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2022-02-08
PwC Japanグループは2021年10月22日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「パワーシフト~エンタテイメント&メディア業界における力学の変容~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、活発な議論が繰り広げられました。
当日の様子を振り返る連載の第4回は、第2回、第3回でご紹介した「消費者行動の変容」を踏まえ、「セクターシフト」「場所のシフト」「担い手のシフト」の「3つのパワーシフト」について、PwC Japanグループ エンタテイメント&メディアセクター リードパートナーの原田雄輔が、経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏、エイベックス・テクノロジーズ株式会社代表取締役社長の岩永朝陽氏と議論した様子をご紹介します。
高木 美香 氏
経済産業省 コンテンツ産業課長
2002年に経済産業省入省。2008年から2012年にかけて、「クール・ジャパン」の海外発信や、コンテンツ・デザイン・ファッションに代表される「クリエイティブ産業」育成施策の立ち上げおよび推進に携わる。
その後は、新興国向けの通商政策や国際標準化政策などの「国際ルール形成」施策を担当し、2018年から現職。創造性を活かした新しい未来づくりがライフワーク。
東京大学経済学部卒業、スタンフォード大学MBA/MA in Education修了。
岩永 朝陽 氏
エイベックス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長
1999年よりシリコンバレーのベンチャー企業でECサービスの立ち上げに参画。
帰国後、日立にてシステム開発、外資系企業にて放送・VOD関連のエンターテインメント事業でプロダクトマネージャーとして9年、さらに海外ゲームパブリッシングなどを経て、2018年 株式会社 aNCHORの代表取締役に就任。
2019年4月エイベックス株式会社 執行役員。
2019年5月エイベックス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長に就任。
原田:
これまで見てきた、“見る”“遊ぶ” “読む” “聴く”といった消費者行動の変容が、エンタテイメントの業界において、より大きなシフトを起こしているのではないかと私たちは考えています。具体的には、「セクターシフト」「場所のシフト」「担い手のシフト」です。
「セクターシフト」とは、デジタルへのアクセスがインフラとして必須のものになったことによって、主要セクターがフィジカルからデジタルの方に移ってきているということです。「場所のシフト」とは、ゲームやSNSといったデジタルの世界で消費者のいる場所に出向いて、最適なサービスを1人1人の消費者に届けていくように変わってきていることを意味しています。3点目の「担い手のシフト」は、コンテンツを生み出す担い手が従来のプレイヤーだけではなくなってきているということです。
まず1つ目の「セクターシフト」についてゲストと掘り下げていきたいと思います。
データ消費量が大きく増加し、インターネットアクセスはこれなしでは生活が成り立たないというような一種のライフラインになってきています。電子商取引が増加しており、ライフライン化したデジタルサービスにかける時間や費用が増加し、従来のフィジカルなサービスからの置き換えが進むと考えられます。
一方で、COVID-19が収束した後にフィジカルが再び伸びてくる分野もあると思います。企業はフィジカルとデジタルを組み合わせて新たな価値を出していくサービスの開発を進めていくのではないかと考えていますが、いかがでしょうか。
