ナトリウムイオン電池・キャパシタから考える、アカデミアとコンサルティングファームの協働

次世代蓄電デバイスのあり方

  • 2026-07-16

リチウムイオン電池の普及によって、蓄電デバイスは私たちの生活と産業に深く根を下ろしてきました。一方、AIデータセンターの拡大、次世代モビリティの広がり、再生可能エネルギーの大量導入など、瞬時のパワー供給が求められる電力需要の高まりに伴い、「次世代蓄電デバイス」への期待が膨らんでいます。その中の1つとして注目されているのが、リチウムに代えてナトリウムを用いるナトリウムイオン電池(NIB)やナトリウムイオンキャパシタ(NIC)です。ナトリウム系の蓄電デバイスは、資源量や地政学リスク、安全性などの観点から一定の優位性を持つ技術として期待が高まっています。本稿では、この分野で知られる東京農工大学名誉教授の直井勝彦氏と、東京理科大学教授の駒場慎一氏をお招きし、PwCコンサルティングでエネルギー分野を専門とする2名とともに、次世代蓄電デバイスの研究動向、産業政策、産学官連携のあり方を議論しました。

出演者

東京農工大学 名誉教授
直井 勝彦氏

東京理科大学 教授
駒場 慎一氏

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
竹内 大助

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
近岡 優

※肩書は対談当時のものです。

左から、近岡 優、直井 勝彦氏、駒場 慎一氏、竹内 大助

「エネルギー密度からパワーへ」――次世代蓄電デバイスに求められる発想

近岡:
本日はナトリウムイオン電池(NIB)・ナトリウムイオンキャパシタ(NIC)を軸に、いま次世代蓄電デバイスが求められている理由、さらにその開発を巡る日本の将来のあり方を議論します。

直井先生は「スーパーキャパシタ」(超高速蓄電デバイス)などの研究を通じて、出力と容量を両立する電力インフラの新たな概念を開発するべく取り組んでいます。既存の蓄電デバイスの弱点を補い、電力インフラの安定化・高効率化をどう図ればよいのか、問題意識をお聞かせください。

直井:
私は高速な蓄電デバイスの研究に取り組んできました。リチウムイオン電池(LIB)や電気二重層キャパシタ(EDLC)などの蓄電技術をベースとしながらも、より大出力と長寿命を両立できるデバイスです。東京農工大学に設立した次世代キャパシタ研究センターが中心となり産学連携・国際連携で開発を進めています。

蓄電デバイスの開発では従来、エネルギー密度を高めることが重視されてきました。しかし、時代は転換点にあり、エネルギーを高密度に貯めて使うよりも、必要な大パワーを必要な瞬時にその場で取り出し補填もできるキャパシタ的な発想(パワーアーキテクチャ)も同時に重要となりつつあるのです。

近岡:
次世代蓄電デバイスの主なマーケットはどのような分野が想定されるのですか。

直井:
まず注目すべきは、AIデータセンターです。GPU(Graphics Processing Unit)は、大規模な学習や推論処理に伴い、瞬間的に莫大な電力を消費します。そのため、データセンターでは単に総電力量を確保するだけでなく、急激な負荷変動に即応できる高度な電源アーキテクチャが不可欠となっています。こうした環境では、必要な瞬間に大電力を高速で出し入れできる蓄電デバイスが重要な役割を担います。電力品質の安定化やピーク負荷の平準化に加え、電源設備全体の効率向上や発熱・電力ストレスの低減にも大きく寄与するためです。

また、無架線で走るトラムなどの鉄道・交通インフラの変革(RX:レールウェイトランスフォーメーション)用途にも適します。鉄道を単なる移動手段としてではなく、デジタル技術・エネルギー技術・都市インフラ・データ活用を融合した次世代社会基盤へと変革していく構想を指します。低炭素政策を積極的に推進する先進都市では、こうした高出力型蓄電技術の実装がすでに進んでいます。例えば、スペインのバルセロナ、フランスのニース、カタールのドーハ、ブラジルのリオデジャネイロ、さらに台湾の高雄の空港周辺などでは、架線レス型の電動交通システムが普及・実用化されています。この方式では、各ステーションで短時間充電を行うため、従来必要だった架線や大規模送電設備を大幅に削減できます。その結果、交通インフラを比較的低コストかつ柔軟に整備できるだけでなく、都市景観を損なわずにルート設計の自由度も高めることが可能になります。

さらに、このような瞬時に大電力を出し入れするニーズは、公共交通に限りません。各種EVに加え、電動化が進むフォークリフトや建設機械などの重機分野でも、単なるエネルギー密度の向上以上に、高出力・高速応答性能への要求が急速に高まっています。

