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2023-05-10
PwCあらた有限責任監査法人(以下、「PwCあらた」)では、「2030年に統合思考・報告のリーディングプロバイダー」「統合監査のリーディングプロバイダー」になることを目指しており、2022年7月にはPwCあらた内全体の能力増強およびサービス拡大を目的として、サステナビリティ・アドバイザリー部を50名体制に強化しました。また、急速に整備が進む非財務情報開示基準については、基準開発機関に委員や事務局の人員を出向させるなどの協力を行っています。加えて、PwCのグローバルネットワークを活用し、各国の開示の状況について情報収集にも努めています。
本連載では数回にわたり、PwCあらたのプロフェッショナルと基準開発機関との議論の模様をお届けしています。第3回はGRI(Global Reporting Initiative:グローバル・レポーティング・イニシアティブ)のChief of StandardsであるBastian Buck氏と、PwCあらたの執行役副代表 パートナーの久保田 正崇、サステナビリティ・アドバイザリー部長 パートナーの田原 英俊がサステナビリティ情報開示における信頼性について議論した内容をお届けします。
(左から)久保田、Buck氏、田原
田原:サステナビリティ情報開示の信頼性の問題について、Buckさんと久保田さんに伺っていきたいと思います。開示の質に関しては大幅な改善が見られますが、開示内容の信頼性に関して言えばまだ発展途上という印象があります。監査法人としては、アシュアランス(保証)業務がこの問題で重要な役割を果たすことになると考えています。信頼性の観点から、企業の情報開示の現状の課題と、課題を改善する方法についてのお考えをお聞かせいただけますか。
Buck:GRIの立場としては、保証は信頼性を高めるための重要な手段であると同時に、企業自体のために情報開示を改善することを可能にするものである、というのが長年にわたる考え方です。
私たちは、保証業界全体が団結し、品質保証を提供するパラメーターについて合意すべきと考えています。そのため、IAASB(International Auditing and Assurance Standards Board:国際監査・保証基準審議会)が現在、サステナビリティ開示保証の指針だけでなく、基準を公表することも歓迎しています。そしてそれこそが、専門家がアプローチに一貫性を持たせるための絶対的な鍵となる、と私たちは考えています。保証を行うことは、あらゆる種類のサステナビリティ情報開示において必要です。規制がほとんどない場合、保証が非常に限定的に適用され、主題が少なすぎたり、開示が少なすぎたりするケースがよく見られます。EUではサステナビリティの報告に含まれる全ての情報について、全面的に保証が義務付けられており、取締役会はこれらの報告書を承認する責任があります。取締役会がサステナビリティ情報を承認することについて、資本市場、規制当局、投資家からの圧力を受けている、もしくは規制当局によって義務付けられているのです。それは、財務報告と同じ力学ですから、市場の変化が生まれています。取締役会は、報告の説明責任を果たすために、自社の内部統制とは別の第三者に頼る必要があります。
この数年間で、サステナビリティとESG情報の扱われ方が変化しました。以前は、大規模な上場企業がレポートを発行しても、大規模なビジネス情報プロバイダーの端末に表示されないということが起こり得ました。つまり、アナリストや意思決定者が投資などのためにこれらの情報をすぐに利用できるようになっていなかったのです。しかし現在は状況が変化し、情報にはある程度の厳密性が必要になりました。なぜなら、出した情報は企業に戻ってきて、企業はそれに基づいて決定を下すからです。繰り返しになりますが、私たちは保証を支持しています。専門家は、保証業務の質を維持するために、安定した場の創造を先導するべきです。PwCのようなファームはすでに多くの専門知識を十分に持ち、企業のサステナビリティ情報の開示を一貫して支援していると考えています。PwCのようなファームが次の大きな推進力となると信じています。もちろん、保証業界も急速に変化しており、EUに拠点を置いたり、EUで事業を行ったりする何万もの企業がEUの基準に基づいて開示情報の保証を受けなければならなくなります。そのため、実務もより早く発展すると思います。
久保田:素晴らしいお話を伺いました。日本では、開示や報告について活発に議論されていますが、保証については忘れられがちです。しかし一般的には、報告には保証を付けるべきだと言われます。保証のタイミングは、企業の準備の都合があるので柔軟に考える必要がありますが、最終形態としては、報告と保証はセットの情報として投資家やステークホルダーに提供される必要があります。保証について他に何か見解はありますでしょうか。
GRI(Global Reporting Initiative:グローバル・レポーティング・イニシアティブ)のChief of StandardsであるBastian Buck氏
Buck:保証にはもう1つの側面があると思います。サステナビリティに関して積極的に取り組む企業は、当然の成り行きとして、アプローチの品質もチェックしたいと思うようになるでしょう。そのためには、企業がとったアプローチを他と比較することができる専門家の力を借りることです。これにより、経営層や取締役会に対して、企業が着手しようとしている業務が実際にベストプラクティスに沿ったものかどうか、そして意思決定において信頼できるものかどうかを改めて表明することができます。
現在特に強調されているのは気候変動に関する開示や、炭素価格に関する規制についてです。10年前は、それが正確かどうかは、一部の取締役会や経営陣にとってはそれほど重要ではありませんでした。しかし、今は大きく異なります。保証はリスク管理へのインプットであり、ビジネスモデルが将来的に実際に拡張可能かどうか、その資本コストを計算するために必要な情報なのです。
