まることが懸念されています。このままでは産業全体としての「価値の取り分」が縮小し、産業界内での主導権を失うリスクが高まります。ですから、外部に依存せずに、新たなケイパビリティ(技術・人材・知財など)をどのように取り込んでいくかということと、業界横断的な協業体制=「エコシステム」を構築していくことを業界全体で考えることが必要です。これは単なる事業の多角化にとどまらず、サプライチェーン全体の再設計や組織能力の再構築を伴う取り組みであり、将来的な優位性の構築、さらには産業としてのレジリエンスの確保にも直結するものではないかと思います。
金澤:従来の自動車産業としての市場における付加価値は、このままでは加速度的に小さくなっていくリスクがあるということになりますね。
もっとも、新規領域にだけ注力すればよいという単純な構図ではないことも、この業界の難しさです。既存事業を維持・発展させていく必要性と、新しい成長分野への対応をどう両立させるか。そのバランスの難しさは現場に近い立場の人ほど強く感じているのではないかと思います。山中さんは、OEMや部品サプライヤーのマネジメント層と日頃から対話している中で、こうした「舵取りの難しさ」をどのように受けとめていますか。
山中:前提として、自動車市場の全てが電気自動車(EV)に置き換わるわけではありません。市場ごとに状況は異なりますが、大きな流れとしては電動化が進んでいくということだと理解しています。例えば、電動化する部分はありつつも、伝統的なエンジンベースの車両は、それはそれとして進化し続けていくと思うのです。おそらく、今後不要と指摘される領域も進化を続けながら一定の需要は維持される、そのような世界が継続するのではと想像します。例えば、将来的にEVが全体の3割、従来のガソリン車が発展する形のハイブリッドが3割、残りがその他の動力源、というシナリオも考えられます。全体のパイは確かに小さくなっていくものの、それでも発展し続ける。それは、社会にニーズがあり、そのニーズを満たす製品開発が求められるからです。ただし需要構造が変化する中で、一時的に供給過剰にはなり得るでしょう。その意味で、今後は「統合最適化」、すなわち生産・開発・人材などのリソースを、将来を見据えて再構成していくことが不可避になるだろうと感じています。
PwC Japan有限責任監査法人 パートナー 山中 鋭一
金澤:「続けていかねばならないから、統合最適化しなければならない」という声は、私もよく聞きます。ただ、その「続けていかねばならない事業」にどれだけ投資をし続けるかという点については、なかなか難しい側面もあります。最近の流れとして、「そこに資金を投入し続けることが本当に妥当なのか」といった株主からの問いかけも、現実としてよくあることです。そうした観点から見ると、単に統合・再編を進めても、ニューマネーはつぎ込めない、というようなケースも少なくないのではないかと感じます。そうした中、従来はあまり積極的でなかったプライベート・エクイティ(PE)ファンドも本業界に入ってきており、ある意味「ラストマンスタンディング(残存者利益)」として価値を見出すべく、投資を行う動きも最近は見られますね。
山中:先ほどお話ししたとおりで、ガソリン車を含む従来型の車両も、今後一定の発展を続けると見ていますが、各社においてソフトウェアへの投資は多かれ少なかれ不可避でしょう。しかもソフトウェアは開発のゴールが明確に定まらない領域で、取り組めば取り組むほど継続的に多額の開発資金を要します。そのため「統合最適化」を進める上でも、製品投資に充てられる資金的な余力があるかどうかは重要な課題です。この文脈において、PEファンドが果たす役割は非常に大きいと考えています。資金面での支援を通じて、対象企業が本来有するポテンシャルを開放できる点に、PEファンド関与の最大の意義があると言えるでしょう。
加えて、もう一つ重要なのが人材の観点です。特にメーカー主導型の企業文化が根強く残る中では、新たな社会ニーズに適応しようとする際、どうしても組織としての変革耐性が低く、スピード感を欠く傾向があります。このような環境下において、PEファンドから派遣される外部人材の存在は、旧来のOEMや部品サプライヤーにとって新たな視点や思考様式をもたらす触媒(カタリスト)となり得ます。彼らの参画が、組織の変革を加速させるきっかけになることを、私は期待しています。
