スタートアップ&スケールアップ コラム

第1回:起業家が世界を正しい道に導くにはどうすればよいか

  • 2023-08-24

はじめに

大学生などの若者と話をすると、希望と不安が入り混じった声が聞こえてくるでしょう。希望とは、若者たちを満たしてくれる、世界にとっての持続可能な未来です。しかし、最近では多くの場合、若者たちにとっては不安が希望を大きく上回っています。

その理由を理解するのは難しくありません。今の若者たちは子どものころ、2008年の世界金融危機によって自分の親たちがどのような影響を受けたかを目の当たりにしてきました。また現在、気候変動から格差拡大まで大きな課題に見舞われている世界では、彼らの多くが奨学金などの学生ローンを背負って社会人生活をスタートさせており、希望する仕事を見つけたり、住宅を購入したりする見通しを持つことはなかなかできません。そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、彼らの失望をさらに深めました。

前進する道を見つける

これらすべてが暗い話に聞こえたとしたら、それはすでに実際にそうなっているか、少なくともそうなる恐れがあるからです。しかし、私たちは今日の若者と未来の世界のために進むべき道があると信じています。それを可能にするのは起業家精神です。

今、世界がこれまで以上に起業家精神を必要としている理由は3つあります。

1. 中小企業は価値が毀損する「座礁資産」化が進む可能性があり、それを避けるには起業家の介入が必要

パンデミックはビジネスや社会の多くの部分に大きな打撃を与えましたが、とりわけ中小企業にはしわ寄せが行きました。中小企業はそれらを寄せ集めれば一つの大きな事業者とも言えますが、個々の中小企業には大企業のような発言力や存在感はないため、パンデミックの最中において政府がこうした中小企業を支援することは難しくなっていました。

多くの中小企業が今も困難に直面しており、パンデミックによって苦しんでいます。将来的には、中小企業は脱炭素社会への移行によって最も大きな打撃を受けるセクターの1つとなるでしょう。自動車産業を例に挙げれば、電気自動車(EV)への切り替えにより、部品メーカーからガソリンスタンドまでの小規模サプライヤーの多くが消滅すると推定されています。

EVのメンテナンスは、これまでとはまったく異なる新しい工場、トレーニング、ソフトウェアスキルを必要とするプロセスです。800ボルトのバッテリーの交換は専門的な作業です。こうした変化に迅速に適応しなければ、従来の工場や整備士はすぐに時代遅れになる可能性があります。

脱炭素化は、製薬業から製造業に至るまで、さまざまなサプライチェーンにおいても同様の変化を引き起こすでしょう。これまで中小企業が担っていた活動の多くは、大部分が都市中心部の大手企業に集中することになり、中小企業、そのオーナー、従業員、さらには地域全体の価値が毀損する「座礁資産」(stranded assets)化が進むことになります。

それは社会的大惨事と言えるでしょう。これを回避するには、起業家が革新的なソリューションによって中小企業の位置づけを刷新するとともに、従業員の待遇も維持できるようにする必要があります。

2. ペースを上げて規模を拡大することが重要であり、起業家精神でこれを実現できる

起業家精神を必要とする2番目の理由は、世界が直面している課題の大きさにあります。それらは非常に大規模であるため、その解決に取り組む企業は、これまでにないスピードで世界規模まで拡大する必要があります。

熱意ある起業家にはこれを実行する能力があることはすでに実証済みですが、今後は新しい視点も必要です。これまでのソーシャルビジネスは、地域の課題をターゲットにし、そこから積み上げていくことからスタートしていましたが、そのアプローチはもう役に立ちません。遅すぎるのです。

むしろ、気候変動などの問題に取り組むには、これまでとは異なる次元の志が最初の段階から求められます。つまり、起業家としての道を歩み始める時点で、世界的な問題を解決する数十億ドル規模の企業に急速に成長することにしっかりとコミットしなければならないということです。

世界を救うということで言えば、私たちは現在、ブレア・シェパードが著書『Ten Years to Midnight』で示したように、残された時間はあと10年しかないという状況にあるのです。そして、この期限に間に合うかどうかの鍵は、起業家がいかにペースを上げて規模を拡大することができるかにかかっています。

3. 起業家精神は若者に主導権を与え、新しい未来を築く力を与える

起業家精神の重要性の3番目の要素は、若い世代が抱える失望と抜本的な変化への願望に関連しています。現在の社会システムの被害者として、若者たちは既得権益を排除することを望んでいますし、またそうする必要があります。これを行うには2つの方法が考えられます。

1つは「革命」です。システムを破壊し、すべてを解体するのです。しかし問題なのは、フランスからロシア、そしてそれ以降の歴史が示すように、革命において勝者はおらず、社会は貧困を共有することになるということです。

もう1つは「ルネサンス」です。古いシステムと戦いながら、それを超える新しいものを構築することです。こんなことをする人たちは、現在権力を握っている人たちではないでしょう。古い世界に代わるより良い方法を考え出すのは若者たちです。

その過程で、若者たちは自分たちだけでなく、現在のシステムによって権利を奪われた人たちにとっても、機会と成長の新たな展望を切り開くことになるでしょう。それには、脱炭素化によって業界のサプライチェーンから締め出されてしまう恐れがある中小企業の経営者も含まれます。

起業家が進むべき道

私たちは今、岐路に立たされています。1つのルートは「革命」につながり、多くの人が多くのものを失うことになります。もう1つは、人類が世界の問題に取り組み、将来に希望をもって前進する21世紀の「ルネサンス」です。起業家精神こそが前進への道なのです。

※本稿は、PwCカナダが発表したコラムの翻訳です。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は英語版に依拠してください。

主要メンバー

本多 守

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

清水 直樹

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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