差込

東京農工大学 名誉教授 直井 勝彦氏

近岡:
直井先生は、「エネルギーの瞬発力を実装する」研究に取り組んできた、ということだと思います。

一方で、駒場先生は数十年以上の蓄電デバイスなどに関わる研究の中で、レアメタルに依存しない、安価・豊富・安定的な次世代蓄電デバイスであるナトリウム系蓄電デバイス(NIB)などの研究に挑んできました。どのような思いで研究を始めたのですか。

駒場:
1998年ごろからLIBの研究に着手し、2004年から「より独自性のある分野に取り組みたい」との積年の思いを実行に移し、その1つがNIBでした。ちょうど、東京理科大学で理学部に異動し、理学部の学生と基礎研究を始めたタイミングです。ただ、それまでナトリウム系に取り組んだ経験のある研究者は当時、「NIBなど実現不可能」と断言したものです。それでも工夫を重ね、まずは基礎的な研究を積み上げ、5~6年後にリチウムと同様に動作するNIBの開発にこぎ着けたのです。

近岡:
駒場先生のおっしゃる「独自性」とは、他の研究との違いはもとより、エネルギーの土台(蓄える技術)を書き換える研究をも意味すると感じました。NIBをLIBと比べた場合、どのような優位性があるのでしょうか。

駒場:
まず内部抵抗が下がります。ナトリウムイオンはイオン半径が大きいので動きが遅く見えますが、実際には溶媒中での振る舞いが異なります。リチウムは小さく、電荷密度が高いのでマイナスイオンとの引き合いが強いのに対して、ナトリウムはやや大きく、溶媒との相互作用が低い状態で動きます。結果として電解液はサラサラの状態が維持され、イオン伝導率が高まり、低温環境の充放電特性が向上します。また、過充電しても発火しにくく、発火事故が起きやすいリチウムよりも、安全性の面で優位性が指摘されています。

さらに、電池を構成する「集電体」という部材の負極には、LIBでは値の張る銅箔を使います。安価なアルミはリチウムと反応するので、やむを得ないのです。一方、ナトリウムはアルミと反応しないので、安くて軽いアルミ箔を使えます。銅は10円硬貨、アルミは1円硬貨の素材ですから、コストの違いは明らかです。

直井:
材料資源の豊富さも、次世代蓄電デバイスに求められる極めて重要な条件です。リチウムが地殻中にわずかしか存在しない希少金属であるのに対し、ナトリウムは桁違いに豊富に存在しています。圧倒的な資源優位性は、単なる原料コストの問題にとどまりません。地政学的リスクや経済安全保障の観点に加え、大規模な社会実装を進める上での供給安定性やスケーラビリティにおいても、ナトリウムはリチウムに対して大きな優位性を有しています。

国産化の条件――ナトリウム系蓄電デバイスは競争余地の残るブルーオーシャン

近岡:
ナトリウム系蓄電デバイスの国産化を目指すには、どのような課題を克服しなければなりませんか。

駒場:
従来のLIBと同じ構造で製造できるのがNIBの特徴です。日本で1991年に実用化されたLIBの製造ライン自体はほぼそのままNIBの生産に転用できるでしょう。つまり設備投資が不要になります。とはいえ、NIBの部材である正極、負極、電解液、セパレーターのどれかは結局輸入に頼らざるを得ません。海外では各国政府が材料メーカーに補助金を拠出して製造ラインなどを次々と建造しているほどです。LIBで起きたのと同じ流れが、NIBやNICでも繰り返される可能性は否定できません。

日本の選択肢は2つあります。「今から追っても間に合わないので、追わない」か「いずれナトリウムの優位性が広く認知される時に備え、今手を打っておく」かです。

差込

東京理科大学 教授 駒場 慎一氏

直井:
キャパシタ分野に関しては、私は比較的楽観的に見ています。中国では、NIBについて2023年以降、有力企業による商用化発表が相次ぐなど急速な進展が見られますが、NICは、なお大きな技術的発展余地を残した領域だからです。

その鍵を握るのが、「ナトリウムプレドーピング」と呼ばれる技術です。あらかじめ負極側にナトリウムを導入しておくことで、初期不可逆容量を低減し、デバイス全体の性能や効率を大きく向上させることができます。しかし、この技術を実用化するためには、ナトリウムの反応性や均一導入を高度に制御する精密プロセス技術が不可欠です。リチウムにおけるプレドーピング技術はすでに工業化/量産段階に入っていますが、ナトリウムについてはこれからです。だからこそ、日本企業がこの分野で先行して量産化技術を確立できれば、次世代蓄電デバイス市場において優位性を獲得できるかもしれません。

