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組織変革を牽引するリーダーの思考に迫り、ヘルスケアの未来をともに創り上げるためのnext agendaを深耕する「Leader's insight」。今回は、アステラス製薬のグローバル税務責任者を務める髙田綾子氏を迎え、グローバルな製薬会社ならではの複雑なバリューチェーン特有の税務の難しさを踏まえ、テクノロジー時代における税務組織の変革と、その先に描く未来像について伺います。
グローバル・ミニマム課税や電子インボイスなど、税務部門は次々に登場する新制度への対応を迫られています。約40名のグローバル税務チームを率いる髙田氏は、テクノロジーを活用したコンプライアンス業務の標準化や自動化を推進しつつ、税務部門を経営の「戦略的パートナー」と位置付け、その進化にまい進しています。
本稿では、テクノロジーを土台とした業務効率化と企業価値創出を両立させる税務部のビジョンを伺うとともに、税務の専門性とテクノロジー活用の交点から見えてくる「これからの税務組織像」を掘り下げます。(本文敬称略)
(左から)橋本 純、髙田 綾子氏、内山 直哉
登壇者
髙田 綾子氏
アステラス製薬株式会社
コーポレートコントローラー 税務部部長
内山 直哉
PwC税理士法人
パートナー
橋本 純
PwC税理士法人
パートナー
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
内山:
最初にアステラス製薬株式会社(以下、アステラス)の事業概要と、その特徴を教えてください。
髙田:
アステラスは、医療用医薬品に特化した研究開発型のグローバル企業です。がん、泌尿器、免疫、ウィメンズヘルスといった領域で、約70の国・地域に新薬を届けています。「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの『価値』に変える」というVISIONのもと、基礎研究から製造・販売まで一貫して担っている点が特徴です。
創薬の進め方にも特色があります。疾患単位ではなく、バイオロジーの知見と多様なモダリティを組み合わせる「Focus Areaアプローチ」という研究開発戦略を採用しています。現在は「再生と視力の維持・回復」「遺伝子治療」「がん免疫」「標的タンパク質分解誘導」の4領域を重点分野と位置付けています。
内山:
髙田さんはアステラスのグローバルタックスヘッドを務めていらっしゃいます。具体的にはどのような業務を担っていらっしゃるのでしょうか。
髙田:
税務部長としてグループ全体の税務機能を統括しています。日本、アジア・オセアニア、EMEA、アメリカ地域の各地域にリーダーがおり、さらにグローバル移転価格チームを含む税務チームが私にレポートしています。地域横断で活動を統合し、一貫性のあるグローバル税務ガバナンス体制の構築を進めています。
内山:
髙田さん以前、税理士法人にいらっしゃったと伺っています。事業会社に移られた当初は、環境の違いにご苦労されたこともあったのではないのでしょうか。
髙田:
2011年に税理士法人から転職した当初は、仕事の進め方も社内文化も全く違うことに少し戸惑ったり、医薬品業界に固有の専門用語等があったことから、会議でも内容が理解できないこともありました(笑)。ただ、多くの方が組織を越えて支えてくれて、その経験は今の基盤になっています。
内山:
振り返って、特に印象に残っている業務を教えてください。
髙田:
グループ会社間の取引価格を税務当局と事前に合意する移転価格のAPA(事前確認)申請や、私が入社前に当社が買収した米国上場企業のPMI(買収後の統合)に関わったことです。グループ内におけるライセンスによる国を跨いだ権利許諾や第三者への権利譲渡に関する税額控除など、国際税務の重要な論点に取り組んだことが強く印象に残っています。いずれも専門性の高い案件である一方で、ビジネスの理解が求められることから厳しい指導を受けたことも含め、現在の仕事観に大きく影響しています。
内山:
異なる業界を横断的に支援しているPwC税理士法人(以下、PwC)から見ても、製薬業界の税務はかなり特殊だと感じます。その点はいかがですか。
髙田:
税理士法人時代にもさまざまな業界と携わる機会がありましたが、製薬業界は特に移転価格の重要性が突出していると感じます。創薬、開発、製造、販売とバリューチェーンが複数の国に分散しているため、グループ移転価格ポリシーを理解し、それに基づくグループ全体でのあるべきプライシングがイメージできていないと、M&AやBD(事業開発)の場面で中長期的な利益配分を正しく描けません。
「研究開発や知的財産の価値がどこで生まれ、どの工程でどのようなリスクを負っているのか」というような事実認識を誤ると、税務判断にもずれが生じます。
内山:
税務部は社内でどのような役割を期待されているのでしょうか。
