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2022-08-02
日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとし、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しています。この目標の達成に向けては、国と地方が協力することで脱炭素化を推進し、持続可能で強靭な活力ある地域社会の実現を目指す「地域脱炭素ロードマップ」1が定められています。その中で、スマートシティの社会実装はまちづくり・交通分野における促進施策として位置づけられています。元々スマートシティはエネルギー利用の効率化や再生可能エネルギー利用拡大を意図して始まっていることもあり、都市の脱炭素化を包括的に進める有効な施策の1つとして期待されています。
スマートシティ開発には、市民、行政、民間事業者を巻き込みながら、テクノロジーを活用することで新たな社会システムを実装していくプレイヤーが必要であると考えます。そこで今回は、「地域脱炭素化×スマートシティの社会実装」の担い手について考察します。
地域の脱炭素化とスマートシティの社会実装の両方を担うことができるのは、下記3つの要件を満たすプレイヤーであると考えます。
本コラムシリーズ第44回で指摘したとおり、脱炭素の達成にはエネルギー利活用の変革が不可欠です。そのため、地域におけるエネルギー利活用を支える地域ユーティリティ事業を高度化、改革していくことが、地域経済循環と脱炭素を推進する上では必須となります。
地域の脱炭素化およびスマートシティの社会実装は、地域の暮らしを支える取り組みであるため公共性および公益性が求められます。住民理解が得られずに頓挫したスマートシティ計画があるように、住民からの信頼を得ながら計画策定から実装まで進められる事業運営が必要となります。また、地方行政の目指す方向性と合致していなければ、地域全体で見たときに個々の取り組みが一貫性のないものとなり、非効率となってしまうため、行政との密な連携が重要となります。
新しいテクノロジーや社会システムを導入し、脱炭素化や地域の課題解決を実現するためには、中長期的な目標のもとに持続的に事業を運営していくことが重要です。慈善活動や補助金に頼った単発的な施策ではなく、事業の継続に必要な最低限の収益性を確保・維持しながら地域を支え続けられる事業運営力が必要です。
上記3つの要件を満たし、包括的な公共・公益サービスを地域に提供しながら地域の脱炭素化とスマート化に貢献している事業体として、ドイツやオーストリアの「シュタットベルケ」(Stadwerke)のような、地域事業を運営する都市公社が挙げられます。
シュタットベルケとは、電力(発電、配電、小売)やガス、水道、地域熱供給、廃棄物管理、地域交通などの地域インフラ事業を包括的に営む、自治体出資の都市公社です。地域の再生可能エネルギー開発を推進しており、地域エネルギーの地産地消と効率的なエネルギー利活用に大きく貢献しています。また、電力や熱供給などのユーティリティ事業で得た収益を、地域交通や公共プール、娯楽文化施設など、単体では赤字であるが住民の充実した地域生活を支えるサービスに補填することで、持続的な住民サービスを実現しています。
シュタットベルケが地域インフラ事業を包括的に管理することで、分野横断でのサービス連携やデータ連携も進んでいます。例えばミュンヘン市のシュタットベルケが提供するサービスでは、ユーザーは1つのアカウントを持つだけで、交通、ユーティリティ、娯楽、文化サービスへのアクセスが可能となります。つまり、シュタットベルケが個人情報を一元管理することでユーザーは各サービスの利用や支払いが容易に行えるようになり、地域サービスの分野横断的な統合とスマート化に大きく貢献しているのです2。
シュタットベルケの運営においては、行政が中長期計画の承認や経営陣の任免といった形でそのガバナンスに関与してはいます。民間企業で経験を積んだ経営者や専門人材が事業経営を行う体制が一般的であり、行政目標と足並みをそろえて公共性を維持しながら、収益性を重視した経営を行うことができています。
また、シュタットベルケは1つの自治体に閉じたものではありません。いくつもの自治体からの出資を受けて自治体の枠を超えて地域サービスを提供するケースや、シュタットベルケ同士が相互出資しながら幅広い地域にサービスを提供するケースもあります。そのため、人材やノウハウをそのネットワークを通じて共有をするなど、財源やリソースの乏しい小規模の自治体であっても持続的な地域サービスを行えるようなスキームを構築することができています。
図表1:シュタットベルケのスキーム
日本においても2016年の電力小売全面自由化を受け、シュタットベルケをモデルとする自治体出資型の地域新電力が設立されてきました。しかし、地方自治体の権限は比較的弱く、部署ごとの縦割り意識も強いことや、都市圏にリソースが集中している日本において地方はそもそも疲弊し、予算が限られていることから、シュタットベルケのように行政と足並みをそろえながら収益性を重視した包括的な地域サービスを提供する担い手を創出することは容易ではありません。設立済の地域新電力の多くは薄利多売な電力小売を主要事業としており、安定的な地産電源を保有している一部の地域新電力を除いては卸電力市場からの調達に頼っていることから、2021年秋以降の市場価格高騰の影響を受けて厳しい経営状況にあります。
とはいえ、地域新電力であれば、個々に独立して存在する地域サービスを速やかに統合していくことは難しいとしても、地域エネルギー事業を軸として親和性のある領域に事業展開を図ることができると考えます。
2022年4月の改正電気事業法施行により配電事業制度が開始し、従来大手電力会社が大部分を運営してきた配電網の運用ライセンスを新規参入者が取得できるようになります。例えばドイツのシュタットベルケの主要な収益源の1つがコンセッション契約による配電網の運営管理事業であるように、地域の配電事業を地域新電力が担うことができれば、収益源の多様化に加え、地域の分散エネルギーの担い手として地域脱炭素化と資源利用の効率化、レジリエンス強化を推進していくことが期待できます。
そこにエリアマネジメント事業や、地域交通事業、廃棄物管理事業など複数の事業を統合し、また、特徴の異なる地域間で相互補完的な取り組みを行うことで、新たなビジネスモデルの創出や、リソースや管理部門の共有・統一による経営効率化などが見込まれます。“新電力”に留まらない「日本版シュタットベルケ」が誕生し、持続可能で魅力的な地域運営ができていくのではないかと期待しています。
地域の脱炭素化とスマートシティの社会実装の担い手を生み出していくためには、行政や地域住民からの支持・支援に加えて、人材やノウハウ移転という観点から、競合となりうる企業からの支援も欠かせません。2050年脱炭素社会の実現に向けて、既存の枠組みにとらわれず、社会全体が一連托生となり、伸ばしていくべきプレイヤーを定めて変革を進めていくべきではないでしょうか。
参照:
国・地方脱炭素実現会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/datsutanso/index.html
Stadwerk Munchen Annual Report 2021
https://www.swm.de/dam/doc/english/swm-annual-report.pdf
益田 浩
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
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