阿部:私も山中さんとほぼ同意見で、OEMが自らの手でリストラクチャリング(事業構造改革)を断行し、並行して成長投資を実施するといった一連の取り組みについて、社内だけで完結させたプレーヤーは、現実にはほとんど存在しないのではないかと思います。ですから第三者的に、事業再構築や資本効率の最適化に精通した「大鉈をふるう」ことに慣れている人がリードすることは、変革を進める上で必要なフェーズなのだと思います。
この意味で、PEファンドの関与は単なる資金支援にとどまらず、構造改革におけるドライバーとして機能する可能性が高いでしょう。結果として経営資源が再整理され、健全化された企業が再び業界内で存在感を発揮していく――こうした循環は、今後の自動車産業全体にとって、極めて重要な流れになると考えています。
金澤:PEファンドが自動車産業に注目する背景には、やはり日本企業の技術力の高さがあると思います。特にサプライヤーにおいてそれは顕著であり、彼らの保有するコア技術に対して外部からの投資マネーが呼び込まれることで、たとえ市場全体が縮小傾向にあったとしても、一定の価値を創出できるとPEファンドは見ています。この日本のサプライヤーが有する高度な技術力というのは、海外企業にとっても魅力があるのではないでしょうか。中国企業やインド企業も、日本企業を技術パートナーとして捉えているようですし、最近もインドの有力企業が日本の部品サプライヤーに興味を示しているといった事例がありました。
こうした状況下で日本企業としては、従来の系列・国内中心の枠組みにとらわれず、いかに海外プレーヤーと補完的な関係性を築いていくかが重要になってきているように思います。今後の競争優位性に直結するグローバルでの戦略的な組み方について、どのように考えますか。
山中:確かにEV分野では、中国企業が急速に成長しています。しかしサプライヤーの観点から見ると、グローバルな競争力を持つ大手サプライヤーが中国で育っているとは言い難いと思います。というのも、基幹部品の多くは中国のOEM自身が内製化していると聞きますし、バッテリーメーカーはバッテリーだけでなく電気自動車の基幹部品を作ろうとしているということです。中国の巨大プレーヤーが自国内でバリューチェーン全体を囲い込む構造が進んでおり、その分、独立系のTier1サプライヤーが育ちにくいという課題が顕在化しています。こうした背景もあって、日本の技術力や開発ケイパビリティを取得したいと考えている中国企業は相当数あると推測できます。もっとも、日本国内には中国企業との協業や資本受け入れに対して一定の慎重論や心理的ハードルがあるため、それが一種の抑止力になり、出資や買収、提携の進展にブレーキをかけているように思います。
一方のインドに関しては、現時点でそのような抵抗感は比較的薄く、むしろグローバル展開を視野に入れた部品メーカーの成長が先行して進んでいる印象です。例えば、あるインド企業は日本企業と同水準のグローバルフットプリント(世界的事業規模)をすでに有しており、今後数年で競争力が逆転する可能性も十分にあると見ています。このように部品サプライヤー分野においては、インド企業の台頭がより顕著です。いずれにしても、中国・インドの各企業が日本のサプライヤーを虎視眈々と狙っていることは間違いありません。
私自身としても、日本と同じような状況に置かれているドイツの自動車産業に注目しており、中国・インドによる出資・提携の動向とその後の展開については継続的に注視していきたいと考えています。
阿部:サプライヤー業界という視点では、部品メーカー自身も今後、自社の技術領域の選別と集中が不可避になってくるでしょう。例えばEVやSDVのコア部品については、自国市場での経験を武器にすでに中国企業勢が一定の競争優位を築きつつあり、日本企業の技術的優位性が相対的に低下していることは否めません。米国を除くグローバル市場において、中国が技術的な先導役になっている側面もあります。
