
多様化・複雑化するサプライチェーン時代に求められるセキュリティリスク管理
近年のビジネス環境において重要性が増すサプライチェーン。グローバル化やデジタル技術の急速な進展に伴い構造は複雑化し、新たな脅威も顕在化しています。情報セキュリティ対策の重要性とその実践的な方策について多角的に解説します。
2022-05-30
温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」の世界的潮流や社会的要求の高まりから、各企業においても脱炭素経営へのシフトが求められています。そして企業は今後、事業活動のサプライチェーン全体で排出される温室効果ガスを把握し、削減し、また報告することをますます求められるようになっていくと予想されます。そこで本稿では、物流領域における脱炭素の取り組みを進める重要性、およびその際のポイントについて考察していきます。
物流領域において脱炭素の取り組みの重要性が高まっている背景として、以下の3つのポイントが挙げられます。
①物流によるCO2排出量のインパクト
国土交通省によると、日本の部門別二酸化炭素(CO2)排出量のうち、運輸部門が19.5%を占めており、物流業界や物流部門の削減努力がカーボンニュートラルの目標達成に大きな影響を及ぼしていると言えます。
②スコープ3開示要求の高まり
サプライチェーンのCO2排出量に対し、スコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)と、スコープ2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)については、各企業は能動的に取り組むことが可能です。一方で、「スコープ1・スコープ2以外のその他間接排出量全て」と定義されるスコープ3は、サプライチェーンの上流から下流まで幅広い領域をカバーしており、対応するためには関連する外部組織との連携が不可欠です。このような連携は容易ではないため、他社を巻き込みながらスコープ3まで脱炭素に対応できている企業は、まだまだ少ないというのが現状です。とはいえ、国際組織「GHGプロトコル・イニシアチブ」が定めるCO2算定基準にスコープ3が含まれていることや、日本の東証プライム市場においてもスコープ3の開示義務化が検討されていることから、スコープ3においても第三者機関からの開示要求は高まっているといえるでしょう。
③コストとCO2のトレードオフからトレードオンへ
CO2の排出に対して価格付けをするカーボンプライシングの導入が世界各国で進んでいます。
これは、CO2排出量の削減がコスト削減につながることを意味し、これまで投資対効果の面で躊躇されていた施策(例:モーダルシフト)に対するコスト削減面での効果を上積みすることになります。つまり、施策の意義づけが変われば、企業に対して行動変容を促す契機となり得ます。
トレードオンの関係の具体例として、図表2では従来の輸送モード(トラック)からCO2排出量の少ない輸送モード(鉄道・船舶)へモーダルシフトを実行した際の輸送コストとCO2排出量のシミュレーション結果を表しています。この時、モデルにはCO2排出量に比例するカーボンコストを設定しています。このカーボンコストによって、モーダルシフトによるコスト上昇が少ない経路ではモーダルシフトが促進され、シナリオAからシナリオBではCO2排出量と輸送コストがともに減少しています(トレードオンの関係)。一方、シナリオCではさらなるCO2削減を目指しており、CO2排出量に上限値を設けた場合は、コストを度外視してCO2排出量を削減した結果、輸送コストは増加しています(トレードオフの関係)。今後のカーボンプライスの上昇を加味すると、シナリオCにおけるコストとCO2のシミュレーション結果はトレードオフの関係からトレードオンの関係へと変化していくことが想定されます。
多くの企業は、物流センターに関する消費電力を100%再生可能エネルギーに転換することを目標とし、ロードマップを設定している一方、配送(インバウンド、アウトバウンド)については、「委託しており、現状の輸配送におけるCO2排出量を把握できていない」「委託先の輸配送業者を巻き込んだCO2排出量削減目標の設定や施策の落とし込みはできていない」というのが実態ではないでしょうか。
しかしながら、カーボンニュートラル対応に積極的な一部の企業では実際に、スコープ3まで含めたカーボンフットプリントを可視化するとともに、目標値を設定し、積極的に取り組みを進めています。上記3つのポイントで示した物流領域における脱炭素の取り組みの重要性が高まっていることを踏まえると、今後、物流領域における脱炭素の取り組みの良し悪しやそのスピードが企業の競争力を左右する可能性は無視できず、各社においても先手の対応が不可欠と言えるでしょう。
次に、脱炭素に向けて物流領域において具体的に何に取り組むべきかについて考えます。物流におけるCO2削減施策を検討する際には、まず自社の物流ネットワークの構造を整理し、オペレーションとハードの視点から施策を検討するとよいでしょう。
オペレーションとは、積載率向上・共同物流・拠点統廃合のような製品の運び方・持ち方を変えることでCO2排出量を削減する施策です。ハードとは、モーダルシフト(鉄道・船舶・EV車)・太陽光発電導入・EVフォークリフト導入のような設備投資によってCO2排出量を削減する施策です。
以下に、自社で物流拠点を運営し、配送を業者に委託している企業を例に施策をマッピングし整理しました(図表3参照)。
LM=ラストマイル
このように、自社の物流ネットワーク上にCO2削減施策をそれぞれマッピングすることで全体像を把握することができます。オペレーションとして挙げられる施策を整理すると、その大半は従来の物流効率化でうたわれてきた施策と重なるものであることに気づきます。これは、「物流の効率化・ネットワーク最適化=CO2削減」ということを意味しています。脱炭素対応やESGを錦の御旗とすることで、これまで取り組みが遅れていた、あるいは躊躇していた物流の効率化施策がコスト以上の価値をもたらすことを訴求でき、施策の実行を加速させる契機となります。
自社の物流領域における取り組み施策を洗い出したとしても、何から手を付ければよいかまで理解できている企業は少ないのではないでしょうか。こうした課題に対して、PwCは、「CO2削減を含めた物流ネットワーク最適化」を支援するサービスを提供しています。参考までに、私たちが提供するサービスのアプローチを以下に示します(図表4参照)。
物流領域における脱炭素の取り組みは、サプライチェーンデザインツールを用いた分析が有効です。ツールを用いることで、サプライチェーンを地図上で確認しながらシナリオを構築したり、シミュレーション結果を定量的に評価できたり、地に足の着いたディスカッションが実現できます。また、従来の発想を飛躍させたダイナミックなシナリオ分析を少ない工数で実行できる点も、ツール利用のメリットと言えるでしょう。
PwC Japanグループには物流領域に精通したコンサルタントや、サプライチェーンデザインツールの有資格者が多数在籍しています。新しい物流の在り方や現状の課題に具体的なイメージをお持ちでない場合も、戦略の策定から実行まで幅広い支援が可能ですので、ぜひ一度お問い合わせいただければと思います。
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