田原:GRIはダブルマテリアリティの概念を打ち出しています。Buckさんは、GRIはインパクトに焦点を当てた唯一のフレームワークだとおっしゃいました。日本では、サステナビリティの保証を受ける企業が少しずつ増えてはいますが、いまだ保証の範囲は、選択された指標のみに焦点が当てられるにとどまっています。それらの多くは、格付け機関から高いスコアを得るための保証の取得であり、開示の本当の信頼性を保証するものではありません。私たちが将来の報告において、GRIガイドラインやESRSのようなガイダンスを適切に使用する方法を検討する際、ダブルマテリアリティの概念に焦点を当てることとなると思いますが、保証提供者は、選択されたデータだけでなく、マテリアリティ分析も確実に実施する必要があります。どのような情報が重要で、なぜそれらの指標を企業がマテリアリティとして選択したのか、ということです。現時点では保証提供者は限定的な保証を提供していますが、近い将来、保証提供者は合理的な保証を提供する必要があります。久保田さんにお聞きしたいのですが、このような現状をどのように見ていますでしょうか。そして、このエコシステムの将来についてどのような展望をお持ちでしょうか。
久保田:重要なポイントは、Buckさんがおっしゃったように、企業がサステナビリティ情報を意思決定に使用するかどうかだと思います。現在は利害関係者や投資家へ説明するためだけのものであって、投資や採用、将来計画の策定に関する意思決定プロセスには組み込まれていないというケースが多いと思います。
サステナビリティ情報を重要な意思決定に使用する場合は、財務情報と同様に、内部報告プロセスと外部報告プロセスの全てを組み込む必要があります。そのような意思決定の利用が検討されたとき、企業に真の内部統制が確立されるでしょう。そうなって初めて、私たちは真の保証を開始することができます。そうでなければ、保証は数字を確認するだけになるかもしれません。数字を確認することには何らかの意味があります。しかし保証の本当の意味は、企業のサステナビリティに関する状況について、利害関係者の判断を支援することだと思っています。ですので、今はまだ企業の意思決定に生かされていないというところを変えていく必要があり、そこから支援を始めていかなければなりません 。企業が意思決定に使用する準備ができている場合、企業のシステムと背景を踏まえた真の合理的な保証を提供することができ、企業はサステナビリティ情報またはサステナビリティプロセスを通じて達成したいビジョンまたは価値に到達できるでしょう。それが私たちにとっても、企業にとっても、社会にとっても、次の課題であると考えています。
田原:重要なポイントですね。最近、サステナビリティの保証の能力を提供できるのは誰かということが話題になっています。欧州だけでなく、世界の他の国々でも、全ての上場企業にサステナビリティ報告が必須であるとの規制が導入されつつあり、世の中にはサステナビリティに対する大きな需要があります。この場合、保証を提供する能力が高いと言われている監査法人のリーダーとして、大きな期待に応えるために何を準備していますか。
田原 英俊(PwCあらた有限責任監査法人 パートナー)
久保田:今のところ、世界中で十分なケイパビリティを保持しているところはなく、私たちはまだその開発段階にあります。世界にはESGやサステナビリティの知見がある人だけでなく、監査や保証などのアシュアランスについての知見がある人もいます。しかし、ESGとアシュアランスを組み合わせるケイパビリティは、世界中のどこを見ても、まだ非常に少ないです。ですから、私たちはそれを開発する必要があります。
PwCには、アシュアランスについて深い知識を持っている人やリソースがたくさんあります。私の目標の1つは、この皆ができるだけ早くサステナビリティについて学び、頼りになる存在になることです。PwCは全世界に30万人以上のスタッフを擁しており、なかには最高レベルの保証とサステナビリティの両方を専門とする人もいますが、全員がその能力を備えることは不可能です。全ての人をサステナビリティの専門家にすることはできませんが、少なくとも基本的なレベルの内容を理解してもらうことはできると思います。そのため、最高のスキルを持つ人々のセンターオブエクセレンスのような組織を設置するとともに、いくつかの基本的なトレーニングコースの提供も開始しています。私たちの目標は、サステナビリティ保証のリソースを確保するため、保証のプロフェッショナルが、サステナビリティに関して専門家ほどではないものの、十分なレベルの知見やスキルを持つことを目指しています。
Buck:今のお話に完全に同意します。マテリアリティは報告プロセスにおいてもより注目されています。共通スタンダードの一部として、GRIはインパクトへのマテリアリティ(重要課題)を判断するため、アプローチに関する詳細なガイダンスと提案をGRIスタンダードのリニューアル内容として発行しました。業種によるマテリアルな項目が何かを知り、特定のトピックがなぜ重要なのかのエビデンスとして多くの参照を得ることができるセクター別スタンダードもあります。
保証においては、おっしゃるとおりサステナビリティに関するコンピテンシーだけでは保証には不十分であり、それと同様に、サステナビリティ報告には保証の経験だけでは十分に対応できません。業界はようやく、この2つを同時に扱う必要性を認識しつつあると思います。
今、議論が急速に展開しているため、GRIは内容のアップデートに関して、ある種のプレッシャーを受けているということについて申し上げました。
今起きていることというのは、ある人が特定の課題領域、例えば社会的領域や、より狭い範囲で人権や労働者の権利におけるサステナビリティの専門家である場合、それらの専門家を見つけて、アシュアランスの専門家と組み合わせることが、前進するための道となるのです。
久保田:とてもよく理解できます。財務情報の監査でも同様の課題がありました。財務情報の保証において、例えば技術サイドのエキスパート、金融商品のエキスパート、といった人材が必要とされるようになってきました。今こそ、サステナビリティの保証の領域においても、これらの課題を解決する時と考えます。
久保田 正崇(PwCあらた有限責任監査法人 執行役副代表)
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