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2022-11-11
PwCあらた有限責任監査法人(以下、「PwCあらた」)では、「2030年に統合思考・報告のリーディングプロバイダー」「統合監査のリーディングプロバイダー」になることを目指しており、2022年7月にはPwCあらた内全体の能力増強およびサービス拡大を目的として、サステナビリティ・アドバイザリー部を50名体制に強化しました。また、急速に整備が進む非財務情報開示基準については、基準開発機関に委員や事務局の人員を出向させるなどの協力を行っています。加えて、PwCのグローバルネットワークを活用し、各国の開示の状況について情報収集にも努めています。
本連載ではこれから数回にわたり、PwCあらたのプロフェッショナルと基準開発機関との議論の模様をお届けします。第1回はIFRS財団のDirector, Investor Relationships、Senior Market Co-leader APACを務められるKatie Schmitz Eulitt氏と、PwCあらたの執行役副代表 パートナーの久保田正崇、サステナビリティ・アドバイザリー部長 パートナーの田原英俊が「非財務情報開示に関する日本企業への期待」について語り合いました。
なお、PwCあらた サステナビリティ情報開示セミナーシリーズ「第1回 非財務情報開示の転換期~日本企業におけるSASBスタンダードの適用状況と課題~」内で鼎談の動画も公開しておりますので、ぜひ併せてご視聴ください。
※この鼎談はオンラインで行われましたが、2022年10月にKatieさんが来日された際に集合写真を撮影しました。
(左から)久保田、Eulitt氏、田原
IFRS財団のDirector, Investor Relationships、Senior Market Co-leader APACを務められるKatie Schmitz Eulitt氏
田原:2020年の夏にIFRS財団がISSB(International Sustainability Standards Board)を設置すると表明して以降、非財務情報開示を取り巻く環境は急激に変化しています。
現在の日本企業のサステナビリティ情報開示をどのように捉えていらっしゃいますでしょうか。
Eulitt:ISSBの発足が発表されて以降、情報開示を巡る状況は刻々と変化し、その変化の大きさやスピードには目覚ましいものがあります。2021年11月に発足を発表したISSBは、今年3月には2つの公開草案を発表しましたが、それを受けて、1,300通ほどのコメントレターをいただきました。ISSBやIFRSのサステナビリティ開示基準に深く関わるSASB基準の日本語訳もほぼ同時に公表されました。日本語訳にあたっては、PwCあらたの皆様にもご尽力いただき、誠にありがとうございました。
このようなさまざまな変化に日本企業が遅れをとることなく活動され、また多くの日本企業がTCFDや統合報告を活用し、それらを支持していることは素晴らしいことだと感じています。
久保田:特にこの1年で大分進んだという印象です。少なくとも「非財務情報開示って何」と言う人はいなくなったと思います。一方で、その先のアクションとして、「これをこういう目的のために開示してこう使いたい」というようなステップバイステップまで詰め切れている会社はまだ多くはないかと思います。
先進的な企業はもうすでにこの3月期に開示を始めているという状況ですので、進んでいる会社はさらに先に進み、本当に戦略的なツールとして使われている一方で、まだ少し様子見している会社との差がむしろ広がったという1年だったとも感じています。この後スタンダードが出てきて、何をやればいいのかがクリアになるタイミングが、次の大きな分かれ目になるのではと考えています。
田原:PwCあらたの調査ではTOPIX100の100社のうち51社がSASB基準に準拠して開示を始めています。しかし、トップティアの企業はIFRS基準のS1、S2だけではなく、すでに今後IFRS基準に組み込まれるであろうSASB基準を見据えており、Katieさんがおっしゃったように基準を超えて先に進んでいるということかと思います。一方でまだ様子見の企業に関しても、これから先何かのきっかけで、動きが一気に変わっていくかもしれないというのが、Katieさんと久保田さんのお考えだと理解しました。
そういった状況の中、日本企業はさらに先に進む上では何をすればいいのかというところですが、PwCあらたの調査では、日本企業はそれぞれその産業に特化した重要課題(マテリアリティ)をしっかり分析できていることが明らかになりました。一方で、その特定された重要課題において、何をどこまで取り組んでいるのかという進捗を測る指標の開示については、課題があることも分かりました。
特に、企業活動のところではなくて、製品やサービスに係るサステナビリティ情報開示が、今後の大きな課題になると考えています。
Eulitt:さまざまな市場から情報開示に関して似たような課題が挙げられていると感じます。特にほとんどの企業がリスクにフォーカスしている点です。サステナビリティ関連の機会よりも、リスク、特にTCFD提言に記載されているリスクに企業がフォーカスしており、まずはリスクに対処しようというような姿勢が見られる一方で、時には機会については全く触れられない場合もあります。そういった考え方になってしまうのはよく理解できます。企業の多くは、最初はそのような姿勢から取り組みを始めるものだと思いますので。
また、企業は全てのビジネスを一括して連結ベースの財務報告にまとめますが、連結された状態では、各ビジネスラインにおけるサステナビリティ関連リスクや機会を十分に見出せないかもしれません。
例えば日本の産業分類で機械産業に当てはまる企業があるとします。その企業で風力タービンやソーラーパワーの小さな収入ラインがあったとしても、その事実は連結ベースの財務報告では埋もれてしまう可能性があります。
サステナビリティ関連のリスクや機会を特定する際は、財務会計基準だけでは一括にまとめられてしまうので、一つひとつ引き離して、業界別の視点から考えることが重要です。そうすることで、風力や太陽エネルギーなど、サステナビリティ関連製品における成長の機会を見出せるかもしれません。
