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系統用蓄電池ビジネス市場は、需給調整市場の運用開始や価格の高止まり、補助制度の開始を背景に、急速に拡大しています。一方で、収益の柱となる需給調整市場を中心に制度変更が続き、事業環境の先行きに不確実性も増しています。今後は適切な「ビジネスモデルの選択」と、「運用の高度化」が競争力を左右する重要な要素になります。
日本では、2050年のカーボンニュートラルを目指したエネルギー投資が活発化しており、今後10年間で将来的に導入予定のカーボンプライシングを原資とした150兆円超の官民GX(グリーントランスフォーメーション)投資を呼び込む方針が示されています。その中で蓄電池分野は、官民投資額が7兆円以上[1]必要であると掲げられており、国内生産支援や導入支援などが進められています。
系統用蓄電池は、補助制度の拡充、取引市場の整備、蓄電池価格の低下などを受けて、市場が急速に拡大しています。2025年6月末時点で、系統連系済みは約250MW[2](ここでは便宜上、時間率を4時間と仮定すると、容量は約1GWh)です。経済産業省は2030年の導入見通しとして、累積14.1~23.8GWhと試算しており、2025年比で14~24倍程度の設備容量増大を見込んでいます。一方で、系統接続申請の状況はさらに過熱しており、2025年6月末時点での系統接続契約申込は約18GW[2](約72GWh)に達しています。申込量のうち3分の1が運転を開始すれば、経済産業省の当初見通しを達成し得る水準であることから、競争環境の変化も見込まれます。
系統用蓄電池の急速な市場成長を後押ししてきた要因の一つが、2021年度の経済産業省の導入補助制度です。以降、補助額は年間400億円規模まで増加したことに加え、東京都からも導入補助制度が開始され、これまでに計132案件が採択されました(図表1)。
図表1:系統用蓄電池の補助制度および採択事業者数[3] [4]
エリア別に見ると、経済産業省(国)の導入補助制度では、北海道、九州などで導入が進む想定となっており、需給調整市場価格の高さや出力制御の状況などを踏まえたエリア選択が行われています。
系統用蓄電池の収益機会は、大きくkW(供給力)、ΔkW(調整力)、kWh(電力量)に分けて整理できます。このうち、主な収益源は、以下の3つの組み合わせで構成されます。すなわち、容量市場(kW、長期脱炭素電源オークションを含む)、需給調整市場(ΔkW)、電力卸市場におけるアービトラージ取引(kWh)です(図表2)。
図表2:系統用蓄電池の収益獲得イメージ
さらに、蓄電池ビジネス全体は、「フルマーチャント」「補助金活用」「長期脱炭素電源オークション」「トーリング」の4つのビジネスモデルに類型化できます(図表3)。事業者が系統用蓄電池に参入を検討した場合、これらのメリット・デメリットを踏まえて、適切な選択をする必要があります。
2021年~2023年度は、補助制度が開始されたことから、当該制度を活用し導入を検討する事業者が多数でした。
その後2023年度には長期脱炭素電源オークションが創設されました。ここでは、収益の約9割を還付する必要がある一方で、固定費相当の費用が補助されることから、事業リスクを大幅に軽減することができ、特にファイナンスを獲得して市場参入を目指す事業者から募集が相次ぎました。2024年度のオークション(第2回)では、蓄電池の競争倍率は5倍程度[5]とされ、競争率の高さと制度の仕組みから、調達価格競争が強まりやすくなっており、安価に調達できる事業者でなければ落札できない状況が続いています。
こうした競争激化を背景に、補助制度を活用せず市場取引のみで収益を獲得する「フルマーチャント」を志向する事業者が増加しています。「補助金活用」と比べ、補助制度の期間・条件に適した蓄電池を選定する必要がなくなり、相対的に安価な蓄電池を導入しやすくなる傾向にあることに加え、フルマーチャント案件に対するプロジェクトファイナンススキームの検討も進んでおり[6]、今後さらに拡大する可能性があります。
「フルマーチャント」においては、事業主体が多くのリスクを負うことになりますが、蓄電池の調達・施工を別事業者に任せ、当該設備投資リスクを回避することを目的とした「トーリング」やBTO(Build-Operate-Transfer:第三者保有モデル)の検討も進んできています。「トーリング」では、蓄電池保有者がオフテーカーに運用権を付与し、契約料金として固定対価を得ることで、ファイナンスの確度向上や案件形成の加速が期待されます。また、オフテーカー目線では、設備投資リスクの回避に加え、蓄電池保有者が有する安価な電池の調達力を活用することができるため、双方にとってメリットが生じる可能性があります。米国・テキサス州ではすでに、トーリングなどの第三者保有モデルが2割[7]を占めている状況にあり、契約型収益モデルの存在感が増しています。
