官民連携でのスマートシティへの取り組み方

2020-11-17

多くの分野で進められている官民連携

政府や地方自治体が提供してきた住民サービスについて、官民連携での事業実施が進められています。官民連携と聞くと、施設や事業の運営を民間企業に委託するPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)のようにハード面の連携が想像しやすいかもしれませんが、現在では地方自治体の振興計画事業構想の立案など、いわゆるソフト面の官民連携事例が増えています。その背景には、地方が抱える社会課題の複雑化・多様化があります。行政だけでは課題の把握やその解決策となる事業を定めることが困難になっていることや、日本でも社会課題解決に取り組む多種多様な民間企業が誕生してきていることが官民連携の推進を後押ししています。

官民連携で進めるスマートシティ

スマートシティの推進における官民連携のあり方として、大きく2つの方向性が考えられます。

1つ目は、官民それぞれが持つスマートシティ構築に必要なデータを提供し合うという、データ共有の観点です。本コラムの第6回でも紹介していますが、「まちの今」をとらえる有力な手段としてデータの活用は不可欠です。しかしながら、地方自治体は行政の業務の中で得られるデータしか保有していないため、質の高い住民サービスを提供するために必要十分なデータをとり揃えることができないという課題があります。そこで、消費・購買に関するデータや、企業間の商取引情報、社会インフラの維持・整備で蓄えたデータなど民間企業が保有するデータと、地方自治体が保有するデータを共有することが、スマートシティのデータ基盤を支えるうえで必要不可欠となります。

2つ目は、集められたデータを活用し、生活サービスや生活インフラ、社会インフラの提供を民間企業が「持続可能なビジネス」として展開することです。ここでいう「持続可能なビジネス」とは、国や地方自治体からの受託事業者としてマネタイズをするのではなく、あくまでもサービス・インフラの提供者として、受益者(住民や地域内の企業)から対価を得てサービスを行うことを指しています。スマートシティの目的は、地域が抱える課題を解決し、住民の生活をより快適で豊かにすることであると考えると、課題を解決した民間企業が受益者から対価を直接得るとすることで、スマートシティに関わる企業の間に競争関係が生まれます。企業間競争はサービスの高度化や、経営の効率化をもたらし、より良いサービスをより安価に提供するという、官民連携の目的を達成することができます。

例えば北海道札幌市では、官民それぞれが保有するデータを共同利用するプラットフォーム「DATA-SMART CITY SAPPORO」を軸にさまざまな取り組みが行われています。集められたデータは、ウェブ上にオープンデータとして公開。データカタログとして整理されており、地域内のイノベーション創出の基盤としての活用が想定されています。このような取り組みは、データドリブンでの社会課題の解決、企業間連携または官民連携を通じたスマートシティ実現の礎として、高い注目を集めています。

民間企業に求められること

スマートシティの推進には国や地方自治体と民間企業の連携が不可欠です。そして民間企業はスマートシティの推進を個々の事業ごとに切り分けるのではなく、全体でとらえることが重要となります。前述の2つの方向性も、「データの共有」と「サービスの提供」を切り分けて考えるのではなく、データを無償または廉価で提供することをスマートシティの基盤を強固かつ広範なものに育てること、ととらえるべきです。そして、その基盤を活用し、サービスを提供する領域でより大きなビジネスとしてマネタイズするといった、全体感を持った投資と回収のモデルをイメージすることが、「持続可能なビジネス」を推進するために求められています。

また、ある地域での経験やノウハウを、他の地域に展開していくことも民間企業にしかできない重要な役割です。地方自治体はそれぞれの域内での取り組みを推進する立場であり、ほかの地域との連携は限定的です。そのため、民間企業が地方自治体同士を媒介し、各地のベストプラクティスを持ち寄り、スマートシティの高度化に向けた役割を果たすことが求められています。それと同時に自社のマネタイズポイントを増やし、収益を上げながら「持続可能なビジネス」として日本全体のスマートシティ化の推進役を担うことが期待されています。

その際、地方自治体が切り分けた事業単位でスマートシティ化に取り組もうとすると、各地方自治体の要件に自社のサービスをカスタマイズする工数と費用が発生するため、横展開の足かせとなりえます。しかし、そこで地方自治体がスマートシティのビジョンを描く段階からパートナーとなり、自社のリソースを生かして基盤整備に関与することで、効率的に事業を横展開することが可能になります。これが官民連携の本質として最も重要なアクションとなります。

※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。

執筆者

井村 慎

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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