スマートシティを活用して地方創生をどのように進めるか

2020-09-08

2014年以降、内閣官房を中心に進められている「地方創生」の取り組みは、「出生率の低下によって引き起こされる人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持すること」を目的としています(*1)。しかしながら、世界的な都市化の流れと同様に日本でも東京圏への人口流入が続いているのが現状(*2)です。一方、「スマートシティ」に関しては、国土交通省によると「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメントが行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区のこと」とされており(*3)、一般的に「都市」を前提とした概念であると言えます。本稿では、「地方」におけるスマート化・ICT活用による課題解決を取り上げ、「人口流出の回避/流入の増加」および「中長期的な活力確保」の2つの視点から考察します。

「人口流出の回避/流入の増加」という点において、スマート化による主な恩恵は「遠隔地であることの不利を解消すること」であると言えます。遠隔診療・遠隔教育・リモートワークの実用化が進めば、地方の不利は大きく解消します。また、過疎地における買い物難民問題も、ドローンやUGV(Unmanned Ground Vehicle:無人地上車両)を用いた無人配送によって解決可能と考えられます。奇しくも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、リモートワークが急速に一般化し、学校現場でも必要に迫られて遠隔教育が推進されました。遠隔診療も条件付きで初診への適用が承認されるなど、地方にとって追い風となり得る事象が増えています。

しかしながら、内閣官房の調査(*4)によると、東京圏出身者と地方圏出身者では地方移住の意向に大きな差があります。東京圏出身者にとって、地方での暮らしは職住近接や自然環境などにより魅力的に映りつつも、「公共交通の利便性」「収入の低下」といった理由から実際には移住に踏み切れていない状況です。地方への人の流れの機運を現実のものとするには、交通を含めたインフラが整備・維持され、都市部と比べて遜色のない仕事の存在が必要となります。

次に、地方への人の流れを考える上で「中長期的な活力確保」の視点から考察すると、スマート化による情報の可視化・定量化、およびデータ活用も重要です。民間企業であればデータドリブン経営、行政であればEBPM(Evidence Based Policy Making)がこれに当たります。例えば、地域交通を維持するためには、住民の行動パターンや長期的な住居の分布を前提に交通需要予測を行い、自治体の財政や企業の資本力などを考慮した上で最適解を導く必要があります。その際には、オープンデータを活用したオンデマンドバスやパーソナルモビリティを含めた郊外型MaaSも選択肢となり得ます。また、地方自治体財政がひっ迫した状況になれば、地域交通だけでなく上下水道や道路その他のインフラ整備も限定的にならざるを得ませんが、1世帯当たりのインフラコストを可視化するシミュレーションを実施し、居住誘導区域を設定することも可能です。夕張市のように財政上の必要に迫られて実施するケースもありますが、これからは長期的に持続可能なまちに向け、土地利用最適化の観点でシミュレーションを行うケースが増えるでしょう。

また、地方での暮らしが「収入の低下」につながらないように、地域の「稼ぐ力」を高めるためにもデータ活用は有効です。農産物や海産物といった地域の特産品について、統計データだけでなくSNSなどの非構造化データも用いて需要調査を実施し、販路開拓や用途開発を進めたり需要の変動に合わせた生産を行ったりという新しい一次産業のあり方も考えられます。

これらの活動は直接的にスマートシティというキーワードとは結びつきにくいかもしれませんが、地方自治体がEBPMにより行政コストを削減しつつ、農林水産業の需要分析・需要開発を推し進めるまち、あるいは地域金融機関が地域全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のために投融資を積極的に実施するまちは、地方創生型の新たなスマートシティの形となりうるのではないでしょうか。

※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。

執筆者

二村 正人

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

※役職などは掲載当時のものです。

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