多角的にビジネスを展開する企業における事業リスク評価

  • 2026-07-21

はじめに

新たな製品・サービスの開発やM&Aなど、既存の枠を超えたビジネスへの参入や事業の多角化に挑む企業の取り組みが日々報道されています。事業の多角化は持続的な成長やリスク分散のための有効な戦略ですが、事業ポートフォリオが拡大すればするほど、個々の事業での慎重かつ精緻なリスク・リターン評価が不可欠となります。

一般的に企業のリスクマネジメントではコーポレート全体に対する影響を考え、包括的な対策を打とうとする傾向が強いものですが、個別の事業においても想定しうるリスク一つ一つに対し、外部の視点から戦略および事業に関するリスクを洗い出すことが求められるのです。こうした個々の事業におけるリスク評価は社外取締役などを含むさまざまなステークホルダーから注目されており、複数事業を同時に進める企業が大半の中で重要な課題です。

本稿では、多角ビジネスを展開する企業における各事業のリスク評価の方法について解説します。

なぜ、事業ごとのリスク評価の重要性が高まっているのか

ビジネスを取り巻く環境は不確実性を高めています。AIをはじめとするテクノロジーの急速な進歩により、これまで市場を席巻していた製品・サービスが新しいものに置き換えられ、ビジネスの「勝ち筋」そのものが通用しづらくなる――こうした予想すらしなかったような変化も現実に起こっています。その結果、大きな損失から事業を大幅に縮小したり、撤退せざるを得なくなったりするケースは枚挙に暇がありません。

また、米中関係やロシアのウクライナ侵攻、中東情勢など、地政学リスクの高まりによるサプライチェーンの分断や、急激な為替の変動、環境・サステナビリティ問題など、事業に大きなインパクトをもたらすリスクの種類は広範囲にわたり、それぞれが複雑に絡み合いながら事業の存続を脅かしています。

どのリスク要因が、どのように影響し、いかなるダメージをもたらすのかということは、事業の内容や特性、展開する地域、対象顧客などによって大きく異なります。だからこそ、多角的な事業を展開する企業は、一つ一つの事業について個別に入念なリスクの洗い出しと評価、対策を行っていく必要があるのです。

実際、幅広い事業会社を傘下に置く企業グループでは、ホールディングス側の経営層や外部取締役が、各事業会社にリスクへの対応状況を逐次報告させる傾向が強まっています。次項では、こうした報告書作成などで求められる「経営マネジメント視点でのリスク評価/レビュー」のポイントについて紹介します。

事業ごとのリスクアセスメント/レビューの手順

事業ごとのリスクアセスメント/レビューは、大きく以下の手順で行っていきます。

① リスク項目の洗い出し

② 網羅性評価

③ 対応状況評価

④ 対応後の残余リスク評価

⑤ ④に基づく推奨対応策の検討

「① リスク項目の洗い出し」は文字どおり、事業に影響を及ぼし得るさまざまなリスクを多面的な角度から洗い出す作業です。外部専門家の意見なども活用しながら、外部リスク要因、内部リスク要因の双方について、客観的かつ網羅的な視点で抽出します。

この作業では、各事業領域の有識者など、事業に精通する外部専門家の力を借りることも効果的です。彼らは事業を取り巻く環境や競合の動き、新たなトレンドなどを深く理解していることから、細部まで目の行き届いたリスク項目の抽出が可能となります。

またリスク洗い出しの作業では、事業部門で見るべき「戦略リスク」と、コーポレート部門で見るべき「事業運営リスク」に分けて抽出します。前者は事業ごとの戦略目標の達成に影響を及ぼす可能性のあるリスクであり、後者は業務遂行において発生する可能性のあるリスクです。具体的には、政治・経済・社会情勢の変化や新たな法規制、サプライチェーンへの影響といった、戦略遂行にダイレクトに影響する項目を前者の「戦略リスク」として、財務や人事、IT・セキュリティ、ガバナンス・コンプライアンス、品質保証といった業務遂行を妨げる項目を後者の「事業運営リスク」に振り分けます(図表1)。

図表1:リスク項目の洗い出しフロー

リスク項目の洗い出しフロー

この作業では、想定されるリスクを可能な限り洗い出すだけでなく、その重要性についてランク付けを行います。「発生可能性」を横軸、「影響度」を縦軸とするマトリクスを描き、右上に集まるものを「重点リスク」、それ以外は「一般リスク」と評価します。言うまでもなく、「重点リスク」から順次潰していくことが、リスクマネジメントにおける原則となります。

すでに取り組んでいるリスク対策を評価する

次に「② 網羅性評価」です。ここでは企業が自社で洗い出したリスク項目だけでなく、外部の知見を得て抽出された項目と照合させることが効果的です。この作業によって、自社では気付かなかったリスクの存在が明らかになり、評価対象とするリスク項目の網羅性が高まります。

なお、PwCコンサルティングの支援では、企業から提供された過去のリスク評価資料と、①で洗い出されたリスク項目のリストと照らし合わせることで、その差分を抽出。外部エキスパートによるアドバイスなども受けながら、抜け漏れが生じていた項目を追加してリストの網羅性を高めています。

この次は「③ 対応状況の評価」です。抽出されたリスク項目について、企業がどのような対応を行ってきたのかを評価します。すでに対応が進んでいるリスク項目については、先ほどのマトリクスに戻り、「発生可能性」と「影響度」の掛け算による再評価を行います(図表2)。

対応の結果、マトリクス上におけるリスク項目の位置が右上から左下に、あるいは左や下に移動した場合は、その方向と幅に応じて重要性が下がったと評価します。この評価は、リスク対応策にどれだけ“効き目”があるのかを知る基準となり、対応の優先順位付けを見直すことにも役立ちます。

図表2:マトリクスによるリスク再評価イメージ

マトリクスによるリスク再評価イメージ

「④ 対応後の残余リスク評価」は、さまざまな対応を行ったにもかかわらず、マトリクスの右上に残っている残余リスクを確認する作業です。この確認結果に基づき、外部エキスパートの知見も取り入れながら、残余リスクを減らすため「⑤ 推奨対応策の検討」を行います。

おわりに

以上が「経営マネジメント視点でのリスクアセスメント/レビュー」のための報告書作成に必要な流れです。①から⑤までの作業を実施し、経営層向けの「エグゼクティブレポート」としてまとめ上げます。

PwCコンサルティングはリスクコンサルティングの領域で幅広い実績と経験を有しており、外部専門家との連携も組み合わせながら、企業にとって最適なリスクアセスメント/レビュー支援を実施しています。ビジネス環境の急激な変化によって、各事業の継続を脅かすリスクは増え続けています。ぜひ、こうした外部の専門家も活用しつつ、効率よく精度の高い事業ごとのリスクマネジメントを実践してみていただければと思います。

執筆者

山崎 幸一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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玉野 真也

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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湯 亦茗

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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