図表3:系統用蓄電池のビジネスモデル4類型
足元では、需給調整市場の高騰・補助制度の拡充を背景に、収益性が向上し、急速に参入事業者が増加しています。一方、過度なインセンティブは、国民負担の増大につながるため、国民負担の軽減と市場の健全化を目的に、制度の変更が続いています。結果として、参入事業者にとっては収益性の悪化につながり得る変更も増えており、今後もこの傾向が続くと予想されます。
需給調整市場では、応札量不足に伴う市場価格の高騰が課題として指摘されており、調整力募集量の低減、応札量の増加、価格の下落などそれぞれに対して、多数の変更がなされています。例えば、2026年1月、需給調整市場の入札上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円/ΔkW・30分に引き下げるとともに、募集量を削減する案が提示[8]されました。前者は、十分な競争環境が働いていないと判断された場合には、さらなる引き下げも実施されることとなります。さらに将来的には、kWhとΔkWを同時約定させる「同時市場」の国内導入において議論がなされており、市場の予見性を立てるのがより困難な状況にあります。
また、長期脱炭素電源オークションでは、2025年度応札より要件の見直しが行われています。具体的には、蓄電池の募集量上限の縮小、長時間率(6時間以上)の蓄電池の要件、サイバーセキュリティ基準適合、サプライチェーン観点でのセル製造国の偏在抑制(日本を除く海外1国からのセル製造上限を30%未満とする)などが整理されています[9]。これにより、適合要件の難易度が上がり、競争率の低下が見込まれます。長期脱炭素電源オークションにおいても、需給調整市場と同様に、蓄電池の「自立化」を促す制度誘導が進む可能性があります。
系統用蓄電池の運用は、自社(子会社など含む)で運用する場合と、他社に委託する場合の大きく2つに分けられます。加えて自社で運用する場合も、自社開発システムを用いる場合と、他社のシステムを用いる場合に大別できます。
現在、運用開始済みの系統用蓄電池においては、アセット保有者と運用事業者が資本関係を有するケースが多い一方、積極的に外販を公表し、運用実績や他社との提携実績を持つ運用事業者も存在します(図表4)。これまでの、VPP(仮想発電所)実証、再エネ・再エネ併設蓄電池の運用、EPC(Engineering、Procurement、Construction)、電力市場取引などの経験を生かして参入が進んでいます。
図表4:系統用蓄電池の主な運用事業者
系統用蓄電池の運用事業者のサービス・価格は、事業者ごとに大きく異なります。市場の黎明期であり、実績比較だけでは評価が難しいため、入手可能な情報を基に比較検討を行う必要があります。
各社は特に、SaaS(Software as a Service)としての提供、AIを活用した市場予測の高度化、複数市場をまたぐマルチユース運用における収益の最大化などに取り組んでおり、今後の大きな差別化要素となり得ます。
図表5:系統用蓄電池の運用事業者の特徴
第1章で述べたとおり、系統用蓄電池ビジネスは4つのビジネスモデルに類型化できます。参入にあたっては、各モデルのメリット・デメリットを正確に踏まえた、自社にとって最適な蓄電池調達、資金調達を設計する必要があります。
補助金活用では、保守やセキュリティなどの補助要件に適合する設備選定が必要となり、調達の選択肢が限られ価格が上がりやすい傾向にあります。
長期脱炭素電源オークションへの応札を行う場合も、制度要件を満たすことに加え、セル製造国などの要件を踏まえた選択を行う中でコスト競争力の高い電池を調達する必要が生じます。
また、金融機関などからの資金調達の検討を行う際は、ビジネスモデルと内在するリスクをセットで整理し、説明可能な投資ストーリーを構築することが重要です。
事業者は各市場からの収益源を組み合わせることで最適な運用計画を策定する必要があります。しかし、市場形成途上で市場価格の見通しが難しいこと、制度変更が続くこと、将来的な需給調整市場価格の下落が見込まれる中での対応などが課題となります。
現時点では、需給調整市場(一次調整力)と容量市場(安定電源または発動指令電源)の組み合わせが主流です。将来的に、需給調整市場価格が下落した場合、他商品の選択やJEPX市場での活用なども含めて、収益最大化を目指す必要が出てきます。そのため、市場の変化に備え、収益最大化に資する運用体制の構築とパートナーの選定がより重要となります。加えて、社内投資意思決定、補助金申請、市場参画のための実働試験などのリードタイムを踏まえると、運転開始より1~3年前には体制を決定しておく必要があり、迅速な検討が求められる点にも注意が必要です。
