新興国の社会課題解決型ビジネス ~農産業・農村部へアプローチする際の重要視点~

2015-06-16

サステナビリティ・コンサルタントコラム


新興国の市場獲得を目指す際に、新しい市場創出、将来のボリュームゾーンの獲得、長期的なブランド確立などを意図して、現地の社会課題解決へも寄与するようなビジネスを検討される企業が増えています。特に新興国においては、農産業・農村部の重要性が高いことから、新興国の農産業・農村部の課題に対するアプローチ方法について重要な視点をご紹介します。

新興国の社会課題とBOPビジネス

世界の人口の約70億人のうち約40億人は、Base of the pyramid(BOP)と呼ばれる貧困層であると言われています。これまで多くの企業のターゲットとならなかったBOP層は、将来、新興中間層となり、ビジネスの巨大なボリュームゾーンとなることが期待されています。そして、企業の持続可能な成長の観点から、新興国におけるBOP層をターゲットとしたビジネス(BOPビジネス)の重要度が増しています。新興国市場では、現地コミュニティがさまざまな社会課題を抱えていることが多く、これらに配慮したビジネスを上手に構築することは、長期的に企業の認知度を高めたり、現地の市場に深く入り込んで事業基盤を構築したりすることにも繋がります。

新興国市場における農産業および農村の重要性と課題

新興国においては、就業人口に占める農産業従事者割合は30%以上、GDPに占める農産業の寄与率は15~30%、また農村部の人口と都市人口の比率は2倍以上という場合が多いです(日本はそれぞれ4%、1%、0.09倍)。新興国市場にの獲得を目指す際に、農産業および農村へのアプローチ検討は重要です。

 

【図1】農業へのGDP寄与割合、就業人口に占める農業従事人口割合、農村/都市人口比率

【図1】農業へのGDP寄与割合、就業人口に占める農業従事人口割合、農村/都市人口比率

新興国の農産業従事者は、収入をスケールアップする手段(金融)にアクセスできない、生産の効率化や農産品の高付加価値化の技術・ノウハウがない、などの原因により日常的に貧困状態に置かれています。実際に、あるプロジェクトで行ったミャンマーの農村における調査でも、調査対象の農民の約60%は購買力平価ベースで年収が3000ドルのBOP層でした。

 

ミャンマーの農村の様子

ミャンマーの農村の様子

上記課題に対し、農民向けのマイクロファイナンス、生産技術および農業機械の導入、収穫後の加工ノウハウの提供などがニーズとして存在します。しかしながら、この分野におけるさまざまなケーススタディが示すのは、現地ニーズを満たすソリューションをピンポイントで提供できる能力があったとしても、現地に割って入ってビジネスを成功させるのは容易ではないということです。この原因として、農民の組織化や調達・販売のネットワークの形成に関して参入コストがかかりすぎたり、既存コミュニティや利害関係者の理解が得られなかったりすることが考えられます。

多くの場合、新興国では農作業が細分化され、その細分化された農作業を零細農民が請け負い、かつ付加価値を生む工程が一部のプレーヤーに独占(またはそもそもない)されています。この固定化された産業構造は、零細農民の貧困脱却と外部からの新たなプレーヤーの参入を阻む大きなハードルになっていると考えられます。例えば、世界第3位のコメ生産国であるインドネシアでは、稲作前半工程(耕耘・代掻き・田植え・除草・水管理・稲刈り)が分業化され、特に土地なしまたは土地保有面積が少ない零細農民がこの業務に従事しています。一方、付加価値が高い稲作後工程(稲刈り~精米)では精米業者やトレーダーが伝統的に力を持っており、零細農民は経済的・社会的にこの分業構造に縛られ、貧困から脱却できない産業構造になっています。

新興国の農産業および農村へアプローチ方法

このような大きなハードルに対するアプローチ方法として、(1)現地零細農民と既に信頼関係を構築している現地プレーヤーを特定して彼らと連携すること、(2)現地の産業構造および利害関係者のパワーバランスを理解した上で、現在利益を享受している力の強いプレーヤーを巻き込んで新しいエコシステムを構築することが有効です(※1)。

一点目の現地プレーヤーとの連携ですが、これは農民との接点を持つ企業やNGOが考えられます。農産業バリューチェーンにおいて農民との接点は、インプットの提供およびアウトプットの回収の二点で発生しますので、前者であれば種子や肥料を販売する農業関連企業、マイクロファイナンスを提供する金融機関やNGO、後者であれば地場の物流業者や仲買人などが考えられます。ビジネスのフェーズにより、「ネットワーク確立」「スケール拡大」「効率化・コストダウン」などの目的を明確化してどのプレーヤーと協業するかを検討する必要があります。

二点目のエコシステムの構築については、ケースに応じた中長期的なシナリオを描くことが第一歩となります。例えば先ほどのインドネシアの例で言えば、(1)既存のトレーダー・精米業者との米収穫での連携→(2)米加工業の導入などによる産業の高付加価値化と雇用の受け皿確保→(3)農業機械導入による生産効率化と零細農民の加工業への従事転換、といったシナリオを描いた上で、自社がどの点を部分的に担えるかを考えていくといった具合です。

一点目も二点目も、現地産業構造の一部として自社を位置づけ、自社の強みを現地農産業へ提供していくもの、つまり、日本企業、既存プレーヤーおよび零細農民の3者がWIN-WIN-WINの関係になることを目指すというものです。これを推し進めるに当たっては、まず、現地の状況を正しく理解すること、有効なパートナー候補を発掘することが極めて重要になります。

新興国の農産業をサポートする新しい技術

新興国の農産業・農村へのアプローチで、もう一点重要なのが、ICT技術を活用した新しいビジネスモデルです。インドでは、Reuters Market LightがSMSを通じて農家に有用な情報(気象情報、農産物関連ニュース、収穫アドバイス、灌漑方法など)を、農家別にカスタマイズして提供するサービスを行っています。同社はインド18州で140万人以上の農民に向けたサービス提供を行っており、農家の生産性向上に間接的に貢献しています(※2)。私たちが現在プロジェクトでかかわっているミャンマーの農業関連企業も、モバイルを活用した農民向けの情報提供サービスや銀行口座を持たない農民でも利用できるモバイルペイメントの仕組みを導入中です。このような新しい動きにより、上述したエコシステムの構築を補完的に支える効果が期待されます。

これまで述べたように、新興国の農産業・農村部へのアプローチとして、有力な現地パートナーと提携すること、エコシステム構築の発想を持つこと、ICT技術を活用すること、が有効です。私たちも、長期的かつ戦略的に新興国市場を狙う企業の動きを支援していきたいと思います。

(※1)Fernando Casado Maeque & Stuart L. Hart, Base of the Pyramid 3.0, (2015)のなかでも革新的なエコシステムの構築アプローチについて触れられています。
(※2)Reuters Market Light社ウェブページ

山﨑 英幸

山﨑 英幸
あらた有限責任監査法人
マネージャー

経営管理・会計コンサルティング業務を経て、2012年より現職。アフリカ・アジアなどの新興国におけるBOP/インクルーシブビジネスに関するアドバイザリー業務に従事し、民間企業向けのBOP/インクルーシブビジネス検討・調査支援やインクルーシブビジネスを推進する公的機関向けの調査および制度設計支援などを行っている。
東京工業大学大学院総合理工学研究科修了。

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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