
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2023-01-17
2021年にデジタル田園都市国家構想が発表され、その推進交付金が決定したことを受けて、スマートシティ基盤の中核となるデータ連携基盤に関心を持ち、実装に向けた取り組みを行う団体の数が増加してきています。
データ連携基盤の実装にあたっては、地域課題の変化や技術の発展に柔軟に対応し、地域間の連携を円滑に行いながらサービスを提供する「相互運用性」の確保が重要とされています。また、相互運用性の確保にはデータ連携基盤の機能更新をまとまった機能ブロック単位で実施できる「ビルディングブロック方式」によるシステムを構築し、ビルディングブロック方式を実現する「ブローカー」「APIゲートウェイ」「開発者ポータルサイト」といったコンポーネントを整備することが求められています。
2021年に始まったデジタル田園都市国家構想の推進によって、スマートシティの実現に向けた取り組みは加速しています。内閣府の発表によると、2022年6月時点で他の地域で確立された優良なモデル・サービスを活用した取り組みに対する支援(TYPE1)には全国で403団体が、データ連携基盤を活用した複数サービスの実装を伴う取り組み(TYPE2、3)には27団体が採択されており、合計430の団体がデジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上に取り組んでいます。
他方で、データ連携基盤は構築すれば終わりというわけではありません。日々の運用に加え、地域の課題や環境の変化に応じてシステムを変更することや、他地域への横展開を見据え、1つの事業者やサービスに依存することなく便益を提供し続けることが求められます。これは相互運用性と呼ばれ、データ連携基盤においても相互運用性を確保することが重要となります。例えば、市区町村の合併が起こった場合、合併後に住民がデータ連携基盤上のサービスを利用できるよう、システムの改修や統合を検討する必要があります。
相互運用性を確保するにあたっては、ルールの策定やデータモデルの統一など、さまざまな点を考慮する必要がありますが、データ連携基盤の構築においては他の機能に影響が及ばないように、それぞれの機能を更新するビルディングブロック方式を採用することが望ましいと考えられています。
システムを機能ごとに更新するにあたっては「ビルディングブロック」と呼ばれる、ある程度まとまった機能のかたまり同士のやりとりをAPIで行うことで、他のビルディングブロックに影響を与えることなく、単一のビルディングブロックを更新できます。これは「ビルディングブロック方式」と呼ばれており、生活による変化への対応や、複数の地域への横展開が想定されるデータ連携基盤の構築において推奨されています。地域の課題や特性に応じて必要な機能を取捨選択し、組み合わせることで、最適かつ疎結合な状態にあるシステムを構築することができると考えられています。
図1:ビルディングブロック方式による機能拡張の例
※内閣府_スーパーシティのデータ連携基盤に関する調査業務からPwCで一部修正
データ連携基盤を活用して業種間・地域間でやり取りを行うためには、相互運用性を確保できるミニマルなビルディングブロックを定義する必要があります。これにより、過大な機能を実装することなく、スモールスタートによりデータ連携基盤を低コストで実装することが可能となります。
内閣府の「データ連携基盤技術報告書」では、データ連携基盤に最低限必要な機能として、データの流通を制御する「ブローカー」、ブローカーをAPIとして利用可能な状態にするための「オープンAPI」、そしてオープンAPIの情報をデータ連携基盤の利用者向けに公開する「開発者ポータルサイト」の3つが提案されています。
「ブローカー」は、データ利用者からの要求を受け付け、外部サービスやデータ連携基盤が保有するデータを返却します。データ利用者はデータの在処を意識することなくデータにアクセスすることが可能となります。ブローカーが取り扱うデータには大きく「パーソナルデータ」と「非パーソナルデータ」の2種類が存在します。パーソナルデータは非パーソナルデータと異なり、データ提供者本人の同意に基づいて提供される必要があるため、同意管理がされる必要があります。このように、扱うデータによってブローカーに求められる機能が異なるため、パーソナルデータを扱うブローカーと、非パーソナルデータを扱うブローカーは個別に実装すべきであると考えられています。
「オープンAPI」は、あるサービスの機能やデータを他のサービスから利用する際に厳格な要件を必要とせず、誰からでもアクセスできるように公開されたAPIのことを指します。これにより、都市OSを中心に、データを活用するさまざまな主体が連携できるようになります。複数のサービスが持つAPIをオープンAPIとして一元的に管理・公開するために、API管理機能(APIゲートウェイ)が具備されることが望ましいと考えられています。
「開発者ポータルサイト」は、データ連携基盤を利用する多様な主体がオープンAPIやデータにアクセスするために、APIの仕様や接続方法、利用規約などを公開するウェブサイトです。データ連携基盤利用者は開発者ポータルサイトを通してAPIやデータの検索が可能な他、APIを評価可能な簡易的なコンソール機能を利用できることが望ましいとされています。
上述したビルディングブロックのうち、ブローカー、APIゲートウェイの実装に推奨されるモジュールが2022年12月に一般社団法人データ社会推進協議会によって公開されました。APIゲートウェイは「Kong Gateway」、ブローカー(非パーソナル)は「NGSI v2 FIWARE Orion」、ブローカー(パーソナル)は「パーソナルデータ連携モジュール」が推奨されています。いずれもOSSライセンスが適用されており、誰でも手軽に利用することができます。
表1:推奨モジュールのソフトウェア概要
推奨モジュール | OSS名 | ライセンス | URL ※外部サイト |
APIゲートウェイ | Kong Gateway
|
Apache License 2.0 | https://github.com/Kong/kong |
ブローカー(非パーソナル) | NGSI v2 FIWARE Orion
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AGPL v3.0 | https://github.com/telefonicaid/fiware-orion |
ブローカー(パーソナル) | パーソナルデータ連携モジュール
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MIT License | https://data-society-alliance.org/area-data/module/manual |
※一般社団法人データ社会推進協議会 推奨モジュールの概要
ビルディングブロック方式に基づいたデータ連携基盤の相互運用性の考え方や、推奨モジュールを活用したそれらの推進によって、生活や時代の変化への柔軟な対応が可能なスマートシティデジタル基盤の実現が期待できます。
北田 亮汰
シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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