岩永:
音楽業界における消費者についても、コロナ禍によってデジタルで簡単に物が買えることを体感した層が大きな割合を占めるようになってきています。そんな中で、今後はデジタルとフィジカルの組み合わせが進むのではないかと思っています。例えば、ライブに行って会場でしか販売していない限定グッズを買う際、それがサイズの大きいものであればその場でオンライン決済し、家に帰ったら自宅に配送されているといったようなことです。これまでは、デジタルはデジタル、フィジカルはフィジカルと分かれていました。しかし、消費者はより便利により速く、単純に自分にとって最適な形で購買することを求めており、デジタルとフィジカルの線引きは企業側の都合でしかなかったりします。そうであれば、企業側としても新しいサービスを考えていかざるを得ないのではないか、そして、それがまた次の時代を創っていくのではないかと思います。
原田:
便利なものが出て、それに皆が慣れると、さらに便利なサービスへのニーズが出て……ということがどんどん進むのですね。
2つめの「場所のシフト」に話を進めたいと思います。消費者が時間を使うところ、つまり「消費者のいる場所」がデジタル空間にシフトしてきているということです。デジタル空間がフィジカル空間と一つ大きく違うのは、人々の行動や流行りなどのデータが取りやすいという点です。データをもとにサービスの改善や新しいコンテンツの開発を行ったり、一人ひとりに合ったコンテンツを届けたりすることができるのではないかと考えています。
デジタル空間・バーチャル空間と関連して、経済産業省でもメタバースにおけるビジネスの仕組み作りに関して、レポートを出されていますね。
高木:
「メディアの時代」においては、映画を見るなら映画館に行き、テレビを見るなら家のテレビのスイッチをつける、といった具合でした。それがインターネットとデバイスの普及でコンテンツを持ち歩けるようになり、色々なところに移動して、いつでもどこでも好きなものが見られるようになってきていました。コロナ禍で大きく変わったのは、ステイホームになったということです。そこでメタバースの需要が急速に高まったのではないかと考えています。
メタバースの研究をしている過程で、既存の物理的な制約の中で出てきたルールというものが、メタバースの中ではあまり当てはまらないなという感触を持ちました。基本的に制限のない世界であり、1民間事業者が好きなようにルールを作ることができ、その空間の中でユーザーが契約に基づいて行動します。その空間内では、例えばリアルではできないような結婚式を挙げるとか、リアルでは国の検閲を受けてしまう恐れのある情報を共有するなど、さまざまなケースが出てきています。これら既存の法が想定していた範囲を大きく超えて行われる活動をどうやって取り扱うかについて、今後多様な論点が出てくると思っています。インターネットの世界は自主的な規律の上に成り立ってきたということもありますし、それが大前提だとは思いますが、バーチャル空間で人々が健全に活動をしていくにあたり、今後何が必要なのかということは多方面でディスカッションが始まっています。
原田:
デジタル空間内での土地の売買が実際に行われ始めていて、その権利がどこまで本当のものなのかということが議論になったりしていますね。
高木:
実世界における誰かの権利を侵害する場合は規制が必要か、議論が必要になると思います。例えば、実際に存在する人物の肖像権がゲーム空間内で侵害されたり、既存の都市をそのままコピーしたようなものを作ったりする場合などです。ただ、実世界と全く関係のない新しい世界を作ったところに同じような土地所有の概念などが入るのかというと、それはもうゲーム空間内のルールで、とりあえずは十分ではないかと思っています。
原田:
コミュニケーションの場所がデジタルに移っていく中で、消費者行動や流行るものが変わってきたと実感されることはありますか?