とはいえ、自動車はこれらの先端デバイスだけで完結する製品ではありません。例えば、制振・耐熱・組立性などに関わる複合素材や、機構部品、品質管理技術、耐久試験のノウハウなど、目立たないけれど製品全体の完成度を左右する、いわば「見えにくいケイパビリティ」は、やはり日系サプライヤーの強みとなっています。これらは成熟領域であるために一見ノンコアと見なされがちで、事業を切り離されてしまうと、中国・インドなどの海外勢に買われるといったことが起きてしまう。彼らにとっては「ノンコアだがEV・SDV時代には不可欠」であり、その部品がなければ良い車が作れないという考えです。逆に言えば、日系サプライヤーにおいては、汎用的なコア部品となり得る領域が多々あるはずだと思っています。日本の自動車産業では官民で、これらの分野をしっかり守りつつ、国内競争によって日本企業が疲弊・衰退することのないよう、誘導していくことが必要なのだと思います。
金澤:そのとおりだと思います。単にノンコアだからといって売却するのでは、日本国内に技術が残らず、一時的な資金を得るだけで将来的な優位性を損なう可能性があります。重要なのは、何をコアとして残し、どのように海外と組むのかという戦略的判断です。そのように組んでいった上で、将来日本企業として狙うべき市場はどこにあると考えますか。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 金澤 信隆
阿部:日本の自動車業界各社にとって、残された成長市場は限られていますし、その中でもインドは極めて重要な市場になると考えます。
日本の完成車と周辺部品という視点で見ると、前述のような中国勢が得意とする領域で正面から戦っていくのは、ブランド力が圧倒的でない限り、正直厳しい戦いになると思います。
その点、インド市場は地政学的・外交的に、中国勢が表立って進出しにくい構造で、ある意味守られた市場です。日系企業にとって相対的な優位性を維持しやすい市場環境が形成されているとも言えます。インド政府が描く産業ビジョンや経済成長戦略と整合しながら、ローカルニーズと丁寧に向き合うことで、製品開発力・品質・信頼性をベースに日系企業がインドで市場参入・拡張していく余地がまだまだあると考えます。
山中:販売市場としてのポテンシャルという意味では、やはり中国が最有力ではないでしょうか。さまざまな議論があるのは承知の上ですが、中国市場で成功している企業に共通する特徴は、現地の経営層に全権を委譲していることです。日本企業の場合、アジア諸国を含む海外展開では日本人駐在員による管理型アプローチを採用するケースが多いのですが、中国に関しては、現地の複雑な制度・商習慣・文化的要素に対応できる中国人マネジメントによる自律的な意思決定体制を構築することが成功の鍵となると考えます。
続いてはインドです。インドは今後の人口構成・所得水準の伸びを踏まえても、中長期的には中国に次ぐ成長市場だと考えています。とはいえ、インドは固有の難しさを抱えています。例えば、第一言語として400を超える言語が使用されているなど文化的多様性が極めて高く、単一のマーケティング戦略ではカバーしきれない市場だからです。この点において、インドの市場攻略は中国以上に難易度が高いかもしれません。おそらくインド市場においては、全体を一つの市場と捉えるのではなく、文化や言語圏ごとのクラスターを基軸に戦略を立てることが有効です。「14億人市場」ではなく、「同じ文化でできたコミュニティごと」に戦略を立てるべきだと思います。
金澤:これまでのお話も踏まえ、日本の自動車業界各社にとって今後、どのような視点が必要だと考えますか。
山中:私は今後、「斜めのガバナンス」が必要になっていくと考えています。従来の典型的な事業ガバナンスの枠組みは、地域別または事業別によるものでした。しかし現在、中国やインドの企業がグローバル市場に向けて一斉に進出し始めており、日本企業も中国で生産した製品を中国から海外へ展開するといった動きが活発化しています。これを踏まえると、中国起点で、中国のビジネスをグローバルベースで横断的に見るといった機能が必要になります。なぜなら、中国における商習慣やバリューチェーンは他国と大きく異なるため、その特性を熟知した人材が対応するほうが効率も成果も上がるからです。