これは日本だけで見られるものではなく、他の市場でも同じだと思います。
久保田 正崇(PwCあらた有限責任監査法人 執行役副代表)
田原英俊(PwCあらた有限責任監査法人 パートナー)
田原:日本企業に限らず、他国においても共通の課題になっているということですね。
PwCあらたでは日経225社を対象にしたサステナビリティ情報開示についての調査も実施していますが、その調査においても、リスクと機会では圧倒的にリスクの情報が多いという結果が出ています。私はそれゆえに、日本企業は自社の製品やサービスの話より企業活動の話になりがちなのではないかと考えています。地球環境や社会に係る問題のネガティブな側面を排除するということではなくて、ビジネスを中長期的に成長させるために何をすればいいかということがサステナビリティの本質ですから、企業活動だけではなく、製品やサービスにおける中長期的なリスクと機会が何かをしっかり分析する必要があります。Katieさんのお話にもありましたが、サステナビリティのリスクと機会は産業によって異なりますので、その点を上手く捉えながらどのようにディスクロージャーしていくのか、という点が大きな課題であると認識しています。
さて、現在はIFRS財団において、またその前身のバリューレポーティング財団、SASBの時代から、長きにわたって投資家エンゲージメントをリードされてこられたKatieさんにお伺いしたいのですが、投資家サイドから見たときに、特に日本企業に求められているものがありますでしょうか。
Eulitt:投資家が日本企業に期待しているのは、他の市場に期待していることと変わらないと思います。
多様な投資家が存在することを踏まえた上で、投資家は比較可能で一貫性のある信頼性の高い情報開示を全ての市場に求めています。
グローバルポートフォリオを持っている投資家は、市場にかかわらず、ポートフォリオに含まれている全ての企業を、同じ指標で、同じフォーマットのデータで比較したいと考えています。
そういった比較可能で一貫性のある信頼性の高いデータはこれまで不足しており、投資家が長年求めてきたものです。
法域によってはグローバルのベースラインにさらに要求事項を追加する必要があることは、投資家も認識していると思います。ただ、例えば米国、日本、ドイツ市場の自動車産業など、異なる市場に属する企業の情報を比較できるようにしたいのです。
田原:信頼性をどのように担保していくのかという部分では、IFRSのSASB基準や、米国のSECの気候関連情報の提案、EUのCSRD指令においても、非財務情報開示の保証の義務化というところが議論されています。信頼性の担保という意味での保証の必要性について、ご意見お聞かせいただければと思います。
久保田:Katieさんから「ベースライン」という言葉が出ましたが、最低限の開示をしていくというのが今後常識になってくると思います。これまでは、非財務情報はベースというよりは追加で出す情報という位置付けだったため、企業での情報収集のあり方が、毎年同じ方式で信頼性を持って集めるというような仕組みには必ずしもなっていなかったと思います。例えば、売上や利益などの財務情報は必ず毎年正確に出さなければならないと誰もが分かっていますので、情報収集のITを含め、インフラがしっかり作られています。しかし、非財務情報についてはまだその領域で出せていない企業の方が多いのではないかと。つまり、まず企業内部で同じ情報を定期的に集める仕組みおよび内部統制を構築することが求められると考えます。
その次の段階としては保証になると思います。非財務情報に対する保証はこれまでもさまざまな形で行われてきましたが、保証の方法、レベル感や深度は、アドホックの情報に対応するような形で、ある意味アドホック的な保証であったように感じます。
今後、投資家から求められる信頼性のレベルは上がっていきますので、アドホック的な開示・保証ではなく、その企業の根幹に関わるという意味での開示、それに対する信頼性を担保するための保証が求められてくると思っています。
Eulitt:情報開示が任意で、どのフレームワークを使って開示するか、フレームワークのどの項目を開示するかなどを選べることができた世界から、情報開示の分野はどんどん発展しています。IFRSがこの分野に足を踏み入れ、ISSBが発足した目的の1つは、サステナビリティ関連の情報開示の品質を向上させ、財務情報と同等のレベルにすることでした。そしてそこにはもちろん保証が関わってきます。世界中の法域でサステナビリティの情報開示が要求事項として定められるため、または任意事項となるために保証が必要となるのは自然な流れだと思いますし、今後この動きは増えていくと思います。
田原:信頼性の担保という問題がサステナビリティ情報開示において今まで以上に重要になると思います。その根拠として最も大きいのは、従来はサステナビリティ情報はあくまでも任意開示基準に基づくものだったのが、今後はこれが法規制や会計基準を策定する機関による開示基準になっていくところにあります。
久保田:今まではリスクに対応して追加開示を行う、という位置付けだったものが、今後は企業経営の根本に関わるものという意味合いにおいて、日々モニタリングすべき指標として扱われていくということだと思います。投資家からは「経営者が見ている数字と同じものを見たい」という要求が当然出てくるでしょう。各国で議論は進んでいて、日本でも欧州や米国の動向を見ながら、まずは「必要なのかどうか」、そして「どこまでやるのか」という議論になると思います。おそらく先進的な企業は、まず任意で外部の保証を求めていき、それが徐々にコモンスタンダードになり、他の企業もついてくるのでしょう。その間に法整備が進んでいくという流れになるのではないかと考えています。
田原:最後に、Katieさんはこの鼎談で日本語を理解されているようでしたが、その秘密は後ろにあるきれいな屏風に関係がありますか?
Eulitt:私は日本がとても好きで、25年前になりますが、3年間日本で生活し、仕事をしていました。日本語を勉強し日本の学位を取得したのですが、ビジネスの場で日本語を使う機会は非常に久しぶりでした。この屏風はこちらで購入したものですが、私が日本で過ごした日々を思い出させてくれる、私の宝物です。
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