岩永:
コロナ禍の影響で、子どもたちは、みんなでどこかに集まって遊ぶという概念から、家の中でゲーム空間にアクセスし、その空間内のミニゲームで誰かと一緒に遊ぶというような概念にシフトしていっています。昔、街の中にあったゲームセンターに集まっていた頃を思い出していただくと、みんながお金を使ってずっとゲームをしていたかというとそうではなくて、集まって喋るなどコミュニケーションをとっている時間が大半で、その横にゲーム機があるので少しやるというような感じだったと思います。そういった営みがデジタル空間で行われているイメージで、ゲームをやるために集まるというよりは、友達がいるから集まって、その中でゲームもするといった感じです。
原田:
ゲームで遊ぶことだけが目的でなく、その空間に行って友達とつながることも大事な目的になっているということですね。
岩永:
ゲームを選ぶ際、レビューの評価が高いかどうかだけでなく、友達がやっているからこのゲームをやるというモチベーションはすごく大きいです。自分がそのゲームが強いからということでもなくて、本当にコミュニケーションの要素が強い。SNSで行われているようなコミュニケーションが、子どもたちの場合ゲームの中に入ってきているのではないかと思います。
原田:
なるほど。では、3点目の「担い手のシフト」に話を進めたいと思います。
個人が作ったものが世界に発信されて大きな流行になるということが実際に起きる時代になっています。また、個人で対応するのが難しい権利関係の処理や取引を解決できる、ブロックチェーンをはじめとしたテクノロジーが発展してきています。これらは、コンテンツを作ってプロモーションして届けるというコストを劇的に低下させていくと考えています。企業には、従来の業界慣習にとらわれず、新しいものを見つけて消費者に届けていく、もしくは今までとは全く違う機能を担うことによって自分たちの価値を出していくというようなことが求められるでしょう。
まず、担い手が変わることによる、権利関係やその他保護すべきものへの影響についてお考えをお聞かせください。
高木:
デジタルツールが普及して、創作活動はかなり容易になったと思います。色々な人が、多くは趣味として、自分の描いた絵をウェブで公開したり、他人の作った作品をもとに二次創作して公開したりしています。ただし、著作権法では著作物には許諾権が最初から発生していて、誰かが何かを作って公開した時点で、それを使いたい人は作成者(権利者)を探し当てて許諾を取らなくてはならないのですが、そのあたりを明記せず趣味でやっている方々の著作物が、プロが作ったものと混在して普及しているため、ユーザーにとって権利者を探し当てるコストは上がってきています。一方で、楽しく趣味でやっている方々もちょっと知識をつければ、例えば、自らの著作物が他者に使用されることなどにより、お金が入ってくるようになるはずです。試算をしたところ、UGC(User Generated Content)のすでに顕在化している市場規模が1.2兆円ほどあるのに対し、権利処理が容易になった場合の潜在的な市場は1.4兆円ほどあり、これはかなり大きい数字だと思っています。ブロックチェーンを使った実証なども実施しており、こうした取り組みを通して、たくさんの方が簡単にコンテンツを作って収入を得られるようになるといいと思っています。
岩永:
NFTの状況についてお話しさせていただきますと、実は1週間単位ですさまじく状況が切り替わっているような感覚を持っています。その中で一つ見えてきているものとして、デジタルの世界で自分のアイデンティティを表現するのが難しいという課題があるのですが、その点にNFTが結びついてきているという流れがあります。ここで言うアイデンティティの表現とは、例えばフィジカルの世界でアーティスト名が書かれたTシャツを着ていると、周りの人に自分がそのアーティストのファンだと分かるというようなことを指しています。こうした課題を背景に、コレクティブNFTと言われる、コレクターズアイテムとしてのNFTが今年(2021年)の8月ぐらいから話題になってきています。
一例として、あるイラストのNFTが高額で取引されるようになる中で、そのNFTの持ち主による会員制のコミュニティのようなものが形成されました。このNFTを持ち、自分のSNSのアイコンに設定することで、自分がそのコミュニティのメンバーであることを示せるというわけです。NFTを持っている人たち同士が集まり、それがアイデンティティに切り替わっていくという流れが今見えてきていると思います。
原田:
面白いですね。誰でも入れるオープンな空間にいても、やはり何がしかのアイデンティティを持ちたくなるということですね。
岩永:
今まで、SNSを使っている人たちにもアイデンティティを示す「色」は多少ありましたが、そこまで濃くはなかったと思います。NFTに思想のようなものが入ってきて、それがアイデンティティ化することで、共通の思想を持つ人がオンラインの組合の会員のような結束感を持ち、新たなカルチャー形成につながってきているというのが非常に面白いポイントです。
原田:
ここまで、消費者行動の変化から3つのシフトが起こっているのではないかという仮説を説明し、それに対するゲストお2人のご意見を伺ってきました。今後企業は、こうした論点を意識しながら、新しいビジネスをどのように広げていくか検討し、取り組んでいく必要があるのではないかと思っています。
次回は、消費者行動は今後どう変わっていくか、についてお届けします。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
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