
サプライチェーンのレジリエンスを高めるKPI管理の重要性
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2022-05-30
カーボンニュートラルの取り組みの中でも、サプライチェーン全体の脱炭素化は喫緊の課題の1つです。本稿では、PwCコンサルティングが京都府の委託事業を通じて取り組んだ、地域におけるサプライチェーン脱炭素化についてご紹介します。
世界的に脱炭素の潮流が強まっています。国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が終了した2019年12月時点では、2050年までのカーボンニュートラルを表明したのは121カ国でしたが、2021年11月の同第26回締約国会議(COP26)に向けてカーボンニュートラルの機運が高まり、中国、日本、米国などが次々とカーボンニュートラルに係る目標を宣言。COP26閉幕時点では、G20の全ての国を含む、150カ国以上が年限付きのカーボンニュートラル目標を掲げるに至りました。
この世界的な潮流を受け、欧州において先行して普及・拡大が進んでいた脱炭素社会への移行や、持続可能な経済社会づくりに向けたESG金融(ESGの要素を考慮した投融資)の浸透が、日本においても近年急速に進展しています。例えば世界全体のESG投資残高に占める日本の割合は、2016年時点では約2%にとどまっていましたが、2018年には世界全体の約7%を占めるほどになり、成長率では世界一となりました。2019年の日本のESG投資残高は約3兆米ドル(336兆円)となり、2016年からの直近3年で約6倍にまで拡大しています。
カーボンニュートラル実現を目指した取り組みとしては、とりわけ喫緊の課題としてサプライチェーン全体の脱炭素化が求められており、温室効果ガス排出量を削減する取り組みに対する社会的要請が高まっています。これを受け、一部の先進企業は省エネルギー化、再生可能エネルギーの導入、新規技術への投資など、サプライチェーンにおける二酸化炭素(CO2)排出量を削減する取り組みを積極的に行っています。
地域においてサプライチェーン全体の脱炭素化を進めるためには、CO2の排出主体である大企業および地域企業がCO2排出量削減に取り組む必要があります。しかしながら、下記の2つの理由より、このような取り組みは進みづらい現状があります。
また、CO2排出量削減を進めるためには、省エネ設備を導入する必要がありますが、地域企業にとってその導入は、資金の観点から必ずしも容易とはいえません。このため、直接的な投資が見込めない地域企業に対して、地域金融機関がESG融資を行い、省エネ設備への切り替えを促す必要があると考えられます。
地域金融機関からESG融資を受けるためには、地域企業はCO2排出量などのESG関連情報を開示しなければならず、自社のCO2排出量を算定する必要があります。
また、地域金融機関への利子補給、地域企業へのESG情報開示といった形で、自治体が地域金融機関、地域企業を下支えしていくことも非常に重要です(図表1参照)。
このような背景から、PwCコンサルティングは、地域のサプライチェーン排出量削減という社会課題の解決を目指し、京都府が進める地域の活性化および脱炭素化において、地域企業のCO2排出量の算定、ESG金融の資金呼び込みなどの面で支援を実施しました。
1. 推進体制
この取り組みは、京都府が実施するサプライチェーンCO2排出削減事業に協力事業者として選定された株式会社島津製作所に加え、同社の地域企業サプライヤーである株式会社朝日製作所、株式会社佐藤製作所、サンコーエンジニアリングプラスチック株式会社、清水長金属工業株式会社、日本電気化学株式会社と協業して実施しました(図表2:*サプライヤー5社の記載は五十音順)
2. 目的
この取り組みでは、地域企業サプライヤーのCO2排出量の算定を支援するにあたり、下記の2点の理由により、「製品ごとのCO2排出量を定量的に把握するための方法論を開発」することを目的としました。
3. 配賦ロジックの策定
製品ごとのCO2排出量を定量的に把握するための方法論として、各企業の製造現場に入り込むことで事業所全体のCO2排出量を製品ごとに配賦できるキーパラメータを特定し、事業場全体のCO2排出量を製品ごとのCO2排出量に配賦する仕組み(以下、「配賦ロジック」)を策定しました(図表3参照)。
4. 製品ごとのCO2排出量算定アプローチ
PwCは下記のアプローチを通じて、製品ごとのCO2排出量算定を実現しました。
5. 関係者からの主なコメント
関係者各位より、下記のコメントをいただきました。
この取り組みを通じて確立した、地域企業サプライヤーの製品ごとにCO2排出量を算定する方法論は、サプライチェーン全体におけるCO2排出量削減への道筋をつけるだけでなく、地域企業サプライヤーのESG関連情報の開示にも貢献するものであり、地域金融機関から地域企業へのESG金融の促進をし得るものといえます。
また、製品単位でCO2排出量を算定できるため、各製品が市場に出た際、製品ごとにCO2排出量を表示することが可能になります。このため、消費者もCO2排出量の少ない製品を選択することで、地域脱炭素化に貢献することができます。PwCコンサルティングは脱炭素社会の将来のあるべき姿として、以下の社会を目指していくべきだと考えます(図表4参照)。
PwCコンサルティングは本事業の実施以降も、サプライチェーン全体の脱炭素化およびESG経営に関する知見を活かし、地域企業のESG経営を推進し、脱炭素化の実現に向けた支援を行ってまいります。
現在のビジネス環境は、消費者ニーズの多様化やグローバル競争の激化に加え、気候変動や地政学的リスクなどの外部環境の急速な変化が企業の事業ポートフォリオに影響を与えており、予測の不確実性を前提にした柔軟な対応策が不可欠です。その対策として、KPI管理の高度化に向けた取り組みについて解説します。
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