同様のことは米国や今後のインドにも当てはまります。これまでのように、日本本社がグローバル全体を統括するというモデルでは意思決定のスピードが追いつかなくなる可能性が非常に高いです。したがって、各国を起点とした斜めのガバナンス体制ともいうべきものを、今後真剣に検討・導入していく必要があるでしょう。
金澤:ガバナンスに関して、「日本企業の海外進出」ではなく、いわゆる「真のグローバル企業への転換」を迫られるということですね。
阿部:私もお2人と同感です。地域軸だけでなく、スピード感をもって新たな取り組みを進めるには、企業内部においても既存の組織体から切り離す、あるいは影響を受けないようにマルチガバナンスをかけていくことが不可欠だと思います。
先ほど触れたような海外の新興勢のスピードに対抗するには、従来型の「時間をかけて品質を高める」という文化だけでは置いていかれてしまいます。品質は日本の自動車産業の強みではありますが、スピード感を担保するという点では「分けたガバナンスの中でしっかりやっていく」ことが必要なのです。外部から専門性の高いチームを取り込むことや、社内の一部を分社化するといった、いわば内部的なトランザクションも必要で、そうしたことに大胆に取り組むことが、これからの企業成長の鍵になっていくと考えます。
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター 阿部 健太郎
山中:もう一つ重要なのは、マインドセットの転換です。分野によっては、もはや私たちは「追われる立場」ではなく「追う立場」なのだという自覚が必要だと思っています。「追う立場」となった分野に関してはまともに競争しても絶対に勝てませんし、主導権を握ることも難しいので、他社と連合を組むなどして先行する海外企業の戦略などを「ともに学んでいく」といった発想が必要だと思います。
この視点に立つと、中国やインドという市場で、どのようなビジネス・機能を現地で構築するかという選択が極めて重要になります。日本企業もかつては他国から学び、それを自社の成長に取り入れてきたわけですから、同様に中国やインドのビジネスモデル、オペレーションを吸収し、自社の強みと融合させるといったステップを踏んでいくべきでしょう。現地のやり方を十分に理解できれば、自律的に事業を推進できる段階が必ず訪れます。例えば中国企業と協業してきたグローバル企業は、中国市場について知見を深めたのち、スピード感を確保するために一部事業を自社主導に切り替えるといった動きを見せています。そのような「学習から自律へ」の考え方で、中長期的な視野をもってステップを整理していかねばならないと思います。
阿部:変革のスピードを上げる鍵として、やはりデータとAI(人工知能)の活用といった視点も欠かせないでしょう。従来は人手で行っていた意思決定や作業プロセスも、データやAIを用いることで飛躍的に高速化できます。こうした技術変革を支えるには、それを活用できる専門チームの存在と、そうしたカルチャーを受け入れられる企業風土の醸成が必要です。この先の競争力確保に向けて、テクノロジーを活用した組織変革への取り組みは不可欠だと思います。
金澤:これまでの日本の自動車サプライヤーは、OEM主導の系列構造の下でOEMの仕様や要求に沿って変化することが主流でした。しかし今後の市場環境では、自律的かつ俊敏に変化へ対応できる組織・カルチャー・人材を備えなければ、加速する変化のスピードについていけません。OEM依存型から、自ら変革をドライブする企業体質への転換が不可欠です。山中さんが話したとおり、自社がフォロワー(追随する立場)にあるという自覚を持つこと、その自覚を前提に、そこからいかにスピード感をもって変革へ踏み出せるかが、今後の競争力を左右することになるでしょう。
山中:これからの日本企業は、他国から学び取っていくという姿勢が必要ですね。昔は、その相手が欧米企業でしたが、それが中国やインドの企業に変わっただけです。学び取りながら状況を見て勝ち筋を見出す、そうしたアプローチによって日本企業が再び存在感を取り戻すことは十分に可能だと考えています。
左から、金澤 信隆、山中 鋭一、阿部 健太郎
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