近岡:
NICに関しては、既存のLIBやリチウムイオンキャパシタ(LIC)に置き換えるよりも、直井先生が指摘した「パワーアーキテクチャ」のような新規用途を目指すべきだ、ということになりますか。

直井:
そのとおりです。AIデータセンターや次世代交通インフラといった新たな分野において、単純にLICの置き換えを目指すのではなく、NICならではの特長を生かした新規用途を切り拓いていく――そうした相互補完的な関係を構築していくことが、より望ましい方向だと考えています。

特に、米国の巨大IT企業のようなデータセンター運営事業者と連携できれば、実際の需要を取り込みながら、技術開発と社会実装を並行して加速させることも可能になります。

そして今後の最大の課題は、いかに量産技術へ落とし込むかです。そのための投資を個々の企業だけに委ねるのではなく、国家レベルの戦略的支援や、企業横断型のコンソーシアムを通じて推進していく必要があります。今まさに、日本の材料・電池・製造技術の強みをナトリウムという新たなプラットフォームへ結集できるかが問われているのです。

求められるもの――有望技術に対する鋭敏な感覚、基礎研究の裾野と多様性

近岡:
お二人の研究は、いずれも「脱炭素×日本の産業成長」の両立を技術面で実現可能にする上で重要です。

とはいえ、研究を取り巻く環境には、プラス面の展望もマイナス面の課題もあることでしょう。現状をどうご覧になっていますか。

駒場:
懸念は、流行の研究テーマに大多数が乗りがちなことです。「次世代蓄電デバイスの素材はこれだ」と旗印を立てることは大切ですが、そこに集中しすぎると他が空洞化してしまう。「まだ芽が出ていない種」を何種類も植えておかねば、次の花は咲かないのです。

実は私は、「次世代はナトリウムだ」と力説するつもりはありません。カリウムイオン電池やルビジウムイオン電池も研究しており、いずれも実用化は難しい部分もありますが、真摯にサイエンスと向き合い続けることで、少なくとも研究室に所属する学生の教材にはなります。

そのためにも、基礎研究の予算をアカデミアに手厚く配分してほしい。基礎研究費の確保は今後ますます重要になります。さらに研究費だけではなく、やはり人がいないと研究は進まない。学生たちが意義深い基礎研究に向き合い、5年、10年、20年後に産業界に刺さるテーマが立ち現れる──そんな時間軸で考える必要があります。

直井:
産学連携には別の側面での課題もあると感じています。

私の印象では、企業役員の多くは大学・大学院で化学や電気化学を専門的に学んだバックグラウンドを持っておらず、機械・電気・触媒分野、あるいは自動車メーカーであれば排ガス・エンジン系などの出身者が中心です。そのため、本質的な価値の転換―例えば、瞬時の大電力応答や超長寿命、高頻度充放電への適性といった特長―が直感的には伝わりにくい場合があります。

私はこうした状況を少しでも変えるために、ポイントを一枚に整理した資料を作成し「ぜひ役員の方々にこれを見せてください」と現場の担当者へ直接手渡すようにしています。

近岡:
「伝える」役割も、アカデミアが担っているのが実情なのですね。

直井:
学術の世界で深められている価値ある基礎研究が、実際にはビジネスの「シーズ」にすら結びついていないケースは、非常に多いと感じています。そこには、基礎研究と社会実装可能な技術シーズとの間に横たわる大きな「谷」が存在しているのです。

だからこそ、優れた研究成果を単なる論文にとどめず、社会的価値を持つ技術シーズへと昇華させていく努力こそが、産学連携の本質だと私は考えています。大学側が強い意思とビジョンを発信し、企業側がリーダーシップを持って量産化や市場展開へ踏み込む。そして初めて、技術が事業として循環し始めます。

いま本当に求められているのは、まさにその「研究から産業へ」の流れを持続的につなぐエコシステムを構築することなのです。

竹内:
直井先生が指摘した転換期の捉え方、「エネルギー密度から瞬時のパワーへ」というキーワードは重要です。エネルギー技術の深化というより、「アーキテクチャの転換」として次世代デバイスを考える。そのための調整装置としての蓄電デバイスを、パワー側にどう設計していくか。最近もIT大手が各国で大規模投資を積み上げるというニュースがあったように、AIデータセンター領域では電力のあり方が産業の競争力を左右します。その支えになるエネルギーのあり方を、私たちも注視していきたいと感じました。

差込

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 竹内 大助

コンサルティングファームが担うエコシステムづくり

近岡:
NIBやNICが実用化して普及が進めば、私たちの社会・経済は大きなインパクトを受けると考えられます。資源輸入リスクが抑えられ、再生エネルギーの大量導入が現実解となり、さらには部素材・装置・制御ソフトへと産業の裾野が広がることでしょう。