髙田:
当社ではグローバルの税務ポリシーがCEOにより承認されており、税務部はその実装と運営に責任を持っています。コンプライアンスの順守はもちろんですが、それにとどまらず、企業価値向上に貢献する機能であることが求められています。
アステラス製薬株式会社 コーポレートコントローラー 税務部部長 髙田 綾子氏
内山:
グループ全体を俯瞰する視点が求められる一方で、日々の税務コンプライアンス業務も膨大だと思います。特に2015年にOECDが公表したBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)以降、各国での報告義務が大幅に増えましたね。現場ではどのような課題を感じていらっしゃいますか。
髙田:
ご指摘のとおり、BEPS以降は税務コンプライアンスに関する業務負荷が年々増加しています。一方で、人員や予算がそれに比例して増えるわけではありません。現在は、取引内容の確認や各国の申告・報告データのチェックに多くのリソースを割かざるを得ず、企業価値に貢献する活動に十分な時間を充てられなくなっています。そこが大きな課題です。
橋本:
企業価値への貢献を目指しつつも、グローバル・ミニマム課税など新たな負荷も加わり続けます。他社から同様の悩みをよく聞きます。また、現場のスタッフの頑張りが、社内できちんと認められているかという課題もありますね。コンプライアンス業務は「やって当たり前」と見られがちですし、バックオフィスはフロントラインに比べて貢献が見えづらい面もあります。
髙田:
そうですね。ただ税務は、法令遵守と適切なガバナンスを確実に担保したうえで二重課税の排除などに取り組むことにより、結果としてキャッシュフローの改善といった財務的な価値を生み出す領域でもあります。そのため、メンバーの努力が目に見える形になるよう、意識して発信するようにしています。
内山:
ここまでのお話で、税務コンプライアンスの負荷が増大する中でも、キャッシュフローの改善を通じて企業価値に貢献するという明確な意志を持って取り組まれていることがよく分かりました。
一方で、その実現にはデータの整備や業務プロセスの見直しが不可欠になります。コンプライアンス業務を効率化しながら、より戦略的な活動に時間を振り向けていくために、グローバルでの税務ガバナンスをどのように進化させていこうとお考えですか。
PwC税理士法人 パートナー 内山 直哉
髙田:
長期的な視点で、段階的に取り組んでいます。
まず短期的には、グループ全体のガバナンス体制を見直し、可視性と統制を高めることを目標としています。チーム間の連携強化やスキル・知見の標準化に向けて、外部の専門的な知見も活用しながら、プロセスの標準化とデータ自動化の基盤づくりを進めています。
中期的には、税務のオペレーションモデル自体の見直しも視野に入れています。データの標準化・自動化が進めば、検証作業に割いていた時間を戦略的な検討に振り向けられるようになります。その段階では、外部のアドバイザーとの関わり方も、より最適な形に変えていけるはずです。
長期的には、税務を経営に資する「戦略的パートナー」として認められる組織にしていきたいです。それが実現できれば、メンバー1人ひとりのモチベーションもより高まり、さらに良い成果につながると確信しています。さらにガバナンス面でも、今は「何が起きているかすぐ分かる」状態を目指していますが、最終的にはデータに基づいた「予測型のリスクマネジメント」に進化させたいと考えています。
内山:
税務は、過去の取引データを基に申告・計算する側面が強調されている部門と言えます。しかし、これからは過去のデータを処理する役割にとどまらず、変化を見据えて先手を打てる組織に進化していくことが重要になるのだと思います。
橋本:
「先手を打てる」ことは、税務の価値が最も発揮される領域です。取引の意思決定の段階で、移転価格から関税、法人税、間接税まで税務の観点を踏まえてアドバイスできる状態が理想ですよね。
髙田:
そうですね。近年は環境変化が非常に激しく、「ここが変わった時にどこが影響を受けるのか」が後手に回ってしまうことも時にはあります。もっと機動的に対応できる組織にしていきたいと考えています。
内山:
最近はグローバルで制度変化が加速しています。グローバル・ミニマム課税に加え、米国では関税がホットトピックとなっています。欧州やオーストラリアではPublic CbCR(Country-by-Country Reporting:国別報告事項)や電子インボイスへの対応も求められています。アステラスではこうした動きにどう対応されていますか。
髙田:
まさに対応を進めているところです。これまでのマニュアル対応やアドホックな対応では追い付かなくなってきました。例えば電子インボイスですが、欧州中心に各国で導入が進む中、アステラスではローカルのファイナンスチームが個別に対応してきました。
