第1回 説明能力とは何か――短期の着地と長期の企業価値を因果でつなぐ力

  • 2026-07-28

はじめに:なぜ今、「説明能力」なのか

経営会議で、次のような問いに直面したことはないでしょうか。

  • なぜ業績が悪化したのか
  • この先どうなるのか
  • では、何をすべきか

多くの企業では、数値そのものは把握できています。しかし、その背後にある理由を一貫したロジックで説明できない状況が少なくありません。結果として、議論は繰り返され、判断は遅れ、実行力は弱まります。

本シリーズでは、この課題に対する解として「説明能力」に着目します。単なる分析や報告ではなく、「なぜそうなるのか・なぜそうするのか」を因果で語れる状態を目指します。

本稿で得られること

本稿では、以下の3点を明確にします。

  • 説明能力の定義
  • なぜ今、この能力が求められているのか
  • 説明能力が企業価値に与える影響

説明能力とは何か

本シリーズにおける説明能力とは、以下を指します。

外部環境から現場活動、短期の業績、長期の企業価値までを、一本の因果でつないで説明できる力

本稿では、企業価値を、資本市場で一般的に用いられる指標であるROIC(投下資本利益率)とWACC(資本コスト)の差(スプレッド)で捉えます。

なお、本稿における説明能力は、一般的な「説明責任」とは異なります。説明責任が「結果の説明」であるのに対し、ここで扱う説明能力は「変化の因果構造を説明し、将来の判断につなげる力」です。

なぜ説明能力が求められるのか

説明能力の重要性は、3つの構造的な変化により高まっています。

1. 不確実性の高まり

市況、為替、地政学リスクの変動により、前提条件は高速で変化しています。過去の結果を分析するだけでは、経営判断に間に合いません。

2. 短期と長期の同時要求

企業には、今期の業績と持続的な企業価値向上の両立が求められています。これらを別々に語るのではなく、一貫したロジックで接続して説明する必要があります。

3. ステークホルダーの多様化

投資家、顧客、従業員、社会など、多様なステークホルダーに対して意思決定の理由を説明する必要があります。説明できない企業は、将来的な業績の不確実性が高いと見なされ、資本コストの上昇につながる可能性があります。

説明能力の具体像:因果でつなぐ

説明能力の本質は「因果でつなぐこと」にあります。

例えば、銅価格が上昇した場合、次のような因果で説明できます(図表1)

図表1:銅価格上昇の企業価値への因果

銅価格上昇の企業価値への因果 ,

このように、外部環境から企業価値までを一つの連鎖として説明できる状態が、説明能力です。

説明能力がないと何が起きるか

説明能力が不足すると、次の問題が発生します。

意思決定の遅延

判断の根拠が共有されず、取締役会での承認に時間がかかります。

実行力の低下

施策の狙いや優先順位が現場に伝わらず、必要な行動が徹底されないため、期待した成果につながらない可能性があります。

資本コストの上昇

将来の見通しが不透明と評価され、投資家からリスクプレミアム(リスクを負うことに対する対価)を要求される可能性があります。

説明能力が生む価値

一方で、説明能力が高まると、経営判断には次のような特徴が備わります。

  • 正当性:判断の根拠を明確に示せる
  • 一貫性:同じ状況に同じロジックで対応できる
  • 予見可能性:将来の変化を事前に見通せる

その結果、意思決定は速くなり、質も向上します。

説明能力は経営の中核機能に

説明能力とは、短期の業績と長期の企業価値を、因果で一貫して説明できる力です。

不確実性の高い環境において、この能力は経営の中核機能となりつつあります。

まずは、自社で「なぜ」を説明できない領域がどこかを洗い出すことから始めてみてください。それが、説明能力を高める第一歩になります。

次回予告

次回「第2回 なぜ従来の管理では説明できないのか――PDCA・合計KPI・暗黙知」では、なぜ従来の経営管理では説明能力を高められないのか、その構造的な原因を解説します。

執筆者

竹内 佑輝

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

尾上 徹

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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