{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2022-01-18
PwC Japanグループは2021年10月22日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「パワーシフト~エンタテイメント&メディア業界における力学の変容~」を開催しました。当日は社外から登壇者をお招きし、活発な議論が繰り広げられました。
当日の様子を振り返る連載の第3回は、第2回でご紹介した「消費者行動の変容」の“見る”、“遊ぶ”に続き、“聞く”、“読む”について、PwC Japanグループ エンタテイメント&メディアセクター リードパートナーの原田雄輔、PwCコンサルティング マネージャーの谷口大輔が、経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏、エイベックス・テクノロジーズ株式会社代表取締役社長の岩永朝陽氏と議論を深めていく様子をご紹介します。
高木 美香 氏
経済産業省 コンテンツ産業課長
2002年に経済産業省入省。2008年から2012年にかけて、「クール・ジャパン」の海外発信や、コンテンツ・デザイン・ファッションに代表される「クリエイティブ産業」育成施策の立ち上げおよび推進に携わる。
その後は、新興国向けの通商政策や国際標準化政策などの「国際ルール形成」施策を担当し、2018年から現職。創造性を活かした新しい未来づくりがライフワーク。
東京大学経済学部卒業、スタンフォード大学MBA/MA in Education修了。
岩永 朝陽 氏
エイベックス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長
1999年よりシリコンバレーのベンチャー企業でECサービスの立ち上げに参画。
帰国後、日立にてシステム開発、外資系企業にて放送・VOD関連のエンターテインメント事業でプロダクトマネージャーとして9年、さらに海外ゲームパブリッシングなどを経て、2018年 株式会社 aNCHORの代表取締役に就任。
2019年4月エイベックス株式会社 執行役員。
2019年5月エイベックス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長に就任。
谷口:
「消費者行動の変容」のうち、“聞く”について考えていきたいと思います。グローバルでは消費者の音楽への支出は引き続き増加しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けて大きく落ち込んだライブ音楽は今急激に回復しているところであり、2019年から2025年の6年間で見れば最終的には年平均1.2%の成長が見込まれています。それに対してレコーディットミュージック(録音された音楽)は、より高い成長を示しています。グローバル全体で見ると音楽業界全体の成長率が2.8%で、ライブミュージックはそれよりも若干低い1.2%ですが、レコーディットミュージックは4.0%となっています。
図表1の右側のグラフはグローバルにおけるポッドキャストの月間利用者数を示したものです。棒グラフが利用者数、赤い折れ線グラフが対前年比成長率を表していますが、この数年で利用者数が驚異的なスピードで増えています。ただ成長スピードという点では徐々に落ち着いてきており、2025年には前年比10%前後のところまで落ち着くと考えられています。
日本ではライブミュージックへの消費者支出が増加するも、レコーディットミュージックに関する支出は減少するという予想になっています。全体としては、ライブミュージックのプラス2.8%に対して、レコーディットミュージックがマイナス1.6%で、合計するとほぼ横ばいという形の予想となっています(図表2)。ポッドキャストについてもグローバルとほぼ同じ傾向で引き続き高い成長が予想されています。
日本においてはライブミュージックがグローバルよりも高い成長率となっており、逆にレコーディットミュージックはグローバルよりも低く、マイナス成長となっています。ライブミュージックは国・地域によりかなり傾向にばらつきはあるものの、中国を除くアジア太平洋地域で高い平均成長率を示しています。一方で、レコーディットミュージックに関してはラテンアメリカが最も高い成長率を見せ、アジア太平洋地域は全般的に他の地域と比べて低くなっています。中国はほかの国・地域とやや異なる動きを示しており、レコーディットミュージックの成長率がほかよりも高く、対年平均成長率18%とグローバルと比較してもかなり高い成長率となっています。
原田:
岩永さんは音楽に関わるところでビジネスをされていますが、音楽市場において、日本やグローバルの動きで何か気になることはありますでしょうか。
岩永:
ヒットの順序が変わってきているのではないかと感じています。特にショートムービーで音楽がバイラルする(ウイルスのように広まっていく)傾向がみられます。UGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)と言われる、いわゆる「歌ってみた」や「踊ってみた」というようなショートコンテンツが広がっていくのです。これまでは、音楽を作る、デビューする、CDを出す、歌番組に出る、という順番だったのが、バイラルヒットだけで、CDも出さず歌番組に出るという事例が見られるようになってきていると思います。」
