第2回 なぜ従来の管理では説明できないのか――PDCA・集計KPI・暗黙知

  • 2026-08-19

はじめに

前回、説明能力とは短期と長期を一本の因果でつなぐ力だと述べました。では、なぜ多くの企業はそれができていないのでしょうか。第2回では、従来の経営管理が説明能力を高められない3つの構造的な原因を明らかにします。問題の所在を正しく捉えることが、解決への第一歩だからです。

PDCAは変化に追いつけず、先回りできない

図表1:従来のPDCA管理が引き起こす「アクション遅延」の構造

従来のPDCA管理が引き起こす「アクション遅延」の構造 ,

第1の原因は、多くの企業の管理サイクルがPDCAを基本としていることにあります。PDCAは、計画を立て、実行し、結果を評価し、改善するという循環です。安定した環境では有効ですが、変化の速い環境では、計画時の前提が崩れた場合、評価のタイミングや粒度によっては、計画との差異の把握が遅れやすくなります(図表1)。

市況が動いた瞬間ではなく、決算で結果が出てから動く——これでは、変化への対応が後追いになり、先回りの判断が難しくなります。不確実性の高い環境で求められるのは、計画との差異を事後に確認する仕組みではなく、変化を起点として捉え、即座に判断する仕組みです。

誤解のないように述べれば、PDCAそのものが不要だというのではありません。標準化された業務の継続的改善には、PDCAは今も有効です。問題は、変化への即応と先回りが求められる経営判断の領域にまで、PDCAの事後確認型のリズムを適用してしまうことにあります。改善すべき定常業務と、先回りすべき経営判断とでは、必要なサイクルの速さも起点も異なります。経営判断には、計画との差異を後から確認するPDCAではなく、変化を起点に即応する別のリズムが要る——この問題意識が、後の回で扱うOODAにつながります。OODAとは、変化を観察し(Observe)、意味づけ(Orient)、判断し(Decide)、行動する(Act)サイクルです。

集計KPIでは、問題も因果も見えない

図表2:内部で相殺し合い異常値を覆い隠すリスク構造

内部で相殺し合い異常値を覆い隠すリスク構造 ,

第2の原因は、私たちが普段見ている数字の多くが「集計値」だということです。集計KPIは、その下にある内訳の動きを覆い隠してしまいます。本稿でいう集計KPIとは、全社・事業・製品群など複数の明細を合算して示す管理指標を指します。

以下は構造を説明するための簡略化した架空例です(図表2)。ある電子部品メーカーの全社・材料費率が前年から0.3ポイントの上昇だったとします。この数字だけを見ればほぼ横ばいであり「特段の問題はない」と判断しがちです。しかし、これを製品別に分解すると、銅を多く使う製品Hの材料費率は3.7ポイントも悪化しており、樹脂中心の製品の改善がそれを相殺していたことが分かります。さらに、その製品Hを顧客別に切り直すと、悪化が特定の顧客向けに集中している——市況上昇分を価格転嫁できる顧客では採算が保たれ、長期の固定価格契約を結ぶ顧客向けで採算が崩れていた——という構造まで見えてきます。

全社合計の「横ばい」という1つの数字の裏には、製品という軸の偏りと、顧客という軸の偏りが二重に隠れていました。合計の水準で経営を見ているかぎり、この多層的な偏りには気づけません。気づけなければ、原因も語れず、対策も打てません。集計KPIは結果を示しますが、その結果が何によって動いたのかという因果は、合計値だけを見ている限り読み取りにくいのです。

因果の把握が暗黙知のままで、判断が場当たり的になる

図表3:因果関係の「暗黙知化」がもたらす、経営判断の属人化・場当たり化構造

因果関係の「暗黙知化」がもたらす、経営判断の属人化・場当たり化構造 ,

第3の原因は、因果関係が組織の中で暗黙知のままになっていることです。ベテランの担当者は「銅の市況が動けば製品Hの採算が効く」といった勘所を経験的に知っています。しかしそれが言語化・数式化されていないために、判断はその人に依存し、場当たり的になります。

担当者が代われば判断の質が変わる。会議のたびに同じ議論を繰り返す。声の大きい人の主張が通る。なぜその結論に至ったのかが記録に残らない。そして最も深刻なのは、暗黙知は失われやすいことです。その勘所を持つ担当者が異動や退職をすれば、判断の質はその瞬間に低下します。組織として蓄積してきたはずの経営判断の知恵が、個人とともに去っていくのです(図表3)。

3つの原因は、同じ根を持つ

PDCAの限界、集計KPIの死角、因果の暗黙知化——この3つは、別々の問題に見えて、実は同じ根を持っています。いずれも外部環境から現場活動、財務成果へと至る因果が、組織の中で明示的な構造として持たれていないことに起因しており、結果として経営管理における説明能力が失われることになります。

因果が構造として持たれていないから、変化が起きてもどこに効くか分からず後追いになり(PDCAの限界)、合計を分解する軸が定まらず死角が生まれ(集計KPIの問題)、因果が個人の頭の中にとどまる(暗黙知化)。逆に言えば、因果を組織の共有資産として構造化できれば、3つの原因はまとめて解消に向かいます。それをどう実現するかが、次回以降のテーマです。

おわりに

従来の管理が説明能力を高められないのは、担当者の能力の問題ではありません。PDCAという事後確認の仕組み、集計KPIという死角、因果の暗黙知化という、3つの構造的な原因によるものです。そしてこれら3つの原因に共通するのは、因果を分解・共有するための単位が曖昧なことです。まずは、自社の重要KPIがどの明細・外部要因に分解できるかの振り返りを行うことが出発点です。

次回は、この問題を解く判断の仕組みとして、変化を起点に「見て・意味づけて・決めて・動く」OODAサイクルを導入し、それを回すために何が必要かを整理します。

執筆者

竹内 佑輝

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

尾上 徹

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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