PPP/PFIによるスマートシティ開発

2021-04-13

スマートシティ開発において、将来の技術革新を先取りしながら、新たな社会システムやビジネスモデルを創造・実装するには、官民の連携が不可欠です。官民連携の概念には、例えばPFI(Private Finance Initiative:公共施設などの建設、維持管理、運営などを民間の資金、経営能力および技術的能力を活用して行う新しい手法)のように官民の権利義務を契約で明確にし、民間がサービスを提供する形態から、まちづくり協議会のような緩やかな連携まで幅広い手法が含まれます。

今回は、スマートシティ開発におけるPPP(Public Private Partnership:官民パートナーシップ)/PFIの事例をご紹介しながら、官民連携の事業スキームを構築する上でのポイントを考察します。

事例1:グリーンフィールド型のスマートシティ開発

2021年2月に、工事着工されたウーブン・シティ(静岡県裾野市)をはじめ、柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)やFujisawaサスティナブル・スマートタウン(神奈川県藤沢市)など、土地区画整理事業をベースにしたグリーンフィールド型(整備されていない土地でゼロから事業開発をすること)のスマートシティ開発が各地で進んでいます。

現在は、民有地における民間主導型が主流ですが、深沢地区まちづくりプロジェクト(神奈川県鎌倉市)や国土交通省が進める品川駅西口基盤整備事業(東京都港区)など公有財産における行政主導型のケースもいくつか検討が始まってます。今後は、立地適正化計画などにおける都市再生のソリューションとしても、PPP/PFI手法の活用が期待されます。

  • 都市の再開発にあたっては、都市計画手続きや基盤・施設整備などに5年前後という長い開発期間が必要となります。そのため、事業者公募の段階で数年後の技術革新を踏まえたビジネスモデルを想定し、投資額やサービス内容を定めた事業計画を立案する点が課題となります。
  • 特に、PFIなどの公共調達では、発注者サイドが将来のビジネスモデルの仮説を立案し、機能要件、官民の役割・費用負担、事業方式(開発・所有権・期間)、リスク分担、契約スキームなどを定め、公募条件として示さなければいけません。よって、公募前のサウンディングや公募中の競争的対話を通じ、官民で事業創出に向けたアイディアや役割分担について十分に協議・連携を進めるとともに、契約後の事業計画や契約条件の調整/変更ルールを工夫するなど、持続可能な仕組みをつくることが重要なポイントとなります。
  • 民間インセンティブを醸成する工夫としては、総合評価方式によって技術点と価格点のバランスをとりつつ、投資額やサービスの履行について緩やかな契約条件とするなど、空港コンセッション事業などの需要創造型のPPP/PFI事業が参考となるでしょう。
  • 民間主導型を含めて、ウーブン・シティのように開発初期段階において地元行政との間で包括連携協定を締結することや、柏の葉スマートシティの柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)のような任意の連携組織の設置、一般社団法人などの法人格を有するエリアマネジメント組織の設立など、時間軸や事業の目的にあわせて、推進組織のあり方を事前に設計しておくことも重要です。

事例2:大規模コンセッションによる地域インフラ事業のスマート化

宮城県の「宮城県上工下水一体官民連携運営事業」や大阪市の「大阪市水道PFI管路更新事業等」など、特定地域におけるインフラの包括的なコンセッション事業が始まっています。これらの取り組みは、インフラ管理の高度化を加速度的に推し進める可能性を秘めており、スマートシティ開発における官民連携の重要な領域となると期待されています。

  • これまでのPPP/PFIは個別施設を対象としており、イノベーションの対象領域や投資規模は限定的でしたが、宮城県は事業期間20年、上限価格1,540億円(税込)、大阪市は事業期間15年、上限価格3,750億円(税込)という金額的にも面積的にも大規模な事業となり、公共インフラ経営におけるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に加えて、ソリューションの開発、インフラとサービスの融合などが一気に進むことが期待されます。
  • 事業実施においては、地域の企業・人材を広範囲に巻き込むことでイノベーションが地域全体に波及するとともに、他の公共インフラや同じような性質をもつ電気・ガス・通信などの民間領域を含めた地域インフラのエコシステム化が進み、持続可能な地域社会の実現に貢献することが期待されます。

官民連携の事業スキームを構築する上でのポイント

スキーム面でのPPP/PFIによるスマートシティ事業開発のポイントをまとめます。

  1. 公共主体の事業(PFI・公設民営など)と民間主体の事業(土地譲渡・定借・民有地など)では、事業スキームや公募・選定プロセス、契約の枠組みが異なるため、事業目的やビジネスモデルを踏まえた個別のカスタマイズが必要。
  2. 事業者選定から開業までの間、そして開業後も技術開発や事業環境の継続的な変化が想定されるため、アジャイル型の開発・運営を前提とした契約ルールを定めることが重要。
  3. 不確実性の高いビジネスモデルが前提となる場合は、価格と提案の評価方法や提案の履行/変更などに関するルールを工夫することで、民間の事業参加へのインセンティブを醸成し、契約後に事業を円滑に推進することが可能。
  4. 新領域の事業では、民間の創意工夫や積極的な事業参加を促す上で、行政によるビジョンの提示やリーダーシップの発揮とともに、公募プロセスにおける官民の対話が重要。
  5. 契約後の開発・運用段階では、エリアマネジメントなど地域のステークホルダーとの連携が必須となるため、事業スキームにあらかじめ基本的な枠組みやルールを反映しておくことが重要。

現在、全国で実施されているスマートシティ構想の事業化において、地域・事業ごとに官民連携の仕組みを適切に構築することが、事業を成功に導く上で重要なポイントになるでしょう。

PwCは、PFIの黎明期から多様な官民連携の仕組みづくりや事業化に長年携わってきました。私たちは、これらを通じて得られた知見、経験をいかし、官民連携によるスマートシティの開発を通じた社会課題への解決に貢献していきたいと強く願っています。

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