原田:
ヒットの順番が変わっていくことで、ビジネスモデルとしても変えなくてはならない部分があるのではないでしょうか。
岩永:
一般のユーザーの方々が作られるUGCについては、1企業がコントロールできるものではなくなってきていると思います。以前だと、例えば広告費を投じてテレビや雑誌などさまざまなメディアを使っていましたが、個人という、これまで企業としてリーチしていないところに広がっていくにあたり、法則のようなものが使えないという違いがあると思います。ファンの人たちとどのように向き合ってアーティストを育てていくのかなど、コミュニティについては各国や各音楽会社の今後の戦略や課題の1つになってくると考えています。
谷口:
それでは、「消費者行動の変容」のうち、“読む”のところを考えていきたいと思います。
グローバルではCOVID-19の感染拡大により、電子書籍への移行が加速し、2020年は消費者向け書籍の総収入のうち78%が印刷書籍、22%が電子書籍となりました(図表3)。2019年から2025年にかけての成長率については、電子書籍は4.6%、印刷書籍が0.7%、全体では年平均1.5%となると予想されています。
日本は消費者向け書籍で世界第2位の市場となっていますが、成長率はグローバルと比較して低くなっています。印刷書籍は減少していますが、電子書籍が下支えしており、全体としては概ね横ばいの予測となっています(図表4)。
新聞雑誌について、グローバルでは新聞も雑誌も紙媒体からデジタルへの移行が進んでいます。しかし、紙媒体の減少をデジタルの増加でカバーしきれず、全体としてはマイナスの予想となっています(図表5)。
日本においても新聞、雑誌ともにデジタル化が進んでいますが、グローバルと同様に紙媒体の落ち込みが激しく、全体としては縮小しています(図表6)。内訳をみると、新聞はグローバルより日本の方が減少スピードが速く、雑誌は日本の方が減少スピードが若干緩やかとなっています。
図表7は2019年と2025年の日本における新聞、雑誌それぞれの市場規模を予想したものです。新聞は、2019年から2025年にかけてマイナス23.6%と、かなり大きな減少となっています。黒がデジタルにおける増加、グレーが紙媒体におけるマイナスを示しており、デジタルで若干増加するものの、紙媒体はそれをはるかに上回る規模でマイナスとなっています。右側が雑誌について同様に示したもので、2019年に対して2025年にはマイナス9.4%となっており、新聞ほどではないですが、こちらもマーケットが縮小していくと予想されています。
原田:
高木さんにお聞きしますが、このような劇的なデジタルシフトの潮流のなかで、日本の出版業界においてビジネスモデルの変化は起きると思われますか。
高木:
ビジネスモデル自体は以前からだいぶ変わってきていると思います。2007年頃に電子書籍を読める端末が市場に出て、その後タブレット端末がヒットしたので、そのあたりからだいぶ使いやすくなったと思います。その当時から10年経っていますが、私の肌感覚としても電車の中で新聞や漫画雑誌を広げている人が確かにいなくなってきたなと思いますし、相当変化が起きているのだと思います。ニュースは即時性が求められることもあり、インターネットのニュースサイトが見られるようになってきたと思います。一方、フェイクニュースなどもたくさん出てきていて、これも変化と言えると思いますが、私自身も最近はキュレーションメディアやニュースレターなど、信頼できる人が届けてくれるものを見るようになりました。ニュース以外では、例えば小説などはまだ本で読みたい人もいますし、ジャンルに応じて、消費行動というものはいろいろなパターンがあると思います。消費行動に合わせて、適度な頻度や分量、デバイスあるいはメディア形態で届けるということが重要で、消費行動に最適化できるビジネスモデルが生き残るのではないかと考えています。既存のビジネスアセットにとらわれてしまうと、なかなか転換が図れないケースもあるのではないかと思います。
原田:
テクノロジーの変化により紙に印刷されることだけが出口ではなくなったときに、その内容や目的によって消費者に対する届け方が変わってきているということですね。そうしたなか、信頼性や即時性などを考慮したうえで、どうやって消費者の期待に応えるビジネスモデルを構築することができるかが、企業に求められているということかと思います。
高木:
そうですね。例えば、私はすぐに読まなければならない本があるときには、まず電子版を購入して読み始めてしまいますが、電子版購入者には翌日に本が届くようにしたらよいなと思います。消費行動に合わせた色々な組み合わせがあるのではないかとは思っています。
次回は、これまでの議論やさまざまなデータを踏まえ、「セクターシフト」「場所のシフト」「担い手のシフト」の「3つのパワーシフト」についてゲストの方々と考察していく様子をご紹介します。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。