インパクトベースのサステナビリティ経営―制度会計化を目指すインパクト加重会計フレームワーク(IWAF)の目指すもの(後編)

2022-07-22

企業活動によって生じる外部不経済(インパクト)を定量指標により測定し、金銭価値化する「インパクト可視化」が近年急速に注目を集めています。今回は、前編に続き、インパクト可視化のイニシアティブの1つである「インパクト加重会計イニシアティブ」(以下「IWAI」)、およびそのフレームワークである「インパクト加重会計フレームワーク」(以下「IWAF」)について解説を行います。

IWAI/IWAFの特徴は、主に以下の3つのポイントになります。前編では最初の項目について解説しました。後編では2、3番目の項目について解説します。

  • IWAIは「インパクト加重会計」(以下「IWA」)を近い将来、制度会計化・監査対象化し、既存の資本主義を変革することを意図している
  • IWAFはサステナビリティやインパクト可視化に関わる複数のイニシアティブの考え方を取りまとめており、今後主流となり得るフレームワークの1つである
  • IWAFの目指す情報開示は、既存の財務諸表を拡大し、六つの資本(財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本・自然資本)ごと、ステークホルダーごとにマルチボトムラインにてインパクトを示す点で画期的である

1.IWAFと関連するイニシアティブ

企業が実際にIWAに基づいた財務諸表を作成するための国際的な指針となるべく、2022年2月、ハーバード・ビジネス・スクール、シンガポール・マネージメント大学、ロッテルダム経営大学院および Impact Instituteとのパートナーシップである「Impact Economy Foundation1」がそのパートナーシップに基づき、IWAFの暫定案を作成し、公表したことは「インパクトベースのサステナビリティ経営―制度会計化を目指すインパクト加重会計フレームワーク(IWAF)の目指すもの(前編)」で紹介したとおりです。IWAFはIWAIおよびImpact InstituteのFramework for Impact Statement2という2つの既存のイニシアティブを基に、米国のGIIN(Global Impact Investing Network)が2018年に発表した社会的インパクト評価の指標であるIRIS+3、IMP4、資本連合(Capital Coalitions5)、SDGsレポーティングなど複数のレポーティングフレームワークの考え方を取り入れています。さらにIWAFはパリ協定やSDGs、赤道原則などの、世界的な持続可能な取り組みも参照して策定されています。

IWAFは欧米アジアの大学・研究機関との協働により作成され、インパクト可視化に関する既存の複数の主なイニシアティブを参照した上で、インパクトを会計に組み込むという実践的な試みであり、今後、主流となり得るフレームワークと考えられます。

2.IWAI/IWAFの目指す情報開示

IWAFの下では、統合損益計算書(以下「IP&L」)、統合貸借対照表(以下「IBaS」)およびその付属資料が作成されます。IWAFの目指す情報開示は、既存の財務諸表を拡大し、六つの資本ごと・ステークホルダーごとに複数のボトムラインにてインパクトを示す点で画期的と言えるでしょう。

1)統合損益計算書(IP&L)

IP&Lとは、通常の損益計算書に環境・製品・雇用などに係るポジティブまたはネガティブなインパクトを反映したものです。対象となるインパクトについて、IWAF本文には「Standardized list of Impact categories」と記載されており、インパクトカテゴリーの標準リストが例示されていますが、企業の状況に合わせて対象となるインパクトを考慮すれば良いとされています。IP&Lが現行の損益計算書の拡張とされるのは以下の理由があります。

  • 六つの資本:IP&Lで用いる資本は従来の財務資本だけではなく、IIRCの六つの資本の考え方を用いる(IWAF10の原則6:原則2)。
  • 複数のステークホルダー:IP&Lは、報告企業の全てのステークホルダーに関連する価値創造を考慮する。現行の損益計算書の報告先は主として投資家であるが、IP&Lは投資家に加え、顧客、従業員、社会といったステークホルダーも対象とする(同、原則2)。
  • 複数のボトムライン:上記の結果、IP&Lで報告される「当期利益」は財務利益のみではなく、複数のボトムラインとなる(同、原則1)。また、インパクトは集計可能であるが、誤解を与える集計はせずに、ポジティブおよびネガティブのインパクトをそれぞれグロス表示する(同、原則8)。
図表1 IP&Lの構成要素

出典:Impact Economy Foundation「IMPACT-WEIGHTED ACCOUNTS FRAMEWORK」(2022年)を基にPwCが作成

2)統合貸借対照表(IBaS)

IBaSとは、通常の財務諸表上の貸借対照表を拡張し、企業に蓄積されたインパクトの資産と負債を開示するものです。企業は、ステークホルダーを犠牲にして短期的な利益を得るのではなく、ステークホルダーを尊重し、長期的に価値を創造すべきです。IBaSは企業がその事業運営により、これまでどのようなインパクトを蓄積してきたかを示しています。ただし、IWAFにおいてIBaSの開発は未整備であり、今後、コメント募集などを踏まえて内容が発展していくものと考えられます。

IWAFについて解説する連載の後編となる本稿では、IWAFと関連するイニシアティブ、そしてIWAFが求める情報開示であるIP&LおよびIBaSについて紹介しました。前編・後編を通して、インパクト可視化の重要なイニシアティブの1つであるIWAFの動向について、読者の皆様の理解が深まれば幸いです。

PwC JapanグループはIWAFの解説を含めたThought Leadership「インパクトベースのサステナビリティ経営~インパクト加重会計(IWA)フレームワークの理解とインパクト可視化の今後の展望」の発行を8月に予定しています。また、企業活動のインパクトの可視化を支援するSustainability Value Visualizerという手法を開発しています。

1 Impact Economy Foundation,
https://impacteconomyfoundation.org/.

2 Impact Institute,2019年.「FRAMEWORK FOR IMPACT STATEMENTS BETA VERSION (FIS BETA)」(2022年6月10日閲覧)
https://www.impactinstitute.com/framework-for-impact-statements/.

3 GIIN,2022年.「IRIS+ is the generally accepted system for measuring, managing, and optimizing impact.」(2022年6月10日閲覧)
https://iris.thegiin.org/.

4 IMP,
https://impactmanagementproject.com/

5 Capital Coalitions,
https://capitalscoalition.org/

6 IWAFでは10の原則が設定されています。詳細は2022年8月5日発行のThought Leadership「インパクトベースのサステナビリティ経営~インパクト加重会計(IWA)フレームワークの理解とインパクト可視化の今後の展望」をご覧ください。

執筆者

磯貝 友紀

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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山田 弓子

アソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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