PwCコンサルティングでは、蓄電池ビジネスへ参入を検討している事業者、参入済みの事業者に対して、多様な支援を提供しています。具体的には、ビジネスモデルが定まっていない事業者に対するビジネスモデル・事業化ロードマップ策定、実行面でのサポートが必要な事業者に対するアグリゲーター選定、パートナー選定・M&Aなどの支援、収益性を評価したい事業者に対する事業性評価などです。
特に、運用体制の構築や事業性の評価では、国内外の市場・政策動向への深い理解に加え、利害関係に左右されない第三者評価が求められる場面も少なくありません。私たちは、PwCグローバルネットワークの知見や国内エネルギー業界における動向・制度変革支援に係る実績を活かし、実際の見積・提案受領後の伴走支援や、独自開発したシミュレーションツールを用いた迅速な評価も可能です。これらの強みを活用して、事業者であるクライアントの幅広い課題の解決に貢献します。
図表6:系統用蓄電池向けサービスの例
[1] 経済産業省, 2022年10月22日「GX実行会議(第3回)資料1」(2026年3月31日閲覧)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai3/siryou1.pdf.
[2] 経済産業省, 2025年9月24日「第4回 次世代電力系統ワーキンググループ 資料4」(2026年3月31日閲覧
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/smart_power_grid_wg/pdf/004_04_00.pdf.
[3] 環境共創イニシアチブ, 2025年12月25日「令和7年度 再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金 交付決定について」など(2026年3月31日閲覧)
https://sii.or.jp/chikudenchi07/uploads/R7kess_koufukettei.pdf.
[4] 東京都, 2026年1月20日「再エネ導入拡大を見据えた系統用大規模蓄電池導入支援事業 令和7年度交付決定一覧」など(2026年3月31日閲覧)
https://tokyo-co2down.g.kuroco-img.app/files/user/files/subsidy/grid-connect/gc_kofukettei_r7_20260120-1.pdf.
[5] 電力広域的運営推進機関, 2025年4月28日「容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2024年度)」(2026年3月31日閲覧)
https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/oshirase/2025/files/250428_longauction_youryouyakujokekka_kouhyou_ousatsu2024.pdf.
[6] 三菱UFJ銀行, 2025年5月7日「本邦系統用蓄電池設備によりフルマーチャントを前提に行う事業に対する本邦初のプロジェクトファイナンス組成について」(2026年3月31日閲覧)
https://www.bk.mufg.jp/info/pdf/full_merchant.pdf.
[7] Modo Energy, 「Part 1: The state of battery offtake and tolling agreements in ERCOT」(2026年3月31日閲覧)
https://modoenergy.com/research/en/battery-bess-offtake-tolling-agreements-route-market-contracts-ercot-explainer-part-one.
[8] 資源エネルギー庁, 2026年1月23日「第110回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会 資料4」(2026年3月31日閲覧)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/pdf/110_04_00.pdf.
[9] 電力広域的運営推進機関, 2025年9月1日「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2025年度)」(2026年3月31日閲覧)
https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/files/202509_youryou_syousaisetsumei_long.pdf.
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