そうした次世代エネルギー技術の研究や「アーキテクチャの転換」に関し、コンサルティングファームに対してはどのような役割を期待しますか。

駒場:
まだ誰にも注目されていない研究をコンサルティングファームが多角的に調べ、「これは有望だ」と見つけ出す役割を期待します。目先の流行に反していてもよいし、すぐに収益化しなくても許されて、学生の教育の中で研究グループが育つ――そんな隠れている芽を、横断的な視点で発見し企業につなげてくれるなら、大きな意義があります。

直井:
日本におけるロビー活動の本質は、結局のところ「仲間づくり」にあるのだと思います。特にコンサルティングファームがハブとなり、「異なる分野にもともに動ける仲間がいる」という視点や発想を結集できれば、それは社会に新たなムーブメントを生み出す大きな推進力になります。

アカデミアに身を置く研究者は、日常的には細分化された専門領域を深く掘り下げることが中心であり、どうしても物事を横断的・俯瞰的に捉える機会は限られます。しかし、コンサルティングファームは本質的に異分野を横断し、人・技術・産業・政策をつなぐ役割を担っています。

だからこそ、より大きな視点で人と人を結び付け、新しい価値や方向性を社会へ発信していってほしいと思います。例えば、PwC主催のアカデミアのように、産業界・政策・大学を横断的につなぐプラットフォームが実現すれば、非常に意義深いものになるのではないでしょうか。

近岡:
コンサルティングファームの役割は、大きく3層あると考えています。1層目は第三者ならではのセカンドオピニオン。官でも産でもない立場だからこそ、客観的に評価し、意見を集約できます。2層目が、シーズの発見と抽出。研究者はシーズを売るために研究しているわけではないので、そこを私たちが掘り起こして企業に還元します。そして3層目が、エコシステムづくりの潤滑剤、あるいは触媒としての役割です。

いつ芽が出るか定かでない研究への投資を、社会がどこまで許容するか。これは公共部門の予算付けとしても難問です。しかし企業と研究者をつなぐファシリテーターとしての役割、そして人材の育成まで含めたエコシステムの構築こそが、コンサルティングファームが担える領域だと考えます。

差込

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 近岡 優

竹内:
私たちPwCコンサルティングは2年前に、グリーントランスフォーメーション(GX)のイニシアチブを立ち上げました。エネルギー分野だけでなく、パブリックセクター、製造業、自動車の各分野から担当コンサルタントが集結し、「エネルギー転換はエネルギー事業者だけの問題ではない」との観点で組織横断的な連携を図っています。PwC Japanグループの監査法人・アドバイザリー・税理士法人・弁護士法人などが協働する態勢を打ち出し、外部の有識者ともコラボレーションして、社会課題やクライアント課題を解決することも視野に入れています。

ナトリウム系蓄電デバイスから考える将来展望

近岡:
お2人のお話いずれにも、基礎研究がいかに大切かとの考えがにじんでいました。仮説を立て、考察や論文執筆などを重ねた上で、それを自分で「出口」まで届ける。そんな経験を積む人材が育つ場所が日本にあり続けることが、産業にとっても社会にとっても、結局は最大の貢献になりそうですね。

駒場:
そのとおりです。予算配分などの厳しさはありますが、基礎研究に真摯に向き合う研究室が日本で維持されてほしいと願っています。ナトリウムだけにスポットを当てすぎず、多様な「芽の出ていない種」を植え続ける研究環境を、アカデミアも企業もコンサルティングファームも、ともに支えていければよいと思います。

直井:
LIBの分野では、日本はかつて世界をリードしていたものの、その後、韓国や中国の台頭によって競争力を大きく失いました。しかし、ナトリウムの時代においては、日本が再び先導的な役割を果たせる可能性があると私は考えています。駒場先生とも力を合わせ、「ナトリウム」という新たな旗を掲げていくつもりです。

瞬時の大電力制御を重視するパワーアーキテクチャへの転換、ナトリウム資源の圧倒的な豊富さ、そしてプレドーピング技術における日本の潜在的優位性――これらを有機的につなげることができれば、日本の次世代蓄電デバイス産業には十分な勝機があります。

竹内:
次世代蓄電デバイスとは産業アーキテクチャそのものを問い直す技術であり視点でもあるのだ、と改めて強く感じました。エネルギー密度から瞬時のパワーへ、そして産業の領域を横断的につなぐエコシステムへ。PwCコンサルティングはGXを産業構造の転換と捉え、クライアントの事業変革に伴走しながら後押ししていきます。

主要メンバー

竹内 大助

パートナー, PwC Japan

Email

近岡 優

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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