しかし個別対応では対応漏れのリスクや知見の横展開不足が課題でした。そこで、外部システムを導入しグローバルで統合管理できる体制づくりを進めています。システム部門やGBS(グローバル・ビジネス・ソリューション)担当とも連携し、プロジェクトチームを組んで取り組んでいます。
内山:
次に税務におけるテクノロジー活用について伺います。近年はAI(人工知能)を筆頭に、税務実務におけるテクノロジー活用も急速に進んでいます。アステラスではテクノロジーの活用をどのように進めていらっしゃるのでしょうか。
髙田:
現在は活用に向けた試行錯誤を進めているところです。AI活用を検討するうえで重要なのは、AIを使うこと自体ではなく、「AIを業務のどの部分に、どのように当てはめるか」の見極めです。
内山:
先にお話いただいた電子インボイスの経験は、まさにその好例ですよね。個別最適の積み重ねには限界があり、「どこを標準化し、どこにテクノロジーを入れるか」という設計思想が必要になります。
髙田:
おっしゃるとおりです。テクノロジーは単なる効率化ツールではなく、ガバナンスの可視性を高めるソリューションでもあります。AIを活用する際にも、同じ発想が必要です。
橋本:
今後、AIが当たり前の存在になると、税務人材に要求されるスキルも変わってきます。一つは、どの領域をテクノロジーに任せ、どこは人が担うべきかを線引きする力。もう一つは、AIが出した結果を専門家の目で「これはおかしい」と見極め、抑止する力です。これまで培ってきた経験知はそのまま生かせますが、テクノロジーの特性を理解していなければ、「テクノロジーに使われる人材」になってしまうリスクもあります。テクノロジー人材の育成については、どのように捉えていますか。
PwC税理士法人 パートナー 橋本 純
髙田:
税務メンバーには「それぞれがコアとなる強みを持つ」ことを求めています。税務知識だけでなく、国際税務の理解や英語力、テクノロジー活用など求められるスキルは年々増えていますが、全てを一人で担う必要はありません。異なる強みを持つ人材が補い合い、チームとして必要な能力をそろえる組織を目指しています。
AIで何ができるかの理解と、税務業務への深い理解、この両方を橋渡しできる人材がいると非常に心強いです。現在の税務メンバーにもテクノロジーに強い者がおり、そうしたメンバーを中心に活用を加速させたいと考えています。
内山:
AIエージェントのようなテクノロジーも登場する中で、「バックオフィスの仕事がなくなるのでは」という議論もあります。税務業務もそのような方向に進むとお考えですか。
髙田:
今の業務の中には、将来やらなくてよくなるものが出てくると思いますし、むしろそうならなければいけないでしょう。定型的な税務申告業務は、自動化を積極的に進めたいと考えています。ただし、事実関係を正確に把握し最終的な判断を下すことには、人間の経験と知識が不可欠です。仕事が「なくなる」のではなく、求められる役割と価値の出し方が変わるのだと捉えています。
橋本:
人材育成のあり方も問い直されますよね。私たちの世代は、「手を動かして覚える」経験を積みました。しかし、定型業務が自動化されると、そうしたプロセスを経ずに1年目から高度な判断を求められます。自動化で導き出された数字や生成AIがもっともらしく出してきた回答を疑うことのできる力を、どのように養えるかが課題です。
髙田:
明確な正解があるテーマではないと思います。足りない部分をテクノロジーで補いながら、最初から高い視座で仕事に向き合うという考え方は、今の時代に即したものだと感じています。定型業務の自動化が進む中では、「手を動かして覚える」経験だけでは十分とは言えません。だからこそ、数字やAIのアウトプットをそのまま受け取るのではなく、「なぜそうなるのか」「前提は妥当か」と問い直すプロセスを、日常業務の中に意識的に組み込むことも重要だと考えています。その意味で、次世代の育成を語る前に、まずは私たち自身が、この変化の時代に合わせて学び続けていく必要があると思っています。
内山:
最後に、髙田さんが外部専門家に期待されることをお聞かせください。
髙田:
専門家のアドバイスはもちろん重要ですが、企業の現場ではそれを実務に落とし込み、適用していかなければなりません。私たちと併走していただける関係性が持てると本当にありがたいと思っています。企業ごとに組織体制もリソースもビジネス上の制約も異なりますし、税務リスクに対する姿勢も違います。
そうした個別の事情や背景を深く理解していただいた上で、法令解釈や一般論の提示にとどまらず、個別のケースに当てはめて一緒に議論し考えていただけると、本当に心強いですね。
内山:
今の言葉を胸に刻んで取り組みたいと思います。本日はありがとうございました。
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