
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2021-12-14
2021年4月に需給調整市場が開設され、再生可能エネルギーの予測誤差に対応する調整力(三次調整力②)の取引が開始されました。以後2024年度まで4年をかけて、市場取引範囲の拡大が計画されています。三次調整力②の取引は、今まで都市の中で放置されていた小規模のエネルギー(=分散型エネルギー資源)を束ねることでレジリエンスの強化や、再生可能エネルギーの普及促進に寄与することが期待されます。
本コラムシリーズ第44回では、地域ユーティリティ事業についての全体像を解説しました。今回は、その中でも特に注目が集まる、分散型エネルギー資源を束ね、大規模な電源のように機能させるVPP(Virtual Power Plant)という仕組みについて考察します。
コロナ禍前にドイツで開かれたエネルギー関係のイベントに参加したのですが、その講演で投影された世界の電源への投資規模の資料(図1)を見て、大きな衝撃を受けました。発電所をはじめとする公益事業者による電源に対する投資規模は2030年の時点で現在とほぼ同等の約7,000億米ドルと予測されているのに対して、顧客が保有する電源への投資規模は2030年には2019年比で約15倍に増加し、公益事業者による電源に対する投資額の3倍程度になると予測されていました。顧客の保有する電源の内訳については推測になりますが、太陽光パネル、電気自動車(EV)や蓄電池、燃料電池、エネファームなどが含まれることになります。都市におけるエネルギーの活用例としては、ドイツの自然エネルギー100%自給の村「フェルトハイム」がモデルケースとして世界的に有名です。人口約150人に対して、風力発電43基、バイオガス発電 400万Kwh(2014年の情報*1)と、エネルギー投資に振り切った村といえます。しかしながら、IEAが予測するような将来が訪れるのであれば、このような過剰な投資をしなくとも、都市の中に分散して配置されたエネルギー資源(図2)を束ねることで一定の自給自足が行えるのではないかと感じられます。逆に考えると、都市の中の分散型エネルギー資源を束ねてVPPを活用してこそスマートシティといえるのかもしれません。
スマートシティがVPPに取り組む意義について、政府主導で2020年度まで行われた「バーチャルパワープラント構築実証事業」をもとに、PwCは4つに分類しました。
1、3はVPP実証事業の目的ともいえる内容であり、2については都市の課題であるレジリエンス強化に向けて仙台市、横浜市、熊本市などで先進的な実証事業が行われました。最後の4がこれから最も注目されると考えています。フェルトハイム村のように都市の人口に対して大量に電源を保有しない限り、1~3はどうしても投資が先行し、都市を持続的に運営する費用が賄えないことが課題になります。4の新サービス創出の実現までを含めて取り組まなければ、せっかくの分散型エネルギー資源も都市に埋もれたままになりかねません。
VPP技術を用いた新サービスの事例として、EV事業者の取り組みに注目しています。自動車業界は、「コネクテッドカー」をキーワードとしてさまざまな接続が検証されていますが、住宅のエネルギー源としての接続も計画されています。EVと住宅がつながり、住宅同士がつながった先にあるのが都市であると考えれば、分散型エネルギー資源を十分に活用でき、明るい未来が開けるのではないかと考えられます。
国内における実現の時期としては、冒頭に記載した需給調整市場が整備され、高圧以上の逆潮流アグリケーションが見込まれるのが2024年頃となります*2。EVは低圧であるので、高圧後に市場も整備されると想定されます。
*1 HuffPost Japan、2014年5月2日
https://www.huffingtonpost.jp/2014/05/01/feldheim-akie-abe_n_5246967.html
*2 需給調整市場検討小委員会 事務局資料、2021年3月30日https://www.occto.or.jp/iinkai/chouseiryoku/jukyuchousei/2020/files/jukyu_shijyo_22_03.pdf
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